ダンジョンでコミュを築くのは間違っているだろうか   作:FNBW

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そこは階段だった。

 

それはどういう仕組みなのか、青い石畳だけが宙に浮かび、連なるように螺旋を描いている。

 

上も下も果てが見えず、ただ青い螺旋階段と青い踊り場があるだけ。

 

石畳の上に、いつの間にか腰を下ろして座っていた。

 

またここに来たのか。

 

以前と何も変わっていない、が。

 

踊り場にはあの老人が座っていた椅子だけが置いてあった。

 

老人の姿は…ない。

 

辺りを見回すが人の気配はなかった。

 

何かが駆動するような装置の音だけがこの場所で聞こえる唯一の音だった。

 

あの老人がいればあの魔法について小言の一つでも聞かしてやりたいところだったが。

 

ズキリと頭が痛くなる。

 

つい先ほどまで何をやっていたのかが思い出せない。

 

――どうでもいいか、そんなこと。

 

考えるのを止めて、老人の座っていたソファへ腰を下ろして何もせずに過ごした。

 

しばらく時間が経っただろうか。

 

いつまでもこうしていられるような心地よさを感じていて、ひと眠りしようかと考えた時だった。

 

なんとなく視線を辺りに巡らせていると、地面にカードが落ちていることに気が付いた。

 

先ほどまであっただろうか。疑問が浮かぶが好奇心に突き動かされてソファから立ち上がり、それを拾い上げた。

 

あの老人が使っていたタロットカードだ。

表には雷が建物を破壊している絵が描かれていた。

 

見覚えがある。

 

これは“塔”のカードだ。

 

確か、災いのカードだったか。

 

 

「もし、こんなところで何をしているのです」

 

 

心臓が跳ね上がるのを実感した。

 

振り返ると見たこともない男が立っていた。

 

声がするまで何も気が付かなかった。

 

いきなりそこに現れた、得体の知れない恐怖を感じた。

 

思わず飛び退いて距離をとる。

 

 

「ベルベットルームが開かれていると来てみれば。

貴方は誰ですか。

ここは契約の為された客人のみが訪れることのできる場所なのですが」

 

 

顎に指を添え、考える仕草をして彼はこちらを観察するように見ている。

 

男は青い衣服を着た、銀髪金目の外人だった。

 

 

「…あぁ、私としたことが。

まずは私から名乗るのが礼儀でしたね。

私はテオドア。ベルベットルームでイゴール様にお仕えしております。

とはいえ現在、主は不在なのですが。

…それで、貴方は?」

 

 

自分の名前を名乗った。

 

 

「ふむ、聞き覚えのない名前ですね。

契約者の鍵をお持ちでないところを見ると、貴方は客人ではないようだ。

穏便に退去を願いたいところですが」

 

 

イゴールという老人とは面識がある。

 

ここへは自らの意志で来たわけではない、と伝えると彼は眉間に皺を寄せてまた考え始めた。

 

 

「侵入者ではないということですか。

視たところペルソナ使いとしては覚醒されているようですが、ワイルドではない。

我が主が会ったということは可能性があると見込まれてでしょうか」

 

 

ペルソナ使い、という言葉を聞いて頭痛が酷くなった。

 

そして思い出した。

 

先ほどまで死にかけていたということを。

 

少なくとも今こうやって立ち上がることなどできないはずだ。

 

自分は死んだのだろうか。

 

見届けることはできなかったが最後にペルソナという魔法は発動したのだろうか。

 

頭痛は収まったが吐き気が込み上げてくる。

 

 

「少し混乱なされているようだ。

紅茶でも飲んで落ち着いて下さい」

 

 

こちらが頭を抱えている傍ら、どこからともなくそこにあったティーセットに紅茶を淹れ始めた。

 

マイペースかよ。

 

客人ではないと言っていただろうに。

 

 

「貴方は客人ではありませんが現状、我が主に仇なす存在でもないようなので。

どうぞ」

 

 

どうも、とカップを受け取る。

 

客人ではないと言われた手前、老人が座っていたソファに再び腰を掛けるのは彼の望むことではないだろう。

 

立ったまま紅茶を啜る。

 

久々の元の世界の飲み物に柄にもなく感動する。

 

 

「姉たちにはまだまだと言われておりますが、ご満足していただけたようで何よりです」

 

 

姉がいるのかよ。しかも複数。

 

こんな不思議空間に住んでいるとは、まともな人間ではなさそうだ。

 

…人間じゃないのか?

 

 

「ふむ、隠すようなことではないのですが、秘密ということにしておきましょうか。

それよりも貴方には聞きたいことがあるのでは?」

 

 

ないが。

 

 

「……まぁいいでしょう。貴方もまだご自分のことで精一杯のようだ。

私からできるアドバイスも差し出がましいかもしれません」

 

 

こちらが客人でないからか、彼も自分で紅茶を淹れて飲んでいる。

 

一体いつまでここにいればいいのだろうか。

 

しばらくの間、紅茶を啜る音と何かの駆動音だけが辺りを支配した。

 

 

「強いて言うならば」

 

 

言いたがりかよ。

 

 

「貴方がワイルドとして覚醒された暁にはこの場で我が主と共に貴方の旅を補佐させていただきましょう」

 

 

そのワイルドってのはなんなんだ。

 

 

「タロットカードでいうところの愚者、何でもなく何でもである力、といいましょうか」

 

 

俺は違うと言っていたな。

 

 

「貴方の該当するペルソナは塔、愚者ではありません。

ただ、後天的に愚者へ転じ、ワイルドの能力を会得した者を私は知っております」

 

 

可能性というのはそういうことだろうか。

 

手元にある塔のタロット―カードを見つめる。

 

塔の正位置、運命の正位置。

 

塔は俺自身だったのだろうか。考えたところで仕方ないことだが。

 

どうして客人としてもてなすのか気になったが、聞いたところで自分はまだ違うのだからと話を流した。

 

あれからどうなったのだろうか。

 

 

「この場所にいるという事はおそらく貴方は意識を失っているのではないかと考えられます。

これまでここへやってきた契約者の鍵を持たない者たちは、夢を通じて我が主がここへ招いておられましたので」

 

 

死んでないなら儲けものだ。

 

ペルソナがあの状況を打開できたかと言われるとそうではないと思っているが。

 

時間稼ぎくらいはできたはずだ。…できてたらいいなぁ。

 

 

「ふむ…少なくとも貴方はペルソナ使いとしては覚醒されましたが、貴方の宿すペルソナはまだ完全に覚醒していないようですね。

塔のアルカナは良くも悪くも力が強い。

誤ってご自分の身を滅ぼさぬように――」

 

 

景色が一変した。

 

螺旋階段が地鳴りと共に下へと落下する。

 

立つことができないほどに揺れ動きついに階段から落ちた。

 

 

風を切りながら闇の底へ落ちて、落ちて――光が見えた。

 

 

 

 

「一度来れたのですから、次もあるでしょう。またのお越しを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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