ダンジョンでコミュを築くのは間違っているだろうか 作:FNBW
これからも宜しくお願い致します。
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「体を動かして慣らしたい…ですか」
お願いします、と真剣な表情で頼み込む。
「…えぇ……」
看護婦さんはすごく嫌そうな顔をして、視線を逸らした。
二週間の入院生活その一日目、朝。
昨日、ヘスティアが帰ってからの夕方から就寝するまでの間だけでも暇で死にそうだった。
ので、体を動かせるくらいの自由を手に入れるべく、病院の受付までやってきた。
辺りにいる入院患者が迷惑そうにこちらを遠巻きから見つめているのを後目に、再度看護婦さんに訴えた。
「柔軟はいいでしょう。でも、ダンジョンへ向かうのはおかしいとは思いませんか?
失礼ですが貴方はまだレベル1ですよね?」
誰の迷惑にもなりませんので。
「迷惑になるほどに動かないでください! っていうかそれソロでダンジョンに行くつもりですよね!? 自殺したいんですか!?」
モンスターにやられたら他殺でしょう?
何を言ってるんですか、と言うと。看護婦さんの額に大きな青筋ができた。
「貴方の入院費用は全額ガネーシャファミリア持ちとなっていますが、何かあって入院が長引けばその分の費用は貴方が支払うことになります」
別に今日退院しても大丈夫なんだが。で、早くなった分の費用は貰う。
「無理です。貴方が寝ている10日間で腰の骨が修復できたばかりです。常人なら半身不随で一生を過ごしているところですよ!」
>エリクサーすごいですね
「我々の治療魔法の力ですが!!」
看護婦さんは唾を撒き散らしてそう叫んだ。
肩で息をしながら最後に受付台を両手で叩くと、話は終わりだとばかりに他の患者を対応し始めた。
1層くらいなら大丈夫だと思うのだが、うまくいかないものだ。
仮に退院したとして後になって患者に何かあれば病院の信用問題にかかわることもある。
そういう決まりが既に定められているのだろう。
交渉に失敗して病室に戻る。
病室は冒険者専用の個室だ。
普通ならば患者の人数の都合、多くの病人と部屋が一緒になるのだが、ガネーシャファミリアが退院までの全額負担を約束したため、値段の高い個室を使えるようになったとヘスティアが言っていた。
他の冒険者も一部怪我をしたらしいが俺以上に酷い怪我人はいなかったらしい。
後日ガネーシャファミリアの団長自ら謝罪に来ると言われたが断る旨を看護婦に伝えた。
自業自得なところが大きいからだ。治療費を出してくれるだけで大満足だ。
退院まで2週間。何をすればいいんだろうか。
ベッドで大の字になって寝転がり天井をぼんやりと見上げる。
14日もこの調子だと確実に体が鈍るだろう。そもそも10日間眠ったままだったのだ。すでに鈍っているはず。
どうにかしてダンジョンに行きたいのだが。
ベルは元気だろうか。誰かに騙されたり誑かされたりしていないだろうか。
ヘスティアから聞かされた話だが、祭の日、ベルはシルバーバックという大猿のモンスターと戦ったらしい。
ヘスティアが作ったナイフと直前の恩恵更新によりベルはシルバーバックを単身で倒すことに成功した。
シルバーバックとは11層以降に出るモンスターらしい。つまりベルは既に適正レベル2の
自分は今、どこまでの力を持っているのだろうか。
昨日ヘスティアに神の恩恵を更新してもらった。
どれだけ変わったのかも試さなくてはわからない。
今こうしている瞬間にもベルは強くなっている。
10も年が離れている。だがそれだけだ。
こちらが年上であるが故に負けていられないという気持ちになる。
ふと、寝返りを打つと視線の先にロッドがあった。
ヘスティアから送られた特注のロッド。彼女曰く俺にしか使えないらしい。
俺の魔法が発動できたのは間違いなくこのロッドのお陰…だと思う。
あの魔法がどんなものかわからない、一度見ておくべきだろう。
だがダンジョンには行けない。
ここで使うか。
起き上がり、杖を両手で握る。
どうしてもその握り心地から鉄パイプや金属バットと同じ握り方になってしまう。フルスイングをすると風の切る音が部屋に響いた。
どれほどの魔法かまだ分からない。窓から外に向かって杖を構えた。
ペルソナ
何も起きない。
ペルソナ
ペルソナッ!
ペールソナ!
言い方の問題ではないらしい。何も起きない。
声を出せば発動するのではないのか。
祭ではどうして使えたのか。
何か条件が違うのか。
あの時と何が違った。
『条件を満たせば発動する魔法なのかもしれませんね』
チュールさんの言葉を思い出す。
『自分に危険が降りかかった時やモンスターと対峙した時など、何かが引き金になり発動するということです』
あの時の状況は自分に危険が降りかかる、モンスターと対峙、そのどちらも満たしている。
やはりダンジョンに行かなくてはわからない。
許可をとろうとするからいけないのだ。暗黙の了解として行き、何事もなく帰ってくれば実質何もしていないことになる。
バレなきゃ大丈夫、と病衣から着替えようと窓から振り向く。
「……あっ」
エルフが立っていた。リューさんではない、祭の時に戦っていたあの少女だ。確かレフィーヤといったか。
その後ろには同じくあの時見た褐色の少女や
「…えっと…ノックはしたんですけど…」
目を泳がせて言い辛そうに彼女は言う。褐色の二人は腹を抱えて笑い悶えていた。
放心した。
どこから?
「ロッドの素振りあたりから…」
逃げるために窓の外へ飛び出した。
ヴァレンなんとかさんが窓の外へ先回りして部屋の中に戻された。
□
>先日はお世話になりました。
自分のファミリアと名前を言って、簡単な自己紹介を済ませた。
エルフの少女はレフィーヤ・ウィリディスさん、褐色のヒリュテ姉妹の姉の方がティオネさん、妹の方がティオナさん、名前が長いのがアイズ・ヴァレンシュタインさん。
多分もう忘れないはずだ。むしろこれだけ赤っ恥を掻いた後ならば絶対に忘れそうにない。
「…ごめんなさい。ノックの返事を待たなかった私たちのせいです」
ウィリディスさんはそう言って頭を下げた。
彼女らは祭の時に蔓のようなモンスターと戦っていた冒険者だ。
話したことはないのだが。
どうしてここに来たのだろうか。
「目が覚めたと聞いたので改めてお礼に伺いました」
――律儀な子だな。
エルフという種族は誇り高い性格の種族で気品があるとベルから聞いた。彼女も例に漏れずそうなのだろう。
「ありがとうございました。貴方のお陰で私は今も生きています」
彼女はそう言って再度頭を下げた。
礼を受け取っておいて言うのもおかしな話だが。
助けられたのはこちらも同じである。
こちらこそ出しゃばった真似をして申し訳なかった。
「それについてだけど」
それに口を挟んだのはティオネさんだった。
「どうしてこの子を助けたの? 助けに入ったらああなる可能性があることは分かっていたはずだけど」
見ていられなかった、と言えば彼女らは侮辱だと怒るだろうか。
心配だと答えるのは違う気もする。
正直な話、自分でも何故飛び出したのか、と今更ながら考えてしまった。
尤もらしい言葉が見つからない、が。
後悔したくなかった、それだけは確かだ。
あのまま黙って見ているのは後になって必ず後悔していたに違いない。
その時の気持ちを表すと、きっと、こうだろう。
「結果、自分が死ぬことになりそうだったのに?」
そう言われると弱い、身の程を弁えていない行動だったのだから。
「…この子が女だから助けたのかしら? それともロキファミリアに恩を売るため?」
「ちょっとティオネ!」
疑うような目で彼女は俺を見た。態度はあからさまに威圧的だ。
考えれば理由はいくつか上がるが、自分には警戒される身に覚えがない。
オラリオで最大勢力の一角であるファミリア故にそういう問題も多いのだろうと当たりを付ける。
別の組を蹴落とすための手口と同じだ。理由はわからないが、おそらく彼女らのファミリアは貸し借りを作るわけにはいかないのだろう。
疑われるのは心外だが仕方がないことも理解できる。
一切の下心がなかったわけでもない。助けて恩を売れれば良いなとは思っていることだ。ロキファミリアだとは知らなかったが。
重傷を負った自分を助けてもらい、むしろこちらが礼をしたいくらいだ、と話を逸らす。
「なら、あの時使った魔法について聞かせてもらえるかしら?」
話題を逸らしたというのに彼女は即答した。
もしかするとこれが本題なのだろうか、と内心冷や汗を流す。
魔法を他者に話すのは危険な行為だとチュールさんから聞かされた手前、話すべきではないことはわかる。
話しても話さなくてもいい、真実を話す必要もない。
彼女らは神ではないし嘘を言っても誤魔化し切る自信はある。この場ではだが。
後日問い詰められるリスクがある。
>わかりました。あの時使った魔法について話します。ただ――
しかし、これは彼女らの目的を知る機会でもある。
何を調べているのか、それくらいはわかるはずだ。
知ったところでこちらにメリットがあるかどうかわからないが。
実際、自分がどんな魔法を使ったのか知る機会だ。
交換条件としての価値が今の自分にはまるでわからない。
割に合うか合わないかは彼女らの情報次第だ。
「私たちが何を調べているか知りたいわけね。
何も調べていないし、これは興味本位だって言ったら信じる?」
ならばこちらから言う事は何もない、ロキファミリアの連中は平気で格下の相手にステイタスを聞いてくると酒場辺りで愚痴っておこう。
彼女は目を鋭くしたがこちらが態度を変えないとわかると、ため息を吐いて眉間に指を添えた。
脅しもできるタイプの人物らしい、このティオネという女傑は。
経験上、力もあるインテリ系とはあまり長く話をするべきではない。
口を割らされる可能性がある。
「…わかったわよ。嘘偽りなく正直に話すわ。
18階層の事件については知ってる?」
知りませんが、と話を促す。
13階層から24階層は中層と呼ばれていることまでは調べている。
レベル1の自分が辿り着くのは通常ならば不可能だろう。
そしてそこに辿り着くのはまだ先だと碌に調べてもいない、何より情報源はベルとチュールさんの口頭だけだから。
文字の読み書きを入院中に覚えなければな、と意識を別の場所へ飛ばしかける。
「もう表に出てる情報だと思うけど、18階層での殺人事件が未解決のままなのよ。
犯人は捕まっていない」
それはなんとも、穏やかな話ではないな。
どんな殺人で、一体いつの話だろうか。
否、何よりもその話をするということは。
――自分が犯人だとでも?
「そうは言ってないわ。それにその事件は怪物祭が終わってすぐの頃。
貴方が昏睡状態だったのは聞いているわ。重傷だったことも見て知っている」
そうだった。彼女らは怪物祭の時に自分の近くにいたのだった。
ある意味で一番力のあるアリバイだろう。
加えてレベル1がそんな中層に行けるはずもない。
「故あってその殺人事件を調べることになって、犯人と交戦、取り逃がしたわけだけど。
その時に犯人が使役していたのが食人花なのよ。
食人花が何かは貴方も知っているでしょう?」
知らない、と言いかけたが思いついた。
怪物祭で見たあの蔓、あれが食人花だったのか。
「あれは怪物祭でガネーシャファミリアが
…犯人はどこの所属でどこの人間なのか。
今私たちはそれを調べているってわけ」
自分が疑わしいと?
「さぁね。
貴方のモンスターを使役する魔法、どこか通ずるものがあるんじゃないかって私の主神は考えているみたいだけれど」
……は?
素で聞き返してしまった。
彼女は今なんと言った。
モンスターを使役する魔法、とは一体。
「…何か誤解があるみたいね。
で、貴方の魔法のことは教えてくれるのかしら?」
この期に及んで言わないという選択肢はない。
疑われているのだ。身の潔白のためにも答える。
そもそもどんな魔法なのか自分でも理解していないのだから。
ヘスティアが書き写したステイタスの魔法欄に書かれている内容を伝えた。
心を具現化する魔法だということ、自分の意識を失う直前で自分にも何が起きたか把握していないこと。
それで、あの時に何があったのか。
四人は顔を見合わせた。
「魔物が貴方から出てきた」
最初に口を開いたのはヴァレンシュタインさんだった。
病室の入り口を塞ぐように立っていた彼女は感情の篭ってないような声でそう答える。
魔物…モンスターが俺の中から?
「黒い姿の剣を持った怪物。
空を飛んで食人花を切り倒した」
エルフの彼女が倒したと聞いていたが。
「残りは私とレフィーヤで倒した。
でも、最初の1体は貴方が倒した。
倒した後、砕けるように消えた」
どういうことだ。
これがペルソナの力なのか。武器がなかったとはいえ彼女らが苦戦したあのモンスターを自分の魔法が倒した?
いや、それよりも大事なのは魔法発動の結果、モンスターが現れたという事だ。
アルカナによって形状変化するというのはモンスターに変わるという事だったのか。
しかも、自分が意識を失ってからも活動している。
いや、途中で消えたのだから意識が完全に消えるまでということか。
それはほとんど秒殺したということだろう。
「見たこともない魔法。それにあの時、詠唱する暇なんてなかったわよね?」
その通りだ。詠唱式もない、ただ魔法名のペルソナと口に出しただけ。
魔法は詠唱が長くなればなるほどに強力だという。
レベル1の俺が使える魔法では破格の性能、否、異常な性能だと断言できる。
だから疑われているのだろうか。
わからないことが多い。多すぎて彼女らに話すのはリスクが高いように感じ始めた。
だが言わざるを得ない。
「詠唱式がない?」
「初めて魔法が発動した?」
「さっきの、発声練習じゃなかったんですね…」
各々が疑問を口にする。
さっきのは本当に忘れて欲しい。発声練習だと思われていたのか。
しかし、もし発動してしまっていたら危険だった。迂闊に口にするのは避けよう。
「なるほどね。
そっちの言っていることが真実なら、少なくとも私たちの追っている相手とは関係がなさそうね」
各々が首を傾げている中、ティオネさんだけがそう呟いた。
納得したような口振りにかえって疑問が募る。
これ以上変に探りを入れると自分の状況が悪くなるかもしれない。
とにかく今は、自分の魔法の情報が得られたことだけを収穫としよう。
「療養中に失礼したわね」
じゃあね、と褐色の姉妹は病室の扉を開けた。
自分が疑われているとわかったからか情報の出し惜しみをしなかったが、この話は神ロキの耳に入ることだろう。
自分の行く末がどう転ぶかは彼女次第だ。
話過ぎただろうか、と今更ながら後悔する。
「聞きたいことがあるのですが。
アリアという人物を知っていますか?」
最後に部屋に残ったのはヴァレンシュタインさんだった。
これも事件と関わっているのだろうか。関わっているなら彼女らが出て行く前に話していたはず。
別件だろう。
アリア…どういう意味の言葉だっただろうか。
英語の勉強など碌にやった覚えもないため分からない。
いや、そもそも人物名か、なおさら知らない。
「…変なことを聞いてすみません」
がっくりという言葉がしっくりくるほどヴァレンシュタインさんは気を落とした。何かあったのだろう。
そういえば思い出した。ベルが彼女と何かしら因縁があるのだった。
一応ベルとの間に何があったか聞いてみようか。
「貴方のファミリアの団長?」
知らないのか。名前を言えばわかるだろうか?
「ベル・クラネル?」
名前も知らないのか。
チュールさんの話やベルの異性関係からするとまた惚け話やヘタレ話の類と思ったのだが。違うのか?
白髪で赤目の少年で、ウサギっぽい―――
「――詳しく」
ヴァレンシュタインさんはベッドに座る俺まで一瞬で間合いを詰めて肩を掴んだ。
「詳しく」
「是非」
「その子のことを詳しく」
畳みかけるように彼女は肩を握り締めて言った。
ベルは一体何をしでかしたのか。