ダンジョンでコミュを築くのは間違っているだろうか 作:FNBW
□
――鬱だ。
病室で一人大の字になって寝転がる。
全力で肩を揺すられてまだ頭が揺れている。
大きくため息を吐いてそう呟いた。
ヴァレンシュタインさんにベルのことを根掘り葉掘り聞かれて、知っていることを全て話した。
詳しい理由は彼女の方からは何も言っていないが、どうやら彼女はベルに謝りたいらしい。
昨日の夜、ダンジョンで精神疲弊(マインドダウン)により気絶したベルを見つけ、謝るために膝枕をして起きるのを待ったらしいのだが、起きた瞬間顔を真っ赤にして逃げられたとのこと。
突っ込みどころが幾つかあるが、彼女にとって重要なのが謝る前に逃げられたということだった。
きちんとケジメをつけたいと彼女は言った。その協力をしてほしいと頭まで下げられてお願いされてしまった。
ベルを逃げられない状態にして合わせてくれとのこと。
……縛って引き渡せということだろうか。
どうやら彼女は物の言い方を知らないらしい。脳筋なのかな。
断る理由もなく、とりあえず了承すると、彼女は生き生きとした表情で病室を出て行った。
誰もいなくなった病室で頭を抱えた。
惚け話をベルから聞かなければいかないような確信を持ったからだ。
鬱だ、自分にはそういった話が今までなかったからか余計に気になる。
ベルくらいの年に自分は何をしていたか。
――馬鹿なことを考えた。
自分が学生の頃に人を殺めたことを思い出して、その資格がないことを思い出した。
寝台から体を起こす。
切り替えよう。
気になることが一つある。それはベルがマインドダウンで倒れていたということだ。
それはつまり、ベルは魔法を習得したことになる。最早魔法を持つのは自身だけではない。
辛うじて保っていた優位性がなくなった。
わかっていたが自分はやはりベルよりも弱い。自分はそれが純粋に悔しいのだ。
自分は人殺しだ。荒事の専門、兼業殺し屋だ。
存在価値は人を殺すことで、それ以外は必要とされなかった。
だが、ここは異世界だ。
人を殺した経験などこの世界では何の意味もない、犯罪としての殺しではなく、生きるために他者を殺すことが成立している。
ヒトではなくモンスターを、だが。
倫理観はほぼ同じだろう。少なくともオラリオの表では。
この世界において、自分はまだ価値のない人間だ。何も為していないのだから。
だから強くならなくては。自分の価値を見出すために。
強くなったベルに見限られないように。ヘスティアに見限られないように。
一刻も早く、
強くなるために、
ダンジョンに行かなくてはならない。
病室の隅に置いてあった私服を着て、ロッドをホルダーに巻き付けて背に持つ。
魔石を入れられるような小さな袋はあるが、メイスはない、防具もボロボロで使い物にならない、それでも構わない。
行こう。
廊下を出て誰にも見つからないように慎重に階段を降りた。
□
バベルから地下のダンジョンへ。
多くの冒険者が出入りをするダンジョンで人気のない場所を狙って歩く。
まだ1層への階段は誰もいない。
ペルソナ
試しに一声魔法名を唱えてみる。
何も起こらない。何がトリガーなのか、それも早く知らなくては。
1層、背後からゴブリンが走ってきた。
ロッドを背にしたままの徒手空拳のこちらを見て、武器がないと飛びかかってきたが、裏拳で顎を砕いた。
地面に倒れたゴブリンの頭を蹴り首をへし折る。折れた音がダンジョンに響いた。
死体から魔石を毟り取って袋に入れる。
前回はベルと二人で5層まで降りた。
6層には新米殺しのウォーシャドウがいるとベルが言っていた。
そいつを倒すのを目標にしよう。
1層を降りて2層へ。
ダンジョンリザードが天井に張り付いていた。気が付かないフリをして下を通り抜ける。
待ってましたと言わんばかりに飛びかかってくるダンジョンリザードの口にロッドを突き入れた。
棒きれの角が喉を貫き、内蔵をズタズタにして背中からロッドの角が突き出る。
蜥蜴の串刺しができた。
口から垂れる血が腕を伝って病衣に付く、ロッドに刺さったそれを地面に放り投げ、魔石を回収して歩く。
フロッグシューター、単眼のカエルの魔物。
こちらに気が付くとすぐに舌を伸ばして腕に絡みついた。
力で拮抗するかは考えない、自ら近付いて互いに体当たりする。
ロッドの柄で目を潰し、滑る舌を両手で持って地面に何度も叩きつける内に爆発するように弾けて魔石が残った。
3層、3体のコボルトに出くわした。
走って一番近くのコボルトをロッドで薙ぎ飛ばす。
倒れているコボルトの止めを刺す前に、残り2体が同時に飛びかかってきた。
1体は腕を振るって往なす、が残り1体に押し倒された。
こちらの肩を踏みつけたコボルトが頭を潰そうと爪を振り上げる、自由な足でコボルトを蹴りどけた。
倒れているコボルトに今度はこちらが跨ってコボルトの胸にロッドで突いた。
同時に背中に熱が伝わる、見れば往なしたコボルトが背中に鉤爪を振り下ろした後だった。
同時に後方で砂利を蹴る音、もう1体が体勢を立て直したことを確信した。
振り向き際に裏拳を叩き込む。
飛びかかるコボルトの顔面に当たった。またもコボルトは倒れて体勢を崩した。
そのまま後ろを見ずにバックキック、手応えを感じるが蹴り飛ばすほど威力はない。
裏拳で倒れたコボルトの顔面に全体重を乗せてニードロップし頭を潰し、腹を抑えている残りのコボルトへ走って飛び蹴りをした。
最初のコボルトからロッドを引き抜き首を蹴って砂に還し、飛び蹴りを食らわせたコボルトの首を蹴る。
頭を潰したコボルトは既に魔石と砂だけがその場所に残っていた。
息を吐いて辺りを見回す、残りの敵はいない。
魔石を回収して腰を下ろす。
刺突として使えるロッドがある分マシだが、メイスと比べると打撃としては使い物にならない。
メイスは自分の戦い方としては必要だ。
それか組み付かれた時のために短刀も欲しい。
武器の重要性を改めて実感した。
背中が痛むが、ポーションの入ったバックパックも持って来ていない。
とにかくダンジョンに、と熱が入って来たはいいが明らかに準備不足だ。
なんと間抜けか。
自分が強いとでも思ったか、違う、そう思いたかった。
自分が弱いことを改めて実感する。
小柄な体と速さを活かしたベルなら難なく倒していたかもしれない。
先に進むか引き返して準備を整えるか考えていると2体のゴブリンと出会った。
舌打ちをしてロッドを片手で握り締めた。
□
1層、時間はかなり流れた。時刻はおそらく夕方。
度重なるモンスターとの戦闘で既に体は満身創痍に近い。
二度目の魔石袋も既に収まり切らない程に入り、今はポーションの入ったバックパックの中に乱雑に入れてある。
地上へ一度出た時に満杯になった魔石袋を換金し、そのままバックパックとポーション、ナイフを幾つか買った。
チュールさんと会わないように隠れて行くつもりだったが案の定彼女はいなかった。今日は休みなのかもしれない。
怪物祭で見た彼女の同僚とは何度か視線が合ったが気が付かないふりをした。
あちらもわざわざ覚えていないはずだ。俺なら見ても知らないふりをする。
メイスを買う金が残らなかったがファミリアの拠点にも取りに戻れないため、ナイフとロッドだけで戦うことになった。
浅い層であればモンスターは1体か2体程度だと思っていたが考えが浅かった。
一度にダンジョンで生まれるモンスターは浅い層だと1体ずつかもしれないが、モンスター同士が合流するという可能性があったようだ。
結果、二度目の時も何度も複数のゴブリンとコボルトと出会い戦い、服はボロボロになった。
何度も窮地に陥ったがペルソナは発動しなかった。
条件は同じはずなのに、何があの時と違うのかわからない。
到達階層は5層だった。
6層に続く階段にすら辿り着けなかった。
これはフロアを知らず、マッピングができないからだった。
時間をかけて5層を探索すれば6層へは行けるだろうが5層に長時間留まることができるほど連戦ができない。
結果、ベルと共に探索したところ以上に先へは進んでいない。
この様か、と自虐して踵を返した。
1層の地上付近では帰還途中の他の冒険者もちらほら見え始め、大きく息を吐く。
さっさと地上に出て病室に戻ろう。
「おい、そこのお前」
声をかけられたのはそんな時だった。
地上への階段の前に獣人が立っていた。
灰色の髪の獣人。頬に入れ墨が入っていて『いかにも』な男だ。
行く手を阻むようにこちらへ歩み寄ってくる。
立ち止まって睨めつけた。
「いや、大した用じゃないんだけどよ。
そんな恰好でダンジョンに入るとは、自殺志願者かと思ってな。
珍しくてつい声をかけちまった」
で?
「そんなに死にたかったら介錯でもしてやろうかってな。
なに、ただの親切心だ」
嘲るように彼は笑った。
ロッドを抜いて見据える。
それを見て獣人の男は更に笑みを深めた。
「なんだ、怒ったか? 短気な奴だなぁ、構えてもない奴に武器を抜くなんてな」
最初から抜き身のお前に言われたくないが。
歩み寄って来た獣人の足音は相当重かった。
それを難なく履き、かつ今は足音を殺すような歩き方。
別段重い物を着込んでいるわけではない姿を見るに、相当な重量が脚部に集中している。
異常な筋力の持ち主だ。
「新米でもわかるか。
だが、俺の事を知らないのがわかったよ。
オラリオに来て日が浅いみたいだな」
どうやら有名人らしい。噂に聞く一級冒険者だろうか。
余程暇らしい、自分のようななりたて相手に喧嘩を売るとは。
二流以下だな。
「目障りなんだよ。雑魚の癖に武器だけ一丁前なんてな。
お前のその杖が泣いてるぜ」
挑発を挑発で返された、ただそれだけ。
彼の一言で杖を握る指に力が入る。
純然たる事実だった。
泣けてくるくらいに自分は弱い。
何もかもを一人でこなしてきたあの頃とはまるで勝手が違う。
ベルだったらもっと上手くやる、そんな事ばかり思いながらモンスターを倒していた。
ペルソナさえ使えれば、そんな使えもしない魔法に縋りたくなるくらいに自分の心は弱く脆かった。
だからこそ、その言葉を、どうしても無視することはできなかった。
自分はこの杖に相応しくないのだと言われているのだから。
「へぇ…やるのか? 新米」
その言葉に再び杖を握る指に力が入る。
――いや、お前の言う通りだ。
力が入るが、手は出なかった。
戦えば確かに気は晴れるかもしれない。
負けても得る物はあるだろう。
だが、彼の言っていることは事実だ。
否定することはできない。
自分が弱いことは理解した。他人に言われて漸くその事実を飲み込むことができた。
ならばそれを補って今から強くなるしかないだろう。
こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。
魔石袋を獣人の足元に放り投げる。
「…なんのつもりだ?」
用ができた。今すぐに装備を整えて万全の状態でダンジョンに挑まなければならない。
手持ちはこれしかない、これで勘弁してくれ。
この男も人通りのあるこの場で殺害するような愚は犯さないだろう。
「…要るかよ、こんな小銭」
さっきからこの男はなんなのだろうか。
魔石を受け取らなかった時点で、金銭目的ではないことがはっきりした。
弱者をいたぶるのが好きなだけだろうか。
そういう性格は何度も見てきている、が。
どうにも違和感がある。
しかし対処は簡単だ。
――やるなら早くやれ、俺にも都合がある。
殴るにしても最悪の後味にさせてやる。
だが、予想外のことがあった。
男は何もしてこなかった。
表情なく立ち尽くしている。
無表情なのは予想外だった。
疑問が膨らむ。
「もしも俺がその杖を欲しいと言ったらどう出る?」
――死んでも渡すかよ。
即答する。
この男がその気になれば必ず奪われるだろう。
死ぬまで抵抗してやる。
奪われてもどこまででも追いかけて、必ず奪い返す。
死ぬまで追い続けてやる。
武器として使い続ける以上はいつかこの杖も壊れるだろう。
他人に譲ってもそれは同じだ。
だが、自身が壊すのと誰かに壊されるのではワケが違う。
ヘスティアは許すだろう。だがきっと自分は自分を許せない。
これはヘスティアが俺のために作った武器だ。
自分以外が壊すことは決して許されない。
「……へっ、興ざめだ」
地面に唾を吐いて、男は明後日の方向へ歩き始めた。
足元の魔石を蹴ってこちらに転がしてダンジョンの奥へ歩き始める。
一体あの男は何がしたかったんだ。
その意図が分からず、しばらくその場で獣人が消えていった方向を眺めていた。
□
「ボクがどうして怒っているか、わかるかい?」
土下座をする自分を見下ろして、彼女は言った。
呆れと疲れが同時に口から出たような、ため息が耳に残る。
装備を整えるために一度病室に戻った。
病室には替えの服があり、ボロボロになった服と交換するためだ。
アーマーなどの装備はここにはない。ホームに行くかそれとも魔石であり合わせを買うかと悩んでいると。
ヘスティアが部屋の中に入って来た。
生傷があるのを確認してから彼女は烈火のごとく怒った。
昨日以上の激おこである。
どうやら、チュールさんの同僚から彼女を知る者がいたらしく、自分がダンジョンに入っていることが伝わったらしい。
たぶんチュールさんにも今回のことは伝わっただろう。少し申し訳ない気持ちになる。
圧しかない彼女の言葉に従い、地面に両ひざをついて今に至る。
「自分が何をしているのかわかっているのかい。碌に装備を身に着けずにダンジョンに潜るだなんて、自殺志願者と思われても否定できないんだよ?」
はい。
「ねぇ、昨日に言わなかったかな。一週間は寝ていろって。その後君はそれをきちんと理解したはずだよね?」
はい。
見ずとも彼女の目が冷ややかであることがわかる。
「おかしいな。理解しているのに約束を破るなんて。君はいつから背神者になったんだい?」
約束まではしていないが。
「……」
頬を引っ張られた。
どう考えてもこちらが悪い。抵抗せずにそれを受ける。
堪能するように俺の頬を引っ張っては放しを繰り返す。
痛みで頬が少し熱くなった。
――頼みがあります。
「何かな?」
武器と防具を取りに教会へ帰ってもいいですか。
「……武器はメイスだったかな? 重いだろうけどボクが持ってくるよ」
大きくため息を吐いて彼女は言った。
反対されるのを覚悟で言ったのだが、予想と反して彼女は肯定的だった。
…どうして?
強く止められると思っていたが真逆の反応で思わず聞き返してしまった。
「きっとダメだと言っても君は行くだろう? ボロボロで帰って来られるよりもしっかりと装備を整えて少しでも危険を減らす方がいいよ。
医者にはボクから言っておく。
ステイタスの更新も今やろう、明日はバイトで忙しいからね」
ありがとう。
昨日の今日だが再びステイタスの更新を行った。
昨日よりも力が漲る気がする。
「君の気持ちをあまり考えてやれなかった。というよりもベル君そっくりだねトロウ君は。
ちょっとしたところで対抗心を燃やすところも、それを口に出さないところもそっくりだ。
無茶の度合いが違うけれど」
彼女はそう言って立ち上がり、近くの椅子に腰を下ろした。
そっくりだろうか? 真逆な気がするが。
顔を上げると丁度彼女の白い下着が見えた。視線を左に逸らす。
「君たちは方向性が違えど、根っこの部分が似ているのだとボクは確信し始めたよ。
君たちはきっと、譲れない拘りというものがあるんだろう。
それは時に自分の命よりも大切なモノなのかもしれない。
それはとても素敵なことだとボクは思うよ」
思うのは勝手だが。
ロッドの時といい、こういう言い方をする彼女は苦手だ。
ここに来て初めて知ったが、自分は褒め殺しが苦手なのかもしれない。
むず痒いというか、心がぞわぞわするような。
何も言わずに黙っていると、くすりとヘスティアが笑った。
「いや、ベル君もあの場にいれば君と同じ行動をしただろうなと思ってね」
あの場とはどの場だろうか。
首を傾げていると彼女は怪物祭での一件だと言葉を繋げた。
ウィリディスさんを助けているベルの姿を幻視した。
確かに、と自分も笑う。
どうしてだろうか、自分が今日までとてもつまらない事に拘っていたような気持ちになった。
起きてからまだ一日だが、ベルは、元気だろうか。
「元気だよ。…でも、ちょっと厄介なことになっているかな」
――と、いうと?
「最近ベル君と別のファミリアのサポーターが一緒にダンジョンへ潜ってる。
そのサポーターがね…」
ヘスティアはベルが彼女に打ち明けたサポーターの身の上を俺に話してくれた。
偶然の出会い、落としたヘスティアナイフの経緯、それらを踏まえた上でのサポーターの身の上。
聞き終えて、なるほど厄介なことになっているなと苦笑いした。
「君はどう思う、いや違うか。君ならどうする? それでも彼女を、そのサポーター君を信じるかい?」
…信じない。
即答はできなかった。
騙されて、結果死んでしまったら、信じたことを死ぬほど後悔するだろう。
それは、自分の身の上話だった。
でも、と考える。もしも俺があんな死に方をしなければ、信じると答えていたかもしれない。
結局は自分が何を信じたいか、たったそれだけのことだ。
俺はそうやって今まで生きてきて、最後にそれで死んだ。
だからこそもう簡単に人を信じることはできないだろう。
これはある意味トラウマだ。
実際に死んだのだから飛び切り大きな心の傷だ。
「少し意外かな。君なら信じると思ったよ」
普通なら信じないだろう。
「でも君ならベル君と同じで、自分が信じたいかどうかの問題だと言うと思ったよ。
結果、裏切られても自分で決めたから後悔しないってね」
彼女に自分の考えを見透かされているようだった。
嘘は言っていないと思うが、何か引っかかりでもあったのだろうか。
咳払いする。
「どうも自己が曖昧だね、君は」
ヘスティアは立ち上がった。
どうやら先日言っていたバイトの時間が近いらしく病室にある鏡で身なりを整え始めた。
「君はおそらく他の誰よりも深いベル君の理解者になるだろう。
でもそれは反対に、君の理解者はベル君になるということ。
そのことを心のどこかで覚えてくれないかい?」
了解、と短く答えた。
満足したように彼女は一度笑みを見せ、部屋を出て行った。
と思ったらすぐ帰って来た。
「今日はもう遅い、明日まで体をゆっくり休めてくれ。
とりあえず持ってきた装備一式はロッドの隣に置いておくよ。
くれぐれも看護婦にバレないように、それと何よりも怪我に気を付けてね」
俺の装備を廊下に置いていたのか。
だとすれば、俺がダンジョンに行くと言い出す事を彼女は予想していたということか、それも確信レベルで。
目を白黒させていると、閉めた扉をまた開いて顔だけこちらへ出した。
「あと、ポーションはしっかり買うこと。怪我は早めに治療すること。
近くに別の冒険者がいたら協力し合うのも悪い事じゃないからね。
あとは――」
――わかったから、バイト頑張ってくれ。俺も、頑張るから。
「――ああ!」
元気よく返事をすると彼女は今度こそ病室を出て行った。
翌日、日が昇り切った後。
病衣を脱ぎ捨てて身なりを整えた。
今までとは違う、晴れ晴れとした気分で、気合が入った。
さて、行くか。
フル装備で病室を出た瞬間に看護婦と出くわし、逃げながらダンジョンに向かった。
帰ってきたら病室に縛り上げられるかもしれない。