壁に貼り出された成績表を後ろの方から見つめる。自分の名前を見つけるのは簡単だ。いつも一位か二位のどっちかだからな。今回はどっちなのか見てみると一位の下に、一ノ瀬幸村の文字を見つける。
(今回もなんとか死守できたか)
運動は得意な方ではない。これといった特技もない。だから勉強だけは誰にも負けたくない。その一心で勉強をやっている。正直言って勉強は得意な方ではない。だけどこの瞬間の達成感は気持ちがいい。
そのまま自分の教室に戻っている途中に一人の生徒とすれ違う。無視だ無視。彼女に関わるとろくなことにならない。
「ずいぶんと余裕そうな顔ですね」
今日こそは何を言われても反応しない。常に何も考えるな。そのまま横を通り過ぎていく。
「なんで無視するんですか」
歩く速度を上げる。
「私の話を聞きなさい」
更に速度を上げる。やばいこれ以上はきつくなってくる。
「もう無理」
結局昇降口付近まで来て捕まってしまった。
「やっと捕まえました」
「だからなんでいつもテストが終わるごとにストーカー被害に合わなきゃいけないんですか」
「あなたが私を無視するのがいけないんでしょう」
いやいや、話を聞くなら聞くで今回はどのくらい勉強をしたのか、いつ頃からテスト範囲をやり始めたなど、小一時間ほど詰め寄ってくる。
「ですから、毎回言ってるでしょう。距離感ってものがないんですよ。だからいつまでもぼっちなんですよ」
「なっ、ひとりぼっちなのはあなたも一緒でしょう」
「全くデリカシーがないな。本当に顔以外最悪な人だ」
「それはあなただってそうでしょう。その整った顔立ち以外最悪です」
そのまま、ホームルームの時間になるまで言い争っていた。
やっと放課後だ。結局あのまま言い争いをしていたらチャイムが鳴り急いで教室に戻ったら、クラスの奴らからまたやってるよ、なんて目線が飛んできた。そのまま家に帰ることはなく近くのファーストフード店による。テストが終わったからと言って勉強を休むことはない。気を抜けばすぐに彼女に抜かれてしまう。いつもならホットコーヒーを頼むだけなのだが、今日は一位も取れたことだし少し奮発して期間限定の超濃厚チーズポテトも頼んだ。
そのまま、隅っこの席に座って教科書と参考書を広げる。よし、まずは間違えたところの復習をやろう。そう意気込んで耳にイヤフォンを差し込もうとしたときにレジの方から声が聞こえた。
「この期間限定の超濃厚チーズポテトのLサイズを2つお願いします」
「すみません。さきほどのあちらのお客様で売り切れとなってしまいました」
「そ、そんな。今日この時を待ち望んでいたのに」
その時その声の主がこちらをすごい目つきで睨んできた。そのまま何事もなかったかのように耳にイヤフォンを差し込もうとすると。目の前の席にトレイが置かれる音とともに誰かが座ってきた。
「ごきげんよう。一ノ瀬さん。こんな場所で奇遇ですね」
「氷川さん。どうしてここに?」
「実は今日のことを謝りたくて」
何を言っているんだ。俺と氷川さんは水と油の関係のはずだ。近くにいるだけですぐに口論になる。
「へ、へえ。そう。やっと自分の行動に謝罪をする気になったんですか」
「はい。その節はすみませんでした」
「いや、考えて見たら自分も悪いところがありました。こちらこそすみませんでした」
「そうですか。やっぱり一ノ瀬さんは優しいですね」
「い、いえそんなことは」
なんだこの気持ち悪い空気は。いつもの氷川さんじゃない気がする。氷川さんをよく見てみるとめっちゃトレイの上のポテトを見ている。
「もしかして食べたいんですかこれ」
「そ、そんな訳ありません!」
明らかに動揺していつもの鉄仮面が剥がれている。
「そうですか。ならこれさっき食べたんですけどそんなに美味しくなかったから残そうかな」
「そんなもったいないことはできません。私がいただきます」
「いや、無理に食べなくてもいいんですよ」
「無理なんかしていません。私が自分の意志で食べたいんです!」
「そこまで言うなら、あげますよ」
「ありがとうございます。やっぱり一ノ瀬さんは優しい人ですね」
まるで麺を啜るかのような勢いでポテトを食べていく。
「好きなんですかポテト?」
「そんなことはありません。言いがかりはよしてください」
そんな事を言っているが明らかにいつもの鬼の風紀委員の面影はなくなっていた。
翌日学校に行くと自分の席に見知った顔があった。
「なんでここにいるんですか。氷川さん」
「やっときましたか一ノ瀬さん。遅いですよ」
「もしかして自分の席の場所を忘れたとか」
「やっぱりあなたは私を馬鹿にしているわね」
「そんなことないですよ」
「それよりもついてきてください」
「嫌です」
「なんですぐに拒否するんですか!」
「どうせ校舎裏に呼び出してリンチするんでしょう」
「あなたは私のことを何だと思っているんですか」
「やばい人」
「その考えから改める必要がありそうね」
「それで、本当のところ何のようですか?」
「ここじゃあれなんで、場所を変えましょう」
そう言って教室を出ていく氷川さんについていく。
「で、何があったんですか?」
「昨日のことなんですが」
「もしかしなくても、ポテトが好きなことを黙っていてほしいとかじゃないですよね」
「そ、それは」
やっぱりそうか。明らかにポテトの話になると、途端に口数が少なくなる気がする。それにしてもポテトが好きだなんてやっぱり意外だな。氷川さんなら「あんな体に悪い物は食べたくありません」とか言いそうなのに。
「別にいいじゃないですか。ポテトが好きでも。隠すことなんかありませんよ」
「だから別に私はポテトが好きだなんて言っていません」
「そうですか、なら別に言いふらしても構わないんですね」
「だめです!」
びっくりした。いきなり大声出すなんて氷川さんらしくない。
「でも好きなんですよね」
「別に好きじゃないです。だいたいなんですかいきなり。私は昨日の話をしようとしただけですのになぜ私がポテトが好きという話になっているんですか。だいたい一ノ瀬さんはいつもそうです。私を毎回毎回バカにしてくるような言い方をしてきて有る事無い事言って最低ですね。」
「その言い方だとやっぱり好きなんじゃ」
「す・き・じゃ・あ・り・ま・せ・ん」
「は、はい。氷川さんはポテトが決して好きではないですよね。わかっていました」
「わかればいいのです」
「それじゃあ結局何の用事なんですか?」
「何でもありません!」
そう言って氷川さんはズンズンと音がするような足踏みで教室に戻って行った。
「なんなんだよ一体」
少し時間がたったあとに教室に戻った。
そして授業中明らかにこちらを見てくる。氷川さんの席は一番前の席なので振り返るとすぐに分かる。目が合うとさっと前の方に向き直る。
「氷川さん。どうかしたんですか?」
すると、先生から声をかけられる。
「いえ、なんでもありません」
「そう。ならいいのだけど」
それからは後ろを振り返ることはなくなったが背中がずっとそわそわしている。やっと授業終了のチャイムが鳴ると氷川さんはすぐに自分の席の方まで急ぎ足で来る。
「言ってませんよね」
「何をですか?」
「ですからさっきのことです」
「何のことか言ってくれなきゃわかりませんよ」
「まあ、一ノ瀬さんのことですから話し相手もいませんよね」
「・・・・・。それは氷川さんもですよね」
「・・・・・。この話はやめましょうか」
「そうですね。お互いのためにやめましょう」
それからお互い気まずくなり氷川さんは自分の席に戻って行った。
これが氷川さんとの不思議な日常の始まりだった。
アンケートで多かった氷川さんの物語スタートです!(だいぶ接戦でした)