ポテト好きの氷川さん   作:主催

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胸の違い

「はーい。今日はこれで終わりだからみんな気をつけて帰るのよ」

 

 そう言って先生が教室から出ていくと教室が一斉に騒がしくなる。さて帰るか。ボッチのやつは早く帰るのは基本中の基本だからな。

 

 すると校門前で見知った顔が見えた。

 

「帰りますよ」

 

 氷川さんはそう言って自分の隣に並んでくる。

 

「そうですね。じゃありませんよ!なんで自然と横に並んでいるんですか!?」

 

「別に一緒に帰ることぐらい何も問題じゃないでしょ」

 

 たしかにそうだがなんだか釈然としない。

 

 お互い会話もなく夕焼け空の下ならんで歩く。おかしいいつもならお互いの悪口でも言い合っている頃なのに。

 

「最近バンドの方はどうなんですか?」

 

 氷川さんはそうね、とつぶやきながら答えた。

 

「最近は湊さんの雰囲気が少し優しくなった気がするわね」

 

「湊さん?」

 

「ボーカルの人よ」

 

「ああ、あの人ですか」

 

 あの怒らすととんでもなく怖いというイメージしかないのだけれど。

 

 そんな話しをしていると駅前の方まで来てしまった。

 

「それじゃあ、自分は本屋にようがあるのでこれで」

 

「まって」

 

 その言葉と同時に袖を掴まれる。

 

「どうしたんですか?」

 

「私も一緒に行ってもいいかしら?」

 

「え」

 

「別に構いませんけど、なにか用事でもあったんですか?」

 

「用事がないとついていっちゃいけないのかしら?」

 

「いやそんなことは」

 

 何だ今日の氷川さんは少しおかしい気がする。

 

「ならいきましょうか」

 

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 参考書のコーナーを見て回る。だけど目星をつけていたものはなく特に目を引くものもなかった。別に今日はいいか。そんなことを思い帰ろうと考えていると後ろから声をかけられた。

 

「目的のものはありましたか?」

 

「氷川さん。いえ、これと言って特にはなかったです」

 

「そうですか」

 

「帰りましょうか」

 

「あ、それならよっていきたい場所があるんですけどいいですか?」

 

「はぁ、最初からそんな気はしていましたよ。それでどこにいきたいんですか?」

 

「いいからついてきてください」

 

 そのまま氷川さんのあとについていくとそこはゲームセンターだった。

 

「意外ですね氷川さんがこんなところに連れてくるなんて」

 

「別にたまにはいいでしょう」

 

「それで何がしたいんですか」

 

「そうですね。あ、あれにしましょう」

 

 氷川さんがそう言って指を指したのはホッケーのゲームだった。

 

「わかりましたよ」

 

「悪いけど本気でいかせてもらうわ」

 

「それはこちらのセリフです。いつもの鬱憤をここではらさせてもらいますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくらなんでも弱すぎじゃないですか?」

 

「はぁはぁ、自分は決して弱くはないです。はぁ、氷川さんが強すぎるだけです」

 

「別にもう一回してあげても構いませんよ」

 

「いや結構です」

 

「あら、逃げるんですか」

 

「勝ち目がない勝負を挑むよりも少しでも勝率がありそうなものに変えるだけですよ」

 

「へー、何なら私に勝てるというのですか」

 

「そうですね」

 

 一通りゲームセンターの中を見渡してみるとちょうどいいいゲームがあった。

 

「あれなんてどうでしょ」

 

 そう言って指をさしたのはクイズゲームだった。

 

「クイズゲームですか。正直に言ってホッケーよりも勝ち目がないと思うんですが」

 

「一回でも自分にテストで勝ってから言ってほしいですけどね」

 

 その事を言うと氷川さんは驚いた表情をした。

 

「へえ、言うじゃないですか。そこまで言うのなら自信はあるのでしょうね」

 

「当たり前ですよ」

 

「後悔しないように」

 

 二人で席に並んで硬貨を入れる。

 

「ジャンルはどうしますか?」

 

「別に選ばせてあげるわよ」

 

「その余裕な顔ひっくり返してあげますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝った」

 

 よし!なんとかギリギリだったけれど勝てた。最終問題まで取って取られての繰り返しだったからな。最後に得意な世界史の問題が来たのがラッキーだったな。

 

「まさかここまでやるとは」

 

「ふん、伊達に学年一位は名乗っていませんよ」

 

「どうやらそのようですね」

 

「どうしますもう一回やりますか?」

 

「いえこれくらいでいいでしょう」

 

 おかしいな負けず嫌いな氷川さんなら絶対にリベンジしてくると思ったのに。

 

「さて、そろそろいい時間ですし行きますか」

 

 スマホの時計を見てみると時間は午後六時を回ったところだった。

 

「そうですね。そろそろいい時間ですし帰りますか」

 

 二人でゲームセンターを出ると太陽がもう少しで沈むというところまで差し掛かっていた。

 

「それじゃあ、このへんで」

 

「お腹が空きました」

 

 よし面倒になる前に帰ろう。そう思いダッシュを決めようとしたときに肩を掴まれる。

 

「お腹が空きました」

 

「そうですか。なら早く帰ってご飯食べなきゃですね。それじゃあ」

 

「お腹が空きました」

 

「はぁ、わかりましたよ。どこにいきたいんですか?」

 

「そうですね。あそこなんてどうでしょうか?」

 

 そう言って氷川さんが示したのはファーストフード店だった。

 

「なんとなくわかっていましたよ」

 

「なら話ははやいですね。ほら行きますよ」

 

「わかりましたからそんなに急がないでくださいよ」

 

 ほんとポテトのことになるとポンコツになるんだから。そんな事を考えながら歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おまたせしました」

 

 ドン!とテーブルから聞こえてきそうなぐらいにトレーにポテトが乗っていた。

 

「相変わらず凄いですね」

 

「そんな事ありません。普通ですよ」

 

 これが普通なら人類の体重が大変なことになると思うんですけど。

 

「相変わらずポテト大好きなんですね」

 

「はい。そうですよ」

 

「そうですか」

 

 そのまま氷川さんは高速で食べていく。相変わらずどうなっているんだこの人は。

 

「氷川さんひとつ聞いてもいいですか?」

 

「別にいいですけど」

 

「氷川さん。いえ、あなたは誰ですか?」

 

 すると氷川さんの手が止まった。

 

「何を言っているんですか?」

 

「そのままの意味です。あなたは誰ですか。」

 

「私が氷川紗夜ですよ」

 

「まだいいますか。ならあなたが氷川さんじゃない理由を言ってあげましょう」

 

「・・・・・」

 

「1つ目。いつも言い合いをするのに今日はひとつもなかった」

 

「・・・・・」

 

「2つ目。氷川さんなら絶対に放課後ゲームセンターなんかには寄りません」

 

「・・・・・」

 

「3つ目。クイズゲームに負けたときにリベンジをしてこなかった。負けず嫌いな氷川さんならありえません。」

 

「・・・・・」

 

「4つ目。あなたは自分の目の前でポテトが好きだと言った。これも無駄にプライドがある氷川さんならありえません」

 

「・・・・・」

 

「5つ目。あなたは今日。自分の名前を一回も呼んでいなかった」

 

「・・・・・」

 

「そして6つ目。これが一番の理由です。本物の氷川さんはそんなに胸は大きくありません」

 

「・・・・・」

 

「これらのことをもってしてもまだ違うと言い張りますか」

 

「どうやらここまでかー」

 

 そう言って眼の前の氷川さん?はかぶっていたウィッグをとった。

 

「あなたは・・・誰ですか?」

 

「氷川日菜。これでわかるかな」

 

 氷川日菜。氷川だとすると妹か姉というわけか。

 

「なるほど姉妹さんですか」

 

「あったりー」

 

 日菜さんはしてやったりといった顔で言ってくる。

 

「それで変装までして自分に何のようですか」

 

「むー。まずはあなたの名前を教えてよ」

 

「そういえばまだ名乗っていませんでしたね。自分は一ノ瀬幸村。氷川さんとはクラスメイトです」

 

「ふーん。幸村くんかじゃあ、ユッキーて呼ぶね!」

 

「・・・好きにしてください」

 

「それで私がこんな事した理由なんだけど」

 

「そうですよなんでこんな事したんですか」

 

 するとニコニコしていた雰囲気が日菜さんからなくなり、変わりにドス黒いオーラが出てきた。

 

「ユッキーさ、お姉ちゃんとどんな関係なの?」

 

 何だこのプレッシャーはとてもじゃないが人が出していいものじゃない。

 

「えっと、さっきも言いましたけどクラスメイトですよ」

 

「嘘はつかないで!!」

 

 そう言って日菜さんは机を殴る。これはまずい。下手をすれば殺られる。

 

「えっと何が言いたいんですか」

 

「まだ白を切るんだ」

 

「だから何のことですか」

 

 すると日菜さんはスマホの中の1枚の写真を見せてきた。それは昨日の食堂で氷川さんが無理やり人参と食べさせられている写真だった。

 

「どこでこれを」

 

「知り合いからもらったんだよ」

 

「お姉ちゃんが人参が嫌いなことは知っているよね」

 

「・・・・」

 

「答えて!!」

 

「は、はい」

 

「なのになんでこんな事してるの?」

 

 ここで選択肢を間違えれば終わる。慎重に選べ。

 

「えっと、それは氷川さんが苦手を克服したいと言ってきてその手伝いをしたんです」

 

「ふーん。そうなんだ」

 

 よしひとまずセーフ。

 

「それじゃあもう一回聞くけどお姉ちゃんとどんな関係なの」

 

 ここだ。ここさえ乗り切れば。

 

「氷川さんとは友達ですよ」

 

「本当に?」

 

「本当です」

 

 嘘は言っていない。氷川さんから自分のことは友達だと言ってきたからな。

 

 日菜さんはじっと目を見つめてくる。

 

「嘘は言ってないみたいだね」

 

 セーーーーーーフ。なんとか一命はとりとめたか。

 

「今日はここまでにしておいてあげるけど今度お姉ちゃんになにかしたらわかってるね」

 

「そんな酷いこと自分がするわけないじゃないですか」

 

「そっかなら安心!」

 

 さっきまでのプレッシャーはどこにいったのかさっきのニコニコした日菜さんに戻った。

 

「それよりもさ、学校でのお姉ちゃんてどんな感じなの!」

 

「どんな感じて言われても話してないんですか」

 

 そのことを聞くと日菜さんは明らかに落ち込んだ様子で答えた。

 

「えっとお姉ちゃんも私も忙しいからさ」

 

「そうなんですか」

 

「だからさ学校でのお姉ちゃんの話聞かせてよ!」

 

「そうですね」

 

 それからは日菜さんに氷川さんの話をした。

 

「あはは、ユッキーって面白いね」

 

「そんな事ないと思いますけど」

 

「お姉ちゃんがユッキーのこと気に入る理由もわかるなぁ」

 

「別に気に入られてないと思いますけど」

 

「えぇー。話を聞いてたら絶対にお姉ちゃんユッキーの事大好きだって」

 

「そんなこと、天地がひっくり返ってもありえませんよ」

 

「そろそろ帰りますか」

 

「うん。そうだねー」

 

「それじゃまた」

 

「うんまたねー。ユッキー」

 

 日菜さんはそう言ってブンブンを手を振ってきた。なんだろう最後に氷川さんの話をしたら心なしか日菜さんになつかれた気がする。

 

 それにしても氷川さんに妹がいるなんてな。しかも全然似てない。そんな事を考えながら家に帰った。

 

 

 

 

 




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