ポテト好きの氷川さん 作:主催
それは種目決めから翌日のことだった。
「おはようございます氷川さん」
「・・・・・・」
「氷川さん?」
いつもなら挨拶ぐらい返してくれるはずなのに今日に限っては何の反応もない。それどころかずっとスマホとにらめっこしている。氷川さんの顔の前で手を振って見ると体がビクリとなり気がついた。
「い、一ノ瀬さんいつからそこに!?」
「いや、さっきからいたんですけど。氷川さんがボッケとしているから気がついていなかったんですよ」
「そうですか」
そのまま氷川さんはスマホに目線を落とす。
「さっきから何やっているんですか?」
「別に一ノ瀬さんには関係ないことよ」
その発言に少しムッとなる。いつも自分が同じことをやっていたら絶対白状するまで問い詰めてくるくせに。
氷川さんに気が付かれないようにスマホの画面を覗き見る。するとそこに書かれていたのはとんでもないものだった。
ちらっとしか見えなかったが、誘うことができたとか、すごく楽しみ、とか言う文字が見えた気がした。
もしかして氷川さん誰かと出かける約束を取り付けたとか。しかも文面的に推測できるのは男。
いや氷川さんに限ってそんな事あるはずないよな。
「えっと氷川さん。今日も一緒に帰るんですか?」
すると氷川さんは少し申し訳無さそうな表情で答えた。
「すみません一ノ瀬さん。今日も帰りに付き合ってもらうつもりでしたが用事ができてしまって」
「その用事って、誰かとでかけたりとかですか?」
「そうね出かけるといえば出かけるのかしら」
もしかして男ですか。その一言がどうしても聞けなかった。
そして放課後その謎を確かめるべく氷川さんの後を追いかけてきた。決してストーカーなんかじゃない。もしかして氷川さんが何かやばい取引でもするのじゃないかと心配になってついてきただけだ。
(しかしこのまま行くと羽丘だぞ。待ち合わせをしているのはもしかして羽丘の生徒か?)
そして氷川さんは羽丘の正門に寄りかかった。
「わあ!!」
「ひゃあ!!」
いきなり声をかけられて飛び上がる。その声がしたほうを見てみるとそこにいたのは日菜さんだった。
「こないだぶりだねユッキー!」
「びっくりさせないでくださいよ。日菜さん」
「あはは、ごめんごめん。ユッキーがいたからさ。それでこんなところで何してるの?」
「えっとそれは」
素直に氷川さんを追ってきたなんか言えるはずない。申し訳ないが日菜さんにはこのままご退場願おう。
「たまたま羽丘に用事があったんですよ。今はその帰りです」
「ふーん。それでどうしてお姉ちゃんを見ていたのかな?」
すると日菜さんはいつしかのオーラで聞いてくる。
「い、いや。氷川さんがいたなんて知らなかったなぁ。こんな偶然もあるなんてなぁ」
「全然るんってこないよユッキー。それ以上ごまかす気なら」
日菜さんは近づいてきてそっと耳元でつぶやいた。
「ツブスヨ」
いやナニを!?日菜さんの目は本気と書いてマジの如くだった。
「と言うのは冗談で」
「何だ冗談かぁ。もうユッキーの冗談はたちが悪いね!」
そう言ってバシバシと背中を叩いてくる。
「なにやら朝から氷川さんの様子がおかしくてそれで気になってついてきたんです」
「なにがおかしかったの?」
「これは自分の憶測なんですけど」
正直これを日菜さんに話すのは気が引ける。
「どうやら氷川さん男の人と待ち合わせているらしんですよ」
「・・・・・。もうユッキーは嘘が下手くそだね。どうせお姉ちゃんが用があるのは友希那ちゃんかリサちーだよ」
そう言って氷川さんの方に目を向けてみると。隣に男がいた。
「「は?」」
日菜さんと並んで氷川さんを尾行する。
「まさか憶測が本当に当たってしまうとは」
「お姉ちゃんいつの間に男の子何かと知り合っていたんだろう。ユッキーわかる?」
「そんなの自分が知りたいぐらいですよ」
それにしてもあの男どっかで見たことがあるような?かすかな記憶をたどって見ると思い出した。
(そうだ確かあいつは前に湊さんにセクハラしてたやろうだ)
今度は標的を変えて氷川さんを狙って来たのか。確かに氷川さんは単純でポテトのことになるとポンコツになって、めんどくさい性格をしているが、顔だけ見れば百点の人だからな。
だが納得がいかない。
(氷川さんに接触したいなら自分にアポとってからにしろよ!)
「ユッキーどうしたの。なんか怖い顔してるけど」
「あ、いえ何でもありません」
すると氷川さんはショッピングモールの中にある。文房具屋さんに入って行った。
「追うよユッキー!」
すると日菜さんは一目散に追いかけていく。
「ちょっと待ってくださいよ」
その後を追うと何やら氷川さんとそいつは何やら楽しそうに話している。
その光景を見ただけでイライラしてくる。
(なんなんだよ。この感情)
すると氷川さんたちの話し声が聞こえてきた。
「氷川さんは勉強は得意なんですか?」
「そうですね、得意といえば得意ですね。だけど、毎回絶対一人の生徒に勝てないんです」
「そうなんですか」
「ええ、今の目標はその人に勝つことなんです」
「そうなんですか。頑張ってください」
「ええ、必ず勝って見せます」
なんだ氷川さんまだ諦めていなかったのか。その会話を聞いて少しうれしく思った。
「その生徒ってユッキーのことだよね」
「まぁ、多分そうですね」
「まさかお姉ちゃんよりユッキーのほうが頭がいいなんてびっくりだよ」
「一応勉強しか取り柄がないんで。そこは氷川さんであろうと負ける気はありません」
「ふーん。そっか」
日菜さんは嬉しそうに話聞いていた。
次に二人が入って行ったのは雑貨屋さんだった。
「ここ初めて来ましたよ」
「ユッキーこういうところはこないの?」
「男はこんなとこ一人では入れませんよ」
「なんで?」
「なんでと言われましても、恥ずかしいじゃないですか」
「ふーん。変なの」
いやこれに関しては別に変なことじゃないよな。男諸君なら納得してくれるはずだよね。
すると氷川さんの声が耳に入った。
「氷川さんは好きな動物とかはいないんですか?」
「そうですね、しいて言えば犬が好きですね」
ちょっとまってくれ。氷川さん確か自分の前だと犬は好きではないとか言ってたよな。
なのになんであいつの前だと犬が好きだって答えてんだよ!
そのまま二人を見ていると犬の置物をプレゼントするだとか言っている。流石に断るだろうと思っていたら氷川さはそれをありがたく頂いていた。
(本当になんなんだよ!)
そのまま二人は夕ご飯も一緒に食べるつもりなのかそのまま外に出ていった。
どうせ氷川さんがチョイスするならここだと思ったよ。そこはいつも来ているファーストフード店だった。
「日菜さんここからは自分が見ていますので、帰って大丈夫ですよ」
「ええ、ここまで来たんだから私も最後まで見ていく!!」
「お願いします日菜さん今度ポテト好きなだけおごってあげますから」
日菜さんはどうしようかなぁといった顔で見つめてくる。
「それじゃあ、私だけじゃなくてお姉ちゃんにもおごってあげて!」
「わかりました。氷川さんにもおごりますから」
「ホントに!それじゃあ、約束だよ!」
「わかりましたよ」
「うん。それなら今日のところは帰って上げる」
「ありがとうございます」
日菜さんはそれじゃあねー。と言って帰っていった。
(よし、待つか)
それから段々と暑くなってきている夜の中待っていると勢いよく扉が開いて女の子が泣きながら走り去って行った。
(あれって確か湊さんだよな。だとするとまたあいつが何かやらかしたんだろうか)
湊さんが飛び出して数分後。氷川さんが神妙な顔つきで出てきた。
「氷川さん何やってるんですか」
「一ノ瀬さんどうしてここに?」
「朝の氷川さん様子がおかしかったんでついてきたんです」
「そうですか」
氷川さんの顔色は曇ったままだった。
「それで何があったんですか?」
「それは」
「まあ、あの男が何かやらかしたんでしょう」
「それは」
するとその時店の入口からその男が出てきた。
「氷川さんまだいたんですか?」
「神宮寺さん。先程はすみませんでした。私が軽率なことをしたばかりに」
「そんな氷川さんが謝ることないですよ」
「おいあんた」
「えっと誰?」
「自分は一ノ瀬幸村。氷川さんとはクラスメイトです」
「そうですか。俺は神宮寺正宗です」
「神宮寺さんあなたと湊さんに何があったのかは知りませんが、彼女泣いていましたよ」
「・・ッ。そうですか」
「自分からひとつ言わせてもらうことがあるのなら、どんな理由があろうと女の人を泣かせる男は最低です」
「さて、帰りましょう氷川さん」
そのまま氷川さんの腕を掴んでその場を離れた。
「一ノ瀬さん。彼大丈夫なのかしら」
「さあ。でも彼、最後に何か覚悟を決めた顔でしたよ」
彼がその後どうなったのかはわからないが、きっと大丈夫だろうと思った。
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