ポテト好きの氷川さん 作:主催
時間は経ち時刻は午後七時を回ったところだ。今は氷川家のリビングのソファーに座って、テレビを見ているところだ。すると隣に座っている氷川さんが口を開いた。
「すみませんでした一ノ瀬さん。日菜のせいでこんな事になってしまって」
「いや、日菜さんに見つかった時点でこうなることぐらいはわかっていましたから。氷川さんは気を落とさないでください」
「それでも」
「まぁ、氷川さんと晩御飯も一緒に食べられるんですからいいじゃないですか」
「い、一ノ瀬さんはそんなに私と一緒に御飯を食べたかったんですか」
「そうですね。最近は氷川さんと一緒に食べることは楽しいですから」
「///そ、そうですか///」
「ほら紗夜、そこで惚気てないで手伝って。あ、幸村くんはそこで座ってていいからね~」
「もう、お母さん何を言っているんですか!!」
そのまま氷川さんはキッチンに手伝いに行った。そして入れ替わるように氷川さんのお父さんが隣に座ってきた。
「なんだ、日菜の彼氏かと思ったが紗夜だったか」
「彼氏じゃありませんよ」
氷川さんのお父さんは本当かよ、っといった目で見てくる。
「あ、そういえばこないだの体育祭でも二人三脚やら借り物競争やら一緒にやってたよな」
そうだった。そう言えば手ぬぐいだって氷川さんのお父さんに外してもらったじゃないか。
「それは、人数が余ってしまって、それで氷川さんと組んだんです」
「にしてはやけに親しい感じに見えたんだが」
「一応友達ですから」
「そうか」
そう言って片手に持っていたビールを口に流し込んだ。
「ほら、あなた帰って来ていきなり飲む人がいますか」
「今日ぐらいはいいだろ娘が男を連れてきたんだ。飲まなきゃやってらんねえよ」
「全く。ほら、幸村くんはその人のことはいいからこっちにいらっしゃい」
氷川さんのお母さんに催促されながら席に着く。
「こ、これは」
机の上にはとんでもない量のフライドポテトが並んでいた。隣に座っている氷川さんと目の前の日菜さんはこれと言ってなにも反応していない。もしかして氷川家ではこれが普通なのか。
「それじゃあ、いただきます!」
日菜さんの声とともにいただきますをする。
すると他の三人が一斉にポテトの入った皿に飛びついた。そしてとんでもないスピードでポテトがなくなっていく。
「冗談だろ」
「幸村くんどうかした?」
「あ、いえ。なんでもありません」
ここで、ポテトすごいですねなんて野暮な質問をしたらダメな気がする。
「そう、遠慮なく食べてね。男の子なんて初めてだから作りすぎちゃった!」
「は、はい。ありがとうございます」
ポテトの横に申し訳程度に置かれている春巻きをとって食べる。
「あ、美味しい」
「あら、そう。そんなこと言ってくれる人この家にはいないから嬉しいわ~。こんな年になったら誰も言ってくれないから」
「本当に美味しいですよ。それにお母さんは全然若く見えますよ。さすが氷川さんと日菜さんのお母さんです」
「あらあら、こんなに若くて格好いい子に言われたら本気にしちゃうわよ」
その時みぞおちにドッスと鈍い音がした。
「ひ、氷川さん。何するんですか」
「私が居る前でお母さんを口説くとはいい度胸ですね」
「べ、別にそんなつもりじゃ」
「覚悟は良いですね」
殺られる。そう思って目をつぶったときに声がした。
「大丈夫よ幸村くん。紗夜のそれは単なるヤキモチだから」
「えっ」
「ちょ、ちょっとお母さん何言ってるの!」
「あら、違った?」
「別にお母さんにヤキモチなんか焼くわけないわ」
「それなら」
そう言って氷川さんのお母さんは自分の横に来ると抱きついてきた。
「紗夜の代わりにお母さんが幸村くんの事もらっちゃおうかなぁ」
「な!お母さん離れてください。一ノ瀬さんもニヤニヤしない!」
す、すごい。何がすごいとは言わないがこれが年上の余裕と言うやつなのか。
「お母さんばっかりずるい~。あたしだってユッキーのこと狙っていたんだから」
そう言って日菜さんが反対側に抱きついてくる。
「ひ、日菜さん!?」
「ちょっと日菜まで!ふたりとも離れなさいよ!!」
「えぇ~だっておねーちゃん、ユッキーに酷いことばっかするから可愛そうだよ。ね、ユッキー」
「えっと、それは」
「そうなのですか一ノ瀬さん。やっぱり一ノ瀬さんにきつく当たってしまう私は嫌いなのでしょうか」
氷川さんは少し潤んだ目で見つめ聞いてくる。
「はぁ、氷川さん。別に自分は氷川さんのことは嫌いじゃありませんよ。だからそんな顔をしないでください」
「そんな格好で言われても説得力がありません」
「あぁ、若いっていいわね。紗夜ももう少し素直になればいいのに。あ、幸村くん紗夜に飽きたら私はいつでも大歓迎よ」
「お母さんみたいな魅力的な人は自分には釣り合いませんよ」
「あらあら、本当にこの子は」
そう言って頭をなでなれる。
「ほら日菜これ以上は紗夜が泣いちゃうから離れましょう」
「はーい」
その後はみんな席に戻り夕飯を食べた。
「さて、今度こそ帰ります」
「そうですか。玄関まで送りますね」
荷物をまとめて立ち上がったときに声をかけられる。
「おいゆきむらー。風呂はいるぞ!」
「えっ!」
「ほら早く着いてこい」
「いやこれから帰るところで」
「なら今日は泊まっていけ」
「えーと」
あの後もだいぶ飲んだのだろう。だいぶ出来上がっていた。氷川さんの方を見てみると大きくため息をついていた。
「お母さんお願い」
「あら、泊まっていけばいいじゃない」
「お母さんまで何言ってるの!大体いつもお母さんは考えがたりないのよ!」
そのまま氷川さんとお母さんは言い合いになってしまった。自分に女兄弟はいないからわからなかったが、女同士の喧嘩はとてつもなく怖いと言うのがわかった気がする。
「ほら、行くぞ!」
「ちょまま、ちょままま、ちょっと待ってちょっと!」
そのまま為す術なく風呂場まで連行された。
なんだこの状況。まるでどこぞの入浴剤のCMみたいだ。どうして氷川さんのお父さんと一緒に風呂に入ることになってんだよ!!
「あぁ~生き返るなぁ。どうだ幸村」
「そうですね」
「それで、紗夜とはどこまでやったんだ」
「ちょ、いきなり何言っているんですか!」
「なんだまだキスのひとつもしてないのか」
「するわけ無いでしょ!付き合っていないんですから!」
「なら、いつ付き合うんだよ」
「なんで付き合う前提なんですか」
「はは、まあいいか」
そのままお父さんは浴槽から出る。お湯だいぶ減ってるんだけど。
「幸村背中洗ってくれ」
「わかりましたよ」
それにしてもすごい体だな。すごい筋肉がついて腕も太い。渡されたボディタオルを泡立てて背中を洗う。
「いいもんだな」
「そうですか」
「ああ、見ての通りうちは女だらけでな男同士で風呂に入れるなんか思わなかった」
お父さんが言いたいこともわかる気がする。ずっと家に男が自分ひとりだと行き場所がなくなる。それに氷川さんも日菜さんも年頃だし、氷川さん達くらいの年頃の娘だったら父親は煙たがられるからな。
「あとは、幸村が飲めれば最高だったんだけれどな」
「あと、三年は我慢してください」
「お!なんだ三年後も家にきてくれるのか」
「氷川さん達と仲が良かったらですけどね」
「はは、なら楽しみに待っているか。よしじゃあ今度は俺が洗ってやるよ」
「いや、そんなことさせられませんよ」
「いいから座れ」
そのまま場所を入れ替えられて背中を洗われる。案外人に洗ってもらうと気持ちがいい。
「おい、幸村」
「なんですか」
「紗夜のことよろしく頼んだぞ」
「・・・・・はい」
その一言を答えるのにとてつもない勇気が必要だった。
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「それで、紗夜は実際に幸村くんのことはどう思ってるの?」
さっきまで言い合っていたのに、一ノ瀬さんとお父さんがいなくなったらこれだ。
「別にただの友達よ」
「あなたいい加減にもたもたしているとあんないい子すぐに取られちゃうわよ」
「それは大丈夫よ。彼、私以外に友達はいないから」
「あら、もしかしたら紗夜に内緒で本当は他の女の子と仲良くしてるかもしれないわよ」
まさか、一ノ瀬さんに限ってそんなことは。でも、一ノ瀬さんは顔もいいし頭もいい性格だって私以外には優しいし、いや最近は私にも優しい。だとしたらもしかして一ノ瀬さんって優良物件なのでは。
一度考え出すと一気に不安に襲われた。
「ほら、その顔じゃ否定できていないでしょ」
「それは」
「まあ、アドバイスできるとしたらひとつね」
「なに!教えてお母さん」
「これは私がお父さんにやったことなんだけれど」
ゴクリと喉を鳴らす。
「私抜きじゃ生きていけなくすればいいのよ!」
「どういうこと?」
「例えば料理だったら毎日手作り物を食べさせて他の女が作った料理は口に合わせないようにするとか。簡単に言ってしまえばこんなことよ」
「そんなことお父さんにしてたのお母さん」
自分の母親なのに少し引いてしまった。
「まあ何でもいいけど早くすることしちゃえばいいのよ。あ、でも避妊はしっかりしてよね!」
「お母さん!!」
「キャー紗夜ちゃんが怒ったー!」
そのままお母さんは自分の部屋に逃げていった。いつもお母さんと日菜の相手には疲れる。あとお酒を飲んだお父さんも。
その時脱衣所から一ノ瀬さんが出てきた。
「あ、氷川さんすみません先に入ってしまって」
「別にいいわよ。もとはと言えばお父さんに連れて行かれたんだし」
「それもそうですね」
そう言って一ノ瀬さんは私の横に座ってくる。お風呂上がりだろうか。一ノ瀬さんがいつもより色っぽく見える。
「どうかしましたか氷川さん?」
「い、いえ別になんでもないわよ。それじゃあ私入って来るわね」
「わかりました」
そう言って脱衣所に行く途中にお父さんとすれ違った。
「あ、そうだ紗夜。幸村は紗夜の部屋に泊めてやってくれ」
「えっ」
「じゃあ、お休み~」
そう言ってお父さんは寝室に戻って行った。ま、まあ、とりあえずお風呂に入りましょう。
「ふう、さっぱりしました」
「あ、氷川さん。どうぞ」
「ありがとうございます。一ノ瀬さん」
「そのひとつ聞いてもいいですか氷川さん」
「なんですか?」
「今日自分はどこで寝ればいいのですか」
「えっと、それは」
氷川さんの歯切れが悪い気がする。あ、もしかして。
「もしかしてリビングで寝ればいいんですか?」
「違います」
「それならどこで寝ればいいんですか」
「私の部屋で一緒に寝ます!!」
「・・・・・はい?」
「だから、私の部屋で一緒に寝ます!!ほら、行きますよ」
そのまま氷川さんに腕を引かれながら部屋に連れて行かれた。
「それじゃあ、自分は床で寝ますね」
「そうしてください。それならせめてこのクッションを使ってください」
そう言って氷川さんが渡してきたのは犬のクッションだった。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい氷川さん」
そのまま部屋の電気を消す。やばい寝れない。近くに氷川さんがいると考えるだけで寝れなかった。
そのままゆっくりと目を閉じて闇に意識を委ねた。
その翌日目を覚ますと何故か隣に氷川さんがいたときは焦った。
誤字報告、感想、評価ありがとうございます!