ポテト好きの氷川さん   作:主催

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バイト

 今日は土曜日。普通の高校生だったら、家に引きこもるか友達と出かけるか、はたまた彼氏または彼女と出かけるかそんな休日の過ごし方だろう。

 

 だけど自分はそうではない。段々と暑くなってきた商店街を歩き目的地の喫茶店まで足を運ぶ。店のドアを開け厨房裏まではいっていく。

 

「いつも時間ぴったりだな。幸村」

 

 自分にそう声をかけてきたのは、この店のマスターである。

 

「別にいつも通りですよ」

 

「そのいつも通りができることがすごいことなんだぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 そのままロッカー室に入りバイトの制服に着替える。

 

「マスター今日はどっちをやればいいですか?」

 

「そうだな昼前まではフロアーにはいってくれ」

 

「了解しました」

 

 そう言ってフロアーに行くと先に入っていたつぐみさんが待っていた。

 

「おはよう。つぐみさん」

 

「あ、おはようございます。幸村さん」

 

 この子は羽沢つぐみ。この店の看板娘だ。あとめっちゃいい子。

 

「そういえば幸村さん。この間のテストはどうだったんですか?」

 

「おかげさまでなんとか今回も一位を死守できたよ」

 

「わぁ、そうなんですか。やっぱり幸村さんはすごいですね!」

 

「そんな事ないよ。今回もなんとかギリギリだったからね」

 

 そう本当に今回はギリギリだった。氷川さんたら前回自分に負けたから今回はいつも以上に本気を出しますとか言ってたからなぁ。だからいつも以上に勉強時間を増やした。ぶっちゃけ氷川さんがそんなことを言わずに勉強をしていたら負けていた気がする。

 

 そんな会話をしているときにドアチャイムがなった。

 

「いらっしゃいませー」

 

 その後は昼のピークの時間になって忙しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 疲れた。やっぱり休日の昼の時間帯は混むからあまりシフトを入れたくない。今は昼休憩の時間だ。

 

「おう、おつかれさん」

 

 マスターがまかないを持ってきてくれる。

 

「いやーやっぱりこの時間は混みますね」

 

「そうだな。でも昔ほどではないけどな」

 

「やっぱり最近できた猫カフェのせいですか?」

 

「そうだな。やっぱりあの猫カフェができたのが大きいな」

 

 マスターが言う猫カフェというのは比較的最近できたものだ。なんでもそこの猫カフェのマスターが捨て猫を拾っていくうちに家が狭くなり家を改造して猫カフェにしたらしい。

 

「でもそろそろ話題性もなくなってきて落ち着くんじゃないですか?」

 

「いや、あそこの猫カフェは猫だけではなく、マスターとその倅の料理も話題をよんでいてリピーターが続出しているらしい」

 

「そうなんですか」

 

「まあ、この話はおいておくとして幸村午後は買い出しに行ってくれないか?」

 

「わかりました」

 

「おう、よろしくな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マスターに買い出しのリストを渡されてショッピングモールまでやってきた。

 

「さて、最初は」

 

 なんでも近頃お菓子教室を開くらしくそのための材料を買ってきてほしいとのことだ。

 

 頼まれたものを買い終え帰ろうとしたところ、ファーストフード店に入っていく見知った背中が見えた。いや、今の絶対に氷川さんだろ。後を追うように店に入っていった。

 

 いた。氷川さんは奥の席に一人で座ってポテトを食べていた。

 

「こんにちわ。氷川さん」

 

「ゴホゴホッ。一ノ瀬さんなぜここに?」

 

「たまたま買い物終わりに氷川さんがここに入ってくるのが見えたので」

 

「そ、そうですか」

 

「それで何をしていたんですか」

 

「別に何も。練習が終わったので休んでいただけです」

 

「練習?」

 

「はい」

 

「なにか習い事でもやっているんですか?」

 

「いえ、特には」

 

「じゃあ、何の練習ですか?」

 

「バンド練習です」

 

 バンド。自分の中のバンドのイメージはもっとチャラチャラした人や、オラオラ系の人がやるイメージ何だけど。

 

「意外ですね。氷川さんがバンドをやっているなんて」

 

「そうですか?」

 

「ちなみになんですけど、なんの楽器をやっているんですか?」

 

「ギターをやっています」

 

「ギターですか」

 

「氷川さん、部活もやっていますよね」

 

「はい。弓道部に所属しています」

 

「あと、風紀委員もやっていますよね」

 

「はい。一年生のときからやっていますね」

 

 バンド活動もやっていて弓道部にも入っていて風紀委員もやっている。それでいてテスト順位も自分と競い合っている。やっぱり氷川さんはやばい人かもしれない。

 

「そ、そうなんですか。すごいですね」

 

「・・・・・」

 

「どうしたんですか?」

 

「いえ、素直に褒められるとは思わなくて」

 

「いくら自分でも褒めるときは褒めますよ」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

 初めて氷川さんが笑っているところを見たかもしれない。いつもムッスとした顔でいるからなんだか新鮮だ。

 

「そろそろ行きますね」

 

 いつも間にかトレーの上に山盛りに乗っていたポテトがなくなっていた。

 

「そうですか。また学校で」

 

「ええ、また」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「只今戻りました」

 

「おう。遅かったな幸村」

 

「ちょっと知り合いに会ったもので」

 

 マスターが信じられないといった顔で見てくる。

 

「幸村。おまえ知り合いなんていたのか!」

 

「マスターいくらなんでも知り合いぐらいいますよ」

 

「そうか、成長したなぁ。幸村」

 

「そんな目で見ないでください」

 

「いやいや、この一年間お前のことを見てきた身としては嬉しい限りだよ」

 

「そ、そうですか」

 

「よし!いまからは厨房入ってくれ」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フロアーのモップをかけ終え、テーブルをふきんで拭く。

 

「よし終わり!」

 

「お疲れ様でしたー」

 

「おう、おつかれさん」

 

 長いバイトの時間を終えて家に帰る。最近は夜もすっかり暑くなってきた。それにしても意外だったな。氷川さんがバンドをやっているなんて。

 

「ただいまー」

 

「おかえり。ご飯はどうする?」

 

「後でいいや」

 

「そう。なら自分で温めてね」

 

「わかったよ」

 

 やっと自分の部屋に帰ってきた。今日ぐらいは勉強しなくてもいいかな。そのまま机に座りパソコンの電源を入れる。なんとなくバンドで検索をかける。するとトップに出てきたのはガールズバンド特集というサイトだった。

 

(ガールズバンド?)

 

 勝手なイメージだったがバンドは男の人がやる印象が強いのだが。なんでもココ最近はガールズバンドが流行りらしい。気になっていろいろと調べてみると期待の新人ランキングという物があった。一位はRoseliaというバンドだった。

 

 どうやら実力派の期待の新人らしい。メンバー紹介のページにとんで見る。ボーカルの人はクールで知的なイメージで、ベースの人はどう見てもギャルだ。ドラムの人はまだ中学生らしく、このキーボードの人はどこかで見たような気がする。

 

 そしてギターだが、これ氷川さんだよな。いつものきっちりとした服装ではなくライブ衣装だろうか?服装のせいで違う人に見えるがどう見ても氷川さんだった。

 

(もしかして双子とか。いや双子だとしても姉妹でギターをするわけないか)

 

 恐る恐るライブ映像を見てみる。気がつくと動画の再生が終わっていた。何だ今の感じ。ただ一心に画面を見つめていた。バンド全体の演奏もすごかったが、素人目で見ても氷川さんの演奏技術はすごかった。

 

 

 

 改めてわかった。氷川さんはやばい人だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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