ポテト好きの氷川さん   作:主催

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久しぶりの紗夜さん

あ、燐子の方も投稿したので良かったら見てください


その後
ポテトの日


 あの事件とも言える告白から数ヶ月が経っていた。今では自分たちは学校公式のカップルみたいな扱いになっている。最初は紗夜は風紀委員としてのなんちゃらと言っていたが今となっては開き直っている。

 

 さて、今日はそんな自分と紗夜のアレからの日常を紹介しようと思う。

 

「幸村」

 

「はい?」

 

 いつもの様に一緒に下校している時に切羽詰まった顔をしていた。

 

「えっと、どうかしたんですか?」

 

「ええっと」

 

 何か言いたい。でも、少し恥ずかしい。紗夜の顔からはそんな表情をしていた。この顔をするときは考えていることはアレのことしかない。

 

「ポテト関連ですか?」

 

「んな!?なんでわかったの!」

 

「そりゃそのくらいはもうわかりますよ。毎日一緒にいるんですから」

 

「そ、そう。察しがよくて助かるわ」

 

 少し赤くなった顔を手でパタパタを仰いでいる。

 

「それで、何があったんですか?」

 

「これを見て」

 

 そう言って差し出してきたスマホの画面に映し出されているのは”ポテフェス”と言う祭りの告知だった。

 

「なんですかこのポテフェスって?」

 

 その言葉を聞いた瞬間に紗夜の目つきが変わる。

 

「ええ、教えてあげましょう。ポテフェスとは通称ポテトフェスティバルの略です。毎月10日の日はアメリカのポテト協会が定めたポテトの日なんです!そして10月10日はポテト好きによるポテト好きのためのポテトの祭り。ポテフェスの開催日なんですよ!!しかも毎年アメリカでしか開催されていなかったのですが、今年はなんと日本で初開催で日本のポテラーは大いに喜んだものです!!」

 

「へ、へぇ。そうなんですか」

 

 本当にポテトのことになると人が変わる。日菜さんもそうだが氷川家はポテトのことになるとおかしくなる。

 

 氷川の才能はポテトの呪いの代償なのではないか。そんなことを興奮している紗夜を尻目に考えていた。

 

「そしてですね。よかったら」

 

「わかりましたよ。その日は開けておきます」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

 ギュッと繋いでいる手が少しばかり強く握られた。

 

 まぁ、最近自分もポテトにハマってきてはいるから少し楽しみでもあった。それになんであれ紗夜と二人で出かけられるのは楽しみだと感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、行きますよ幸村」

 

「そんなに急いだってポテトは逃げませんよ」

 

 そして祭り当日。会場である場所に来てみるとそこにはたくさんの出店があった。まるで肉フェスの様だ。なんでもいろいろな店を食べ歩き最後に一番気にいった店に投票するらしい。

 

 そしてグランプリを決めるのだとか。

 

「まずはどこから行こうかしら」

 

「それにしても色々な店がありますね」

 

 ただ塩で味付けされただけのフライドポテト、、ポテトチップス、マッシュ状にしてコロッケに近いポテト、じゃがバター、挙げ句の果てには焼き芋もある。

 

「まず最初はあそこですかね」

 

 紗夜が見つめる先にはアメリカでグランプリ受賞と書かれた看板が掲げてある店だった。ポテトチップスか。

 

「いきなりあそこですか。すごい人が並んでますよ」

 

「当たり前です。あそこを最初に食べておかないといつ売り切れになるかわかりません。そしてあの店を基準に他を評価していきます」

 

「わかりましたよ」

 

 いつもならこう言うイベントの時は冷静な紗夜だがポテフェスは別らしい。

 

 トコナッツパークで見せたあの行動力はどこにも感じられなかった。

 

「まだかしら」

 

「まだ並んだばかりですよ」

 

 列に並ぶともう待ちきれないのか少し背伸びをして先頭の確認をしている。本当にポテトのことになると人が変わる。はじめの頃からは想像もできないくらいのギャップだ。

 

 それから10分後ようやく自分たちの番が回ってきた。

 

「はい、お待たせいたしました」

 

「こ、これが伝説の」

 

 震える手で受け取り列から外れる。

 

「い、いただきます」

 

 ん、確かに今まで食べてきたポテチの中で一番美味しいかもしれない。

 

「紗夜、って」

 

「お、おいひい」

 

 いつもの仮面はどこかに忘れてきたのかその顔は緩みまくっている。

 

「よかったですね」

 

「ええ、これほどまでとは思っても見ませんでした」

 

 もぐもぐとウサギがニンジンを食べる勢いで食べていく。

 

「ごちそうさまです」

 

「次はどこにいきますか?」

 

「はい、次はあそこにいきましょう!」

 

 そこは国産お芋ブースだった。

 

「これはすごいですね」

 

 日本が初開催と言うこともあるのか日本ブースはとてつもなく気合が入っている。

 

「行きますよ!!」

 

「はいはい」

 

「まずはあそこです」

 

「サツマイモですか」

 

 鹿児島県産のサツマイモ。確かサツマイモは国内では鹿児島がダントツの収穫量だったことを思い出した。

 

「へぇ、直火で焼いてるんですか」

 

「そう、これがこのお店のこだわりなんです!」

 

「なるほど」

 

 この日のためにフライドポテト以外も勉強してきたのか詳しい。

 

「はい、幸村熱いからから気をつけなさい」

 

「ありがとうございます」

 

 受け取ったサツマイモは熱々で少し冷まさないととても食べられない。

 

「フーフー、ではいただきます」

 

 白い湯気が出ている割れ目に息を吹きかけて冷ます。一口かじっただけでも口の中に甘味が広がっていく。さっきのフライドポテトの塩が甘味によって調和されていく。

 

「甘くて美味しわぁ」

 

 幸せそうな顔でサツマイモを食べている。その顔を見れただけ今日は来てよかったなと思う。

 

 ふう、少しお腹にも溜まってきた。やっぱりポテトはお腹にたまりやすい。

 

「ほら、次に行くわよ」

 

「ちょ、ちょっと休憩しましょうよ」

 

「何甘えたことを言っているの。早くしないと売り切れてしまうわよ」

 

「わ、わかりましたよ」

 

 先ほどの幸せそうな顔はどこに行ったのか今度は鬼の形相で睨んでくる。

 

「次が本命なのよ」

 

「どこですか」

 

「ここよ」

 

「北海道産じゃがいもの王道フライドポテト」

 

 いかにも最後のボスといった感じだ。

 

「いい、ここのお店のフライドポテトは、北海道で収穫された新鮮なじゃがいもを厳選された油と長年の職人のわざで作られる絶品の一品なのよ」

 

「はぁ」

 

 正直いもの品種でそこまで味が変わるとは思えない。ましてやフライドポテトは調理工程が簡単だ。

 

 複雑な工程を踏まない料理は食材によって味が変わると新宮寺さんがいっていたが普段料理をしない自分はよくわからない。

 

 ファストフードのフライドポテトとそこまで味が変わるのか。

 

「何その目は」

 

「いや、なんでもないですよ」

 

「食べればわかるわよ」

 

「そうですか」

 

 お腹が膨れていることもあり味がわかるのか心配だ。紗夜がササっと買ってくる。

 

「大きくないですか」

 

「別に普通よ」

 

 やはりいもでもフライドポテトは別格らしい。

 

「ほら、口を開けなさい」

 

 ポテトを突き出され口に入れる。

 

 こ、これは。

 

「お、美味しい。今まで食べてきたフライドポテトの中でもダントツに美味しいです」

 

「ふふん、そうでしょ。やっとわかったかしら」

 

 確かにファストフードとは比べものにならないくらいうまい。食材によって味が変わるか。確かにそれがこのポテトによってわかる気がする。

 

 その証拠にさっきまで片手に持っていたポテトがなくなっていた。今までで一番のスピードじゃないか。

 

「そんなに急いで食べると喉に詰まりますよ」

 

「わかってるわよ。でも、止まらないの」

 

 もぐもぐもぐもぐ。相変わらず、すごいな。ちなみにこのポテト高速食いは氷川家は全員習得している。お母さん曰く紗夜と日菜さんはまだまだ遅いとのこと。

 

「ご馳走様でした」

 

 持ってきていたティッシュで口周りの油を拭き取っている。それだけだが色っぽく見える。女は唇が一番エロいと言っていた水無瀬さんの真面目な顔を思い出し確かに一理あるなと思った。

 

「さて、次は」

 

「ま、まだいくんですか?」

 

「当たり前よ」

 

 断ることすら許さない顔だ。帰りに胃薬買って行かなきゃな。前を歩く紗夜の背中を見てそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、至福の1日でした」

 

「・・・よかったですね」

 

 む、胸がムカムカする。今日だけで一生分の油を摂取したのではないだろうか。胃の感覚がない。でも、最近バンドの練習ばかりで息抜きができていなかった紗夜が今日1日でリフレッシュできたならよかった。

 

「どれも美味しかったですね」

 

「はい。そうですね」

 

「世界は広いことがわかったわ」

 

「どのジャンルでも世界があることがわかりました」

 

「さて、帰りますか」

 

「はい」

 

 電車に揺られて自分たちの街に帰っていく。カバンの中にしまってあった朝比奈さんに紹介してもらった本を読んでいた。今では数少ない男子生徒と言うこともありよき友人だ。さすが、白金さんと同じで読書が趣味と言っているのがわかる。内容も自分の好みに沿っていてとてもスラスラ頭に入ってくる。

 

 そして最寄りの駅に着くと紗夜とはここでお別れだ。

 

「それじゃあ、また来週」

 

「・・・あの、よかったらうちに来ませんか?」

 

「え」

 

「え、えっと。お母さんたちも久しぶりに幸村に会いたいらしくて今日一緒に出かけることを伝えたら夜連れてこいと」

 

「そうですか」

 

 スマホに今日は帰れないことを親に送信する。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

「・・・いいんですか?」

 

「氷川家は敵に回したくないですから」

 

「ふふ、そうですよ。幸村はもうみんなに気に入られているのだから」

 

「それはありがたい様な、複雑な様な」

 

「ほら、行きましょう」

 

「はい」

 

 差し出された手をしっかりとつなぎ、紗夜の家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




氷川家に好かれてる幸村くん疲れそう

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