ポテト好きの氷川さん 作:主催
あれから時間が経ち週末の日曜日になった。今日は氷川さんのライブの当日だ。正直言って昨日は楽しみでなかなか寝付けなかった。まだ午前中なのでずいぶんと余裕がある。
枕元にあるスマホを開く。何でも事前に調べてみたところRoseliaというバンドはボーカルの人がもともとは一人で活動していたところに段々とメンバーが集ってきたらしい。たしかにこのクールなイメージのボーカルの人なら氷川さんと気が合いそうなのはわかる。
「さてとそろそろ作るか」
ベッドからでてキッチンに向かう。冷蔵庫の中から昨日から水につけこんだじゃがいもを取り出す。それをフライドポテトの大きさにカットしていく。
そうわざわざ氷川さんのために自分はフライドポテトを作ってあげているのだ。まあ本音を言うと氷川さんが食べる量が明らかに多そうな気がして、自分の財布じゃ持たないと薄々わかっていたからだ。少なくとも氷川さんはLサイズのフライドポテトを一分以内に食べきるはずだ。
熱くなった油の中にポテトを入れていく。ちゃんと新しい油を使っているぞ。ざっと一キロのポテトを揚げて終え。次に味付けをしていく。1つ目はオーソドックスにとろけるチーズだ。2つ目はカレー粉をまぶす。3つ目はコンソメ味。4つ目は合うのかわからないがチョコレートソースをかける。5つ目は王道のケチャップをかけていく。
こうして5つの味をしたポテトを作った。これならあのポテト評論家も黙らせることができるだろう。それぞれの味をタッパーに詰めてカバンに入れる。時計と見てみると12時を回ろうとするところだった。そのまま玄関に向かいライブハウスまで向かった。
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そろそろ本番ね。いつものようにギターをチューニングして音を確かめる。今日は一ノ瀬さんも来ることだからいつも以上に気合が入る。今日こそは私が一ノ瀬さんを驚きの顔にしてみせる。そう考えたらいつも以上にギターを持つ手に力が入っていた。
(落ち着いて。いくら一ノ瀬さんが来るといってもいつもみたいに正確に弾くだけよ)
そう考えると苦手だったフレーズもスムーズに弾けた。
(それにしても一ノ瀬さんはいつ来るのかしら。早くポテトを持ってきてほしいのだけど)
その時今井さんと目が合った。
(あれから、時間は立ったけど湊さんの様子はどう、今井さん)
(うん、見ている感じ大丈夫だとは思うけど、やっぱり本番に近づいていくにつれて、自分を追い込んでいる感じはするね)
(そうですね。いつなら本番前の湊さんは落ち着きがあるのに、今日はどこかそわそわしている感じはあります)
湊さんは落ち着きが無いのかそわそわしている。やっぱりあの男子生徒がなにかしたのは間違いないでしょう。
それにしても男っていうのは本当に最低な生き物ですね。一ノ瀬さんもいつも私にテストで勝って余裕そうな顔で煽ってくるのもなんとなく腹が立ちますし。
それから湊さんの話を聞いているうちに本番に近づきステージ裏に行った。
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ここがライブハウスか。思っていたよりも小さい感じがする。なんか起きるとすぐに崩壊して温泉でも湧き出てきそう(偏見)。中は案外きれいだった。すでに受付は開始しており沢山の人がいた。ライブチケットをポケットから取り出し列に並ぶ。やっと自分の番になり月島というスタッフさんにチケットを渡す。
「はーい。一回預かるねー」
そう言ってチケットを渡すと、大きな声で言われた。
「えっ!これ関係者チケットじゃない。あなたどこでこれを手に入れたの?」
「どこと言われても普通にもらいましたよ」
「誰に?」
「えっと、氷川さんです」
「紗夜ちゃん!?」
「そんなに意外ですか?」
「Roseliaの関係者チケットなんて今まで出してきた人なんかいないからびっくりしたよ。それにしても紗夜ちゃんが一番最初に男を連れてくるなんて意外だったなぁ」
「別に彼氏とかじゃないですからね」
「またまたー。嘘言っちゃって。そうゆうお年頃なのはわかるけど紗夜ちゃんの前で言っちゃだめだぞ☆」
「冷静になって考えてみてください。あの氷川さんが彼氏なんか作るわけ無いでしょう」
「・・・・・・言われてみればそうかも。ごめんねー変なこと聞いちゃって。でもホントはどんな関係なの?」
氷川さんと自分の関係。他人に聞かれたときはなんて答えればいいのだろう。ライバル?それとも犬猿の仲?
「えっと、知り合いですよ」
「そっかそっか。じゃあライブ楽しんできてねー」
まだ他人に面と向かって氷川さんと友達というのはなんかむず痒かった。
「あ、あとこれ氷川さんに差し入れです」
そう言ってカバンに入っているポテトのタッパーを差し出す。
「うんじゃあ楽屋のほうに置いておくね」
「お願いします」
そのままライブ会場に入り氷川さんが出てくるのを待った。
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ステージに立つ。すると一斉に観客からの視線で視界が埋まる。ふと無意識のうちにその人混みの中から一ノ瀬さんを探す。いた。彼はいるかいないのかわからないような中途半端な位置でステージを見上げていた。
(ほんとこうしてみると顔だけはいいのよね。その他は最悪だけれど)
その時目線があった。目線で前の方に来るように送る。すると意図がわかったのか彼は渋々といった感じで人をかき分け最前列までやってきた。
「約束通りに来ましたか」
「当たり前ですよ。そもそも自分が氷川さんの演奏を聞きたかったですしね」
「そ、そうですか」
面と向かってそんなことを言われるといくら一ノ瀬さんといえど嬉しく感じてしまう。
「あと差し入れのポテト楽しみにしててください」
「だから私はポテトなんか」
するとその時湊さんから合図がかかる。ギターを握り直して集中する。
「見ていてください。これが氷川紗夜の音です」
「見せてくださいよ。氷川さんの音を」
「いくわよ、みんな。聞いてください、BLACK SHOUT」
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ライブ会場はもうすでに人でいっぱいだった。
「まさかここまで人がいるとは」
すると一斉に歓声が上がる。ステージ裏から氷川さんたちが顔を出した。相変わらずあの服装のときだけは可愛げがあるな。するとその時氷川さんと目が合った。目線が早く前まで来なさいと言っているようにしか見えない。渋々人をかき分けて最前列に出た。
「約束通りに来ましたか」
「当たり前ですよ。そもそも自分が氷川さんの演奏を聞きたかったですしね」
「そ、そうですか」
そう言って氷川さんは少し顔を赤らめた。よくよく氷川さんを見てみるとうっすら化粧をしているようにも見える。氷川さんも化粧するんだななんて思った。
「あと差し入れのポテト楽しみにしててください」
「だから私はポテトなんか」
するとその時ボーカルの人から合図がかかり氷川さんがギターを握り直す。
「見ていてください。これが氷川紗夜の音です」
「見せてくださいよ。氷川さんの音を」
「いくわよ、みんな。聞いてください、BLACK SHOUT」
なんというか生で聞くと更にすごかった。氷川さんの性格通り、ギターの音は正確でミスがないように見えた。やっぱり何かを全力でやっている人ってかっこいいな。あの氷川さんがとても今は眩しく見えた。1曲目2曲目と順調に進んでいたが最後の曲をやろうとした瞬間ボーカルの人が急に動かなくなってしまった。何かあったのだろうか?
氷川さんが声をかけているがまるで聞こえていないように見える。そのとき会場の入口の扉が勢いよく開いた。すると入ってきた人は人混みをかき分けて自分の隣まで来た。なんなんだこの人は。もうチケットは売り切れたはずだろう。
ボーカルの人に話しかけるがまるで聞こえていないらしく棒立ちのままだった。するといきなり大声で何かを叫んだ。するとボーカルの人は気がついたのかマイクを握り直して歌い始めた。
なるほどこれがリア充兼陽キャと言うやつか。なんだか自分と氷川さんとの関係と明らかに違うのを叩きつけられた気がした。
そのまま3曲目も無事に終わり氷川さんはステージ裏に戻っていった。そのまま楽屋によることもなくまっすぐ家に帰った。
差し入れ、氷川さん喜んでくれるといいなぁ。
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なんとかライブも無事に終わり楽屋に帰ってきた。途中で湊さんが動かなくなったときは焦ったけどなんとかなりましたね。それにしても今日のライブはいつも以上にできたというか何でしょうか。まあ、とにかくいつも以上に良かったです。
ふっと机を見てみると氷川さんへと書かれた紙とともに5つのタッパーが置かれていた。中を見てみると色んな味をしたフライドポテトが入っていた。
(まさか、一ノ瀬さん手作りで作ってきてくれたのかしら)
その中のひとつを手に取り口に運ぶ。タッパーのほうを見てみるといつの間にかポテトがなくなっていました。
(おかしいですね。まだ少ししか食べていないはずなのに)
そのまま次のタッパーに手を伸ばしポテトを口に運ぶ。するとまたしてもいつの間にかタッパーが空になっていた。
(まさかこの私が無意識のうちに食べたというの)
信じたくない。そんな思いで残りのタッパーに手を伸ばすが全部気がついたら空になっていた。
(これは殿堂入りですね)
この日何年ぶりかに私の中のポテトランキングに動きがあった。
(一ノ瀬さん。絶対にまた作ってもらいますからね)
心にそう固く決意した。
これを書いているときめちゃくちゃポテト食べたくなりましたw
皆さんはどんな味のポテトが好きですか?
作者は結局ケチャップが一番好きですw
誤字報告、感想、評価ありがとうございます!