ポテト好きの氷川さん   作:主催

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放課後

 ライブから翌日の月曜日。けだるい体を起こして学校に向かう。月曜日の朝は体が重く感じる。それでも行かなければという使命感に体を動かされ学校に行く。

 

すると校門で見慣れた人影があった。

 

「氷川さん。おはようございます」

 

「おはようございます。一ノ瀬さん」

 

 そのまま横を通り抜けようとすると腕を掴まれる。

 

「どこに行こうというのですか?」

 

「どこって教室に行くに決まっているじゃないですか」

 

「あなたは目の前で持ち物検査をしているがわからないんですか」

 

「それなら他の風紀委員の人に見てもらうので氷川さんは他の人を見てあげてください」

 

「いえだめです。一ノ瀬さんの持ち物は私が見ます!」

 

 まったく氷川さんはめんどくさいな。そう言って自分のカバンを取り上げ中身を確認していく。

 

「そういえば昨日のライブすごかったです」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「やっぱり生で見る迫力は違いますね。生で見るとよりいっそ氷川さんの演奏がすごく見えました」

 

「そ、そうですか」

 

「はい。他の人達もすごかったですけどやっぱり氷川さんのギターが自分は一番好きです」

 

「/////」

 

「氷川さんのソロパートなんか特にすごかったですよ。聞いていると自然と引き込まれていくというか正直惚れました」

 

「///あ、ありがとうございます///」

 

「どうしたんですか。さっきから下を向いて具合でも悪いんですか?」

 

 氷川さんの顔を覗き込むと顔が真っ赤だった。

 

「どうしたんですかそんな顔を赤くして!やっぱり具合悪いんですか!」

 

「・・・・って・・・い」

 

「はい?」

 

「もう教室に行ってなさい!!」

 

 そのままカバンを投げ渡してきた。

 

「なんですか。心配してあげたのにそんな怒ることないでしょう」

 

「いいから早く行く!!」

 

 そのままキッと真っ赤になった顔で睨まれたので渋々教室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「全く何なんですか一ノ瀬さんは」

 

 まだ顔の熱が引いていない。いつも口を合わせれば喧嘩ばかりしている気がするのに何なのかしら本当に。

 

「氷川さんのソロパートなんか特にすごかったですよ。聞いていると自然と引き込まれていくというか正直惚れました」

 

 さっき言われたことを思い出してまた顔が暑くなる。

 

(だいたい何なんですか一ノ瀬さんは。あんな言い方されると私じゃなければセクハラになります!)

 

(でも、あんな面と向かって人に褒められたのはいつ以来かしら)

 

 小さい頃からいつもそうだった。何かあるごとに日菜と比べられてきた。そしていつも私は日菜に勝てなかった。そのことがだんだんと嫌になってきて今となってはあまり話さなくなった。

 

 日菜と比べられたくない。その思いでギターを始めた。ただ譜面通りに弾く。それが私の音だった。そんな機械みたいな音を彼は好きと言ってくれた。

 

(全く一ノ瀬さんはよくわからない人ですね)

 

 そのまま持ち物検査のため校門に戻った。

 

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 やっぱり眠い。こんなに眠いのは月曜日だからなのか。そのまま意識が落ちそうになる。ついに我慢ならずポケットからスマホを取り出す。

 

 なんとなく楽器初心者という単語を検索する。昨日の氷川さんのライブを見ていたら趣味のひとつでも始めてみようかなんて考えていた。初心者に始めやすい楽器ランキングというサイトを開く。すると一番上に出てきた楽器はギターだった。

 

(やっぱりギターが一番なのかな)

 

 なんでも初心者セットというものが売っているらしくそれでまずは入ってみるのがいいらしい。

 

(でもどれがいいなんてわからないしな)

 

 やっぱり経験者に聞くのが一番なんだろうか。でもなぁ氷川さん朝のことがあってからやけに避けられている気がする。廊下ですれ違ったときもさっと物陰にかくれるし、英語の時間もいつもなら来るはずなのに今日は席に座ってじっとしているし。

 

 その時昼休みを告げるチャイムが鳴った。そのまま授業も終わりクラスメイトたちは学食に行こうというグループと、友達同士で机を合わせ弁当を広げるグループに分かれる。

 

 肝心の氷川さんと自分はと言うといつも自分の席で一人で食べている。覚悟を決めて弁当を持って席を立つ。そのまま氷川さんの机まで行き教卓の椅子を持ってきて座った。

 

「い、一ノ瀬さんなぜここに!?」

 

「いや、なんとなく氷川さんと食べたい気分だったから来たんですけどだめでした?」

 

「い、いえ別に構いませんが」

 

「なら一緒に食べましょう」

 

「は、はい」

 

「氷川さん朝のことはすみませんでした」

 

「朝のことですか?」

 

「はい。朝のことを怒っていたから今日自分のことを避けていたんですよね」

 

「そうですよ。あんなこと校門で言われたら誰だって怒ります」

 

「でも謝ってくれたので許してあげましょう」

 

「ありがとうございます」

 

 そのまま会話もなく二人で淡々とご飯を食べる。なんでボッチってご飯を食べるときにしゃべれないのだろうか。

 

 さて、そろそろ聞き出すか。

 

「氷川さん今日放課後時間ありますか?」

 

「急にどうしたんですか」

 

「いやもし時間があれば一緒にでかけてもらおうかと」

 

 すると氷川さんは勢いよくむせ返った。

 

「大丈夫ですか!」

 

 優しく背中を擦ってあげる。

 

「きゅ、急になんですか一ノ瀬さんはやっぱりセクハラ野郎でありナンパ師だったんですね!!」

 

「なんでそうなるんですか!」

 

「だっていきなり放課後付き合えなんてナンパと変わりませんよ!」

 

「ですから放課後空いているか聞いたんじゃないですか」

 

「だとしてもです!」

 

「それで結局放課後時間はあるんですか?」

 

「あ、あるにはありますけど」

 

「なら一緒にでかけてくれますか」

 

 氷川さんの顔を見て真剣な顔で聞く。すると氷川さんはしょうがないと言った感じで答えた。

 

「はぁ、わかりました」

 

「じゃあ放課後待っていてくださいね」

 

「もう好きにしてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから放課後になった。氷川さんは同じ教室なのにもかかわらずわざわざ校門に集合というめんどくさい事を言ってきた。

 

「おまたせしました」

 

「遅かったですね」

 

「風紀委員の方に少し顔を出していましたので」

 

「そうですか」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

 き、気まずい。お互い会話もなく歩いているだけだがなぜこんなに空気が重いんだ。

 

「そ、それで一ノ瀬さんはどこに行きたいんですか?」

 

 ついに沈黙に耐えきれなくなったのか氷川さんが口を開く。

 

「えっと楽器店の方に行こうかと」

 

「急にどうしたんですか。楽器に興味でもできたんですか?」

 

「はい。昨日の氷川さんの演奏を聞いていたら自分もなにか楽器でも始めたいなと思い色々と調べて見た結果ギターを始めてみようかなと。でも最初は何を買ったらいいのかわからなくて氷川さんに選んでもらおうかと言うわけです」

 

「なるほどそう言うことでしたか」

 

 氷川さんは納得したようにつぶやく。

 

「ここです」

 

 ここが楽器店。実際に来てみるのは初めてだ。

 

「ほら入りますよ」

 

 氷川さんは通いなれているのか軽い足取りで入っていく。その後を追いかけるようについていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずはここの中から決めたほうがいいと思います」

 

 氷川さんに連れてこられたのは初心者用の楽器コーナーだった。

 

「おすすめとかはあるんですか?」

 

「初心者セットはそれほど差はないので、デザインで選んでもいいと思います」

 

「そうですか」

 

 ざっと見渡してみると氷川さんが使っているギターに似たものがあった。手に持って見るとしっくりときた。

 

「これにします」

 

「そうですか。なら私は自分の買い物があるので」

 

 そのまま氷川さんはギターコーナーに行ってしまった。

 

 セットにはついているとはいえ何となく自分のピックは持っておきたいと思いピックを見に行く。デザインが違うだけで他の違いがわからなかった。

 

「何をしているんですか一ノ瀬さん」

 

「氷川さんどうしてここに」

 

「ピックも買い換えようと思っていたんです」

 

「そうですか」

 

 さっきから氷川さんがあるピックをチラチラと見ている。それは犬のピックだった。

 

「もしかして犬好きなんですか?」

 

「そんな事はありません!!」

 

 ポテトのときといい氷川さんは本当にわかりやすい。

 

「今日付き合ってくれたお礼としてプレゼントしますよ」

 

「べ、別にそんな必要はありません」

 

「遠慮しなくてもいいですよ」

 

 そのままレジに向かって会計を済ました。

 

「どうぞ」

 

「ま、まあ買ってしまったものはしょうがないのでもらってあげます」

 

 氷川さんは緩んだ表情でピックを受け取った。

 

 そのまま二人でギターの話をしながら帰った。

 

 

 

 

 

 

 




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