ポテト好きの氷川さん 作:主催
ギターを買って家に帰って少しやってみたがとても難しい。これをあのレベルまで弾ける氷川さんはやっぱりすごいな。その翌日学校に行ってみると氷川さんの様子が少しおかしい。なんだかいつもよりため息が多いというかなにか悩んでいるようにも見えた。
それは英語の時間もそうだった。いつもはため息なんかつかない氷川さんがこの時間だけで4回もついている。
「氷川さんどうかしたんですか?」
「一ノ瀬さん。いや何でもありませんよ」
「いや、今日ずっと変じゃないですか。何か悩み事でもあるのかと思ったんですけど」
「・・・・」
すると氷川さんは少し悩んで口を開いた。
「一ノ瀬さん。ひとつ聞いてもいいですか?」
「自分に答えられることであれば大丈夫ですけど」
「一ノ瀬さんは、クールとギャルだったらどちらがタイプですか?」
いきなり何を言っているんだ氷川さんは?もしかしてそんなことで悩んでいたんのか。
「えっと、いきなりどうしたんですか?」
「いいから教えてください」
いつにもなく真剣な顔で聞いてくる。これは冗談を言える空気じゃないな。
「自分のタイプですとやっぱりクールのほうがタイプですね」
「そう。やっぱり男の人はそちらのほうがタイプなのかしら」
「いきなりどうしたんですかこんなことを聞いてきて」
「いえ何でもありません」
「もしかして自分のタイプが気になったとかじゃないですよね」
「はぁ。全く一ノ瀬さんは相変わらず勉強ができても肝心なところは抜けているのよね」
このポテト。心配してあげていたのにすぐこれだ。
「まあ一番キライなタイプは氷川さんみたいな堅物ですけどね」
「あら、私の一番キライなタイプも一ノ瀬さんみたいなセクハラ野郎ですけどね」
「「ふん」」
お互いにらみ合い顔をそらす。言わせておけば好き勝手言ってくれてこっちにも思うことはあるんだ。
「はぁ」
まただ。これでこの時間だけで5回目だ。
「もうさっきからため息ばかりついて何なんですか。いつもの氷川さんらしくないですよ」
「もう無意識に出てしまうのよ」
「さっきの質問といい今日の氷川さんどこかおかしいですよ。何かあるなら話してくれませんか。これ以上ため息をつかれるのもうんざりするんですよ」
氷川さんは観念したのか口を開いた。
「実はバンドメンバーの一人が男に脅されていてセクハラ。いやそれ以上のことを受けているんです」
「どういうことですか?」
「つい先日も事です。メンバーの一人ボーカルの人なんですけどその人が男に因縁をつけられて呼びだされたんです。それでいやらしいことをされて今脅されている状態なんです」
「それ普通にやばいことじゃないですか。警察には言ったんですか?」
「いえ。それがどうも口止めをされているらしく、このことを他のやつにいったらどうなるかと、脅されているのです」
「ボーカルの人は大丈夫なんですか?」
「このままじゃいけないと思いメンバーと話し合った結果、今日ベースの人がその男と話し合うことになったんです」
「え!それって結構危ないことですよね」
「はい。私達も行くと言ったのですが今回の件はどうしても自分ひとりでやると言って聞かなかったんです」
「もしかして一人でその男と話し合う気じゃないでしょうね」
「そのまさかです」
これが本当だとしたら結構危ないことじゃないのか。氷川さんの話を聞いている限りその男はやばいやつだってことになる。その男とベースの人が二人っきり出会うことになればその人も危ないかもしれない。
「その二人が合うのって放課後のことですか?」
「はい。学校で呼び出して、放課後話し合うつもりだそうです」
放課後。男女。二人っきり。これ以上危ない単語もそうないだろう。
「もしですよ。そのベースの人も男の人にやられちゃったらどうなるんですか」
「そのときは」
氷川さんは辛そうな表情で答えた。
「二人のことは諦めてもらって、私一人で満足してもらうしかないと思います」
「本気で言ってますか」
「はい。残りの二人に手を出させないためにも私がそうするしかないと思います」
「氷川さん」
氷川さんがため息を付きたくなる理由もわかる。だいたいなんなんだその男は。女子を脅迫して自分のものにするとか社会のクズじゃないか。そんなクズは早くブタ箱にぶち込まれるべきだ!
「氷川さん。その二人がどこで話し合うとかって決まっているんですか?」
「いや。まだ決まっていないと思います。できるだけひと目がないところは避けるように言ったのですが」
「でしたらいい場所があります」
今日自分はバイトが入っている。だからうまいことその場所にしてもらえばなんとかなるかもしれない。マスターに事情を話せば協力してくれるかもしれないしな。
「それはどこですか一ノ瀬さん」
「商店街の中の喫茶店です」
「そこなら大丈夫なんでしょうか?」
「はい。そこのマスターと知り合いで事情を話せばきっと協力してくれるはずです」
「わかりました。そこにするように伝えておきます」
「お願いします。氷川さん」
クズ男が待っていろよ。そう心に決意してバイトに向かった。
「よしだいたい事情はわかった」
「じゃあここを使っても大丈夫ですか」
「おう。たやすいことだ」
「ありがとうございます」
「よし、なら幸村お前はフロアーでそいつを観察してろ。俺はキッチンから常に目を光らせておく」
「了解しました」
言われた通りフロアーで待機する。やばいなんだか緊張してきた。なんとなく受けてしまったことだけど氷川さんには昨日の感謝としてこのぐらいはしてあげないと。そんな事を考えていたらドアが開いた。
入ってきたのはいかにも今風のギャルと冴えないイケメンだった。
(この人達だな)
「いらっしゃいませー。二名様でよろしかったでしょうか?」
「はい」
「奥のテーブル席にどうぞ」
チラチラと観察してみるがまだこれといって動きはない。するとまたドアが開き一人の女性客が入ってきた。
「いらっしゃいませー。おひとりさまでしょうか?」
「ええ」
「カウンターのお席にどうぞ」
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「コーヒー。ミルクと砂糖多めで」
「かしこまりました」
すると例のテーブルから大きな声で聞こえてきた。
「・・・・・私の体なら好きにしていいから、友希那にはもう手を出さないで!!」
やっぱり本性を表してきたか!さてどうすればいい。そんなことを考えているときにカウンターの席の女性客が立ち上がった。
そのまま例のテーブルに向かって行った。
その後の事はとてもじゃないが自分の口からは言えない。ただひとつ言えることがあれば、あれは浮気現場がバレた夫のようだった。
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