四十二歳の異世界冒険記   作:ショウキン

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第十八話「アジト潜入」

「フー、あいかわらず静かだね」

 

 アジトへ入った後、ボクは周りに十分な注意を払いながら、捕まっている人たちを探していた。

 

 すでに体力的な余裕はなく、アジトに入る前に負った傷もうずく。

 

 幸いにも敵襲はまだなかったが、それが逆に不安を増長させていく。

 

 ボクは、とにかくいつ何が起こってもいいようにと、戦闘準備を整え始めた。

 

「うーう、ん? これって」

 

 ボクは何者かのかすかな気配に気づき、進行を止めた。

 

 すると、前方の物陰から黒髪を結った若い女性が刀を持って飛び出し、切りかかってきた。

 

「はっ!」

 

「うわ、な、何すんだよ!」

 

 ボクは抵抗するまもなく押し倒され、マウントをとられてしまった。

 

 続けて刀を喉に突きつけられ、完全に身動きを封じられてしまった。

 

「あ、あの、お嬢さん、ボクは人間だよ。大会の出場者だって」

 

「人間? あら、本当だ。ごめんなさい。あんまり強い殺気を放ってたからついデビレンかと思って」

 

【挿絵表示】

 

 女性は平謝りしながら刀を下げ、ボクを解放した。

 

 しかし、まだ何かを警戒しているらしく、周りを忙しく見渡し始めた。

 

「ねぇ、あなたは何か感じない? このアジトの違和感みたいなもの」

 

「たしかにね。罠にしろ、敵の数にしろ、少なすぎて逆に不安に感じてたところさ」

 

「ええ。でも、まぁ、もっと奥に進んでいけば何か分かると思うの。一人より二人の方がいいに決まってるし、一緒に来てくれない?」

 

「一緒にって、キミも大会の出場者だよね?」

 

「ええ。スバゲスタン大学三年の松永(まつなが)スズネよ。スズでいいわよ」

 

「いや。ボクとキミは今は競争相手なわけだし。それに女の子と二人っきりっていうのはちょっと」

 

「そーんな細かい事気にしなくていいじゃん。ほら、行こ」

 

 スズは半ば強引にボクの手を引き、ぐいぐい奥へ進み始めた。

 

 正直、性格といい行動といい、かなり珍しいタイプの娘だ。

 

 今までボクが出会った若い娘といえば、この醜い容姿と太目な体系に対して罵詈雑言を浴びせるか、口を聞こうともしないのがほとんどだった。

 

 それがもはや当り前だと思っていただけに彼女の天真爛漫さは、ボクに複雑な感情を抱かせた。

 

「うーん。嬉しいような、緊張するような」

 

「ねぇ。今、我慢できない、食べたいって聞こえたんだけど」

 

「は? いやいやいや、空耳だよ。ボクはキミを食べようなんて!」

 

「あ、いや、あなたじゃなくて、道の奥の方から」

 

「え? ああ、そういえば、何か声が聞こえるような」

 

 声は先に見える通路の左端の方から聞こえた。

 

 耳を澄ましながら先へ進むと、薄暗い大広間の隅に牢獄があるのを発見した。

 

 そこは血と肉の腐ったニオイがあたりを覆い尽くしており、すさまじさがすぐにわかった。

 

 ズラリと並べられた牢の中には、痩せこけてボロボロの服を着た人間たちがびっしりと入れられていた。

 

 ほとんどの者はうつろな目をしており、まるで魂を抜かれたようだった。

 

 彼らはおそらくこの劣悪な環境で寝起きし、毎日何らかの労働を強いられているものと思われる。

 

 そして、食事はあたりに散乱したひび割れた食器に入れられた腐りかけのパンと濁った水くらい。

 

 当然、病死する者もいるだろうが、デビレンたちにとって人間たちは「死ねばまた新たにさらってくればいい」程度の存在。

 

 まったく気にかける事はないのだろう。

 

「ひどい話だね」

 

「なぁ、あんたら、た、べものをくれ。たのむ」

 

「なんか食いつきそうな目で見てるんだけど」

 

「こんな環境じゃおかしくもなるわよ。とりあえず、みんなを牢から出しましょ。ん? ニシさん、気づいた?」

 

「うん、来るよ」

 

 強烈な殺気と共にデビレンたちが牢獄へとやってきた。

 

 リーダーと思われるのは、白く長い髪をしたレベルフォーの女。

 

 一見するとおとなしそうに見えたが、しばらく歩くと、早々とスズに攻撃してきた。

 

「どうやら、ここへ来れたのはあなたたちだけのようね」

 

「レベルフォーのジェリラね。久々にいい戦いが出来そうだわ」

 

 スズは右に背負っていた刀を抜き、連続突きで繰り出したのち、周りの雑兵たちを切りつつ、ジェリラとの距離をとった。

 

「これは手強いわね。ニシさん、ここからは激しい展開になるから、捕虜たちの護衛をお願いできるかしら?」

 

「う、うん。まかせて」

 

「フン、あんな手負いのブタさんに助けを仰ぐとはね」

 

 ジェリラは前進しながら体を乱回転させ、魔性の火を飛ばしまくった。

 

 これではうかつに突っ込んだりすれば、命取りになるだろう。

 

 ついさっき、隙をつくどころか先手を取られてしまったのが何よりの証拠だ。

 

 うまく攻撃できたとしても、カウンターを食らう可能性もある。

 

 そのためか、スズは動けずにいたが、そんなスキを突かれるような形でジェリラの接近を許して、胸に手を置かれてしまう。

 

「ぐっ」

 

「フフ、ずいぶん心臓がばくばくいってるじゃないの」

 

 ジェリラは、スズの頬を軽く爪で切りつけた後、再び距離をとり、杖型の魔性具を召還した。

 

 スズは、ジェリラから受けた一撃で吹っ切れのか、顔をぱんぱんと叩き、反撃を開始した。

 

「あたしらしくなかったわね。深く考えすぎるなんて」

 

「そうそう、低俗な人間には似合わないわよ。頭を使うなんて」

 

「さぁ、もう出し惜しみはなしにしてよ」

 

 このとき、スズはジェリラの持つ魔性具を見ていた。

 

 どんな得体のしれない力が込められているか興味があるし、戦ってもみたいと思っていたのだろうか。

 

 だが、ジェリラはなぜか魔性具を武器として振り回すだけで、能力を発動させる様子はない。

 

「フフフ、たーのしい」

 

「ねぇ、さっさとその魔性具に隠してる力を出してみなさいよ。減るもんでもないでしょ」

 

「フフ、ダーメ。あなただって左の刀を使ってないし、フェアじゃないじゃないの」

 

「不死身の体まで持ってて今更フェアも何もないでしょ」

 

 全力を促しつつ、スズは連続突きで攻め続ける。

 

 しかし、さっきの雑兵たちを切った時のようにすんなりはいかない。

 

 やはり、やや変則的な動きで攻めないと、急所は狙えないようだ。

 

 その後はしばらく押し合った後、ジェリラの心臓を狙って突きを繰り出すが、わずかにずれ、右肩にあたってしまった。

 

「フフ、そんな簡単に急所はやらないわ」

 

「完全不死とやらがあっても、心臓をやられんのはこわいの?」

 

「ごまかしても打つ手があるのは知ってるのよ。ほーら」

 

 ジェリラもまたスズの急所を狙っているのがうかがえる。

 

 お互いにしばらく激しく押し合った後に距離をとり、横歩きしながらにらみ合うと、一気に動き出した。

 

 いきおいよく接近し、刀突きの連打と魔性具の連打の攻防がはじまった。

 

 しかし、やはりこれが長引けば、不死身であるジェリラに分があるだろう。

 

 それを予想していたのかスズは、息切れがはじまる前にジェリラに蹴りを入れつつ距離をとり、とびあがった。

 

 すぐさま身構えるジェリラだったが、スズは前面の床を突きで砕き、床の破片と粉塵で彼女の視界を奪う作戦に出た。

 

「はぁ、はっ!」

 

 ジェリラの死角からスズは、頭を狙って奇襲をかける。

 

 体を何とか反らしたジェリラは近くで倒れていた部下をつかむと、彼を盾にしてスズの追撃をガードしてしまった。

 

 今度は逆に視界を奪われたスズはそのまま部下ごと魔性具の突きをくらい、胸を負傷してしまった。

 

「あなた、いい趣味してるじゃない。自分の部下まで」

 

「そんなところに倒れてるほうが悪いんじゃないの」

 

 どんなに忠実な部下でさえ、ジェリラにとってはただの捨て駒。

 

 つかまえた人間たち同様、代わりはいくらでもいる存在に過ぎないのだろう。

 

 もちろん、その後に盾にされた部下が息絶えても、ジェリラの顔色が変わることはなかった。

 

「はぁ、服が汚れちゃったじゃないの。役に立たない盾ね」

 

「フー。うーん」

 

 ここでスズは一旦攻撃をやめて、立ち止まった。

 

 そして、周りをきょろきょろと見始めた。

 

「やっぱり変ね。ここに入った時から頭の中に引っかかってた。すんなり中に入れてこの場所に到達するまで敵襲の一つもなかった。不用心すぎる」

 

「そうかしら。よくある事じゃないの」

 

「あんまりとぼけると怒るわよ。何を企んでんの?」

 

「フー、そうね。それもおもしろいかもしれないし、今更どうにもできないしね。このアジトはね、もうすぐ跡形もなく消し飛ぶのよ。中にしかけた爆弾でね」

 

 ジェリラの話す計画は次のようなものだった。

 

 まずはノコノコやってきたボクたち大会の出場者を中に招き入れる。

 

 その後は普通に考えれば、捕まっている人たちを助けるために牢獄に向かうはず。

 

 そして、そこまで進んだ場合、容易には外に出る事はできなくなる。

 

 その時点で爆弾のタイマーを入れ、足止めしつつ、爆破時刻を待つというものだ。

 

 この爆発で生き残れるのは、完全不死であるレベルフォーのジェリラのみ。

 

 ボクたちはもちろん、アジト内にいる者は皆殺しにするつもりなのだ。

 

「じゃあ、後ろで倒れているあなたの部下たちも」

 

「ええ。あの子たちはもういらないと思ってたから。ついでに掃除しとこうかと思って」

 

「聞いていたとおりね。どんだけ荒んでるるのよ、あなたたち」

 

「フフ、デビレンってそういうものよ。ねぇ、もっとバカみたいにあたふたしたら? それを期待してわざわざ話したんだから」

 

 おそらく、アジト全体を吹き飛ばす事を考えれば、設置されている爆弾は一つや二つではないはず。

 

 爆破前に一つずつ解除していくなんてまず不可能だ。

 

「はぁ、なんともご苦労な事じゃない。あたしたち数人を消すためにそこまでやるなんて」

 

「スズ、どうするの? このままじゃ」

 

「あわてないで。こっちだって奥の手位残してあるもの。捕虜たちをあたしの後ろに集めてくれる?」

 

 スズは持っていた刀を鞘に納め、左に背負っていた刀を抜いた。

 

 すると、周りの温度がだんだんと上昇し始め、刀身には火がついた。

 

 何が始まるかは知らないが、ボクはすぐに棍棒ガドッグで牢を破壊し、捕虜たちをスズの後ろに集めた。

 

「ど、どうするの?」

 

「なるべくぎゅうぎゅうに集まって。それと先に謝っとくけど、火傷くらいは覚悟しといてね」

 

 スズは燃える刀から巨大な炎を放出し、自身とボク、捕虜たちを包み込んだ。

 

 そこからは溶けてしまうような熱さに耐え抜く時間が続き、外からは巨大な爆音が聞こえた。

 

 その直後、炎は少しずつ消滅していき、その先には広がっていたのは滅茶苦茶になったアジトの残骸だった。

 

 信じがたいが、燃える刀の炎で爆発を相殺したという事なのだろう。

 

 しかし、無事を喜ぶ暇もなく、ほぼ再生を終えたジェリラが迫ってきた。

 

「まさかあれだけの爆発を相殺するとはね。私との戦いで使わなかったのは力を温存し解くためだったのね」

 

「備えあれば患いなしっていうでしょ。さぁ、第二ラウンドならうけてたつわよ」

 

「やめとくわ。ミミッギュを使われたらシャレにならないしね」

 

 ジェリラは完全に再生を終えたきれいな姿で去っていった。

 

 正直くやしいが、今は深追いしている場合じゃない。

 

 ボクはすぐに傷ついた捕虜たちの救助に取りかかった。

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