四十二歳の異世界冒険記   作:ショウキン

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第二十話「名コンビ復活」

「はぁ、はぁ。よーし、いい調子だ」

 

 武器のコントロール訓練をはじめてから二週間後。

 

 ボクは着実に力をつけていた。

 

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 決してスムーズに進んでいるとはいえなかったが、コツは分かってきたし、何よりスズが何を約束したわけでもないのに同行して助言し、訓練に付き合ってくれる。

 

 その成果はもちろん実戦にも反映され始め、この後に遭遇した雑兵十体を汗一つかかずに全滅させた。

 

「どうかな?」

 

「いいんじゃない。力の配分もかなりうまくなってきたし、二週間前とは見違えるようだわ」

 

「そうか。よーし、この調子でばんばん強くなるぞ」

 

「あ、訓練は少し休憩ね。あたしはこれから近くの川で水浴の時間だから」

 

「え? 水浴? 女子大生が野外でそんな事を!」

 

「そんな驚く事? 毎日してる事よ。ニシさんもたまにはやった方がいいわよ。あ、別にのぞいたりしないから」

 

「いや、別に疑ってないけど」

 

「ん? ちょっと待って。う! このきったないヘドロがさらに腐ったようなひどいにおい」

 

 スズは急にしかめた顔をして、そわそわしはじめた。

 

 それが終わったかと思えば、今度はボクの顔をじいっと見始めた。

 

「ねぇ、あなたは何も感じないの?」

 

「え、い、いや。ボクのにおいがそんなにひどいのかな?」

 

「いいえ、これは......卑劣の素のにおいに間違いないわ」

 

「卑劣の素? じゃあ、近くで取引が行われているとか?」

 

「可能性は高いわ。ええと、においがするのは......こっちよ」

 

 ボクとスズはにおいをたよりに取引が行われていると思われる繁華街に入った。

 

 だが、時すでに遅く、卑劣の素は取引相手と思われる中年男性の手に渡った後だった。

 

 すぐにお縄にしたいところだったが、前にはレベルスリーのモヒカン頭をしたデビレンと雑兵たちがいた。

 

 全員で向ってくるかと思われたが、雑兵たちは中年男性を守るようにして逃げ出し、モヒカンデビレンだけが前に立ちはだかった。

 

「スバゲスタン大学の松永スズネだな。ここは通さねぇぞ」

 

「スズ、ここはまかせて」

 

 ボクはスズに雑兵たちの後を追わせ、単独でモヒカンデビレンに向っていった。

 

 不安や恐怖は、もう一切なかった。

 

 レベルフォーとの戦いを経験し、持ち武器のコントロールにまで至った今、レベルスリー相手に負けることなどあり得ない。

 

 軽く棍棒ガドッグの連打を浴びせて打ち負かした。

 

「キミたちレベルスリーの再生力なんてたかが知れてる。暴れないでくれよ」

 

 ボクは倒れたモヒカンデビレンを押さえつけ、手錠で拘束した。

 

 しかし、所持品の中から卑劣の素らしきものを発見する事はできなかった。

 

「さっき渡してた分だけだったのかな。ん? これ」

 

 殺気を感じ取り、振り向いたボクの視線の先から帽子をかぶった大柄なデビレンがやってきた。

 

 肌の色や顔の異様な模様からして、レベルフォーに間違いない。

 

 やはりその凄まじい威圧感はレベルツーやレベルスリーのものとはけた外れだ。

 

 ボクは飲まれないように、がっちりと戦闘態勢を固めた。

 

「スズが持っていたリストに載っていた。レベルフォーのアイーゲ。魔性具はバズーカ型のぺパル」

 

「ああ、そうだ。で、お前が俺の相手をしてくれんのか? 退屈しのぎくらいにはなってくれよ」

 

 アイーゲはバズーカ型の魔性具ぺパルをかまえ、砲弾を発射した。

 

 ここは繁華街だが、デビレンであるアイーゲにとっては何の問題もないことだ。

 

 状況を見たボクは南の方角にある海岸の方へと走り始めた。

 

 もちろんアイーゲも砲弾を飛ばしながら後を追う。

 

 さすがに逃げきれないと判断したボクは小刀ザクメルを装備し、高速移動で海岸にたどり着いた。

 

 しかし、ゆっくり休む間もなく、アイーゲも追いつき、容赦ない砲弾の嵐が襲い掛かってきた。

 

「くっ」

 

「フン、バカな奴だ。無駄な体力を使うだけだというのに、わざわざ場所を変えるとは」

 

「そりゃそうさ。キミを倒しても、一般人に死なれでもしたら、勝ちとはいえないからね」

 

「俺を倒す? フフ、戯言を。完全不死である俺をどう倒すっていうんだ」

 

 たしかにこの状況はまずいだろう。

 

 完全不死であるレベルフォーのアイーゲに勝つにはスズの持つミミッギュが必要だが、別行動しているうえに勝手に元いた繁華街からはなれてしまった。

 

 おまけに通信手段もないため、呼び出すこともできなかった。

 

「はあ、何やってんだ。ボクのアホ」

 

「何をごちゃごちゃ言ってんだ。来ないならこっちから行くぞ」

 

 アイーゲはぺパルによる砲撃に加え、魔性の火もまぜて攻撃した。

 

 ボクはまだ息切れこそしていないが、なかなかアイーゲに近づけない。

 

 もっとも、近づけたところで今はアイーゲを倒すすべがないのだが。

 

「身を隠したところで、レベルフォークラスは千里眼っていう感知技を持っている。あー、もうどうすればいいんだ」

 

「まったく。これじゃあ、さすがにかわいそうだな」

 

 アイーゲは急に攻撃するのをやめた。

 

 そして、ボクにおとなしく降参するように促すのだった。

 

「このまま戦っても勝負は見えているだろ。だからついてこい。お前は体力もあるし、新薬のいい実験台になる」

 

「実験台? そうか、なめられたもんだね。ボクを完全に見下してるようだ」

 

 アイーゲの一言で吹っ切れたボクはさっき以上の勢いで前進した。

 

 再び襲いくる砲弾と魔性の火の間を潜り抜け、何とかアイーゲに近づいた。

 

「はぁ、はぁ」

 

「馬鹿な奴だ。たとえその気がなくとも、とりあえず頭を下げていれば生きながらえたものを」

 

「たとえ演技でもデビレンに頭なんか下げれるか! こうなったら何が何でもキミがくやしがる顔を見させてもらうよ」

 

 今度はボクの棍棒ガドッグによる猛反撃がはじまった。

 

 アイーゲはぺパルで応戦するも、盾代わりに防御するのがやっと。

 

 やはり接近戦に関しては、わずかにボクの方が上のようだ。

 

 しばらく攻防が続いた後、ボクの蹴りがアイーゲを吹っ飛ばした。

 

 しかし、アイーゲは何とか受け身をとると、すぐに逃走して距離をとりはじめるのだった。

 

「フン」

 

「くっ、接近戦がそんなに嫌か?」

 

「ああ、嫌だね。不得手とわかっていて、わざわざ戦い続ける馬鹿がいるかよ」

 

 アイーゲは十分に距離をとると、再びぺパルをかまえ、弾を連続で発射した。

 

 だが、それはさっきまでの砲弾ではなく、手のひらくらいの大きさの紙だった。

 

「これが俺の魔性具ぺパルに宿っている紙を生成し、武器とする能力だ」

 

「紙か。どう考えても戦闘向きじゃないと思うけど」

 

「そいつはどうかな。ほい」

 

 ぺパルから飛び出した大量の紙がボクめがけて襲い掛かった。

 

 数が多く、普通の砲弾よりもよけるのは大変だが、それだけではない。

 

 ぺパルから発射された後もアイーゲの意思であやつることができ、分裂や回転など変則的な動きも可能なようだ。

 

 そして紙一枚一枚の耐久性も極めて高かった。

 

 ジャンケンでパーがグーに勝つのと同じようにボクの拳を包み込んで、勢いを殺した。

 

「くそ、こんな紙切れなんかに」

 

 拳に気を取られている隙に今度は顔や足めがけて大量の紙がとんできて、シュッと切り裂いた。

 

 そして、とどめとばかりにとんできた大きな紙が両目の下と足に貼りつき、呼吸と動きを封じた。

 

「う、ぶぶぶ」

 

「このまま窒息死させるのも悪くないが、やはり派手にいかないとな。フフ、この紙はすごく燃えやすいんだよなぁ」

 

 アイーゲはもがくボクめがけて魔性の火をとばした。

 

 それが命中する直前、ボクは何とか両目の下に貼りついた紙を力づくではがすが、足の方は間に合わなかった。

 

 貼りついていた紙のせいで通常以上に燃え上がり、激しい火傷を負う事となった。

 

 ボクは足をかばいつつ、その場を全速力ではなれ、身を隠した。

 

「あ、危なかった。もし、顔の方に命中してたらと思うとゾッとするな」

 

「フフ、そこだな。千里眼を持つ俺が相手では見つかるのは時間の問題だと分かっているはずだ。さっさと出てこい」

 

「うぐ」

 

 ボクはじゅわじゅわとうずく足の火傷に耐えつつ、小刀ザクメルを装備して高速移動を開始した。、

 

 そして、どんどん増えていくアイーゲの魔性の火をわざと刀身にまとわせ、攻撃に使った。

 

 これなら、よけきれなかった紙を焼き切りながら前進できる。

 

「この紙は燃えやすい。その通りだったね」

 

「ちっ」

 

 再び接近されると判断したのか、アイーゲはさらに後退をはじめた。

 

 しかし、ボクもまた前進をやめ、後退して身を隠した。

 

 魔性の火にやられた足の火傷が高速移動を長く続けたせいでうずき、すでに皮膚の色が変わり始めていたのだ。

 

「うう、こりゃまずいな。調子に乗って走りすぎたな」

 

 ボクは足を押さえつつ、そーっとアイーゲの様子をうかがった。

 

 気のせいか、マンジイによく似た人物が戦っているように見える。

 

 だが、それはマンジイ本人であり、アイーゲに槍の一撃と煙玉をくらわせた後、ボクのいるところへ走ってきた。

 

「すまん。遅くなったの」

 

「ま、マンジイ、ケガはもういいんですか?」

 

「お前さんが必死に戦っているときに入院してばかりもおれんじゃろ。ここにくる途中でスズちゃんという子から話は聞いた。本当に強くなったようじゃの」

 

「マンジイ」

 

 言いたいことはたくさんあったが、今はゆっくり話しているヒマはなかった。

 

 かなり離れた場所にいるとはいえ、ボクの姿が見えないと分かったアイーゲはまた千里眼を使って探しに来るに違いない。

 

 その前に何とかして応戦方法を考えなければならない。

 

「どうやって奴を倒します?」

 

「対策ならある。ほれ」

 

 マンジイはこのときミミッギュをスズから一つ預かっていた。

 

 しかし、これはただ単に体に使えばいいというわけではなく、デビレンたちの顔にある魔化粧と呼ばれる部分(赤い不気味な模様のような部分)に強く押し当てなければ効果はないそうだ。

 

 また、砕かれたりしてしまえば、その時点で効力はなくなり、つなぎ合わせて再利用するなんてこともできないと聞いている。

 

「ようするにチャンスは一回ってことじゃな」

 

「ええ。ひさびさに連携といきますか」

 

 ゆっくり話し合いたいところだが、アイーゲがもうすぐそこまでせまっていた。

 

 ボクはミミッギュのことをマンジイにまかせ、小刀ザクメルを手にアイーゲめがけて突進した。

 

 足の火傷もインターバルをはさんだことで少しは楽になり、十分に走れる。

 

 そのまま止まることなく魔性の火と紙をさけながら、アイーゲの前にたどり着いた。

 

「はぁ、はぁ」

 

「く、くそ」

 

 迎え撃とうとするアイーゲだったが、小刀ザクメルを持ったボクの動きにはついていけないようだ。

 

 ぺパルをかまえるヒマも魔性の火を生成するヒマもなく、攻撃をくらう羽目になった。

 

「ぐうう、こいつめ」

 

「はぁ、はっ!」

 

「ぐぐ」

 

 とうとうぺパルを叩き落とされたアイーゲはボクに殴られ転倒。

 

 そして、最後は小刀ザクメルで深く切り付けられた。

 

 それでもボクの足をつかみ立ち上がろうとするが、傷はかなり深いようだった。

 

「フン、だがどうせ再生するんだ。同じことだ」

 

「今です、マンジイ!」

 

 ボクの合図とともに走ってきたマンジイは、倒れているアイーゲの魔化粧にミミッギュを押し当てた。

 

 そして、その数秒後にはアイーゲの傷は消え、再生を終えた。

 

「フフ、なにをしたか知らんが、失敗のようだな」

 

「いや、お前さんの負けじゃよ」

 

「フフ、バカな事を。さぁ、二人まとめて血祭だ」

 

「その前に自分の体をよく見た方がいいよ」

 

「何? う、あ」

 

 すでにアイーゲの両腕は肌色に戻り始めていた。

 

 そして、ぺパルも消滅し、魔性の火を生成する事もできなくなっていた。

 

「な、なんだ、何が起こってるんだ。おい、ジジイ、俺に何しやがった!」

 

「さっきお前さんに押し当てたのはミミッギュ。お前さんのの中のデビレンの力を消し去り、人間の姿に戻すためのものじゃ」

 

「な、何だと」

 

「キミほどの反射神経を持つ奴に確実にミミッギュを注射するには一度倒して再生しきる前を狙うしかない。こっちの作戦勝ちさ」

 

「うう、このぉ」

 

 アイーゲのデビレンの力は完全に消失し、人間の姿に戻った。

 

 それでもなお暴れようとしていたが、もはや無駄な抵抗だった。

 

「くそ、ふざけるな、冗談じゃねぇぞ! 戻せ、今すぐ戻せ!」

 

「戻したじゃろ、人間に」

 

「そっちじゃなーい! いいか、俺はデビレンだ! 俺がどれだけ苦労して今の地位を手にしたと思ってるんだ!」

 

 結局、アイーゲはその後も悪あがきを続けたため、ロープでぐるぐる巻きにされた上に口と両目にガムテープを貼られ、拘束された。

 

 長い戦いが終わり、安堵したボクは地面に倒れこみ、そのまま眠りに落ちていった。

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