四十二歳の異世界冒険記   作:ショウキン

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第二十三話「非道な実験施設」

「マンジイ、そろそろ終わりにしましょうよ」

 

「まだじゃ。こんなものではまだチィトとは戦えん」

 

「はぁ」

 

 チィトとの一件から三日後、ボクはマンジイと手合せをしていた。

 

 マンジイはチィトの殺気に怖気づいて醜態をさらした自分がよほど許せなかったらしく、本当に鬼気迫る勢いだ。

 

 もちろん、ボクも気持ちは同じ。

 

 デビレンに身を堕としてチィトの手先になるのも、負けて死ぬのもごめんだ。

 

 とにかく、自分の中に目覚め始めていたチィトへの恐怖心を薙ぎ払うかのように拳をふるった。

 

「うぉぉ、あ、あれ? 力がぁ」

 

「何じゃ、ニシくん。もう限界かの」

 

「す、すいません。何しろ朝からぶっ続けで訓練と手合せばっかしてたので、おなかがすいて」

 

「むぅ、まぁ、腹が減っては戦はできんというしの」

 

 マンジイはようやく握りこぶしをほどいてくれた。

 

 まもなく、出かけていたスズが戻り、待ちに待った食事の時間となった。

 

「さてと、まぁ、食べながらでいいから聞いて。実はミミッギュの残りが一つしかなくて大学に補充をお願いしたけどダメだったの。もうストックがないって」

 

「え! でも、ミミッギュがないとレベルフォーに対抗できないよ」

 

「まぁね。でも、その希少性ゆえにミミッギュの価値はどんどん高騰しててね。スバゲスタン大学の力をもってしてもホイホイ入手できるものじゃないの」

 

「そうか。消耗品なんじゃし、いつかは直面したとは思うがの」

 

「一応、大学内で聞きこんで、ボドモルっていう荒れ地にある今は使われていない施設にミミッギュがありそうだって教えてもらったわ。要は自分たちで見つけて使えって意味よ」

 

「うう。まぁ、ミミッギュがないとどうにもならないし、避けては通れないよね」

 

 ボクたちは、スバゲスタン大学から提供された情報を元にボドモルに向かった。

 

 だが、情報を入手していたのはスズだけではないようで、すでに周辺には先客と思われる男たちがうろついていた。

 

「へへ。何だ、お前らもボドモルに乗り込もうってのか?」

 

「ええ、そうだけど。あなたたちもデビレン狩りをしていの?」

 

「いいや、俺たちはミミッギュを手に入れて高値で売るのが目的さ。ぼったくりのような額でも欲しがる奴はごまんといるからな」

 

「なるほど、トレジャーハンターのようね。まぁ、こんな世の中なんだしお金儲けを責めはしないけど」

 

「スズ、どうする? 手を組んでおくべきだと思う?」

 

「難しいでしょうね。中に敵がいたと場合、三つ巴の戦いになる可能性もあるし」

 

 ボクたちは話し合った結果、すぐには動かずに様子見を続けることにした。

 

 そして、ハンターチームがボドモル内に入った五分後くらいに後をつけて行った。

 

「これなら、途中に敵がいたとしてもハンターチームが片づけてくれる。体力の温存にもなるの」

 

「でも、最終的に戦いは避けられないと思うわ。ハンターチームがうまく敵を倒して先にミミッギュを手に入れたとしてもあたしたちに渡すはずがない」

 

「たしかにね。ん? 先が騒がしいな。もう戦闘がはじまったのか」

 

 声をたよりに施設内の広場へと進んだボクたちを待っていたのは、異様な光景だった。

 

 なぜか、ハンターチームたちは互いに激しく攻撃しあっていた。

 

 ただの仲間割れにしてはあまりに激しく、本当に殺し合いといった感じだ。

 

「待てー、デブ女。俺の金を返しやがれ」

 

「デブっていったらボクしかいないけど、男だよ。それにお金を盗った覚えなんてないし」

 

「いや、それ以前にあの人、誰もいない方に向って言っているわ。あっちの人は柱に向って攻撃してるし、何か変ね」

 

「とりあえず、止めた方がよさそうじゃの」

 

 ボクたちはハンターチームに向っていき、背後から気絶させて外へと連れ出した。

 

 その後は目を覚ましたのちに話を聞くも、どうも話が分からなかった。

 

 あるハンターはいつの間にかデビレンの大軍と戦っていたと言い、あるハンターは女装したおじさんたちの群れから逃げていたと言った。

 

 同じ場所にいたはずなのに、こうも食い違う証言。

 

 おそらくは知らないうちに幻術の類をかけられていたと考えられた。

 

「デビレンの能力かな。キミたちは何か知らない?」

 

「そうだな。俺たちが仕入れた情報によると、アマていうデビレンがボドモルを仕切っているらしいんだ。そいつの能力なんじゃねぇか?」

 

「アマか。たしか、レベルスリーの賞金首じゃの。レベル的に考えて幻術などの高度な力を使えるとは思えんがの」

 

「そういえば、アマは人間をさらって危険な実験を繰り返しているという噂を大学で聞いたことがあるわ」

 

「危険な実験じゃと?」

 

「ええ。それと同時にあやしいクスリの開発もしているとか」

 

「はぁ、難易度が上がってきたね。これは競り合っている場合じゃないよ」

 

 この話し合いの結果、ボクたちはハンターチームと一時的に手を組むことにした。

 

 まずは綿密に作戦を立てた後、マンジイとハンターチームが先発してボドモルに再突入した。

 

 ボクとスズは少し距離を置いてついていき、そのまま施設内の広場へと進んだ。

 

 その後はすぐには動かず、マンジイたち先発組の動きをじっくりと目視した。

 

 まもなく、前回と同じような同士討ちがはじまった。

 

 しかし、マンジイたちにはもしものときのために武器を置いてこさせたため、殺し合いというほどのものではない。

 

 ボクとスズは冷静さを失わず、目視を続けた。

 

「どこだ。どこから攻撃している。全員に攻撃が当たる前に何とか!」

 

「ん? んん? あっちよ、十二時の方角よ」

 

「よし!」

 

 ボクはすぐに小刀ザクメルを装備し、スズの示した方角へと走っていき、柱の後方にいたデビレンを追い詰めた。

 

【挿絵表示】

 

 デビレンは金髪の小柄な少女風のレベルフォーで、ボーガン型の魔性具を構えていた。

 

「排除する」

 

「うぉぉぉ」

 

 ボクは魔性具の方に狙いを定め、叩き落として蹴飛ばした。

 

 これでもう厄介な能力を使われる心配はない。

 

 と思われたが、何と背後に落ちているだけの魔性具から細い矢が飛んできた。

 

 ギリギリで避けるも、魔性具はその後も容赦のない追撃を続けた。

 

「うわぁぁ、どうなってるんだ」

 

「ニシさん、今行くから。あ!」

 

 突如、無数の銃弾がスズを威嚇するように飛んできた。

 

 その後、攻撃の主と思われるたまねぎ頭のデビレンが雑兵たちを連れて現れた。

 

「よう、侵入者」

 

「手配書の写真と一致する。あなたがアマね?」

 

「そうだ。そして、あのレベルフォーは俺の最高傑作である幻術使いのマジェリーと魔性具プアソル」

 

「最高傑作ってあなたが作ったの?」

 

「ああ、ボスに頼まれてな。卑劣の素に適応できるような体に人間を改造したのさ。まぁ、千人くらい試して成功したのはあのマジェリーだけだったがな」

 

「人間に合うように卑劣の素を改良していたわけじゃなく、卑劣の素に合うように人間を改造してたのね。何て惨い事を」

 

「フン! ま、お前らはここまでだ。前に来た奴も千里眼に気づかれないように幻術にかかったふりをしてマジェリーに近づいてきたが、それが限界。プアソルの遠隔操作であっさり沈んだよ」

 

 アマは挑発めいた笑みを浮かべながら、雑兵たちと共にマンジイ達のところへ走っていった。

 

 もしも乱入されれば、場はさらに混乱する。

 

 ボクはスズにアマたちを追わせ、マジェリーとの戦闘を続けた。

 

「くっ、まさか魔性具を遠隔操作できるとはね」

 

「魔性具極めたデビレンなら容易。さぁ、死ね」

 

「うう、まずい」

 

 ボクは慌てて後退して身を隠した。

 

 遠距離ならともかく、近距離で矢を連射されれば、さすがに回避のしようがなかった。

 

「一発でも食らえば幻術の世界に落されて殺されるか、マンジイと同士討ちさせられる。うう」

 

「私には千里眼ある。隠れても恐怖長引くだけ」

 

「しょうがない。まだ実戦で使うレベルじゃないかもしれないが」

 

 ボクは小銃イアチャを手に持ち、マジェリーの前へ出てきた。

 

 マジェリーはボクに接近戦を挑みつつ、落ちているプアソルから矢を飛ばし始めた。

 

「私の相手しながら、矢を避けるなんて事できるはずない」

 

「う、あ、あ。はぁ」

 

 プアソルの矢は紙一重のところでボクに届かなかった。

 

 ボクの持つイアチャは冷気を放出する武器であり、それを全身にまとって矢を防ぐための盾として使っていたからだ。

 

 これは前にスズが愛刀ヘルジャムの炎で爆撃を防いだのと同じ戦法だ。

 

 もっともこれは自身の体も危険にさらす戦法であり、まだ習得したばかりという事もあり、使える時間は限られている事は十分に承知していた。

 

「五分、いや、三分ってとこかな。速攻でケリをつけないと」

 

「人間、不便なもの。たかが戦いに必死過ぎる」

 

「た、戦いをなめないことだ。いつまでもデビレンでいられると思うなよ」

 

 ボクは凍結し始めている手足を必死に動かしながら戦った。

 

 左手でイアチャの弾を連射し、右手でマジェリーを攻撃する戦法だ。

 

「うぉぉぉぉ」

 

「ぐう、重いパンチ。だが、こんな戦法いつまでも続かない」

 

「はぁ、あ、ぐ」

 

「パンチの方はともかく、弾の方まったく命中してない。それどころか、まったく別の方に飛んでる」

 

「い、や、これでいいんだ」

 

「頭もフリーズしたか。かわいそうに」

 

「はっ、ぐ、がは!」

 

 ボクを覆っていたイアチャの冷気は少しずつ薄まっていき、完全に消失した。

 

 おまけに全身はすでに凍傷になりかけている部位がいくつもあり、特にイアチャを握っていた方の手は見るも無残だった。

 

「ぐ、うううう」

 

「よくがんばった。だが、悪あがきここまで」

 

 マジェリーは無防備になったボクにプアソルの矢を飛ばそうとするが、何も起こらない。

 

 すでにプアソルは完全に凍結され、矢が出せなくなっていたのだ。

 

 マジェリーは、ここでやっとボクがさっきまでの戦いでプアソルを狙ってイアチャの弾を連射していることに気づいたようだが、もう遅い。

 

 ボクの重いパンチばかりに目が行き、プアソルの方をまったく見なかった事が招いた結果と言える。

 

「く、ろうしたよ動きながらじゃなかなか当てられなかったから」

 

「貴様!」

 

 マジェリーは、やや動揺しつつも冷静さを失わずにボクに向かっていった。

 

 しかし、今度はパンチの連打に加え、イアチャによる攻撃にも対処しなければならない。

 

 パンチの方はともかく、イアチャの弾は避ける事はできてもガードはできず、魔性の火を生成する時間すらないようだ。

 

 おまけに後ろと左右には壁があって後退する事はできず、遠距離戦には移れない。

 

 ついにマジェリーの動きは乱れはじめ、ボクはそのスキをついてイアチャの弾を連射した。

 

 そしてトドメに至近距離から弾を撃ちこんだ後、すぐにミミッギュを打ちこんだ。

 

 まもなく、逃げ続けていたアマもスズに捕まり戦闘は終わった。

 

 しかし、ボクの心にはどうにも後味が悪いものが残った。

 

 やむをえない状況だったとはいえ、罪もない少女を自らの手で倒してしまったのだから。

 

 今回の戦いは今までの戦いの中でもっとも辛く後味の悪いものだったといえる。

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