四十二歳の異世界冒険記   作:ショウキン

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第二十七話「裏切りの果てに」

「ここ......みたいだね」

 

 ドリゴドールを退けたボクとショウさんは道の先を進み、再び現れた白髪デビレンにおびき寄せられるようにして岩場へとやってきていた。

 

 マンジイの姿はどこにもなく、いたのは覆面をかぶったレベルフォーと部下と思われるデビレンたち五十人ほどだけだった。

 

「ようやくご到着か」

 

「約束通り来てやったぞ。じいさんを返してもらおうか」

 

「フフ、ずいぶん上からの物言いだな。だが、動揺しながらじゃかっこつかねぇな」

 

「あ? な、何だと?」

 

「なぜその事をって? フフ、気になるか?」

 

「さっきから何言ってんだ、こいつ。なんで、俺が心の中で思ったことを」

 

「まさか、キミは心の中を読んでいるのか?」

 

「フフ、ご名答。まぁ、分かったところでどうなるもんでもないけどな」

 

「読心術という奴だね。そういえば、聞いたことがあるな」

 

 ボクは、前に酒場で耳にしたツロロというデビレンの事を思い出していた。

 

 ツロロはアルティワというメリケンサック型の魔性具を手に装備しており、ただこれに力を込めて念じるだけで周りにいる者の心の中を読むことができるデビレンだと噂されていた。

 

 能力の対象範囲は三十メートルほどとさほど広くはなかったが、千里眼と併用することにより、かなり遠くにいる者の心の中を読むことも可能だとか。

 

 おそらく、ツロロはこの能力を使い、ドリゴドールがあの時間にあの場所に行くことを知り、うまくボクたちとぶつかるように仕向けたのだろう。

 

 これなら、仮にドリゴドールが敗れても、ボクたちは消耗した状態でここへこなくてはならなくなる。

 

 だが、それに今さら気づいたところでどうにもできず、見事にはまった現実を受け入れるしかなかった。

 

「まいったよ、そういう作戦か」

 

「フフ、俺の名前も能力も作戦も理解したようだな。ま、ドリゴドールみたいな能力依存のバカにしては役に立ってくれたよ。共倒れしてくれたら、もっとよかったがな」

 

「くっ」

 

「野郎、調子に乗りやがって」

 

 ボクもショウさんも下手に動く事が出来ずにいた。

 

 だが、そうしている間にツロロの部下たちが近づき始めていた。

 

「おとなしくリンチされやがれ」

 

「しかたない。まずはこいつらだけでも」

 

 デビレンたちに突っ込んでいき、戦い始めるショウさんだったが、なぜか攻撃がうまく当たらない。

 

 得意のパンチもキックもことごとくかわされ、かする程度がやっとだった。

 

「どうなってんだ。俺がこんな奴ら相手に」

 

 焦り顔のショウさんは、わずかなスキをつかれて腹部を軽く切られてしまった。

 

「く、くそ」

 

「ショウさん、一体どうしたんだよ」

 

「フフ、俺のアルティワはな、読み取った心の中の情報を自分だけでなく、周りにいる者の頭にも伝達させることができるのさ。つまり、あの男の心の中の情報が部下たちの頭にも伝わっている状態だ」

 

「う、うそ。そんな力まで」

 

「フフ、分かる、分かるぞ。乱れている心が」

 

「ショウさん!」

 

「来るな、おっさん! 俺がこの程度の奴らに負けると思ってんのか!」

 

「そ、そうだ。ツロロから目を離すわけにはいかないし。ん? 彼はどこに」

 

「ここだよーん」

 

 すでにツロロは気づかれないようにボクの背後に回り込んでおり、魔性の火を連続で放出した。

 

 それはボクの背中にモロに命中し、一気に燃え広がってしまった。

 

「あちゃちゃちゃちゃ!」

 

「向こうのほうに気をとられたな。レベルフォー相手に油断しすぎだよ」

 

「うぉぇがぁぁ」

 

 ボクはすぐに地面に転がって火を消すが、すでに背中はひどい火傷でじゅわじゅわとうずいていた。

 

 火傷薬はちゃんと持っていたものの、この状況では使う余裕などない。

 

 そもそも、使おうと思っただけで心を読めるツロロにはそれがばれてしまい、妨害されるのはもう目に見えている。

 

 火傷の苦しみに耐えながら、戦い続けるしかなかった。

 

「ち、治療は後回しだ。まずはケリをつけないと」

 

 ボクは涙目になりながらも、必死にツロロを攻撃した。

 

 しかし、心の中を読めるツロロにはすべて見切られてしまい、なすすべがなかった。

 

 かといって、態勢を立て直すために戦線離脱したりすれば、ショウさんのほうに攻撃が集中してしまうだろう。

 

 やはり、彼のほうも戦況は芳しくなかった。

 

 何とか雑兵を数人倒したものの、まだレベルスリーを含めた無傷の個体が半分以上残っている。

 

 なんといっても、数がそれなりに多い上に連携もとれていて、しかも心の中を読まれている。

 

 これが続けば、先に体力が尽きるのはショウさんの方だろう。

 

 と思われたが、それから五分と経たずに状況は一変した。

 

 なぜかデビレンたちの急に動きがぎこちなくなってきて、少しずつ劣勢になり始めたのだ。

 

 ツロロはアルティワをちゃんと装備しているし、能力を解いたような様子もない。

 

 どう考えても伝達が途絶えるわけはなく、デビレンたちは困惑した様子だ。

 

 それにより、今度はデビレンたちの方がスキをつかれ、ショウさんの猛反撃を受ける事となった。

 

「つ、ツロロ様ぁ!」

 

「さっきからあの男の心が読めなくなったと思ったら、なるほど、心の中を空にして何も考えない状態で戦っているんだな。単純な攻撃しかできなくなるという欠点もあったが、レベルスリーやレベルツーのように格下の相手なら十分というわけだ」

 

 わずかながらも危機感をいだいた様子のツロロは、ショウさんの方へと走り出した。

 

 ボクはそのチャンスを逃さず、小刀ザクメルを装備して追撃した。

 

「うぉぉぉ!」

 

「ん? は、速っ!」

 

 ツロロもすぐに拳をかまえるが、間に合わず腹を切り裂かれた。

 

 その一撃で態勢を崩してしまったツロロは、続けて顔や手にも追撃を受ける事となった。

 

「ぐ、うう」

 

「背を向けたスキを逃すほどボクは甘ちゃんじゃないよ」

 

「こ、このブタ野郎が」

 

「はぁ、はぁ、今の体力じゃ厳しいがやるしかない。再生する時間は与えないよ」

 

「くそ、これじゃあまるで瞬間移動じゃないか。これが生き物の動きなのか。目で追いきれない。ぐ、ダメだ」

 

 いくら相手の心を読んで動きを把握できても、それに対応できるだけのスピードがなければ意味がない。

 

 ツロロ自身も把握していなかったであろうアルティワの思わぬ落とし穴であった。

 

 しかし、満身創痍の体で極限まで高速移動を続けてしまったボクの体は悲鳴を上げ始めた。

 

 それでも、再生する時間を与えるわけにはいかず、血管から出血しながらも攻撃を続けた。

 

「うぐ、うう」

 

「くそ、だったら」

 

 ツロロは魔性の火を生成し、それで自身をバリアのように覆った。

 

 時間稼ぎしながら再生を終えるつもりだろうが、そうはいかない。

 

 ボクは魔性の火のバリアの中を通り、ツロロの腹をざっくり切り裂いた後、バリアの外へと殴り飛ばした。

 

 そして、全身にひどい火傷を負いながらも倒れずに小刀ザクメルを振り上げた。

 

「う、うう」

 

「う、き、キサマいかれてんのか! 俺と刺し違える気か!」

 

「最悪それでもかまわない。少なくとも負けて死ぬという選択肢はない」

 

「うう、ま、待て! 人質が、あのお荷物ジジイがどうなってもいいのか! 奴はこの敷地内に縛り付けてある。俺が合図を送れば、部下共が息の根を止める手はずになっているんだぞ」

 

「ぐ、だったら」

 

「おっと、先に助け出せばいいなんて考えるなよ。いくらお前でも俺が合図を送る前に奴を探し出すなんて不可能だ。奴を救い出すためにはどうすればいいかわかるよな?」

 

「う、うう」

 

「まぁ、恨むんならあのバカで間抜けなジジイを恨むんだな!」

 

 ツロロは今までの仕返しをするかのように、無抵抗になったボクを虐げはじめた。

 

 首をガッとつかんで押し倒し、笑いながら殴り始めた。

 

 それが一通り終わると、今度は何度も足蹴にした後、顔をじりじりと踏みつけた。

 

「俺は自分でも吐き気がするようなブ男だからよ、顔がいい男と善人が大嫌いなんだよなぁ。特にお前みたいな正義の味方ヅラした奴がなぁ!」

 

「そこまでだ!」

 

「ショウさん」

 

「ぐ、貴様、部下たちをもう倒してきたのか」

 

「今すぐその足をどけろ。でないと、覆面と一緒に顔の皮もはぐぞ、コラ」

 

「は、ハハハ、やれるもんならやってみろよ! こっちには人質が、あーっ!」

 

 驚愕するツロロの前には、槍を構えるマンジイの姿があった。

 

 その後ろからはスズとマジェリーがショウさんと対になるようにして現れ、完全な包囲網を作った。

 

「ニシさん、お手柄よ。あなたがツロロを引き付けてくれたおかげでマンジイを助け出せたわ」

 

「くそ、増援か。だったら、こっちも」

 

 ツロロは合図を送り、新たに百人近い部下たちを呼び寄せた。

 

 だが、直後にスズの斬撃とマンジイの槍、続けてマジェリーの放った電撃であっという間に全滅させられた。

 

「あ、が、ぐ」

 

「スズ、今のマジェリーの攻撃は?」

 

「改造で食事の代わりに電気エネルギーで動けるようになったの。使いすぎれば動けなくなるけど、ああやって電気を武器として使う事も可能よ」

 

「へぇ、それはたのもしいね」

 

「さてと、残るはお前さんだけじゃの」

 

「ま、待て、まだ傷が再生してないんだ。お、お前ら、手負いの相手を五人がかりで襲うつもりか!」

 

「部下をあれだけ連れてきたてめぇがいう事じゃねぇだろ」

 

「ひ、ひぇぇぇぇぇ!」

 

【挿絵表示】

 

 ツロロはボクたち五人の一斉攻撃を受け、倒れた。

 

 いくら心の中を読めても、複数の動きに同時に対処することなどできやしない。

 

 無敵と思われたアルティワの最大の欠点だった。

 

「う、がが。き、さまら」

 

「助かったぜ。ナイスだ、お嬢ちゃんたち」

 

「あなたこそ。あんな状況で健闘できるなんて大したものよ」

 

「スズ、後は私やる」

 

「うう、くそ」

 

 逃げようとしていたツロロはマジェリーにミミッギュを注射され、デビレンの力を失った。

 

 だが、それと同時に高笑いが響き渡った。

 

 逃げたと思われたドリゴドールが現れたのだ。

 

「フフ、後を追いかけてこねぇと思ったら、こういう事だったとはな。ツロロ、よくも俺を利用してくれたな」

 

「またキミか。キミの能力はさっきの戦いでもう分かっている。もう通用しないよ」

 

「ほざけ、デブ。さっきは油断しただけだ。今度は、ん? こ、これは」

 

 ドリゴドールの顔色がだんだん変わっていった。

 

 そして、辺りを覆い始める禍々しいほどの殺気。

 

 飛んでいた鳥たちが一斉に飛び立ち始め、それと同時にチィトが空からゆっくりと降りてきた。

 

「ごきげんよう」

 

「こ、こいつがチィトなのか。すべてのデビレンの頂点に立っているっていうレベルファイブの」

 

「くっ! まさか、ここで戦う事になるとはの」

 

「ああ、安心してくれ。今日はお前らと戦いに来たんじゃない」

 

 チィトはボクたちを素通りし、ドリゴドールの前に降り立った。

 

 ドリゴドールは何やら様子がおかしく、かなり引き気味な感じだった。

 

「ぼ、ボス、加勢は必要ないですよ。こいつらは今から片づけるところです」

 

「いや、その必要はないよ。ドリ、お前には今ここで消えてもらう」

 

「は? そ、そんな、俺は今まで任務に失敗した事なんてないはず。いくらなんでもそれは」

 

 あたふたするドリゴドールだったが、その後チィトが差し出した冊子を見て青ざめた。

 

 そして、涙を流しながら震え、後ずさりを始めた。

 

「あ、ああああああ」

 

「中にはお前が俺を倒して組織を乗っ取るための計画が書かれていた。一緒に計画を立てていたお前の腹心たちはすべてを白状させた上ですでに処刑した。言い逃れは不可能だ」

 

「ぐ、う」

 

「ああ、悲しい事だ。お前の事信用していたのに。また辛い部下殺しをやらなくちゃいけないんだな」

 

「うう、フ、フフフ、ばれちゃしょうがねぇな。もはや、これまでだ! 死ね、チィト!」

 

 開き直ったドリゴドールはゴルブダを伸ばし、チィトを攻撃した。

 

 しかし、片手で軽く受け止められ、まったく動かせなくなってしまった。

 

「ば、バカな。こんなはずは」

 

「はぁ、お前の能力くらい熟知しているよ。触れただけで切られなければ石化はしないんだろ?」

 

「ち、ちくしょう」

 

「お前はレベルフォーとなった時点でそれに満足し、鍛錬を怠った。だから、今からみじめに死んでいくのさ」

 

「う、うわぁぁぁ! やめてくれえええ!」

 

 ドリゴドールはチィトに首を掴まれ、巨大な魔性の火に包まれた。

 

 そして、解放されたときには人間の姿で、しかも石化した状態で息絶えていた。

 

 永久に残る事となったその表情は、恐怖によるものなのか、すさまじくおびえているものだった。

 

 一体あの魔性の火の中でどんな凄まじい惨劇が起こっていたのか。

 

 ボクはとても想像する事が出来なかった。

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