四十二歳の異世界冒険記   作:ショウキン

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第三十話「地上へ続く道」

「え? 脱出の方法があるんですか!」

 

「そうじゃ。ワシだけでは到底無理じゃったが、お前たちと一緒ならあるいはと思ってな」

 

 横穴に入った翌日、歩けるまでに回復した教授はボクとショウさんを外へ連れ出し、遠くの方にうっすらと見える巨大な塔を指さしていた。

 

 そこにはこの森の管理人でもあるレベルフォーのギルゴムがいて、おそらく専用の通路か何かを使って定期的に地上へ行っているという。

 

 だが、当然そこへ到達するためにはギルゴムとの直接対決はほぼ避けられないというわけだ。

 

「ギルゴムと戦うだけならまだいいが、塔に着くためにはあの巨大動物たちがいる森を長時間進まなくてはならないんじゃ。あいつらは強い。そして、何より人間を激しく恨んでいる」

 

【挿絵表示】

 

 あの巨大生物たちは魔獣と呼ばれ、元々はごく普通の動物だった個体がギルゴムの魔性具ゾアボの力で巨大化したものだという。

 

 ゾアボで斬られた生物は黒い闇に覆われていき、少しずつ体が大きくなっていき、魔獣化する。

 

 その力は凄まじく、単純なパワーだけならレベルフォーのデビレンにも匹敵し、不死身とはいかないまでも、そうとうな生命力を持っているそうだ。

 

「その異常な強さの根源はその生物が持つ恨みの力。つまり恨みの力が強ければ強いほど強い魔獣になるというわけじゃ」

 

「恨み? ボクたち人間に対してですか?」

 

「そうじゃ」

 

 この森にいる魔獣すべての共通点は、まだ普通の動物だった頃、人間にひどい目にあわされたという事。

 

 例としては、身勝手な飼い主に捨てられたペットたち、密猟者などに大事な仲間を殺された野生動物などがあげられるそうだ。

 

 なんとなく感じていたあの嫌な感じは恨みによるものだったわけだ。

 

 ボクは前にスズの端末でふと目にしたいくつかの動画をこのとき思い出していた。

 

 飼い主たちの一方的な都合で生きたままゴミ袋に入れられ、捨てられるペット達。

 

 そして、密猟者によって殴り殺されて引きずられる野生動物とそれを悲しそうに見つめる赤ちゃんの姿。

 

 もし、彼らのそんな積り積もった恨みを力に変えられたとしたら、強いのは当然だろう。

 

 ちなみにゾアボには生物を魔獣化させる力はあっても、動きを操ったり、洗脳したりする力まではないという。

 

 魔獣たちは、人間に対する恨みと復讐するための力を与えてくれたギルゴムへの恩義から自分の意思でデビレン側に協力しているのだと思われる。

 

 教授によれば、魔獣たちの最終的な目的はデビレンたちとともに人間を滅ぼすこと。

 

 このままこの森で数を増やし続け、いずれはチィトの合図で地上に攻め入ることになっているという事も考えられる。

 

「そうなれば、本当にシャレにならないでしょうね」

 

「そうじゃな。デビレンだけでも手を焼いているのに、あんな魔獣たちまで地上に現れるなど、考えただけでもおそろしい」

 

「ん? そういえば、ギルゴムってたしか、あ!」

 

「うおおおおお!」

 

 ショウさんは一人で走り出そうとしていた。

 

 ボクは何とか羽交い絞めにして押さえ、横穴へと戻そうとした。

 

「ショウさん、落ち着いてよ」

 

「おっさんにはもう話したはずだろ。ギルゴムは仲間の仇だ。今すぐぶっ倒してやる」

 

「教授の話を聞いたでしょ。無計画に攻めてもダメだって」

 

「うるせぇ、奴がいる場所が分かってんのにじっとしてられるか!」

 

「フム。お前、ギルゴムと何か因縁があるようじゃが、本当に奴を倒す気があるのか? それとも、一発殴ればそれで気が晴れるのか?」

 

「何だと!」

 

「もし、前者なら冷静になれ。憎しみにとらわれるだけでは勝てない戦いもあるんだぞ」

 

「ちっ」

 

 ショウさんはようやく落ち着きを取り戻していった。

 

 その後は自ら横穴へと入り、綿密な計画を立て始めた。

 

「さてと、どうすりゃ塔へたどり着けるんだ?」

 

「ただ塔へ着けばいいってもんじゃない。空腹や手負いの状態で行ってもほぼ返り討ちにされるのがオチじゃ」

 

 一応、この横穴からあの塔へは最短ルートを通れば、二日足らずで行けるらしい。

 

 しかし、ボクたちの手元にある食料は余裕をもって分配しても五日分ほどしかないため、三日以内に何とか体力を万全の状態にして出発しなければならない。

 

 もっとも、そのあとであの魔獣たちに襲われて体力を消耗してしまえば、意味はないのだが。

 

「はぁ、敵の数が少ないか、弱いかのどちらかならまだ希望があったのにな」

 

「ニシ、まだあきらめるのは早いじゃろ。そんな気持ちでは魔獣一匹にすらやられてしまうぞ」

 

「あ、ああ。そうですね」

 

「教授、気になってたんだが俺たちが連れてるあの犬はなんで魔獣化しなかったんだ? 腹に他の魔獣たちと同じ模様もあるし、話の流れから考えてゾアボの能力を受けたはず」

 

「そうじゃな。これはあくまで推測だが、あの犬の心にまだ迷いのようなものがあるんじゃろうな」

 

 教授によれば、この子犬もギルゴムに選ばれた以上は、他の魔獣たちと同じように人間を恨む心はあるはずらしい。

 

 だが、一方でやさしくしてくれる人間もいる。

 

 だから、ゾアボの能力をふり払って魔獣化する事を拒み、地上へ逃げてきたのだと考えれるそうだ。

 

 そういえば、さっきボクたちを襲ったネコも最後は攻撃を躊躇していた。

 

 これは、本当に戦いにくい相手だといえるだろう。

 

「ボクは......正直、全力で倒しにかかる自信がありません」

 

「ワシも真っ向勝負は避けるべきじゃと思う。魔獣たちを倒していけばいくほど、仲間の魔獣たちが持つ人間への恨みは強くなっていく。それじゃあ、何の解決にもならんからな」

 

 という事で、魔獣たちになるべく傷を与えずにスムーズに塔へたどり着くため、麻酔銃を駆使した戦法をメインにする事となった。

 

 教授は、今までの戦いで麻酔銃が多少なりとも魔獣たちに効く事をすでに確認していたのだ。

 

 やはり完全に眠らせる事はできず、少しの間動きが止まっただけに留まったそうだが、戦わずに逃げるためならそれで十分だろう。

 

 残る課題は体調を万全の状態にしておくという事。

 

 ボクたちは出発を今から七十時間後と決め、栄養補給と睡眠に徹する事にした。

 

 

 

 

「そろそろかな」

 

 ギルゴム討伐作戦を立ててからもうすぐ七十時間が経とうとしている頃、ボクは出発の準備を整えていた。

 

 すでに体調は万全だし、装備もばっちりだ。

 

 ショウさん、マジェリー、教授、子犬と共に気合十分に横穴を後にした。

 

 ここからはボク、マジェリー、子犬が北側、ショウさん、教授が南側に別れて塔を目指すことになった。

 

 二チームにわかれる理由としては、全滅のリスクを下げるためと地上へ戻るための確率を少しでも上げるため。

 

 仮にここにいる全員が死亡するなんて事になってしまえば、この森の存在はその後も誰にも知られることなく、もっとたくさんの魔獣たちが増えることになってしまうのだから。

 

 しかし、もちろん全員で生きて地上へと帰る事を約束し、それぞれの道へと別れた。

 

「さぁてと、来るよ」

 

 十メートルほど進んだところで、さっそく巨大な犬がボクたちに襲い掛かってきた。

 

 全身にひどい傷があり、人間にどんなひどい目にあわされた事がすぐ察知がついた。

 

 ボクは少し不本意に思いながらもに麻酔銃を発砲するが、やはり完全に眠らせる事はできなかった。

 

 基本は、この後すぐにその場から逃走する事で、体力を温存できるはずだ。

 

 だが、敵もなかなか賢いようで、塔に近づけば近づくほど出くわす魔獣の数は多くなり、さらにはあまりの巨体ゆえに麻酔銃が効きにくい個体も現れはじめた。

 

 そして、いつ魔獣たちに襲われるか分からない恐怖とうまくいかなかったからといって撤退する事も出来ないプレッシャーにより、精神の方もだんだんと限界へ近づいていた。

 

「休憩を少しはさむつもりだったが、これはさっさと塔へ行った方がいいだろうね。こんな状況では落ち着いて休むことなどできない」

 

「まるで心臓にナイフを突きつけられている気分。いつまで続くの、こんなの」

 

「うわ! マジェリー。また来たよ」

 

 麻酔銃をかまえるボクの前と後ろから次々と巨大なネコが現れ、完全に囲まれてしまった。

 

 これはただ眠らせるだけでは対処しきれない。

 

 ボクは覚悟を決めて小銃イアチャを連射、マジェリーは電撃を放ちしながら奮戦し、進行を続けていった。

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