四十二歳の異世界冒険記   作:ショウキン

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第三十一話「恨みの鬼神ギルゴム」

「う、ぐう」

 

「ニシ、しっかり。ここで倒れたら今までの戦ったの全部水の泡」

 

「あ、ああ。そうだね」

 

 塔を目指し始めて二日ほどが経った頃、ボクは限界に近い状態で森での進行を続けていた。

 

 正直、ギルゴムと戦えるような余力はすでになく、頭も足もフラフラの状態。

 

 マジェリーもすでに充電が切れかかっているようで、不穏な電子音が不安を掻き立てていた。

 

 しかし、それでも敵は同情も手加減もしてはくれない。

 

 その後も容赦ない攻撃の嵐が降り注いだ上、草むらから巨大なネコたちが追い打ちをかけてきた。

 

 続けて、木の上に隠れていた巨大ネコが突然おりてきて、場は混乱。

 

 それにより、ボク達の陣形はもろくくずれ、震えて身動きがとれなくなった子犬が負傷。

 

 かばおうとしたマジェリーもネコのツメにざっくりと切り裂かれ、重傷を負ってしまう。

 

 その後、ボクはなんとかその場にいた巨大ネコすべてに麻酔銃を撃ちこんだものの、被害は甚大であり、特にマジェリーはまともに戦闘を継続できる状態ではなかった。

 

「ま、ずい。もう、じゅ、う、でんが。ぐ」

 

「マジェリー、しっかり!」

 

「ニシ、聞いて。私の充電もうすぐ尽きる。だから、残りすべて塔へ走るのに使う」

 

「でも、そんな事したらキミは!」

 

「す、こしの間動かなくなるだけ。わ、たし犠牲になるつもりなん、てない。あんたとショウ信じて命預けるだけ」

 

「マジェリー」

 

「信じて、る。デビレンの呪縛からわた、し、たす、けたあんたならで、きるは、ず」

 

 マジェリーは両足に電撃をまとい、ボクと子犬の手を掴むと、猛スピードで塔へ向けて走り始めた。

 

 血の匂いにつられるように集まってきた魔獣たちを何とかふり払いながら走り続け、本当に間一髪のところで塔の中へと逃げ込んだ。

 

 だが、先に待っていたのは希望を削ぐような光景だった。

 

 ギルゴムと思われる大柄で強面のデビレンが、目と鼻の先にある広間で猟師風の男二人に詰め寄っていたのだ。

 

「さてと。ん? どうやら、新手の侵入者のようだな」

 

「ギル......ゴム」

 

「俺の名を知っているとは、バカな賞金稼ぎの類か。クク」

 

「くっ、まさか入ってすぐに遭遇するなんて!」

 

「安心しろ、まだ戦うつもりはない。まずはこいつらからだ」

 

 ギルゴムは男たちを壁側に追い詰めると、手笛を吹いた。

 

 すると、巨大なアザラシ型の魔獣が現れ、激しいうなり声を上げた。

 

 男たちは背負っていた銃で応戦しようとするも、震えて一発も発砲できず、青ざめながら森へと逃げていった。

 

「た、助けてくれ」

 

「フン、せいぜい苦しみながら殺されるがいいさ」

 

「キミは一体? 何のためにこんな事をするんだ?」

 

「さっきの男たちは血の涙もない冷酷な密猟者。魔獣の方は毛皮目的で殺されたアザラシの遺児だ。俺は能力を使い復讐の手助けをしただけさ」

 

「復讐?」

 

「そうだ。貴様は知っているか! この世界に人間の都合で殺されていく動物たちがどれだけいるか! いくつの悪事が黙認されているか分かっているのか!」

 

 ギルゴムの言い分は分からなくもない。

 

 ボク自身もこの世界に来て、かわいそうな境遇の動物たちを見てきた。

 

 人間さえ繁栄すれば、他はどうなろうとかまわないという一部の人間たちの考えも決して許されるものではない。

 

 しかし、ギルゴムがこのまま魔獣たちを増やしていけば、多くの善良な人間たちが犠牲になるのは明白。

 

 ボクは覚悟を決め、ギルゴムに向っていった。

 

「うおおおおおお!」

 

「バカが! そんなボロボロの状態でレベルフォーを倒せると思っているのか」

 

「う、ぐ、ぐ」

 

「さっさと死ね!」

 

 ギルゴムの猛攻がはじまった。

 

 ボクは疲労と傷のせいでうまく応戦する事が出来ず、すぐに劣勢となってしまった。

 

 そのまま一撃も攻撃を繰り出せずに蹴り倒された。

 

「はぁ、はぁ」

 

「さっさと死ねばいいのに、耳障りな呼吸音を出しやがって。ゴミがよ」

 

「う、ぐ」

 

「そうだ。先に後ろで倒れている小娘の方から始末するかな。ゴミ人間を寝かせてやる無駄スペースなどここにはないんでな」

 

「や、めろぉぉ!」

 

 ボクは何とか全身に力を入れながら、ギルゴムに突進して食らいついた。

 

 無謀なのは言うまでもなく、激しい反撃をくらうが、それでも離れるつもりはなかった。

 

 だが、力負けして床に何度も叩き付けられ、両腕を無理やり捻じ曲げられた上に軽くへし折られてしまった。

 

「う、ぐえ、うう」

 

「見苦しいな。お前はゴミ同然だ。いや、ゴミに失礼か。ゴミはまだリサイクルができるが、それに比べてお前は、ククク」

 

「うう」

 

「安心しろ、これ以上恥をさらさないように俺が引導を渡してやる」

 

 ギルゴムは巨大な魔性の火を両手に纏い、ふりおろしてきた。

 

 だが、間一髪のところでショウさんが乱入して妨害し、ボクは風圧で床へ叩きつけられるだけで助かった。

 

「ショウ......さん」

 

「生きてて何よりだ、おっさん。これで何とか全員ここへたどり着けたわけだ」

 

「貴様は......たしか前に俺に負けた雑魚共の生き残りか。拾った命をわざわざ捨てに来たのか?」

 

「戯言はよせ。仲間たちの無念はここで晴らさせてもらうぞ、ギルゴム」

 

「ショウさん、教授は?」

 

「入り口のところで寝かせてある。いいか、金髪のお嬢ちゃんも犬も含めてしっかり守っとけよ。それが今のあんたの仕事だ」

 

「分かった。必ず守るよ」

 

「よし、それでいい」

 

 ショウさんは短期決着を狙うように、すばやくギルゴムに殴りかかるが、逆にツメで切り裂かれた。

 

 体が大きく鈍重なイメージのあるギルゴムだったが、その反射神経は本物。

 

 いくらすばやい攻撃でも、軽くかわして反撃していった。

 

「フフ、どうした? これじゃあ、さっきのかっこいい台詞がかすんでしまうぞ」

 

「まさかかすりもしないとはな。あいかわらず、あきれた身体能力だ」

 

「だから無駄だと言ったんだ!」

 

 ギルゴムの力はショウさんの力を完全に上回っていた。

 

 そして、魔獣たちから感じていたのと同じあの嫌な感じもショウさんの動きを鈍くさせているようだった。

 

「この感じは前にはしなかった。どういうわけだ?」

 

「冥土の土産に教えてやる。俺はゾアボの力ですでに自分自身を魔獣化してんだよ」

 

「魔獣化か。なるほどそういう事か」

 

「元々強いレベルフォーに強い恨みの力が加わるんだ。おそらく、今の俺の力はレベルファイブにも届くかもな。ボスには悪いが」

 

「そうか、それは本当にいい事を聞いた。じゃあ、単純な話、ここでお前に勝てればチィトにも勝てるって事だよな?」

 

「この状況でよくそんな事を。仕置きが足らないようだな。はぁぁぁ!」

 

 突如、ギルゴムの左手が黒く覆われていき、球体状に生成されてショウさんめがけて飛んできた。

 

 威力もスピードも魔性の火以上で、まっすぐ飛んでくるかと思ったら、途中で六つに分裂し、うち二つがショウさんに命中した。

 

「ぐ、うう」

 

「これは恨み玉。魔性の火に俺の恨みのエネルギーを込めたんだ。並の苦しみではないぞ」

 

「ぐぐ」

 

 ショウさんは必死で床に転がるも、なかなか火は消えず、のたうちまわっているところをギルゴムに何度も踏みつけられた。

 

 そのまま全身の骨を砕かれるような勢いだったが、床を転がりながら逃れて態勢を立て直した。

 

「うぐ。おい、おっさん! 武器を俺に貸してくれ!」

 

「ボクの武器を? でも、これは体内に眠っている力を強制的に引き出すものだ。ちゃんと訓練を積んでいないショウさんが使うのはあまりに危険だよ」

 

「言うな、奴の恨みの力は本物だ。こっちも命かけるくらいじゃねぇと勝てやしねぇよ」

 

「まだ悪あがきをするつもりか! いいさ、すぐにまとめてあの世に送ってやる」

 

「ぬかせ! 何度も仲間を奪われてたまるか!」

 

 ショウさんはボクから棍棒ガドッグと小刀ザクメルを奪いとって装備し、底上げされた超パワーと超スピードで攻め、ギルゴムもそれに呼応するように反撃した。

 

 その力はほぼ拮抗しており、ぶつかり合うたびに塔内に激しい衝撃が走った。

 

「まさか、魔獣化した俺と張り合うやつがいるとはな。こいつはここで確実に消しておくべきだな」

 

「ここまでやって互角がやっとか。大した怪物だ」

 

 戦いはその後も続き、決着は見えなかった。

 

 しかし、この状態が長引けば長引くほどギルゴムの方に分がある。

 

 何しろギルゴムは完全不死の肉体を持っているのに対し、ショウさんは慣れない武器による凄まじい反動でどんどん肉体が蝕まれていくのだから。

 

「ぐ、くそ。うう」

 

「おーおー、苦しそうな顔して。人間ってのは本当に不便な生き物だな」

 

「黙れ、人間であることから逃げたお前が言うんじゃねぇよ」

 

 ショウさんの血管は切れ、体が悲鳴を上げはじめていた。

 

 だが、そんな追い詰められた状況が逆にショウさんを突き動かしているようだった。

 

 最初は見下していたギルゴムもそんなショウさんの姿に心打たれのか、巨大な恨み玉を生成していき、それをそのまま左手に装着した。

 

 そうすることによって、ギルゴムの直接攻撃には恨みの力が加わり、絶大な攻撃力が生まれるはず。

 

 それに加え、周りを黒い破片のような物体が漂い始め、歪んだ映像のようなものがちらつき始めた。

 

 よく見ると、顔にひどい傷を負った少年がガラの悪そうな若者たちに暴行されている場面、ゴミ捨て場のような場所で犬や猫と触れ合っている場面、防護服を着た人間たちと戦う場面などが映っているのが分かった。

 

 おそらく、少年は輪郭や目つきから見て、人間だった頃のギルゴムと見て間違いないだろう。

 

 そして、彼は周囲の人間に忌み嫌われ、逆に懐いて慕ってくれた動物たちに愛情を抱いて生きていたが、人間による捕獲や駆除行為に怒って強い恨みを抱くようになったのだと思われる。

 

 それは、他のデビレンのように強い私利私欲の邪心によりデビレン化したとはいえない。

 

 言い換えれば、彼の恨みは動物を愛する心の裏返しとも考えられる。

 

 それは直接戦っているショウさんにも伝わっているようであり、表情に動揺が見られた。

 

「こいつはこんな人生を。ぐ!」

 

「お前らは考えたことがあるか! 理不尽に虐げられ殺されていく動物たちの無念の気持ちが! ええ、おい!」

 

「お前の気持ちが分からないわけじゃない。俺も動物を捨てたり殺したりする奴は大嫌いだ。だが、そんな一部の奴らのために多くの善良な人まで魔獣たちに襲わせるのは間違ってる!」

 

「間違ってなんかいない! 間違っているのは貴様ら人間の方だ!」

 

 両者一歩も譲らず、戦いはさらにヒートアップした。

 

 そして、お互いに重い一撃をぶつけ合った後、ショウさんの方が先に膝をついた。

 

「ぐぐ、はぁ。あ、足がもう」

 

「終わりだ、消えろ!」

 

 ギルゴムはいきおいよく突進し、さらに禍々しく巨大化させた恨み玉をショウさんにぶつけた。

 

 だが、このいきおいは逆にショウさんに利用されてしまい、自身もガドッグのカウンターアタックをくらってしまう事となった。

 

「き、さま」

 

「へへ」

 

 体をふるわせながらにらみあっていたが、すでに限界だったらしく、両者共、前のめりにバタリと倒れた。

 

「ぐ、おっさん。俺はもう動けない。奴にミミッギュを!」

 

「あ、うん」

 

「ち、ちくしょう」

 

 ギルゴムは、ミミッギュをうたれ、人間の姿に戻っていった。

 

 その姿はとても悲壮感あふれるものであり、無念の思いが強く伝わってきた。

 

「ううう。ムシがよすぎるかもしれないが、俺のたのみを聞いてくれ。魔獣たちの命だけは助けてくれ。あいつらは俺に利用されていただけで何も悪くない」

 

「頭を上げてよ。ボクたちは無益な殺生をするつもりはないから」

 

 この言葉を聞いたギルゴムは潔く自分の敗北を認め、その後抵抗する事はなかった。

 

 そして、それからしばらくすると、子犬や魔獣たちの腹部についていた赤い模様は消えていった。

 

「能力が解け始めたようだね」

 

「ああ。おっさん、武器をありがとな。さぁ、上を目指そうぜ」

 

 ボクたちは長い階段を上がって上へと進んで無事に上の森に戻り、駆け付けたマンジイ、スズと再会した。

 

 すぐに怪我の治療と休息に移りたいところだったが、まずは魔獣たちをどうするのかを考えなくてはいけない。

 

 ギルゴムが人間に戻って魔性具の能力が解けたため、魔獣たちの体は少しずつ縮みはじめており、最終的には元の姿に戻ると思われた。

 

 しかし、魔獣だったときはその異常な生命力のおかげである程度飲まず食わずでも生きられたようだが、元の姿に戻ってしまえば、おそらくこの森では生きていけない。

 

 ここには彼らが常食とできるようなものはほとんどないし、おそらくはかなり早い段階で飢え死にすることになるだろう。

 

「放ってはおけないよ。ギルゴムや動物たちをあんなになるまで追い詰めてしまったのは人間の方なんだからさ」

 

「ああ、このまま奴らを幽閉して餓死させるのは簡単だが、それじゃあ身勝手な飼い主共や密猟者共と同じだからな」

 

「あたしと教授で大学にお願いしてみるわ。しばらくの間、保護下においておくくらいなら可能だと思うの」

 

「うむ、もちろん協力する。しばらくの間、彼らの面倒を見つつ、新しく生きていける場所を探す。犬や猫たちは新しい飼い主、その他の動物たちはもう密猟者に狙われずに生きていける場所を」

 

「ありがとう、スズ、教授」

 

 だが、ボクはここにいる動物たちを救っても、ギルゴムの心が完全に晴れるとは思ってなかった。

 

 今こうしている間にも、手の届かない遠いところで殺されていく動物たちはたくさんいる。

 

 厳しいが、それが今の現実だった。

 

 ボクは動物たちをちゃんと救えないまま冷たい塀の中へ行かせてしまう事への罪滅ぼしとして、今回の事件を世間に公表して知ってもらう事を提案した。

 

「こんな事しか、今のボクにはできないけれど」

 

「十分だ。俺は私怨でたくさんの人間を殺したから、極刑は免れないだろう。だが、俺の行動が世の中を少しでも変えてくれるならもう思い残す事はない」

 

「う、うう。ごめん」

 

「動物のために泣いてくれる人間がまだいたんだな。ニシだっけか? お前のような人間がこれから増えてくれればあるいは俺の願いも叶うかもな。それをこの目で見れないのは残念だが」

 

【挿絵表示】

 

 ギルゴムはボクたちに付き添われながら近くの町の換金所へ向かい、出頭した。

 

 そして最後の瞬間に一瞬だけ立ち止まり、こちらへ優しく微笑んだ後、奥へと連行されていった。

 

 ボクはそれを見送りながら、今回の戦いをいつまでも忘れずにいる事を心に誓った。

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