四十二歳の異世界冒険記   作:ショウキン

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第九話「束の間の平穏と新しい武器」

「はぁ、はぁ。マンジイ、しっかりしてください」

 

「う、うむ」

 

 ボチャたちとの戦いから三日後の朝、ボクとマンジイは息切れしながら砂丘を進んでいた。

 

 デビレンとの戦闘回数は今日だけで三回。

 

 おそらく、デビレン側は砂丘という場所が人間たちにとって体力を消耗しやすいと分かっていてやっているのだろう。

 

 それが分かったところで、現状ではどうにもならないのだが。

 

「はぁ、こんな異常な遭遇確立じゃ身が持ちませんよ。あとどれくらいで砂丘を抜けられるんですか?」

 

「そうじゃな。少なくとも半日以上は、う、うう」

 

「え? どうしたんですか?」

 

「すまん。持病の腰痛が」

 

「はぁ、マンジイ、腰痛持ちだったんですか! しかもこんなタイミングで」

 

 ボクはどうしていいか分からずパニックになった。

 

 その様子を遠くから一人のおばあさんがじっくりながめていた。

 

「ふーむ。そこのお二人、ちょっといい?」

 

「ん? 誰じゃ、ばあさん」

 

「すぐそこの町に住んでいる者よ。さっきの戦い見てたわ。あなたたち強いじゃないの」

 

 おばあさんはなにやら渡したい物があると続け、ボクたちを近くの町へと案内した。

 

 その町は、ここからしばらく歩いたところにある大きな町だった。

 

 砂丘を旅する人が多く立ち寄る休憩地点ともいえる場所なのだという。

 

 ボクは、手厚い施しを受けられるかもとわずかな希望を胸に足を勧めたが、町へ着いた途端に驚愕した。

 

 町はすでにデビレンたちの手によって壊滅させられていたのだった。

 

 どこを見渡しても、周りは破壊された建物ばかり。

 

 さらには血や骨の一部のようなものも散乱し、まるで地獄絵図だった。

 

「こりゃひどいの。まるで戦争でもあったようじゃ」

 

「あの、ほかに人は?」

 

「私一人よ。まぁ、うちにおいでよ」

 

 おばあさんは町はずれにある自宅にボクたちを案内した。

 

 すでにそこも無残に半壊させられていたが、彼女は今もここに住み続けているという。

 

 家の中もやはりひどい荒れようで、ここで起こった出来事が容易に想像できた。

 

 ただリビングにかざられている写真だけが幸せな日々の記録を刻んでいた。

 

「ここに写っているのは、ばあさんの家族かの?」

 

「夫と息子夫婦と孫たちよ。みんな、死んだわ」

 

 おばあさんは、この町で起こった惨劇を話してくれた。

 

 すべてのはじまりは今から一か月前の早朝。

 

 レベルスリーのデビレンが百人近い部下たちを連れて襲来。

 

 町人対デビレンの激しい戦いがはじまったという。

 

 しかし、この町は優秀な保安部隊が常駐していた事もあり、デビレン側はあっけなく退散。

 

 それで一件落着かと思われたが、半日ほどたった後に今度は退散したデビレンの上官と思わしきレベルフォーのデビレンが三人で現れ、圧倒的な力で保安部隊を蹴散らしてしまったそうだ。

 

 その先の話は本当に地獄だった。

 

 強者たちを失い、逃げまどう町人たちの話、次々となぶり殺され吸収されていく町人たちの話。

 

【挿絵表示】

 

 おばあさんの家族が泣きながら逃げまどった末にとどめを刺される話。

 

 どれも聞くに堪えず、つい口を押えてしまった。

 

「う、ぐぐ。す、すいません」

 

「ニシくん、気にせんでよい。こんな話を聞いて平然としていられる方が無理があるからの」

 

「あなたたち、さっきの話を聞いても、デビレンたちと戦い続けようとする気持ちは変わらないかい?」

 

「いや、変わった。よりやる気が出てきた。よけいに奴らを野放しにはしとけんじゃろうからの」

 

「ぼ、ぼ、ボクもです。はい!」

 

「そう。やはりあなたたちを連れてきてよかったわ」

 

 おばあさんは立ち上がると、リビングの奥からボロボロの箱を持ってきた。

 

「どうぞ、開けてみて」

 

「あ、はい。あ、これは」

 

 中に入っていたのは、棍棒、小刀、小銃の三つ。

 

 パッと見はどこにでもあるような普通の武器だ。

 

 だが、実際に手に取って見ると、まるで生き物を抱いているような不思議な感覚がした。

 

「おばあさん、これは一体?」

 

「右からパワー強化の棍棒ガドッグ、スピード強化の小刀ザクメル、体内の水分を冷気に変えて弾丸化する小銃イアチャ。すべて覚醒丸を使って作った特製の武器よ」

 

「覚醒丸? たしか、人間の中に眠っている力を強制的に引き出す太古の石じゃな。まだ残っておったとはの」

 

「残っているといっても、もうこの武器だけよ。元々は保安部隊にいた息子が愛用していた物なんだけど、使ってくれないかしら?」

 

「そ、そんな大事な物もらえません。息子さんの形見なんでしょ?」

 

「私が持っていても宝の持ち腐れでしょ。憎いデビレンたちを倒すのに役立ててくれればこんなうれしい事はないわ」

 

「ニシくん、こんないい物をもらったからには、意地でも戦い続けなければならんの」

 

「ま、マンジイ、プレッシャーをかけないでくださいよ」

 

 ボクはやや恐縮しつつ、三つの武器を受け取った。

 

 はっきり言って、そうとうな重圧だ。

 

 何しろ、この町で無念の死を遂げていった人たちの思いを引き継いでしまったと言っても、過言ではないのだから。

 

 しばらくは震えが止まらず、呆然と立ち続けるのだった。

 

「あ、あ、りがとうございます。大事に使います」

 

「ええ。さぁ、今日はもう遅いし、うちでゆっくりしていきなさいな」

 

「それはありがたい。さすがにもう限界に近かったからの」

 

 ボクとマンジイは数日間、この町で休ませてもらうことにした。

 

 残金を気にせずに心置きなく休めるだけでもありがたかったが、何とおばあさんは食事まで用意してくれた。

 

 近くの畑に残っていた野菜のスープと雑穀のようなものが一品だけだったが、ゲテモノばかり口にしていたボクにとっては十分なごちそうだ。

 

 何だか、日本でのんびり暮らしていた頃を思い出して、ホンワカした気分になった。

 

 しかし、ホンワカし過ぎて訓練の方もおろそかにしてはいけない。

 

 五時間ほど休んだ後は表に出て、おばあさんからもらった三つの武器を使い始めた。

 

 最初に手に取った棍棒ガドッグは使いやすくていい武器だった。

 

 攻撃性能はもちろん、耐久性を生かしてガードにも利用できるし、どちらかといえばパワー型のボクには相性ぴったりだ。

 

 強力な再生能力を持つレベルスリーのデビレンにも有効打になるだろうし、メインウェポンとして使っていけそうだ。

 

 だが、強制的に力を引き出すという性質上しかたないともいえるが、使用後に両腕を襲う反動が半端ない。

 

 そして、次に使った小刀ザクメルは身に着ける事で超高速移動が可能になるという武器で、スピードが極端に足りないボクにとっては優秀な補完要員といえた。

 

 ただ、反動は棍棒ガドッグ以上に凄まじく、使用後はめまいと共に倒れてしばらくは動けなくなる。

 

 これは複数の敵を相手にしているときは、あまりに致命的過ぎる。

 

 強力な武器ではあるが、実戦で使うには早すぎるようだ。

 

「はぁ、はぁ。反動はボク自身が強くなっていけば軽くなっていくはず。が、んばらないと」

 

 ボクは反動に押されつつも、歯を食いしばり訓練を再開した。

 

 その後はマンジイも加わり、夜明けまでひたすら体を動かすのだった。

 

 

 

 

「えっ、今夜ですか?」

 

「そうじゃ。別に何の問題もあるまい」

 

 砂丘の町で訓練を始めてから五日後、ボクとマンジイは出発のめどを立て始めていた。

 

 長旅の疲れもとれたし、これ以上いてはおばあさんに負担をかけてしまう。

 

 まぁ、妥当な判断と言えるだろう。

 

「あまりここの暮らしに慣れ過ぎてもいけませんしね」

 

「その通りじゃ。それに実戦を長期間やらないというのも考え物じゃしの」

 

 出発は日付が変わった直後と決まった。

 

 ボクたちはおばあさんにその事を伝え、今までのお礼を言った。

 

 おばあさんの方もボクたちに感謝していたようで、深々と頭を下げてきた。

 

「私はね、この数日間本当に楽しかったの。食事を作ってやったり、お話をしたりで、みんなが生きていた頃のようでね」

 

「おばあさん」

 

「それにね、私はあなたたちが来なかったら一人で敵討ちに行くつもりでいたの。かなわないと分かっていても、みんなを殺した奴らがのうのうと息をしているのがどうしても許せなくて」

 

「そうか。じゃが、あとはワシらにまかせればよい。せっかく拾った命じゃ。捨てたりしたらバチがあたる」

 

「ええ。だから、あなたたちに命を救われたも同然ね。本当にありがとう」

 

「それで、これからどうすんじゃ? これからもここに住み続けるのかの?」

 

「まぁね。ここはみんなが眠る場所だから、はなれるわけにはいかないよ」

 

「そうですか。お互い、がんばりましょうね」

 

 明るさを取り戻した町で再会する事を約束して、ボクたちはおばあさんと別れた。

 

 ボクたちはデビレンたちとの戦い、おばあさんは町の復興。

 

 お互いに長く険しい道を進んでいくのだった。

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