マイナー太陽神ヘリオス、人になる   作:歌詠

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10話 真紅の決死圏

 

 

 

 ヘリオスは、力のない神だった。

 

 一級神には遠く及ばず、二級神には鼻で笑われる、

 ティターン十二神の子であり、太陽神であるということだけが、ヘリオスを太陽(ヘリオス)たらしめる、存在の証明となっていた。

 

 悔しかった。

 

 自分が悪く言われることが、ではない。

 それくらいならば、許容することもできたのだ。

 自らが力のない三流神であることは事実なのだから、好きに言わせておけ、と無視をすることができた。

 

 だが。

 自らを貶す者達が、大切な家族の名を挙げ連ねて、哄笑の対象とし、侮辱することだけは、許せなかった。

 

 だから、ヘリオスは、必死になって努力をした。

 小さな掌が血塗れになっても手綱を握り続け、ペガサスを御すべく鍛錬を重ねた。

 "光に照らされた万物が、良き方へと導かれますように"

 そんな願いを小宇宙に込めて、小さな神は世界を駆けた。

 

 やがて、暫くの時が経ち。

 願いは、"浄化"という性質へと昇華した。

 細腕にはしなやかな筋肉がつき、ペガサス達とも仲が良くなって、

 気が付けば、ヘリオスは太陽神の呼称に恥じない、立派な神へと成長していた。

 純粋な神力(デュナミス)は相も変わらず弱くとも、自らの役割を遂げられるだけの小宇宙を得ることが出来たのだ。

 

 安心した。

 

 これでもう、父上や母様、可愛い妹達が誹られることはないだろう。

 時は巡り、太陽を司る友ができ、安寧と停滞に満ちた、幸福な日々が訪れる。

 

 ──しかし、

 

 地に落ちて、力を失って。

 目の前で戦う、小さな恩人の背中を見るだけしかできない、今の自分を顧みて、痛感する。

 

「・・・・・・俺は、あの頃と、何も変わってはいなかったのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 大地を覆う真紅の薔薇──魔宮薔薇(ロイヤルデモンローズ)

 魚座の操る、触れた者を死へと誘う、恐ろしくも美しい毒の薔薇。

 そして、

 その毒の海を物ともせずに光速で駆ける、二つの陰。

 

「初手より奥義にて仕る──!」

 

 アルバフィカから距離を取った場所で、アフロディーテは声高らかに叫んだ。

 

「──ピラニアン・ローズッ!!」

 

「・・・ピラニアン・ローズ!」

 

 刹那の時を刻んで、アルバフィカも鋭い声で技名を口にした。

 

 途端、漆黒の薔薇が、空間を埋め尽くすようにして発生する。

 黒水晶のような、美しい輝きを纏う少年の薔薇と、全てを拒絶するが如き、闇の瘴気を撒き散らす青年の薔薇。

 両者の黒薔薇は、それぞれの標的へと向かい、空間を引き裂き疾駆する。

 

 "ピラニアン・ローズ"

 触れたものを粉砕する程の、恐ろしい威力をもつ、魚座の必殺技の一つ。

 本来ならば花びらは拡散しつつ敵に襲いかかり、まるでピラニアが獲物を食い散らす如く、対象をズタズタにするのだが・・・。

 

 ドドドドドッッ!!! 

 

 と、莫大な振動が空間を支配した。

 アルバフィカとアフロディーテ、両者の放った数百・・・いや、千を優に超えるであろう黒薔薇の群れが衝突する。

 花びらが拡散する間もなく、さながら戦場で射られる矢の如く。

 漆黒の嵐は、互いを食い潰し合うようにして、主の敵を穿たんと襲いかかった。

 

「・・・当たれば、串刺しじゃ済まないな」

 

 拮抗する膨大な小宇宙の衝突に、乾いた声が喉から漏れ出た。

 

 前方、離れたところでピラニアン・ローズを繰り出すアフロディーテ。

 そして・・・少年の黒薔薇を防ぎきれず、白い衣を己の血液で汚していく、アルバフィカ。

 

 戦況は、僅かにアフロディーテに傾いているようだった。

 ・・・だが、

 

「・・・どうして、アベルは動かないんだ」

 

 身動ぎもせず戦いを眺める異界の神が、今は何よりも不気味だった。

 聖闘士の掟である、一対一の戦いを遵守しているから? 

 ──否。

 聖闘士の掟を守っても、アベルにとって益になることはない。

 

 では、わざわざ自分が手を下すまでもないと考え、アルバフィカに一任しているのか。

 ・・・いいや、戦況はアフロディーテに傾いている。

 そんな余裕はないはずだ。

 だとすれば。

 アルバフィカがアベルの支配に抗い、その抵抗を抑え込むのに手一杯なのか、

 

「・・・それとも、()()()()()()()()()()

 

 囁くように呟いて、俺は眉根に力を入れた。

 静かに佇むアベルを凝視し、その真意を探ろうとする。

 

「目を覚ませ、魚座のアルバフィカよッ!! そのような暗闇に飲み込まれる貴公ではないはずだ!!」

 

「・・・・・・」

 

 荒い声で呼びかける少年と、鮮血を撒き散らしても攻撃の手を休めない、異界の聖闘士。

 目の前で繰り広げられる、仲間同士の戦い。

 

「・・・・・・見ているだけしか、できないのか」

 

 虚しさが胸中に蟠り、思わず唇をぎゅっと噛み締めた。

 何故、必要なときに限って、俺は何もすることができないのか。

 

 ・・・もしも、もしもあの抗戦地点に踏み込めば、ボロ雑巾のように惨めに、塵よりも虚しく身体を散らすことになるだろう。

 不死身の身体だ。

 再生には時間がかかるだろうが、一度くらいなら、少年を庇うことができるかもしれない。

 しかし、タイミングを誤れば無駄に身体を散らすことになる。 

 アフロディーテに隙を作ってしまうかもしれない。

 

「・・・ちくしょう」

 

 力のない自分が、惨めで、悔しかった。

 だが、少年の足を引っ張ることだけは、してはならない。

 結果・・・今の俺には、視て、考える。

 ただ、それだけのことしか、許されてはいなかった。

 

 

「はあああぁぁぁッ!!」

 

 アフロディーテが咆吼する。

 相殺を免れた黒薔薇を叩き落とした少年は、気合いと共に高く、跳躍した。

 激しい黒薔薇の衝突が、轟音を炸裂させる空間を超え、

 少年は、天に輝く光球を背に、アルバフィカを鋭く捉えた。

 

 

「その身に受けるがいい──ブラッディ・ローズッ!!」

 

 ゴオッ!! と、風が唸り声をあげると同時に、少年の掌から、眩い光芒が迸った。

 

 魚座の黄金聖闘士、最大にして、究極の必殺技、"ブラッディ・ローズ"。

 小宇宙を込めた白薔薇を相手の心臓目掛けて投げつけ、刺さった白薔薇が対象の血液全て吸い上げるという、恐ろしい技だ。

 

 一輪の白薔薇は宙を駆け──

 

「・・・!」

 

 ──アルバフィカではなく、戦いを眺望していた異界の神へと突き進んだ。

 

 猛烈に邁進する白薔薇は、少年の想いに呼応するが如く、温かくも力強い光を放つ。

 さながら、その光は、万物を照らし出す陽光のようだった。

 ・・・"願い"だ。

 アベルに対する怒りではなく、白薔薇に込められたのは、切実な願いだった。

 地上よ、人の世よ、平和であれと。

 同胞よ、異界の魚座よ、安らかに眠れ──私が、全てを終らせてみせる。

 そんな、アフロディーテの全身全霊の想いをのせた、究極の一撃だった。

 

「・・・ふん・・・()()()

 

「っ──!!」

 

 ──ドシュリ。

 

 鈍く、耳障りな音が鼓膜へと届いた。

 瞬間、戦慄くアフロディーテの視線の先で、血しぶきが、艶やかな空の髪を汚す。

 

「あ、あ・・・」

 

 理解が追いつかず、強張る唇を震わせて、俺は呻いた。

 

()()()()()()()()()()()()・・・!?」

 

 視線の先。 

 そこにはアベルを庇い、心臓にブラッディ・ローズを受ける、異界の同士がいた。

 どぷり、とアルバフィカの口から鮮血が伝い、純白の衣を汚していく。

 灼熱の痛みが、身を引き裂かんばかりの衝撃が、その身を支配しているはずなのに・・・

 アルバフィカは眉一つ動かさず、凍てつくような瞳で、アフロディーテを見据えていた。

 

「相見える敵を無視し、不意を突いて私を攻撃するなど・・・この世界の魚座(ビスケス)とは、随分と卑怯な存在であるようだ」

 

「っ──お前ッ!! 巫山戯るなよ! アルバフィカを盾にしておいて、アフロディーテを卑怯と誹るだとッ!? それでもお前は太陽神か、それでも誇りのある神なのかッ!?」

 

 燃え上がるような怒りが沸き起こり、俺は鋭く叫んだ。

 しかし、アベルは自らを糾弾する言葉を涼しい顔で受け止めて、静かに口を開いた。

 

「何を喚く・・・戦士が、その身を挺して主を守るのは、おかしなことではないだろう」

 

「お前が無理やりそうさせたんだろう・・・!? これ以上そこの人間の・・・アルバフィカの命を弄ぶなよ!」

 

「神に命令をするとは・・・身の程を知らぬ愚か者が。・・・貴様は私に意見をする前にまず、臆病な太陽神を、この場に引きずり出すことから始めるがいい」

 

「臆病・・・だと?」

 

「それが、相応しい評価だろう。自らが統治する島の守護を女神の聖闘士に任せ、この場に現れない卑怯で臆病な神・・・いいや、若しくはこの島の顛末になど、然程の興味も抱いていないであろう神に比べれば・・・私の行ないの何処に、非を見いだせようか」

 

「っ・・・」

 

 言葉が、詰まった。

 

 ヘリオス(オレ)は今、ここに居る。

 だけど、

 

『自らの統治する島の守護を女神の聖闘士に任せ──』

『この島の顛末になど、然程の興味も抱いていないであろう神──』

 

 アベルの放った言葉は、残酷なまでに、的を得ていた。

 

 偶然、このロドス島が危機的状況にあると知らされるまで、俺の頭の中は、天界に戻ることで一杯になっていた。

 ・・・いいや。

 それどころか、ゼウスに島を与えられた時ですら、この地に対する興味は微塵もありはしなかった。

 

 俺を信仰してくれた民のことなど、頭の片隅にも置いてはいなかったのだ。

 

『神が守るべきものは、己を信じる民─そして理想郷を生む為に想いを分かち合う同胞だ』

 

 かつて、遠い昔に、父上が教示してくれた言葉が蘇る。

 あの頃は、俺を信じてくれる民も、友も、存在しなかった。

 

 だけど、今は、

 

「そうだ・・・民も、友も・・・大切なものは全て、手を伸ばせば、届く場所にいたんだ。・・・それなのに、俺は」

 

 ──全てを諦めて、自らの殻に閉じこもった。

 

 俯き、項垂れる。

 言い返さない俺に対し、表情を変えず、異界の神は言葉を続けた。

 

「ふん・・・アポロンの友を嘯く、太陽神ヘリオスに連なる人間よ、貴様とて、同じであろう。歳もそう変わらぬであろう、そこの聖闘士の背に隠れ、声を荒らげることしかできない・・・どころか、アルバフィカの黒薔薇から守られていた者が私を糾弾するなど・・・失笑も零れぬわ」

 

「──は?」

 

「なんだ、その間抜けな面は? ・・・己こそが、目の前の少年を盾とする卑怯者であったことに、言われてるまで気がつかなかったとでも言うのか? ・・・フッ、なんとも、目出度い頭であるようだ」

 

 漆黒の瘴気を撒き散らして、アベルは酷薄な笑みを浮かべた。

 異界の神の言葉が、深く突き刺さる。

 ぴしり、と、魂の奥底で、何かに亀裂が走る音が響いた。

 傷など一つも負っていないはずなのに、心が、魂が、引き裂かれるような激しい痛みを主張する。

 

「・・・嘘だ」

 

 俺は、既に、アフロディーテの足を引っ張って──、

 

 

「──誰が、卑怯者だと?」

 

 地を這うような声が、空気を揺らした。

 霞む視界の中で、肩を震わせる人間が、一人。

 

「なぜ、戦う力がないというだけで、貴様は、ヘリオスを卑怯と謗れるのだ?」

 

 それは凜々しい、少年の声だった。

 

「私は先刻言ったはずだぞ、ヘリオスは既に、自らに課せられた役割を遂げたのだと。ロドス島の民を毒から救い、アルバフィカの傷を癒し・・・この場を、私へと繋いでみせた!」

 

 柳眉を吊り上げて、烈火の如き双眸で、アフロディーテは噛み付くようにして言い切った。

 ぽかんと間の抜けた顔で硬直していると、小さな戦士は振り向き、

 

「そこの、三流神ヘリオスッ!!」

 

「っ!? な、なんだ?」

 

「君こそ、何を縮こまっているんだ! 教皇様から与えられた任以上のことを、君は成し遂げたのだぞ? 誇りこそすれど、そこのくだらん神の戯言に付き合う必要はないだろう!?」

 

「だ、だけど・・・俺は、お前を盾にして・・・」

 

()()()()()()()? 前に教えただろう・・・聖闘士とは、民の盾となり、鉾となる存在なのだ。私が君を護ることに、何の問題があるというのだ! 無力を嘆いても不毛なだけだ! 背伸びをする必要はない・・・君は、今の君に出来ることをしろッ!!」

 

 アフロディーは憤然とした様子で、いつものように、俺を叱責した。

 敵に向けるよりも強い炎を灯した双眼で、俺を一瞥して、少年は身を翻す。

 

「・・・・・・」

 

 俺は、間抜けに開けていた口を、静かに閉じた。

 

 普段ならばムカッと頭にきて、言い返していたであろう、不敬で不遜な人の言葉。

 それが。

 その一喝が、今は、

 

 ──存外、ガツンと胸に響いた。

 

「・・・聖闘士め、余計なことを」

 

「異界の太陽神よ! 最早、貴様を守るアルバフィカはブラッディ・ローズに心臓を穿たれ、身動きがとれん・・・観念するがいい! 我が同胞の誇りを汚し、無辜の民より平穏を奪おうとした罪・・・女神の名の下に断罪してくれる!!」

 

 憤るアベルに向けて、アフロディーテは力強く宣った。

 そして、

 ──再び、少年の掌に、眩い光芒が宿る。

 二輪目の──ブラッディ・ローズだ。

 アフロディーテは白薔薇に小宇宙を込めて、大きく腕を振りかぶった。

 

 しかし。

 

 

「──だから、甘いと言っているッ!!」

 

 怒りの篭もったアベルの声が、世界に轟くと同時に、

 

 ──血塗れの聖闘士・・・アルバフィカの瞳が、妖しく瞬いた。

 

 

「──クリムゾン・ソーンッ!!」

 

 迸る、獰猛な雄叫び。

 アフロディーテの不意を突く、必殺の一撃。

 

「──なっ」

 

 アルバフィカの傷口から射出される、深紅の鮮血──猛毒の針の雨に、アフロディーテは小さく喘いだ。

 少年の知らない、アルバフィカのみが操れる技による、敵の殲滅。

 自らの聖闘士が傷を負い、アフロディーテが油断をした瞬間を・・・アベルは、狙っていたのだろう。

 

 硬直する少年に、幾千を超える毒の針が襲いかかる。

 

 ──だが。 

 

 

「──浄化炎(メギド・フレア)アアアッッ!!!」

 

 その全てが、()()()()()()()

 

「ッ・・・!?」

 

 息を呑んだのは、誰だったのか。

 カッ、と閃光が迸り、純白に輝く炎が、猛毒の嵐を退けた。

 かつて、巨蟹宮の壁を覆う、人間達の魂を輪廻へと送った浄化の小宇宙──浄化炎(メギド・フレア)が、毒薔薇の園ごとアルバフィカの攻撃を包み込んだ。

 

「ガハッ・・・ゲホッ・・・あ゙ぁ、良かった・・・()()()()()()()()!」

 

「ヘリオス・・・!」

 

 血を吐きつつも、俺はアフロディーテの傍らまで歩みを進めた。

 

「無茶をする・・・!」

 

「無茶なものか。それに、()()()()()()()()()()って、そう言ったのは、お前だろ」

 

「! ・・・フッ、そうだったな・・・感謝する。流石の私も、今の一撃には耐えられなかった」

 

 アフロディーテは薄く笑い、視線をアベルへと戻した。

 倣うようにして、俺も前を向く。

 異界の神は、どす黒い瘴気で大気を震わせながら、俺達を睨みつけていた。

 

「おのれっ・・・アルバフィカの瘴気を祓ったその小宇宙。・・・やはり、先に片付けるべきは貴様だったか! 太陽神ヘリオスに連なる者よッ!!」

 

「ぐっ──あ゙あああぁぁッッ!!」

 

 アベルが怒声を放つと同時に、アルバフィカの心臓から、漆黒の闇が激しく噴出した。

 全身を飲み込む瘴気に、異界の聖闘士は苦悶の叫びをあげる。

 そして、最早焦点の定まっていない双眼で、絶叫する。

 

「クリムゾン・ソーンッ!!」

 

「っ──浄化炎(メギド・フレア)ッ!!」

 

 再び襲いかかる猛毒の奔流に、俺は、小宇宙を解放する。

 掌から、純白の炎が発生し、クリムゾン・ソーンを相殺していく。

 

「うっ・・・」

 

 ゴプリ、と血の塊が地面を汚す。

 それでも、アルバフィカの攻撃が止むまでは、耐えなければならない。

 ガクガクと震える全身を叱咤して、俺は両手を掲げ続けた。

 

 しかし。

 

「・・・()()()()

 

「・・・あぁ」

 

 傍らで声を漏らす少年に、俺は小さく頷いた。

 

 降り止まぬ、猛毒の嵐──()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「もうとっくに、人間の体内に循環する血液は全て放出したはずだッ!! それにも拘わらず・・・なぜ尽きない! なぜ、その命を流し続けることができるんだッ!!」

 

「・・・フッ、ハハハハハッ!!! 最初から貴様達には、勝利などはなかったということよッ!」

 

 アベルは、狂ったように嗤う。

 

()()()()()()()()()!! 自らの命を刃と変える、アルバフィカの最大にして諸刃の秘技、"クリムゾン・ソーン"・・・その欠点を補う策としては、これ以上の方法はないだろう!!」

 

「っ!? 死者を蘇生し続ける、だと・・・!?」

 

「そうだ。・・・無駄な小宇宙の浪費はしたくはなかったが・・・最早、躊躇うまい!!」

 

 アベルは獰猛な笑みを浮かべて、これ以上言うことはないと、口を閉じた。

 

 

「・・・・・・そんな」

 

 身体から、力が抜けていく。

 

 ──届かないのか。

 

 俺達では、異界から来た脅威に対抗することは、できなかったのか。

 同胞を、アルバフィカを支配の軛から解放することも叶わずに。

 ロドス島の民を守ることも出来ずに。

 

 惨めに、負けてしまうというのか。

 

 口内に広がる鉄の味も薄れていき、世界が、遠くなる。

 諦めたくない。

 抗いたい。

 だけど、どうしようもなく──力の差は歴然だった。

 

 

「・・・ヘリオス、君に、頼みがある」

 

「・・・・・・アフロディーテ?」

 

 少年が、静かに言葉を放った。

 この状況で、何を頼むというのだろうか。

 怪訝に思い、弱々しくその名を呼ぶと、

 

 

「君は、()()()()()。・・・そして、射手座のアイオロス、双子座のサガ、山羊座のシュラ・・・彼等の内から一人を・・・最後に、死者の魂を操れる者──蟹座のデスマスクを、この地へと連れてきて欲しい」

 

 

 迷いのない瞳で、そう言った。

 

 

 

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