マイナー太陽神ヘリオス、人になる   作:歌詠

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17話 命を灯せ

 

 

 

 

 

 ──死を、確信した。

 

 サガが放った小宇宙の波動には、生の終わりを悟らせる程の威力があった。

 景色が白一色に塗りつぶされる。

 恐ろしいと思った。

 名のある技ですらないただの威圧で、神である己が畏怖を覚える、その実力に。

 

 だが、

 今この瞬間、それ以上に強く俺の胸中を駆け抜けた感情は──哀しみだった。

 俺自らの命が尽き、未来への道が閉ざされることが・・・ではない。

 運命を翻弄される人間達が、不憫で仕方がなかったから。

 誰かを守るために磨き上げられた男の力が、仲間を殺すために振るわれている現実が、悔しくて、虚しくて、許せなかったから。

 

 俺は、まだ、死ねない。

 

 己のためにも、

 アフロディーテとの誓いを果たすためにも、

 アベルの居場所を創る日のためにも、

 海へと落ちたカノンのためにも、

 

 そして・・・──サガのためにも。

 

 ・・・ああ、だというのに。

 このままでは、この身もろとも、全ての想いが溶け消える。

 サガの放った小宇宙の一撃で、俺は塵と化し・・・

 そら、白く霞んだ景色も、()()()()()()──、

 

「・・・あ、れ?」

 

 間抜けな声を漏らしながら、瞬きを繰り返す。

 確認する。

 視覚が捉える世界の彩りを、鼓膜へ届く音の連なりを、

 そして、

 ──生が途絶えず在ることを。

 

「──ヘリオス、アイオロス、太陽の天馬よ・・・無事か?」

 

「っ・・・シオン! ああ、無事だ!」

 

 力強く返すと、片目を後ろへと向けた緑髪の賢者は、穏やか微笑みを浮かべて前へと向き直った。

 人間の掲げた手の先には、極光を放つ透明の壁が、俺達を守る城壁のように展開されている。

 シオンが、俺達を守ってくれたんだ。

 

「馬鹿な・・・左胸を抉られておきながら、私の波動を防いだだと?」

 

「フン、重傷者が相手ならば容易に一掃できるとでも思うたか? 慢心も極まれば、己が首を絞めると知れ・・・──クリスタルウォール! 我が小宇宙潰えぬ限り在り続ける、光の障壁よ」

 

「成る程・・・若返ったのは見て()れだけではないといういうことか」

 

 サガは極低温の響きを纏った声で呟き、シオンを睨めつけた。

 風も吹いていないというのに、男の灰色の長髪が、怒りを露わにするかの如く放射状に拡がっていく。

 さながらその姿は、己の欲を満たすためならば一切の躊躇いを捨て去れる、慈悲なき簒奪者のようであり・・・また、時折天界で会遇した、かの戦神を彷彿とさせる禍々しい有様でもあった。

 今のサガを相手に、情けや容赦といった感情は期待するべきではないのだろう。

 立ち向かい、抗い、戦い抜くことでしか、この場を生き抜くことは叶わない──・・・、

 

「・・・・・・」

 

 ああ、何故だろうか。

 過去にも、こんな事があったような気がする。

 心がじくじくと痛んで、酷く息が苦しい。

 カノンも、教皇シオンも、アイオロスも・・・サガも。

 違いはあれど、彼等は一つの目的のために手を取り合い、己が栄光のためではなく、ただ、この人の世の未来の為にと戦ってきた仲であるというのに。

 どうして、同胞同士で対立し、戦わなければならないのだろうか。

 

「ヘリオス、どうした、傷が痛むのか?」

 

「! ・・・悪い、アイオロス・・・俺は大丈夫だ。それよりも、今は、この場を凌ぐ術を考えなければならないな」

 

『フルル・・・』

 

「アネモスの小宇宙もあと僅かか・・・ここは、シオンがサガを押し留めている間に、聖域に滞在する黄金聖闘士たちに、助けを求める他ないか」

 

「・・・・・・」

 

「アイオロス?」

 

 突如として険しい表情で黙した男に、俺は懐疑的な視線をやった。

 アイオロスは眉根を寄せながら、拳を固く握りしめると、低く答えた。

 

「・・・ヘリオス、それは、できんのだ」

 

「は?」

 

「──クッ・・・ハハハハハッ!! ああ、そうとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。最早、この聖域に味方は存在しないのだと・・・嫌と言う程に、己が未来を理解できているではないか、アイオロスよ!!」

 

「ぎゃく、ぞく・・・何を言って、」

 

「はは、私は未だ、未来を諦めてなどはいないのだがな、もう一人のサガよ」

 

 芯の通った声でアイオロスは宣ってみせた。

 しかし、依然として状況は読めないままだ。 

 

「アイオロス・・・どういうことなんだ?」

 

 傍らの男に向い焦燥混じりに問い掛ける。

 すると、アイオロスは小さく息を吐き出してから、口を開いた。

 

「・・・サガがアテナを殺めようとしているところを、偶然発見してな。間一髪で防げたまでは良かったが、教皇に扮したサガの命により、私はアテナを殺そうとした逆賊として、聖域中に名を轟かせる者となった」

 

「はあ・・・!?」

 

「・・・成る程、お前の傷口から、シュラとデスマスクの小宇宙を感じたのは、そのためだったのだな」

 

 冷静さを保った声音で、シオンは言った。

 しかし、どうしても納得できなかった俺は、噛み付くようにして叫んだ。

 

「っなんでだよ・・・! デスマスクは知らないけど、あの山羊座はアイオロスと仲が良さそうだったじゃないか!! 他の人間達もそうだ・・・皆、アイオロスのことを、羨望と信頼の混じった眼差しで見ていたのに・・・それなのに、」

 

 

 ──どうして誰も、アイオロスのことを、信じてやらなかったんだ。

 

「・・・ヘリオス、」

 

「お前もだアイオロス。どうして仲間に殺されかけて、逆賊と呼ばれ、誰も信じてくれないのに・・・お前はそんな平然とした顔ができるんだ」

 

「・・・・・・」

 

 弱々しく問うが、返答はない。

 すると、前方から、重々しい声が届いた。

 

「・・・教皇の命、そして何よりも、女神アテナの危機とあらば、誰しもが冷静さを失い、真実を見落とす。教皇が私ではなく、偽物と見抜ける者がいれば話も変わったのだろうが・・・此度の天秤は、サガの方へと傾いてしまったのだろう」

 

「・・・・・・シオン」

 

 深い悔恨の滲んだ声で、シオンは語った。

 ああ確かに、筋の通った説示ではある。

 だが、だとしても・・・俺は、納得することはできなかった。

 

「ハッ・・・まるで運が私に味方をしたかのような口振り。私一人が刃向かっただけで瓦解した、貴様の統治に問題があったのだと・・・素直に認めたらどうなのだ?」

 

「・・・・・・」

 

「サガ、お前っ・・・!」

 

「よい、ヘリオス・・・業腹だが、サガの言うように、私は教皇としては不足だった」

 

「・・・なんだと?」

 

 潔く言い切ったシオンに、サガは訝しむようにして眉を寄せた。

 すると、シオンは厳粛な態度を崩さぬまま、言葉を紡ぐ。

 

「私は信じ、疑ってはいなかった。この二半世紀の刻の中で・・・かつて在った未熟な己はとうに消え、この“我”は、教皇たるに相応しい器へと完成したのだと」

 

 シオンはすう、と目を細めると、掠れた声で続けた。

 

「だがそれは誤りだった。気が遠くなるような恒久の刻は、いつしか私を役割をこなすだけのシステムへと甘んじさせた。私は己の手で、己の限界を定め、成長を止めた・・・この身を防人たらしめるは、血よりも熱き心意気だというのに、私は、そんな“熱”を喪ってしまっていた。そして、心の隙間に生まれた慢心から・・・サガよ、お前に、悪霊を取り憑かせてしまった」

 

「・・・未だ、この私を悪霊などと蔑み、愚弄するか」

 

「揶揄している訳ではない。運命神ケールの策略にはまるという私の甘さゆえ、お前はこうして私達に立ちはだかる脅威と化してしまった。なればこそ、私の愚行こそが惨劇を作り出した発端なのだと認め・・・私はお前に贖うためにも、全ての業を背負い、責を果たさなければならん」

 

「っ・・・──老いぼれが、訳の分からぬことを熟々と宣うなッ!」

 

 余裕綽々とした態度と一変、

 サガは忌々しげに身体を震わせると、まるで自分に言い聞かせるようにして叫んだ。

 

「確かに貴様は愚かだったッ!! このサガを差し置いて、アイオロスを次期教皇と任命したのだからな!! ・・・だが、それだけだ。悪霊も運命神も関係ない・・・私は他の何者でもなく、私自身の意思で反旗を翻し──貴様をこの手で屠るのだッ!!」

 

 怒声と共に、サガは腕を交差させると、月を穿たんばかりの勢いで、天へと掲げた。

 途端、

 

 ──ゴウッッ!! と、風が唸り声を上げ、男の手へと集い始めた。

 

 空気が軋む。

 サガの両腕を起点とするかのように、世界に歪みが生まれ、虚空に無数の亀裂が走った。

 ──紛れもない、奥義の兆しだ。 

 シオンは呻き声を上げると、グッと全身に力を入れた。

 

「サガめっ・・・ここで大技を放てば、聖域中に異変が伝わると分かっていてもなお──ッ!!」

 

 シオンは猛然と吼えると、両手に莫大な小宇宙を結集させ始めた。

 七色の、眩い閃光が迸る。

 美しい輝きは、俺達とサガを隔てるクリスタルウォールに押し寄せると、城壁をより頑強なものへと強化していく。

 

 そして、

 

『ヒヒィィーーン!!!』

 

 シオンに次いで、天馬(アネモス)が嘶き声を上げ──風王結界(インビジブル・エア)が精製された。

 風は揺蕩い、捻れ、やがて猛流へと急激な変貌を遂げると、シオンが生み出したクリスタルウォールを呑み込んだ。

 七色の煌めきを閉じ込めた、苛烈に渦巻く大気の層。

 その荘厳さは、地上に顕れた極光(オーロラ)と呼称しても良い程に、圧巻だった。

 

 鉄壁は金城。

 思わず、感嘆の声が喉から漏れ出た。

 

「戦神のアイギスまでとはいかないが、これなら・・・!」

 

 触れずとも分かる。

 アネモスとシオンが創り出した防壁は、俺が破壊した鉄格子を遙かに超える、凄まじい強度を獲得してみせたのだ。

 

 人の身でこの防御を突破することなど、不可能に決まって──、

 

 

「──笑止」

 

 

 嘲る。

 

 

「そのような平板で、我が最大の拳を防げると思ったか」

 

 

 一言で、希望を一掃する。

 

 

「望み通り、命で以て贖罪と為すがいい・・・受けよ、銀河の星々さえも砕く一撃をッ! 

 ──ギャラクシアン・エクスプロージョンッッ!!!」

 

 

 ──圧縮された歪みが、弾けた。

 

 

 万物を砕き滅す、純粋な破壊の力が、極光の防御壁へと衝突する。

 

「ッッ──ぐっ!? なんと、いう・・・でたらめなっ!! おのれ、屈する訳にはああああッッ!!!」

 

『──キュウウウウッッ!!!』

 

 命の小宇宙を炎と燃やし、絶叫するシオンとアネモス。

 

 接触面からは夥しい量の光が溢れ、大地を激しく揺さぶり抉る。

 荒れ狂う両者の力の奔流は、どちらも一向に退く気配を見せず、拮抗し続ける。

 

 数瞬か、それとも数秒か。

 このまま両者は相殺し、消滅するのかと思われた、

 

 ──その刹那。

 

「ッ──不味い、ヘリオスッ!!」

 

 傷口から、深紅の鮮血を撒き散らしながら、

 アイオロスが、俺の目前へと躍り出た。

 

「ぇ──」

 

 間抜けに口を開けるが、続く言葉は、凄絶と迫る爆風に掻き消された。

 

 ──ドッッ!!! と、圧倒的な衝撃波が炸裂し、俺の身体は、恐ろしい勢いで空へと跳ね上げられた。

 轟音が空を引き裂き、四方八方へと余波を撒き散らす。

 クルクルと、世界が回り続ける

 

「──ぁ」

 

 視界の端で、吹き飛んだアネモスが後方の小河へと叩きつけられるのが見えた。

 血溜まりに沈み、倒れるシオンの姿が見えた。

 

「アネモスッ!! シオンッ・・・ぐあッ!!」

 

 鈍い音をたてて、俺は地面へと激突し、転がった。

 喉の奥から咽せるような違和感がせり上がり、直後、ばしゃりと大量の鮮血を撒き散らす。

 

「・・・ぅ・・・ゲホッ」

 

 口端を引き結び、喘鳴混じりに呻く。

 明滅する視界を無理やりこじ開ける。

 震える全身を叱咤して、俺は、未だ生存を確認できていない人物を必死に探し、

 

「──フン、延命にしかならなかったな、アイオロスよ」

 

「ぅ・・・サ、ガ・・・」

 

 見つける。

 サガに首を掴まれ宙に浮く、アイオロスの姿を。

 

「お前の実力ならば、爆風に身を隠し、一人逃れることも出来ただろうに・・・ただの子供を庇いその機を失うとはな。相変わらずお優しい・・・いや、ここは、愚かと評するべきか」

 

「・・・ガッ、ァ・・・!」

 

 ミシリ、と、聞こえてはならぬ音が響く。

 

「アイオロスッ!!」

 

 涙を流しながら、俺は訳も分からず叫んだ。

 

「お前っ・・・生きてるのが不思議なくらいに・・・俺よりも傷だらけで、ぼろぼろなのに・・・!」

 

 ──何故、俺を庇ったのか、と。

 そんな問を投げかけようとして、ピタリと、言葉が止まる。

 

 ──ふいに過ぎった、過去の記憶が、そうさせた。

 

 

『──前に言っただろう。聖闘士とは、民の盾となり、鉾となる存在なのだ。私が君を護ることに、何の問題があるというのだ!』

 

 

 それは、ロドス島の薔薇園で、少年が放った、一喝だった。

 

 思い出した。

 彼ら聖闘士の信念の重みを。

 彼らの意地と執念を、胸を焦がすような、真っ直ぐな覚悟の在り方を。

 

「──嗚呼、そうだ・・・お前達は、異界神ですら憧憬を抱くほどの誇りを掲げ、絆を護ろうとする、そういう生き物だった」

 

 ──答えは既に、俺の中にあったんだ。

 

 最早力の入らなくなった両足を、微かな感覚を頼りに地に着ける。

 ゆっくりと立ち上がると、俺は、真っ直ぐとサガを見据えて言った。

 

「サガ、アイオロスを放せ。その者の命は、俺が預かる」

 

「ほう・・・お前が? 多少特別な小宇宙を操れると聞いてはいるが・・・ただの子が、満身創痍の身で以て、私の相手を担うというのか」

 

「ぐっ・・・」

 

 狡猾に嗤うと、サガは、アイオロスを無造作に投げ捨て、俺へと身を向けた。

 

「お前に割く時間が惜しいが・・・フッ、この局面で命乞いもせず、私へと立ち向かうその勇ましさ・・・──死なさず、傀儡と育てるのも一興か」

 

「・・・・・・」

 

「逃、げろ・・・ヘリオスッ!!」

 

「フン、無駄だ・・・──喰らえ、幻朧魔皇拳(げんろうまおうけん)ッ!」

 

 チカッと、俺を標準したサガの指先が瞬いた。

 虚空を邁進する光線は、一瞬きの時間も要さず俺の額へと到達をし、

 

「俺は、逃げない・・・最後まで諦めない!」

 

 ──閃光は、神殿の柱ほどに増幅され、跳ね返った。

 

「なっ──ッ!!」

 

「やはり、この小宇宙・・・()()()()()()()()()()()

 

 ドッッ!! と、()()()()()()()()()()()()()()()()、光槍となりサガへと押し寄せる。

 賭けではあったが、やはり、想定通りに事が運んだ。

 

 ・・・しかし、

 流石と言うべきか。

 

 サガは瞬時に飛び退き、見事に光線を避けてみせた。

 残念ながら、ここで戦いを終らせてはくれないようだった。

 

「──ヘリオスお前、何をした!?」

 

「俺は何もしていない・・・だが、避けたか。お前の弟(カノン)は、反射されたゲンロウケンとやらに当ったんだがな」

 

「! 何故、カノンを知って・・・奴を知るのは私と、そこに倒れる教皇だけのはず・・・!」

 

 烈火の如き相貌で俺を睨めつけるサガに、俺は小さく唇を動かした。

 

「・・・・・・釣り仲間なんだよ」

 

「・・・は?」

 

「お前の弟は・・・お前が岩牢に閉じ込めた双子座のカノンはッ! 俺の大切な、釣り仲間なんだよッッ!!」

 

 ──ブワッッ!!! 

 叫ぶと同時に、煌々と輝く純白の炎が、俺の身を包み込んだ。

 みしり、みしり、と全身の至る箇所から不快な音が響く。

 負荷に耐えきれぬ傷口から鮮血が噴き出て、地面に滴る。

 だが止められやしない。

 自らの崩壊も、灼熱の痛みも、俺を止める理由にはなりはしない。

 

「っ・・・それが巨蟹宮の亡者を浄化した、お前の小宇宙か! ・・・・・・フッ、だがその程度の微温火(ぬるび)では、私に勝つことなど──!!」

 

 

「──では、私の力を重ねよう」

 

「・・・教皇、貴様・・・まだ生き足掻くかッ!!」

 

「言っただろう、私が、全ての責を負うと」

 

 鮮血を左胸から溢れさせながら、緑髪の賢者は緩慢な動作で立ち上がる。

 ・・・眷属契約の影響で、シオンは、擬似的な不死の状態にある。

 だが、死んだ方が楽と思えるほどの、凄まじい激痛が全身を支配していることに変わりは無いはず。

 意識を手放してしまえば、全ての痛みから解放されるだろうに・・・それでも、抗う道を選ぶか。

 

「・・・シオン」

 

 震える足を一歩ずつ動かして、シオンの傍らに立つ。

 

「ヘリオス、すまないな。私の贖罪に、神であるお前を巻き込み・・・」

 

「良い。・・・それに今、一つ、分かったことがある」

 

「・・・?」

 

 大きく息を吸って、吐くと、俺は静かに告げた。

 

「お前達はいつも、独りで、全てを背負おうとするんだ」

 

 かつて、誇りを重んじる少年は、俺に言った。

 人は、定命の(サガ)を背負う存在であるからこそ、全ての積荷を独りで背負わなくて済むのだと。

 だがどうだ。

 シオンも、アイオロスも、『使命』と称して、全てを一身に引き受けようとする。

 同胞たちを傷つけず、命を守る為に、自らを厭わない道を選ぶ。

 

「きっと、お前達のような者が居なければ、護れない命もあるのだろう。そうせざるを得ない状況に陥る瞬間もあるのだろう」

 

 掠れ声で綴り、「だが」、と一言置くと、俺は声高に断言した。

 

「今は、独りで背負わなくて良い──この太陽(ヘリオス)が、共に在る!!」

 

「・・・!」

 

 だから、お前達が自らに科す罪も、責務も──命も、俺が共に背負い、守ってみせる。

 お前達に助けられた、恩を返すためにも。

 ・・・此の今を、生き抜くためにも! 

 

「そして──サガッ!! お前もだッ!!」

 

「ッ・・・な、にを、」

 

「お前を独り置き去りになんてさせやしない・・・俺達は、サガを、取り戻してみせるッ!!」

 

 ゴウッ!! と、熱風が渦巻き、四方へと吹き荒れる。

 全身から溢れる霊血が粒子と舞い、純白の火炎に溶け、()べられていく。

 命が、燃えていく。

 

「──ッ傲慢な!! 目障りだ・・・傀儡と生きる未来を受け入れんのなら、諸共に死ぬがいい、ヘリオスよッ!!」

 

 激情のままに叫び、サガは、拳圧を放った。

 最早、奥義を使う必要も無いと考えたのか。

 それとも、僅かに働いた理性が、二度目の奥義の発動を躊躇わせたのか。

 

 ──だが。

 その隙が、俺達の、活路への希望を生み出した。

 

「──クリスタルウォールッ!!」

 

 キィィィンッ!! 

 

 甲高い音が夜空に響き渡った。

 サガの放った拳圧が、極光の防壁に弾き返される。

 そして、間髪入れず、俺は叫びを上げた。

 

「命よ、燃え盛れッ──浄化炎(メギド・フレア)あああああッッ!!!」

 

 眩い火焔が解き放たれる。

 全身から放たれた命の猛流は、光の粒子を撒き散らしながら虚空を邁進し──()()()()()()()()()()()()()()

 

「ハッ、笑止な、どこを狙って──」

 

 言葉が、途切れる。

 邪悪な笑みが、次第に、険しい表情へと変貌していく。

 

「言ったであろう──私の力を重ねるとッ!!!」

 

 シオンが咆吼を上げると同時に──クリスタルウォールが、白銀に煌めいた。

 

 ・・・──時に光は、レンズやガラスなど、透明な物質を透過する際に、屈折することがある。

 大気により不可視の空間を作り出す、アネモスの風王結界が、まさに良い例だ。

 光の指向は、物質の形状により制御することが可能であり、光を反射、拡散させることも、

 ──収束し、膨大な熱量を生み出すこともできるのだ。

 

 神の霊血を吸った、純白の炎──浄化の光。

 そして、放たれた奔流を一点に収斂、極限まで凝縮する、シオンのクリスタルウォール。

 

「バ、バカな・・・その輝き、まるで、本物の神の──」

 

「俺の灯火を、微温火(ぬるび)と言ったな? ・・・だったらその微温火(ぬるび)──全て纏めて、受けきってみろッッ!!!」

 

 

 一条の軌跡が、暗闇を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








凸レンズ、平行光、焦点距離・・・?
・・・教皇シオンが小宇宙で何とかしたのでしょう。


お気に入り登録並び、評価や、沢山の感想など、本当に感謝しかありません、ありがとうございます・・・!
時間を見つけつつ、更新していきたい所存ですが、聖闘士星矢の文字がランキングに入ったと分かり、思わずガッツポーズをしてしまいました。
聖闘士星矢の小説が増えることを願いながら、車田先生執筆、本日発売の風魔の小次郎を購入しに行きたいと思います。


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