轟音が、大地を激しく揺るがした。
砂埃が周囲を覆い尽くし、視界の悪い虚空には、道標のようにして白銀の火焔が残滓と舞い上がる。
「ゲホッ・・・っぐ・・・」
どさり、と膝から地面に倒れ込む。
口内に溢れる血液が逆流し、最早、呼吸すらままならない。
「無事、か・・・ヘリオス?」
「・・・・・・辛うじて、生きている・・・」
傍らから響くシオンの声にそう返すと、俺は、砂塵の奥へと視線を移した。
──立ち上がる人影は、見えない。
「・・・届いたのか」
持ちうる全てを出し切った、未来への、万感の願いを込めた一撃は、
サガに、届いたのか。
虚空に舞った砂塵が地へと落ちていく。
視界が、徐々に開けていく。
しかし、
「ッな──
「!!」
探せども、探せども、光線の直撃を受けたはずの男は、何処にも居ない。
有り得ない。
俺と、シオンが束ねた小宇宙の一撃に、黄金聖闘士の身を消滅させるほどの威力はなかったはず──、
「──流石の私も、直撃を受ければ危うい一閃だった」
後方から、聞こえてはならぬ声が響いた。
「っサガ・・・あの局面からどうやって・・・!!」
「──アナザーディメンション。異次元への扉を開く、私の、二つ目の奥義だ」
「くっ・・・直撃を受ける寸前で、異次元へと逃れたというのか!」
荒く肩を上下させながらも、シオンはサガへと向い身を翻した。
しかし、いくら不死の身といえども、既に、精神の限界をとうに超えている。
先の一撃で小宇宙も出し尽くしたのだ。
これ以上は無理筋だ、シオンの魂が崩壊しかねない。
「太陽神ヘリオス・・・自らを神と信じ込んだ、記憶の混濁した少年だと思いきや・・・真の神であったとはな」
サガは、重く息をつくと、一瞬で、俺の目前へと歩を進めた。
「ヘリオス!! ──ぐっ・・・」
ドプリ、とシオンの白い唇に、鮮血が滴った。
身体の稼働限界を迎えたのだろう。
シオンは糸の切れた人形のように倒れると、身を蝕む激痛に耐えかね、悲痛な呻き声を上げた。
だが、強い光を内包した紫の双眼が、俺を真っ直ぐと見据え、訴える。
──逃げろ、と。
「・・・・・・」
懸命に足掻こうとするシオンを目にしても、サガは、何も語りはしなかった。
無言で、俺へと片手を向ける。
・・・ああ、不味い。
抗わなければならないのに、身体が、微塵も動いてくれない。
「ちくしょう・・・これじゃあ、カノンの言った通りじゃないかよ・・・」
「・・・なに?」
懐疑的な声を漏らすサガへ、俺はか細い声を絞り出した。
「あの人間は、苦悶に満ちた声で、言ったんだ・・・自らの想いも、慟哭も、サガには、何も届かなかったのだと」
「・・・・・・カノンが、そのようなことを・・・」
「俺は・・・諦めなければ、きっと届くのだと、信じていた。だからカノンへと手を伸ばした。だから、こうして、お前へと立ち向かった・・・・・・だというのに、届かなかった。どんなに強い願いを胸に秘めていようとも、誰よりも硬い決意を抱いていたとしても、それを成し遂げるための力が、今の俺には足りていなかった」
「・・・・・・」
俺へと向けられたサガの掌に、膨大な量の小宇宙が集っていく。
確実に殺す気なのだろう。
ああ、嫌だ。
俺は未だ何も為し遂げられていないのに。
こんな道の半ばで死んでしまうというのか。
必死に押し殺していた恐怖が、今になって全身を支配する。
堰を切ったように、涙が溢れ出る。
滲んで霞む景色の中で、サガは、静かに唇を動かした。
「確かに、届いたとも」
「・・・・・・え?」
「お前の熱き小宇宙は、私に、運命へと抗う力をくれた」
涙で濡れる景色の中で、変化が、訪れた。
男の、灰に染る長髪が、鮮やかな藍色へと彩りを変えていく。
赤く血走った獰猛な眼が、黒に蒼を溶かし込んだような、穏やかな色を取り戻していく。
「・・・・・・
俺は、問うた。
お前は、焦燥する俺に手を差し伸べ、人の在り方を説いた、俺の知っているサガなのか、と。
弱々しく投げかけられた言葉に、眼前の男は、深く、首を縦に振った。
「ああ・・・迷惑をかけたな、ヘリオスよ」
サガは悩ましげに眉間を寄せ、片膝を地につけると、掌から眩い小宇宙を放った。
温かい奔流が、俺の身へと流れ、凍える全身を癒やしていく。
全身の感覚が明瞭になってきた辺りで、サガは立ち上がり、今度は意識を失ったアイオロスの傍らに歩み寄り、同じようにして小宇宙を分け与え始めた。
「・・・サガよ、お前・・・」
「教皇・・・お察しの通りです、
サガはシオンの下へと歩み、夥しい量の小宇宙を注ぐと、凜然と声を放った。
「私は、賭けに出る」
「!!」
倒れ伏す俺達を包み込むようにして、サガの小宇宙が渦を巻いた。
地面が激しく震動する。
空には歪みが生まれ、異次元へと通じる裂け目が姿を現した。
「サガ、一体なにを・・・!?」
「お前達を、もう一人の私の手が届かぬ場所へと送るのだ」
「っ!?」
告げられた一言に、思わず息を呑む。
他にも何か手段があるはずだと、反論のために大きく息を吸い込んだ、その時。
「──ありがとう、ヘリオス」
サガは、静かに告げて、微笑んだ。
吹き付ける風に、藍の長髪を靡かせながら。
隠しきれない悔恨と、痛々しさの滲んだ相貌で、穏やかに言葉を紡ぐ。
「異次元へと逃れる刹那に触れた、一筋の光が、私に思い出させてくれたのだ。・・・例え滑稽でも、不格好でも・・・涙を流し、泥と血に塗れていたとしても──己の
眩い光を宿した瞳で、男は言う。
「故に私は、異次元へと逃れた、もう一人の
「なっ・・・まさかお前、この騒動を独りで、」
「太陽神、ヘリオスよ」
鳴動する渦の中、男は、静かに、然して確固たる決意の籠もった小宇宙を纏い、
「奇跡は起る、お前が諦めない限り、何度でも。だからどうか、抗う心を、忘れないでくれ・・・お前が信じ、握りしめた正義は、確かに私の心に届いたのだから・・・!!」
「──ッ!」
その言葉は一瞬の衝撃となって、感覚の遠くなった全身を貫き、震わせた。
じわりと染み入るようにして、胸に温かいものが生まれ、やがてそれは両目から溢れる涙へと形を変え、頬を伝った。
・・・──理解は、及んでいるのだ。
最早、綺麗事で片付けられぬほどに、事態が錯綜してしまっていることも。
レムールにより生まれた、もう一人のサガから俺達を助けるためには、選べる手段が限られているということも。
だけど。
俺は小刻みに震える口を、何とかして開こうとした。
運命へと立ち向かおうとする男に、伝えなければならないと思ったから。
独りではないことを。
不条理な運命を共に背負い、抗う同胞がいることを、忘れないで欲しいと思ったから。
・・・しかし、
吹き荒れる猛風を掻き消すほどの、凜と張った叫びが──時を、両断した。
「──アナザーディメンションッ!!」
銀河の星々の如き輝きが、視界を塗りつぶした。
─────
「────、」
何か、音が、聞こえる。
「・・・リオス」
知った声だ。
「ヘリオス・・・!」
俺の名を呼んでいる。
「・・・・・・その声は、シオン、か」
「ヘリオス! 意識が戻ったか」
傍らより、安堵するように、息をつく音が聞こえた。
どうやら俺は、意識を失っていたらしかった。
閉ざされた眼を、ゆっくりと開き、
──硬直する。
視界に飛び込んだのは、時が複雑に絡み合い、位相が法則を捨て錯綜する、闇の世界。
「っ・・・なんという、滅茶苦茶な・・・神の道を逸れた場所か? いや、そうか、違うな・・・サガが言っていた、異次元空間か」
「見間違うのも無理はない・・・我らが飛ばされたこの場所は、十万億土を優に超える、異次元の果ての果て。脱出そのものも容易ではないが・・・時空震動にでも巻き込まれれば、人の身では、たちまち塵と化すこととなる・・・危険な領域なのだ」
焦燥混じりにシオンは言った。
「・・・どうやら、とんでもない場所に飛ばされたらしい」
ぼやきながら、俺は自らの容体を確認することにした。
・・・なんとか、四肢は動く。
見たところ辛そうではあるが、シオンも同様に、最低限の生命力は取り戻したようだった。
恐らくサガは、自らが持ちうる小宇宙の殆どを、俺達に与えたのだろう。
そして、自らですら訪れることが容易ではない、危険な異次元へと、俺達を吹き飛ばしたんだ。
確かに、賭けと言う他ない選択だ。
「・・・・・・」
俺は、重い頭を振ると、沈黙のまま周囲に視線を廻らせた。
前後左右の区別がつかない、距離の感覚も朧気な世界に、俺と、シオンと、意識を失ったアイオロスが、星屑のように漂い、浮かんでいる。
「? ・・・待て、アネモスはどこだ」
「・・・恐らく、ギャラクシアンエクスプロージョンの余波で小河に叩きつけられ、下流へと流されてしまったのだろう」
「っ・・・あの時か!!」
「直撃は避けられていたはずだ・・・だが、海までの距離は近い、溺れていなければいいのだが・・・」
俯き加減に放たれた言葉に、俺は小さくかぶりを振った。
「・・・その心配は、ないだろう・・・アネモスは、風神アイオロスの生み出した風から誕生した、自然とほぼ変わらぬ存在。食物から栄養を摂ったり、眠ったりはするが、水に命を奪われることはない・・・」
そう、溺れる心配は、ないのだ。
しかし、もう一人のサガの命により追っ手がかかれば、小宇宙を使い果たしたアネモスに抵抗する術はない。
早く、早く助けに行かなければ、最悪の事態も考えられる状況なのだ。
「・・・・・・風神アイオロス、か・・・フッ・・・神の口から、その名を聞くとは・・・妙な気分になるな」
「!! アイオロス、意識が戻ったんだな!!」
「うむ・・・友の・・・サガの小宇宙が、ギリギリのところで、私を生かしている・・・だが、ゴホッ」
目を背けたくなるほどの、全身の惨い傷。
生気の欠片が喪われた、大理石のように白い肌。
そして、夥しく溢れる、深紅の血潮。
自らの容体を光のない眼で確認すると、アイオロスは、緩慢な動作で首を振った。
「・・・私は、もう、長くはない、な」
「そん、な・・・」
「・・・教皇、ヘリオス・・・どうか、アテナを、頼みます。・・・アテナは、教皇も知る者・・・グラード財団の総帥、城戸光政に、射手座の聖衣と共に、託しました」
「!」
俺は鋭く息を呑んだ。
戦神アテナは、生きている。
アイオロスが命を懸けて、守り抜いてみせたのだ。
「・・・そうか、アテナは無事なのだな。よくやってくれた、アイオロスよ・・・!」
「守る為に、命を使うこと・・・それが私の、使命、なのですから・・・」
死に際の男は、途切れ途切れに紡いだ。
掛ける言葉が、見つからなかった。
・・・いいや。
一つだけ、男の命を救う方法はあった。
だが、何度も傷つき倒れる男を見て・・・心に、迷いが生まれた始めた。
この人間は、きっと、生きている限りは戦う道を選ぶ。
だが、いくら聖闘士といえども、十数歳の人間が戦いに身を投じ続けなければならぬ道理が、どこにある。
終らせてやるべきではないか。
痛みからの解放、穏やかな永遠の眠りを与えることこそが、せめてもの情けではないのか。
「・・・・・・だが、悔しいな」
ふいに、男の口から、密やかな一言が零された。
「・・・アイオロス?」
名を呼ぶと、虚空を眺める男の瞳が、大きく揺れ動いた。
「・・・使命を全うし、死ぬことは、聖闘士の本懐なのだと・・・そう、覚悟を決めていたのだがな・・・
「っ・・・」
──違う。
俺は馬鹿だ、大馬鹿野郎だ。
こんなものは、救いなどではない。
こんなに哀しい別れが、死が、救いであるものか。
『──戦う以上、命を落とすこともあるのだろう。死を恐れていないわけではない・・・だが、命を懸けてでも守りたいものがあるのだと、この胸が叫ぶのだ。だからこそ、私は前へと進み続ける、後悔のない未来を紡ぎ出すためにも』
かつて、聖域に来て間もない頃に、この人間は言った。
例え、有限の命を使い果たすことになっても、譲れない、大切なもののために、戦う道を選ぶのだと。
そしてこの男は言葉だけではなく、今度は自らの身を以て、体現した。
アテナを、俺を、同胞達を、命を燃やし尽くして、最期まで守り抜いた。
では、
今、俺が為すべきは、迷うことではない。
一柱の神として、勇敢に戦い抜いた戦士の意思に応えることこそが、俺の使命のはずだろう。
「・・・──アイオロス」
「? ・・・どうしたのだ、ヘリオスよ」
「・・・あと、一人分の余力は、ある・・・ゆえ、お前に問いたい」
俺は固く目を閉ざし、奥歯を強く噛み締めた。
残存する迷いを噛み砕いた。
そしてゆっくりと目を見開くと、死に際の男へむけ、射貫くような視線を送り、言葉を絞り出した。
「気高き魂を持つ者、アテナの聖闘士、
─────
──シオン、後は、頼んだ。
そう言って意識を失った小さな神と、同時に気を失ったアイオロスを目前に、教皇シオンは肺に溜まった息を尽く吐き出した。
それは、呆れや安堵の溜息ではなく、自らの精神を切り替え、極限まで律する為の動作だった。
仕方のないことだった。
一度離れれば、二度と出会うことは叶わない異空間の中で、意識を保っている者が、唯一人しかいないのだから。
「・・・サガに気づかれぬよう、
シオンは鋭く息を呑み込んだ。
遠方から、複数の物体が勢いよく迫ってきているではないか。
恐らく正体は、現世から異次元空間に入り込んでしまった船や飛行船の残骸、なれの果てなのだろうが・・・。
シオンは、傍らに浮かぶヘリオスとアイオロスを左腕で抱え込むと、右手を天へと垂直に構え、小宇宙を集中させ始めた。
そして、掌に星光を彷彿とさせる光芒が宿ると同時に、シオンは掲げた腕を一気に振り下ろした。
「スターダスト・レボリューションッ!!」
星屑の群れが、異次元の闇を駆け抜けた。
黄金の流星群は迫り来る鉄の塊に接触すると、重々しい衝撃音を轟かせ、貫き、四散させた。
数十を超える標的を片付け終えると、シオンは小さく呟いた。
「・・・やはり、容易に脱出させてはくれないようだな」
頬に冷たい汗が伝う。
力業のテレポーテーションでは、この空間から脱出することはできない。
慎重に移動を試みようにも、肝心の道標がここにはない。
今必要なのは、現世とこの空間を繋ぐ、何かしらの繋がりだ。
「・・・・・・繋がりか・・・私とアイオロスは、恐らく・・・」
言葉を漏らしたタイミングで、
グワァァァンッ!!
「っ!!」
突如として、正体不明の轟音が唸り声を上げた。
全方位に反響する不穏な音に、シオンは聴覚ではなく、自らの第七感へと意識を向けた。
錯綜する時空の流れから、異音の発生箇所を探し、的確に対処をするためだ。
「・・・!」
──見つけた。
複数の層となり蠢く、時空の流れを。
だが、不味い。
シオンは歯がみした。
轟音の発生箇所は一点ではなく、時空をぐるりと織りなす巨大な層そのもの。
つまり異音は──全方位から押し寄せる、時空波の前触れだったのだ。
「ッ・・・クリスタル、」
意識するよりも先に、シオンは小宇宙を燃やし始めた。
すると、間髪入れずに、
まるで押し潰された地層のようにして、
「──ウォールッ!!」
──時空の歪みが、弾けた。
シオンは、計六枚の防壁を自らと仲間を囲うようにして展開した。
隙間のない立方が完成するのと、猛流が押し寄せるまでの時間はほぼ同時だった。
──ガリガリガリッッ!!
まるで、巨大な岩同士を無理やり擂り潰しているかのような、耳障りな重低音が防壁内に轟いた。
負荷に耐えかねたクリスタルウォールの外壁が削られているのだ。
シオンは眉間に深い皺を刻み込むと、小さく唸った。
「ッ・・・このままでは!!」
徐々に薄くなっていく防壁を維持しながら、シオンは歯を食いしばった。
ここが、正念場なのだ。
耐えなければ、全滅は必至。
不死となった自らも、
(・・・落ち着け)
このままクリスタルウォールに小宇宙を注ぎ続けても、いずれ防御は突破される。
「・・・」
皆が生還するには、どうすればいい。
「・・・・・・」
シオンは静かに眠るヘリオスとアイオロスに片目をやった。
全身に刻まれた数え切れない裂傷に、打撲痕。
両者ともに、余りにも凄惨な有様だった。
本来ならばそれらの傷は、冥界の女神の策略に嵌まった、自らに刻まれるべきものだった。
そう、惨劇の引き金を引いたのは、迷いを捨てきれなかったシオンなのだから──、
「・・・いいや、そうではなかった」
シオンは瞑目すると、小さく笑った。
「責めるべき矛先を見誤るなと、先刻ヘリオスに言われたばかりだったな」
目を開き、前を向く。
砕かれていくクリスタルウォールの破片を視界に納めると、シオンは刹那の逡巡を捨て去った。
──私もサガに倣い、僅かな可能性に賭ける。
複数あった目的を、一つに絞る。
生きて、帰ること。
それだけに全力を尽くす。
シオンは、クリスタルウォールへと注ぎ込む小宇宙の流れを断ち切った。
すると、供給の途絶えた防壁が恐ろしい速度で削れ始める。
「・・・燃えよ、サガより託されし小宇宙よ・・・皆の想いを束ね、形と為せ」
呟きと同時に、クリスタルウォールの内部に、黄金の輝きが渦巻いた。
そして、
ガリガリガリガリッ──パリィィィンッッ!!!
甲高い破壊音が炸裂した。
時空の歪みより放たれた猛流が、極光の防壁を砕ききったのだ。
七色に輝く水晶の破片が、黄金の小宇宙に触れる。
荒々しい死の衝撃が、全てを呑み込もうと襲いかかった──その刹那。
「──クリスタル・ウォールッ!」
シオンは、不屈の想いのままに、猛然と吼えた。
ドッ!! と身を覆う小宇宙は渦を巻くと、やがて黄金から、鮮やかな七色へと輝きを変えていき──シオン達を閉じ込め護る、三つの、等身大の水晶となった。
(・・・託された想いの全てを込めた、このクリスタルならば・・・必ず、私達を、現世へと導くだろう・・・)
さながらそれは、七色の煌めきを反射する、水晶で創り上げられた、棺のようだった。
だが、その棺は死者を弔うものではなく、生者を護るための、限りない願いの籠もった棺だった。
(・・・・・・すまないな、ヘリオス・・・)
シオンは、水晶の中で眠る神を見つめながら、心の中で深く謝罪をした。
ここが、異次元の果てだと分かった瞬間に、シオンは確信していたのだ。
例え、奇跡的にこの時空から脱出することが叶ったとしても、
──直後。
あらゆる光を吸い込む闇の奔流が、シオン達を包む水晶に殺到し、彼方へと吹き飛ばした。