マイナー太陽神ヘリオス、人になる   作:歌詠

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25話 対話と利害と結論と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タイミングを伺うかのように、「あの」と、オルフェが口を開いた。

 

「僭越ながら、よろしいでしょうか」

 

「ん? どうした、オルフェ」

 

 首を傾げて見やると、男は僅かに躊躇いながらも問い掛ける。

 

「・・・それでは結局、天馬アネモスが、ヘリオス神に施された封印の原因について語らないのは、なぜなのでしょうか。僕は、この天馬が貴方にとって不利になる行動を選択するとは、どうしても思えないのですが・・・」

 

「ふむ、ならばオルフェよ。お前の考えこそが、その疑問の答えなのかもしれんぞ」

 

「エッ?」

 

 シオンの一言に、驚きたじろぐオルフェ。

 若き賢者は穏やかに目を細め、頷くと、オルフェからアネモスに視線を移し、言葉を続ける。

 

「天馬アネモスよ。お前は今まで何度も、その命を賭してヘリオスを救ってきた。カノンの捜索を続けたのも一重に友であるヘリオスのため。・・・つまり、お前が今、ヘリオスの身に生じている異変の正体を語らぬのも・・・──語らぬ事こそが、ヘリオスの益になるからに他ならない。そうなのだろう?」

 

「っ・・・」

 

 ──びくり、とシオンの言葉を受け、四足の足を震わせたアネモスに向い、ヘリオスが呆気からんと笑いかける。

 

「まあ、それしかないよな」

 

「・・・クォーン?」

 

「『それでいいのか?』とでも言いたげな顔だな。・・・いいんだよ、それで。だってお前、これからも俺と一緒に来てくれるんだろう?」

 

「・・・・・・」

 

 迷いのないヘリオスの一言に、思わず、アネモスは沈黙してしまう。

 物言わぬペガサスは、どこか戸惑うような空気を滲ませ、「グルル」と喉を鳴らして固い大地を見つめるが・・・やがて、決意を表すかのように、下げていた視線を戻し、曇りのない内眼で、ヘリオスをじっと見据えた。

 

「──私は、友を信じ、友の幸福を、ただ願う

 

「!!」

 

 唐突に宙に浮かび上がったのは──砂で作られた、殊勝で、どこか健気な古くからの友の返答だった。

 アネモスは、風で海水を操りカノンに思いを伝えたときと同じように、今度はジャミールの地の砂を集めて、言葉を紡いだのだ。

 

「・・・アネモスお前、俺とも言葉を交わせたのか」

 

「・・・・・・」

 

 すまなさそうに全身を縮める天馬。

 それはまるで、これ以上語ることは許されていないとでも言いたげな態度だった。

 

「そうか」

 

 小さく息をつくと、ヘリオスは身体を萎縮させるアネモスの元へ歩み寄り、笑いかけた。

 

「お前の意志を知ることができて、嬉しいよ。・・・ごめんな、アネモス。お前が今、独りで抱えている苦しみを、俺は一緒に背負ってやれなんだ」

 

「クオン・・・!」

 

「フッ・・・気にするなとでも言っているのか? 全く、自由に生きればいいものを」

 

 アネモスの柔らかい首元に優しく触れると、ヘリオスは瞳を友へと向けて言う。

 

「今までたくさん世話になった・・・これからも、どうかよろしく頼む、勇敢なる風の天馬よ」

 

 言いながら、こうして落ち着けた場所で、アネモスと言葉を交わしあうことができて幸運だったと、ヘリオスは痛感していた。

 それは、つい先日起きてしまった人間達の不毛で哀しい、想いと想いのすれ違いを目の当たりにした影響だろうか。

 ・・・きっと、言葉を交わしていれば避けられた惨劇があったはずなのだ。

 もしかしたら、拳で語り合わなければ、分かり合うことのできない・・・そんな想いも、あるのかもしれない。

 だけど、できることならば、痛みも哀しみも、犠牲も、ない方が善いに決まってる。

 

 ──俺達に足りていないのは、純粋な力よりももっと、単純だけど本心を包み隠さない、対話なのかもしれないな。

 

 アネモスの首元にぐりぐりと頭を押しつけながら、ヘリオスはそう思う。

 

「どうやら、これでひとつ、蟠りが消えたようですね」

 

 ほっとした表情を浮かべて微笑むユリティース。

 

「ああ、皆のお陰だ、有り難う」

 

 小さな神は嬉しそうに頷くと、アネモスからそっと身体をはがして、一同を見渡した。

 まだ、語らねばならぬことがある・・・それも、今後を左右する重要な話だ。

 話題を切り替えるように、ひとつ咳払いを零してから、ヘリオスは大きく口を開く。

 

「後は、消えていった、同胞達の行方を探さなければならない」

 

 ──戦神アテナと、射手座のアイオロス。

 ヘリオスからすればつい先日の出来事だが。現実換算だと、この両名は十三年前から行方を眩ましていることになる。

 聖闘士たちからすると冥王の聖戦という観点から、ヘリオスからすると天界へ戻るという目的のために、一柱と一人の安全確保は、現時点で最重要事項とも表現できるほどの急務なのだが・・・。

 

「あー・・・そのだな」

 

 頬に汗を滲ませながらも、申し訳なさそうにヘリオスは一同へ言った。

 

「・・・三日前は疲れ果てて頭が回っていなかったが、貴鬼と話している内に考えが追いついた。その、お前達の落ち着いた態度からして、もしかして俺たち同様──アイオロスって無事なのか?」

 

 確認をするようにしどろもどろに問うと、シオンはヘリオスを安心させるように力強く頷いた。

 

「そうさな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、クリスタルウォールの棺により、やがては射手座の聖衣に導かれ、現世に現れることになるだろう」

 

「・・・棺とは?」

 

 些か物騒な単語に、反射的にヘリオスが眉を顰めるが、平然調とシオンは説明を加える。

 

「うむ。水瓶座のフリージングコフィンから構想を得た、圧縮型クリスタルウォールとでも言うべきか。サガから渡された小宇宙を注ぎ込み、本来平面のクリスタルウォールを人を包みこむ形で凝縮し、全方位からの衝撃に耐えられるようにした。結果として、頑強なだけではなく、現世にある、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()も発現させることができたのだ」

 

「・・・なるほど?」

 

 その水瓶座のフリージングコフィンを知らぬため想像することしかできないのだが。とりあえず全身を守れるうえに、異次元から現世に帰るオプションも付属した凄いクリスタルウォールなのだろう。

 そういえば、デスクイーン島の上空を落下する刹那に見えた、七色の結晶の正体。

 あれは、シオンがクリスタルウォールで創った棺の破片だったのか。

 加えて、シオンがムウの所有する牡羊座の聖衣の元に出現した理由も、今語られた“強い繋がりを持つ存在へ導かれる効能”のお陰らしい。

 

 ・・・では、順当に考えれば、シオンが牡羊座の聖衣に導かれたように、アイオロスも己の聖衣に導かれることになるのだろうか・・・。

 

「射手座の聖衣は今、日本のグラード財団の元にあります」

 

 ヘリオスの思考を読んだかのように、ムウが言葉を放つ。

 

「・・・グラード財団。たしか・・・異次元でアイオロスがそんな名前を口にしていた気がするな」

 

 眉間に皺をつくりながらも、思い返す。

 サガの奥義アナザーディメンションにより異次元に放り込まれた後、意識を取り戻したアイオロスの口から放たれた言葉。

 

『・・・アテナは、教皇も知る者・・・グラード財団の総帥、城戸光政に、射手座の聖衣と共に、託しました』

 

「──っ!!」

 

 思いだした瞬間、弾かれたようにヘリオスは口を開く。

 

「そうだ!! 戦神アテナも射手座の聖衣と共に、そのグラード財団とやらに託したと・・・!」

 

「ええ、その証言をシオンから聞いた後、私を含め、手の空いた者は直ぐさまアテナの捜索をしました」

 

「! ・・・アテナは、見つかったのか?」

 

 ヘリオスの問い掛けに、ムウは大きく頷いて返す。

 

「──はい。アテナであろう少女、そして射手座の黄金聖衣・・・どちらも日本の東京にて、無事、存在を確認しました」

 

「っ・・・そうか! じゃあアイオロスも次期にアテナの元に現れる・・・十三年も経っているのだから戦神が生きているかどうか不安だったが安心した!」

 

「丁度、今から一月後に、件の地にて青銅聖闘士の大会が開かれる模様です。聖闘士が集まる、コンタクトをとるには、良い頃合いかと」

 

「・・・っわかった、よし、シオン! 今すぐとは言わないが、明日にはトーキョーとやらに出発しよう!!」

 

「・・・・・・」

 

「ん? シオン、何を黙り込んでいるんだ?」

 

「・・・あー、そのことなんだがな、ヘリオスよ」

 

 懐疑的な視線を向けるヘリオスに、シオンは歯切れの悪く言い淀む。

 なんだなんだ。

 アテナと射手座の聖衣の場所も分かっているのに、何故こんなところで足踏みをしていなければならないのか。

 不満げにヘリオスが口を開こうとすると、シオンに代わるように、ムウが一歩踏み出して言った。

 

「太陽神ヘリオス」

 

「うん?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・・・・うん?」

 

 有無を言わさぬ牡羊座の一言に、頷く教皇シオン。その他の二人の人の子たち。

 

 

「えっ、どうしてそうなるんだ・・・?」

 

 

 間の抜けた神の疑問符が、夜風に溶けて、消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 何もしないでいることが億劫に感じた俺は、さんさん照りつける陽光の下、土と岩の他にこれといったもののない大地を散歩していた。

 時刻は真昼。

 館を出る途中に会った貴鬼には心配されたが、独りになりたい気分だったので近場だからと無理やり外に出たのだ。

 

 そう、今はデスマスクに教えてもらった“オセンチ”な心情なのだ。

 

 

『重々承知でしょう。太陽神ヘリオス、貴方が死ねば、我が師と、英雄アイオロスも共に死ぬ。それは、貴方自身と聖域にとって、避けなければならぬこと。・・・自由を剥奪するようで、申し訳なく思いますが、どうか理解してください。サガを相手取ったときも、デスクイーン島でのシャカとの戦いも、貴方が生き残ることができたのは、奇跡であると同時に、偶然の産物ともいえる。・・・けっして、必然ではなかったのです』

 

 

 分かっている。

 あのとき、サガが己を取り戻していなければ。

 あのとき、エスメラルダが、俺を信じてくれなければ。

 俺は今頃聖域で捕らえられるか、もしくは、絶命していただろう。

 現状、我が友アポロンの干渉は、ロドス島でのアベルとの一戦と、記憶領域に関わるカノンとサガの奥義を反射した、計三回のみ。

 

「アポロンの干渉は・・・恐らく、俺の知らない何かしらの裁定でもって為されているんだろうが・・・」

 

 わからん。全く以て。

 真実を知るアネモスも、俺に語ることこそが俺の不利益に繋がるらしく、秘密を明かすことはない。

 アポロンの意志によりアネモスの自由が制限されているのか、はたまた他神も関わってくる大事にでもなっているのか・・・まあ、そのへんの事情も不明だが、今言えることは、アポロンを当てにしてはならないということだろうか。

 ・・・うん、アポロンが最初から俺を助けるつもりなら、神力や記憶を封じたり地上に落とすことも、アネモスが駆けつけてくれる事態にもならなかっただろうからな。

 今のまま目標は変わらずに、アテナの助力を得られるように行動しよう。

 ・・・どうにも他力本願なきらいがあるのが、とっても嫌だけではあるけども。

 

「・・・はああ・・・・・・冥界神も海皇も突然でてきたかと思えば場上を引っかき回すし、俺はなぜか時を超えるし・・・どうしてこうもイレギュラーばかり起るんだろう・・・?」

 

 両手で頭をかきながら、情けのない声を上げる。

 目的の地もなく歩き続けていれば、気づけばちょっぴり小高い崖へと辿り着いていた。

 崖下を覗いてみると、山羊などの動物ならひょいひょい行き来ができそうな断崖が広がっている。

 うん、行き止まりだな。

 降りれなくもないが、これ以上遠くへ行くのも館から離れすぎるのでやめておこう。

 赤茶げた色の荒涼とした大地に腰をつけて、遠くを眺める。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 しばらく、最初からそこにあった置物のように過ごしてから、「はあ」と溜息を吐き出す。

 

「・・・なんだ、また俺が崖から落ちないように監視してるのか、()()

 

 独り言のように、誰も居ない虚空に言葉を投げかける。

 すると一瞬、息を呑むような音を鼓膜に拾い・・・数秒経って、背後に一人分の気配が生まれる。

 

「・・・気づいていましたか」

 

「今の俺は不安定ななりをしてるが、神としての権能の一部はちゃっかり残っているからな。・・・それで、ジャミールへ来たときも感じたが、お前のその・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()はなんだ?・・・・・・都合の良いことに今ここには俺とお前しかいない。言いたいことがあるなら言っておいて損はないと思うが」

 

「・・・・・・、」

 

 言葉は、返ってこない。

 ・・・まあなんとなくだが、ムウが俺に向ける罪悪感めいた感情の正体については、想像がついてる。

 ──それは、俺やアイオロス、多くの同胞達の名誉が毀損されてしまってる現状を、作り出してしまったことだろう。

 

 恐らく、十三年前のあの日、ムウがアネモスを天秤座の元へ届けたタイミングでは時既に、俺とアイオロスは反逆者と言い広められており、邪神を討ったサガが、次期教皇を名乗っていたのだろう。

 

 一度、混沌の渦に覆われた聖域に、老師童虎とムウが、サガの主張と全く逆の真実を告げれば・・・聖域の人間達はそれこそ「誰が味方で誰が敵か分からない」、混乱状態に陥っていただろう。

 全ての元凶たる冥界神ケールの動向も不明、赤子のアテナや、教皇シオン等の行方も知れぬ。

 ・・・このような惨状で聖域が分断されるどころか、内乱でも勃発しようものならば、糸も容易く聖域は崩壊する。

 唯一真実を知る、天秤座の童虎と、御羊座のムウは、極めて困難な選択を迫られたに違いない。

 

 要は、守らなければならぬ、優先順位の問題だ。

 彼等は、崩壊寸前の聖域を、例え崩壊の引き金を引いたサガの手に委ねてでも、維持しなければならなかったのだ。

 最上の目的を成し遂げる・・・即ち、地上の平和を守るため。

 ひいては、女神アテナを密やかにでも、生かすため。

 

 だから、俺のような部外の神や、アイオロス達の名誉は、列の後ろへ送られた。

 なんとも薄情な選択ではある。

 しかし、結果として、表だった聖域は維持できたし、地上の平和は守られている。

 

 

「哀しいが、お前達の選択は、間違ってはいなかったよ」

 

 

 人の世を守るという点に関しては、残酷なまでに、正しかった。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 ゆっくりと腰をあげ、立ち上がると、俺は背後で佇むムウに身体を向ける。

 ムウは、険しい表情で、俺を見ていた。

 まるで、「責めてくれた方が楽だ」とでも言いたげな面持ちだった。

 

「・・・十三年前。もしもあの時、私がもっと冷静に動けていたら」

 

 何と声を掛けるべきか悩み、口を閉ざしていると、もやついた心情を吐露するかのように、ムウが重い口を開いた。

 

「シオンから真実を聞いて直ぐに、聖域にテレポートするのではなく、老師にテレパシーで真実を告げていれば。老師が、聖域の者達にテレパシーを送り、もう一人のサガの野望を食い止め・・・貴方やアイオロスの名誉を守ることができたのですよ?」

 

 ・・・なるほど。

 当時ムウは、シオンの危機を知り聖域へテレポートし、偶然見つけたアネモスを助け、老師の元へ向い、シオンから聞いた真実を告げた。

 しかしそれが、シオンの危機を知った段階で、老師にテレパシーを送っていれば、その僅かな時間の違いで、サガの台頭を防ぐことができたと、ムウは言ってるのだ。

 しかし、当時ムウはまだ貴鬼と同じ、七歳の子供だ。いくら黄金聖闘士とはいえ駆け出しではあるし、大人であれ冷静な判断が難しい状況だ。責められるどころか、あの混乱のなかでよくぞやってくれたと賞賛してもいいぐらいなのだが・・・。

 厳しい顔を向けるムウに、俺は言葉を選びながら、言う。

 

「・・・でも、お前がシオンの危機を知って、いてもたってもいられなくなって、聖域にテレポートしてくれなければ、傷だらけのアネモスは、海に流されてしまっていたかもしれない」

 

「しかし、天馬アネモスは溺れることはないのでしょう。サガの手による追手も、サガを先に食い止めていればそもそも掛かることもありません。どちらにしろ、天馬は助かったのです」

 

「・・・そうだな、違いがあるとすれば、アネモスの苦しみが、ムウが助けてくれた分はやく納まったという点だけかもな。だけど、あの混乱を極めた聖域の人間達に、果たしてサガを捕まえることはできただろうか?」

 

「・・・なんですって?」

 

「聖域に残った黄金二人で、サガを止められたか? 下手すりゃその過程で死人が出ていたかもしれない。サガを逃がせば誰が聖域を纏められた? アテナは無事でいられただろうか。だったら、俺やアイオロスの死体を持ってこないサガに対して、疑いの目を向けてくれる者がいる現状は・・・良くはなくても、最悪なものではないのではないか」

 

 思ったままを、はっきりと言って返す。

 しかし、ムウの表情は険しくなるばかり。

 何がそうも気にくわないのか。

 心の中に疑問符を浮かべ、男の様子を伺っていると、

 

「・・・理解出来ません」

 

 困惑の混じる、否定の言葉が放たれた。

 

「神とは、誇りを重んじる存在であるはずだ。万物を照らす、偉大なる太陽の神よ。なにゆえ貴方は、人に尊厳を奪われ、悪と誹られる状況を、そうも客観的に語れるのです」

 

「・・・・・・」

 

 凜とした佇まいで、ムウは問う。

 お前に、神としての誇りはないのか、と。

 静かに、しかて激甚に。明確な憤りを向けられて、俺はようやっと、ムウが俺に向ける、敵意の正体を知るのだった。

 

「・・・そうか」

 

 己の中で導き出された答えを、言葉にする。

 

 

「・・・牡羊座のムウ。お前は・・・俺がシオンと結んだ契約が──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ──眷属の契約を結ぶことによる、延命。

 本来ならば、神の眷属を作る契約を、人間の延命を目的として使用する、誇りなき行為。

 提案した神も、自らの奉ずる神ではない他神の眷属になることを選択した、自らの師に対しても・・・加えて、師の無事を喜んだ自分自身に対してさえも、ムウは憤りを感じてしまったのだろう。

 

 俺の断言にも等しい問い掛けに、ムウが答えることは無かった。

 しかし、その美しい翡翠の瞳の奥には、聖闘士としての誇りと、人としての情の間で揺れ動く“迷い”が見て取れた。

 ムウ自身も、はっきりとした答えを出すことができずにいるのだろう。

 人が迷いを抱くのは、そうおかしな事象でもない。

 答えが見つからないのなら、じっくり時間をかけて考えるか、放っておくという手もある。

 だが、この者は聖闘士だ。・・・一つの迷いが、時として生死を分ける事態に陥りかねない。

 

 ・・・うーん。

 どちらかというと俺は、策略を巡らすとか、相手の一手二手先の行動を読むとかいう頭の使うタイプの神じゃない。

 いや少しは頭も使うけど。どちらかというと、のびのび真っ直ぐストレートに物事を進めたいと思っている。

 

 

「──ムウ、俺さ、皆が生きていてくれることが、どうしようもなく、嬉しかったんだよな」

 

 

「・・・は?」

 

 

 だから、とりあえず、言いたいことを述べ連ねることにした。

 

「誇りのためならば死すらも厭わないお前達が、十三年の時を経ても、欠けることなく生きていてくれた。俺は、人の命はとは儚く、一瞬きのうちに消えてしまうものだと認識していた。だが、お前達と同じ時を過ごすことで、その儚さのうちに秘められた、命の輝きに気づくことができた。・・・だから、気づけばその尊く、掛け替えのないものを、守りたいと願ってしまった」

 

 沈黙を貫く人の子に、俺は笑みらしきものを浮かべて、言う。

 

「自らが犯した過ちには気づいてる。だから、安心して欲しい。()()()()()()()()()()()()。契約を、そして俺が守りたいと願った、儚き人の命を・・・()()()()()()()()()()()()()()()

 

 目の前の男から、鋭く、息を呑む音が聞こえた。

 恐らくムウは、俺が、そこまで考えて行動したとは思わなかったのだろう。

 だが、俺には確信があったのだ。

 因果は廻る。ならば、過ちの代償を払う日が、いつか必ず訪れる。

 シオンとアイオロスの、人としての死の運命を強引にねじ曲げた、傲慢な神の行いに、制裁が下される日が来るのだと。

 自嘲するように笑いながらも、俺は続けた。

 

「それに、誇りならば、この胸にきちんとあるんだ。父上達から受け継いだ、神としての誇り・・・──そして、アフロディーテたちが教えてくれた、人としての輝かしい誇りが」

 

「・・・人としての、誇り」

 

「・・・・・・うん。まあ、そんなこんなで、ムウに頼みがあってさ」

 

「・・・私に、頼み?」

 

 

「ああ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「・・・・・・」

 

 きっぱりと意志を表明すると、ムウは突き刺さるような、冷ややかな視線を寄越してきた。

 

「ヘリオス神、昨晩の話は、覚えておいでですね? 残念ですが、出立の同意を差し上げることはできません」

 

「“俺が死んだらシオンとアイオロスも死ぬから引きこもっていろ”という話だろ。まあ凡そお前の主張は正論だし、俺も案としては悪くないと思っていた。・・・だが、この考えは、過ちであると気づいた」

 

 胸に灯った熱き情熱をぶつける勢いで、冷たいムウの瞳に、俺は視線をかち合わせる。

 

「俺は、戦わなくてはならない。共に戦うと誓った同胞達と、肩を合わせて並び立つ戦士でありたい。・・・守られてるだけの存在なんて、絶対にごめんだね」

 

「・・・気絶させてでも、この地にいて頂くことになりますよ」

 

 

「物騒だな! だから、そういう意味での頼みではなくでな・・・」

 

 

「・・・はい?」

 

 

 未だ了見のわからぬ、といった様子のムウに向い、俺ははっきりとした声で、言葉を放つ。

 

 

 

「俺は、牡羊座のムウ・・・お前に──()()()()()()()()()()()、そう言っているんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







大変お久しぶりです。25話をお届けいたします。

前回から大分・・・といいますか、有り得ないほど時間があいてしまったので、もしかすると、「ん?」と思われる部分があるかもしれません。
作者もなんども原作と物語を読み返したのですが、明らかに「こんなの絶対おかしいよ!」な矛盾点がありましたら、教えていただけると幸いでございます。

展開が遅いことに定評があるこちらの小説なのですが、果たしてヘリオスは沙織さんに会うことはできるのか。聖闘士星矢と銘打っているはずが、原作主人公が25話をして未だ片鱗すらも登場していない・・・。(天馬は出ていますが、天馬ちがいなのが哀しみを深めている)

作者のいきがいの車田先生原作の男坂が、次巻でもって完結してしまうそうです。
かなしいです。でもNDもあるので車田先生を応援しながら、一ファンとして、のんびり執筆を続けていきたい所存です。

昨日は蠍座のミロさんの誕生日だったそうで・・・おめでとうございます。



寒くなって参りましたので、皆様どうか、ご体調を気遣って、たのしいハーメルンライフをお過ごしになってください。




PS就活おわりません。(震え声)
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