英雄の記録 〜灯火ノ章〜   作:鬼灯 守人

8 / 19
第七話 過酷を紡ぐ三重唱

『アアアアアアアアッ!!』

 

 化物は困惑していた。

 化物にとって人間とは奪うだけの存在であり、ただの餌にしか成り得なかった。

 今回の人間も、多少苦戦はしたが結局は同じだった。

『破剣』は振るうだけで易々とその腹を破った。

『破拳』は掻き撫でるだけでその骨を砕いた。

『破銃』は放つだけでその五体に穴を開けた。

 それは変わらず、今回だってそうだった。

 眼前で燃え盛る紅蓮の少年。

 それだって例外ではない。

 その全身からは止めどなく血潮を飛ばしている。

 だというのに、一向に『死相』が見えない。

 得物と得物をぶつけ合う程、その少年の眼光は濁るどころか鋭さを増していくばかり。

 こんな人間は知らない。

 こんな戦士は知らない。

 こんな『化物』は知らない!

 

「おおおおおおおおッ!!」

 

 少年は猛っていた。

 巨体に似合わぬ俊敏さ。

 巨体に見合う剛の攻め。

 凡そ合わさってはいけない両極を有する最大の敵。

 加えて、こちらの攻撃は通じづらいときた。

 当てた斬撃は幾撃にも上る。

 にも拘らず、その化物はその瞳の輝きを一層強くしていた。

 降りかかったのは無理難題。

 故に少年はこれを『試練』とせず、『超克』と定めた。

 死にぞこないの五体より穿つ斬撃が、織り交ぜる体術が。

 越流する激情を乗せて加速する!

 

「────ッ!」

『────ッ!』

 

 白熱する。

 互いに零れ落ちる命の雫には目もくれず、己の生を勝ち取るために、肉体を超越した『死闘』を演じる。

 閃く小剣を『破刃』で受け流す。

 乱射される銃弾を紙一重で躱す。

 惨劇の『ホール』は舞い散る火花で一色に彩られていた。

 しかし──

 

「しまっ──!?」

 

 本能が本能を潰し合う激闘の中。

 とうとう肉体に『死闘』の影響が現れた。

 泥に足を取られたカミトの上体がぐらりと揺らぐ。

 逃すものかと、化物の『破刃』が閃いた。

 

 直後。

 その咆哮は、獣の如く轟いた。

 同時に。

 化物の斬撃はその『鋼拳』に押し留められる。

 瞬間。

 剣戟の残滓を散らす両者を割って、『死闘』の舞台に鈍色の閃光が瞬いた。

 

『ッッ!?』

 

『デスペリア』は驚愕した。

 カミトは微笑した。

 センカは、咆哮した。

 

「はあ──ぁああああああああッッ!!」

 

 防いだ『鋼拳』を突き抜けた衝撃が、センカの左腕に亀裂を齎す。

 無視をし、凝視する。

 それは猛り狂う火花の中で、煌々と煌めく鈍色の双眸。

 畏怖の象徴が如き化物の体躯を、心火の瞳で焼き付けた。

 センカが迫るは、未だ思考が晴れぬその化物。

 閃きの間で接敵した。

 

 同時に追いつく化物の思考。

 再び引き絞られる、三又の刃脚。

 今度は遮る障害は無い。

 退避は可能。

 爆発の加速を以って今度こそ離脱を──

 

『──ッ!?』

 

 しかし、叶わない。

 化物は紛乱する視界の端に、()()()()()己の刃脚を認めた。

 それは少女が持つ悔恨の力。

 何度も呪った、特異な『才能』。

 フォトンへの異常な適応力を持つセンカの『特性』。

 そして行使すべく磨き上げた圧倒的な『センス』。

 それらを併せ持つセンカは、不適合クラスでありながらも『テクニック』の行使を可能としていたッ!

 

()()()()()()、そこに直れっっ!!」

 

 響き渡るはセンカの()()

 ビクリと、化物の全身が委縮した。

 否。

 委縮したのは化物ではなく、そこに纏う『彼ら』の肉体だ。

 当然だ。

 その咆哮はセンカが『家族』へ向けた初めての()()なのだから。

 

『ッッ、ォオオオオ!!』

 

 突然命令を聞かなくなった肉体に、化物は怒りを叫ぶ。

 半狂乱のまま、氷に捕らわれた『破刃』を力任せに引き抜く。

 そして再び、逃走を図るべく逆関節を屈伸させた。

 

 ──逃がさない。

 

 癒えぬ傷を、

 消えぬ後悔を、

 その尽くを膂力に宿して、

 愛拳《ヘブルパニッシャー》を弓の如く引き絞り──迫真の気迫を以って撃ち放った。

 

「ッッ!!」

 

 それは引き絞った右拳とは反対の手。

 先の防御で粉々に砕けた片方の腕。

 伸ばした左手で、センカは『デスペリア』の『破刃』を掴む。

 握った傍から食い込む、両刃の剣塊。

 

「【ハートレス】──」

 

 劈く痛みを無視し、流れ出る血肉を視界から外し、砲声した。

 

「──【インパクト】ッッ!!」

『……ッッッッ!!』

 

 声にならない悲鳴が上がる。

 その右拳が貫いたのはその名の通り、化物の左の胸。

 散々に受けた斬撃により大破した『装甲』の内側。

 化物の膂力を生み出すその肉体へ。

 

 ドンッッッッ──!!

 

 爆発のような炸裂音。

 突き破り、突き刺さった。

 

『ヅッッ……、ァアアアアアア!!』

 

 致命を報せる絶叫。

 痛哭に歪む真紅の双眸。

 拳を引き抜いた後から『体液』が濁流の如く流れ出る。

 剥き出しになったのは、『デスペリア』の有する巨大な『(コア)』。

 センカはそれが『決まり手』となることを確信した。

 故に、退避が遅れた。

 

『ァア──────!』

 

 宙へ躍った『破刃』が迸る。

 反応も許さぬ雷の如き一閃。

 今から反応しては間に合わない。

 拳を噛ませることも叶わぬ、閃撃の一蹴。

 故にセンカは、その攻撃を()()()

 

「カミト──ッ!!」

「応ッ!!」

 

 肩に走る誰かの重み。

 少女の視界を、紅蓮の一射が通過した。

 

『!?』

 

 少女の肩を飛び越え、カミトは再び『デスペリア』の正面へと躍り出た。

 白藍の燐光を纏う脚撃が『破刃』の一閃と拮抗する。

 いや。

 ()()()()()

 

「おおッ……らあッ!!」

 

 回し蹴りの旋回をそのまま威力へ。

 打ち出したるは左腕に携えた小剣の斬撃。

 続けざまに、右腕の大振りの振り下ろしが、神速を以って閃いた。

 

『……ッ、……ッッ!?』

 

 クリーンヒット。

 斬撃は『破刃』の猛威を掻い潜り、本体へ深い傷を刻み付ける。

 

「ふっ──!!」

 

 振り抜き、しゃがみ込んだ姿勢。

 数瞬のチャージ。

 屈伸した脚を爆発させ、渾身の追撃を繰り出す。

 迫る、断続的に打ち出された二本の斬撃。

 これ以上は許すものかと、『デスペリア』は拳を盾に見立てて翳した。

 斬撃の勢いに伴って続いた脚撃。

 それが『破拳』の盾を打ち払う。

 しかし、『デスペリア』はその連撃を防ぎ切った。

 

 だが。

 止まらない。

 

『──アア……ッ!?』

 

 続けざまに振り上げられた左腕。

 駆け登る火柱の如く、『デスペリア』の顔面を《ルグドフラン》の峰で打ち抜いた。

 衝撃に揺れる巨体。

 カミトの矮躯は振り上げの勢いに任せて、ふわりと上昇。

 背骨が悲鳴を上げる程、力を溜める。

 カミトが起動したのは疾風怒濤の八連撃。

 その全ては『必殺の一撃』を与えるため。

 大技最後の強撃を、

 軋む膂力を奮わせて、

 全霊を以って撃ち放った。

 

「【オウルケストラー】──ッッ!!」

 

 揃えた双刃を一気に振り下ろす。

 刃は先に少女が穿った右胸を、

 脈動する深紅の核を、

 その二振りの刃は深々と刺し貫いた。

 

『アアッ──ギャアアアアアアアアアアアッッッッ!!』

 

 炸裂した。

 致命傷への更なる追撃。

 体液が吹き上がる。

 肉片が飛び散る。

 簒奪者(デスペリア)の命が、その肉体から滑り落ちていく。

 

『アッ……、アアアアアアアアアアッ──』

 

 断末魔の叫び。

 化物の巨体が、毒の海へと音を立てて沈んだ。

 待つ。

 しかし飛沫は上がらない。

 伏した化物は紡いだ『装備』を崩壊させ始めている。

 

 静寂が、訪れる。

 

「はぁ……、はぁ……、ぐっ──」

「カミト!?」

 

 ガクリと、少年がとうとう崩れ落ちた。

 役目を終えたように、少年が纏った炎が吹き消える。

 駆け寄る少女。

 少年には最早生きているのが不思議に思える程の外傷があった。

 これでは当面の戦闘は不可能だろう。

 だが、終わったのだ。

 化物は地に伏したのだ。

 

 だから──

 

「──まだだ!」

「……えっ?」

 

 未だ闘志を称えるその双眸を追って、センカは敵が沈んだ地点を見やる。

 だがそこには静寂があるばかり。

 自分たちを脅かした『破刃』も、『破拳』も、その色を失っているではないか。

 

「構えろセンカ。いや──()()()!!」

 

 カミトは警告した。

 何故なら彼は敵の手の内を知っていたから。

 打ち交わす刃越しに、『デスペリア』の感情が伝わっていたから。

 しかし、余りに遅い。

 その絶叫がセンカの耳朶を打つより速く、その火力は音を越えて炸裂した。

 

「あっ……」

 

 左大腿に、違和感が走った。

 瞬間。

 千切れた肉は焼け焦げた。

 血潮は吹き出た傍から蒸発した。

 油断をしたのはほんの束の間。

 その一瞬で、センカの大腿は深く抉り取られていた。

 

「いっ……、づぅ……、ぐぅうううううッッ!?」

 

 悲鳴を噛む。

 激痛を噛む。

 無様を晒してはならないと、魂を燃やして、充血する瞳で敵を見る。

 それは化物が持つ最強の火力。

 水面から噴き上がる赤黒い飛沫。

 現れた瀕死の化物。

 その大顎に備わった『破砲』に破壊が収束する。

 陽光の如きその極光。

 憤怒の双眸に灼熱の光芒を携えて、【絶望】が再び少女を照準した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。