ルーキー29位でした。ありがとうございます。
「今日は俺のライヴにようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!」
実技試験説明担当プレゼント・マイクのテンションとは裏腹に、会場は静まり返っていた。それもそのはず、一万人以上が集まるこの場で返事ができるほど神経の図太い人はなかなかいないだろう。そんな人でも空気を読んで返事はしないだろうが。
返事がないのを気にもとめず、プレゼント・マイクは説明を続けていく。
内容は十分間の模擬市街地演習。三種のロボヴィランを倒す、または行動不能にして、ポイントを稼いでいく方式のようだ。
「協力はさせない、ということですね」
「まあ、競い合うには丁度いいだろ」
「本当に勝負するんですね……」
相変わらずプレゼント・マイクへの返事は無いが、桜の右前方の眼鏡をかけた少年が質問をしていた。なかなか神経の図太い人は意外と近くにいたらしい。
それによると、三種のロボヴィランとは別に、倒しても利益のない、お邪魔虫がいるとのこと。
「有り難う御座います失礼致しました!」
眼鏡をかけた少年は質問を済ませ、席につく。
「俺からは以上だ!! 最後にリスナーへ我が校の校訓をプレゼントしよう」
身振り手振りを交え、一万人超の受験者に伝える。
「かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 『真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者』と! ……Plus Ultra!! それでは皆、良い受難を!」
説明を終えると、プレゼント・マイクは去っていった。
爆豪はバックを持ち、立ち上がりながら桜に話しかける。
「終わったら校門で待ってろよ」
「もう終わった後の話ですか? て言うか、それは私のセリフですよね。たまにすぐ帰っちゃうじゃないですか……結構落ち込むんですからね……」
「うっせ。じゃ、後でな」
「はい。お互い頑張りましょうね」
爆豪の背中を見送った桜は、自分の受ける会場へ行くバスのもとに小走りで向かった。
◇◇◇
「広いですね……」
バスから降りて目にした試験会場の広さに桜は思わず呟く。
これと同じ会場が他にあと六つあるというから驚きだ。
一万人以上の受験者が七つの試験会場で一斉に試験を始めるということは、一つの会場に少なくとも千五百人はいることになる。
これは予想以上のポイントの奪い合いになることを桜は予想し、大きな溜め息を吐く──のではなく、口を僅かに上へとつり上げた。
それはある意味当たり前のことでもあった。
桜自身は全く自覚していないようだが……何に対しても不敵に、好戦的に当たっていく爆豪の隣に十年もいるのだ。性格の一つや二つが影響していても何ら不思議ではない。
桜は右手に持つ御旗にワン・フォー・オールを込めた。そうすると全体が金色に淡く輝き、同色の粒子のようなものが溢れ始める。
その天から授かった御物のような神々しい見た目に、桜と同じ会場の受験者は目を奪われていた。
と、その時。
「ハイ、スタートー!」
急な開始の合図に、人混みの中にいた桜は前に進むことが出来ず、ならばと旗の柄を地面に打ちつけ、入り口の上から市街地へ踊り出た。
「標的捕捉!! ブッ殺──」
「かっちゃんみたいなロボットですね……ふふっ」
入り口から三十メートル程離れた場所に丁度いたロボヴィランの頭部を破壊し、着地した桜。幼なじみと同じようなことを言っているヴィランにクスリと笑いながら、次のヴィランへと走る。
「どうしたあ!? 実戦じゃカウントなんざねぇんだよ!! 走れ走れぇ!! 賽は投げられてんぞ!!?」
どうやら他の受験者はまだスタート地点にいるようだが……そんなことは桜には関係無い。
「ワン・フォー・オール、フルカウル25%!」
全身にワン・フォー・オールを纏うことに爆豪が付けた名前だ。
御旗の先端にある鋭く尖った部分で近くにいた2ポイントヴィランの頭部をこれまた一撃で破壊する。
頭部で受験者を認識しているなら……と、頭部と胴体の間接部分を的確に破壊していく桜。まるで狙ってくださいと言っているかのように長い間接部分だ。
着地地点の周りにいたヴィランを全て倒し合計8ポイント。
ようやく他の受験者が市街地に入ってきたところで、桜は次のヴィランへと御旗の尖端を振りかざした。
◇◇◇
「大丈夫ですか?」
「あ。は、はい!」
見知らぬ受験者に背後から迫る2ポイントヴィランの頭部を破壊し、行動不能にし、ニコリと問いかける桜。
困っている人、怪我をしそうな人を助けながらヴィランを破壊していく。そのせいで多少の時間ロスをしてしまったが、現在105ポイント。
ワン・フォー・オールを身に纏い、空中で障壁を足場代わりにして得た起動力、更に御旗のリーチ。それらを十全に使いヴィランを破壊、または目に入った危険な状態の人の援護をする。
次の標的へと御旗を構えたその時。
轟音。次いで、地面が揺れた。
音の方向へ顔を向けると、約五十メートル先に巨大なロボヴィランが建物を破壊しながら現れるのが見えた。
「あれが0ポイントヴィラン……思ってたより大きいですね」
桜は標的にしていたヴィランを破壊し、すぐに思考を切り替える。
逃走──ではなくどのように止めるか。
(ワン・フォー・オール25%では多分倒すことは不可ですね……全力の100%なら大丈夫でしょうけど……骨折程度では済まなそうですね……)
それはダメだ、というように首を振る。
(障壁ももつかどうか……)
現状、桜に0ポイントヴィランを確実に止める方法はない。
しかし、桜には引きたくない……いや、引けない理由があった。
無情にも彼女の横を次々と受験生が通りすぎていく。
──誰かいれば……私の個性で……!
今桜の隣に爆豪はいない。
もし誰もいないのなら、100%もやむを得ないか……。
そう考えたその時。
「君も逃げなければ。危険だぞ!」
受験番号7111番。プレゼント・マイクに質問をしていた、眼鏡をかけている受験生が桜の肩を叩いた。
桜は彼の問いかけに否定を返す。
「ごめんなさい……私は逃げたくないです」
「何故!? 早くしなければ、君も巻き込まれてしまうぞ!」
否定されるのは予想外だったのか、彼は強い声で言う。
しかし、それでも桜は首を横に振った。
「私は、
十年前のあの日。
泣きじゃくる桜に手を差し伸べた爆豪。
隣に居続ける為に。爆豪を支える為に。そしてどんなことがあっても二人で立ち向かうと決めた。
なら。
こんなところで、背中を向けるわけにはいかない。
「だから、私は逃げません」
力強く、いい放つ。
一瞬の静寂。受験者が逃げる中で、立ち止まる二人。
覚悟を決めている桜の目を見た眼鏡をかけた彼は、口を開いた。
「僕は……試験にとらわれて、ヒーローの本分を忘れていたよ……。僕に出来ることがあったら、是非言ってくれ!」
それを聞いた桜は真剣な表情を崩し、いつものように微笑んだ。
「ありがとうございます。でもすいません……あなたに頼りっきりになってしまいますが……」
「大丈夫だ! 遠慮無く何でも言ってくれ!」
間髪入れずに彼は答える。
少し躊躇するも、時間は有限だ。0ポイントヴィランは既に三十メートル先まで迫っていた。
「分かりました……では、いきます……!」
桜は右手に持っていた御旗を両手に持ち直し、トン。 と、静かに突き立てた。
「
◇◇◇
突き立てた御旗を中心に、幾何学模様が描かれた円が拡がる。
円は道路の横幅一杯、直径十メートル程の大きさになった。
それだけでは終わらない。円の内側から光の粒子が溢れる様に湧き出てくる。
更に。
カーン。カーン。と。
どこからともなく鐘の音が聞こえてきた。
それはまるで光の粒子を溢れさせ、御旗を掲げる桜を祝福しているかのよう。
そのあまりにも現実離れした美しい姿に、隣にいる眼鏡をかけた受験者が。後方に逃れた受験者達が。モニタールームで受験を見守る雄英高校の教師達が。思わず目を奪われた。
そして、湧き出た大量の光の粒子が、眼鏡をかけた受験者に螺旋を描きながら収束していく。
最初は驚いていた彼だが、光の粒子が己の内に入っていくにつれて身体に力が蓄積されていくのを感じ、それが桜の個性だと理解した。
冷静さを取り戻した彼は金髪の少女に問う。
「僕の名前は飯田天哉。君の……名前を是非教えて欲しい」
地面から溢れた全ての光の粒子が、飯田の身体の中に収束した。
体全体が淡く輝き、時折黄色い稲妻がスパークする。
「私の名前は御柱桜です。後は、よろしくお願いします」
「ああ……! 任せてくれ!」
飯田は見上げる程巨大な0ポイントヴィランに向かって疾駆する。
一速、二速、三速、四速、五速、と、普段の何倍ものスピードでギアが上がっていく。
飯田はプレゼント・マイクの言葉を思い出していた。
──更に、向こうへ。
「レシプロバースト!!」
勢いよく踏み切り、普段ならあり得ない跳躍力をもって0ポイントヴィランに接近する。
飯田の目と、脚が。0ポイントヴィランの顔面を捕捉。
右脚を振りかぶり、狙いを定め、飯田は叫んだ。
「エクステンドォ!!!」
それは、女神の加護を得た、韋駄天の一撃。
光の尾を引く一撃が、炸裂する。
瞬間、轟音。
原型を留めない程に頭部を潰された0ポイントヴィランは倒れ……動かなくなった。
どうも、フィヨルドです(´・ω・`)
かなりの好評価を頂き、嬉しい限りです。
飯田が0ポイントぶっ飛ばすのは、珍しいんじゃないかな?
次回もよろしくお願いします。