背中合わせの二人   作:おとぎの

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#6 スタートラインは快晴の空

「実技総合成績出ました」

 

 暗い部屋の中、モニターの光だけが辺りを照らしている。

 集まっているのは雄英高校教師陣。全員がプロヒーローである彼らは、今年の入試について話し合っていた。

 

「救助ポイント0で4位とはなぁ!!」

「後半他が鈍くなっていく中、個性を使って遠距離攻撃までこなす。タフネスの賜物だ。名前は……麗日お茶子」

 

 モニターには浮かせたロボヴィランを蹴り飛ばし、接触する直前で解除することで、3ポイントさえ一撃で破壊する少女の姿が映し出される。

 

「例年通りなら一位通過も出来たものを……今年は大豊作だな!」

「ああ……まさか0ポイントをブッ飛ばすのが二人も……いや、三人と言うべきか?」

「そうだなァ。てかよ、お前が救助ポイント満点出すなんてねぇ。つか初めてじゃね? なぁイレイザー」

「御柱の行動は合理的だ。怪我人の対応、ヴィランの弱点を的確に突く一撃、それらに一切の無駄が無い。飯田の順応力もなかなかだがな……」

 

 何にせよ、とイレイザーと呼ばれた男は続ける。

 

「去年の奴等とは違う……少し期待してもいいかもしれん」

 

 彼の言葉に、ネズミのようなシルエットが口を開く。

 

「今年は二人が圧倒的だったね」

 

 同意するように頷く者、唸る者、無言を貫く者、様々だ。

 しかし彼らは、やはり同様にモニターに映る一位と二位の受験者を見つめる。

 

「救助ポイント初の満点、御柱桜。そして歴代最高得点の爆豪勝己……本当に楽しみなのさ!」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「行ってきます」

 

 真新しい制服を身に付け、最後に仏壇にいる両親に挨拶を済ませた。

 

 誰もいない家に桜の声だけが聞こえる。

 両親が亡くなった後に引き取られた、仮の親に嫌われている訳ではない。むしろ、頻繁に連絡をくれ、生活に不備がでないように気を配ってくれる優しい人だ。

 

 家にいないのは海外で働いているためで、毎月のお金は送ってもらっている。桜には少し多い気がしたが、その事を指摘すると「女の子なんだから、もう少し可愛くなりなさい」と言われた。本当に頭が上がらない。

 

 雄英に合格したことを報告したときも、直接祝えないのを申し訳なく思っているのが電話越しでもわかった。

 

 新調したローファーに足を入れ、トントン、と爪先で玄関口の床を鳴らす。ドアの前には既に腕組をさした爆豪が待っていた。

 

「遅ぇぞ」

「すいません……でも、女の子は準備に時間かかるんですよ? クラスでそんなこと言ってたら友達できませんからね」

 

 桜がからかうように爆豪に言うと、爆豪はいつもの調子で答える。

 

「はっ、知るかよ。そんなんでビビる奴とつるむなんて願い下げだな」

「もう……」

 

 けれど、そんないつも通りが、私は好きだ。

 空は雲ひとつない快晴。

 さりげなく歩調を合わせてくれる爆豪に、桜は内心嬉しく思いながら駅へと向かった。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「一緒のクラスでよかったですね」

「……そうかよ」

 

 校舎入り口前に掲示されていたクラス表を見ると、『爆豪勝己』のすぐ下に『御柱桜』の名前があった。クラスはA。

 あくまで不機嫌に装う爆豪の隣をご機嫌な様子で桜は歩いて行く。

 

「大きいですね……バリアフリーってことでしょうか」

「こんなデケェ奴と同じクラスは勘弁だがな」

 

 そう言う勝己だが、桜がチラリと顔を伺うと……その口はほんの少しつり上がっていた。

 

「楽しみなんですか?」

「あ? ……まぁ否定はしねぇ」

 

 巨大な教室の入り口を見て、二人が思ったことは同じだった。

 

 それは。

 

 これから一年間を過ごす教室。

 

 全国から選ばれた者だけが集まる教室。

 

 この中に()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 隣にいる勝己の言葉に、自然と桜も笑みをうかべる。

 入るぞ。と勝己に促され、桜は教室に入った。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 早く来すぎたのか、教室の中には誰もいなかった。

 しかしすぐに続々とやってきて、教室の半分が埋まる。

 その中には桜が知っている顔もあった。

 

「む……君は御柱君じゃないか! やはり受かっていたんだな」

 

 背を真っ直ぐ伸ばしたいい姿勢で話しかけてきた、眼鏡をかけている男子。

 

「あら、飯田君ですよね? 久しぶりですね」

「あ? ンだてめぇは」

 

 そっか。かっちゃんは知らないんでしたっけ。

 

「ほら、前に言った0ポイントを倒すときに協力してくれた人ですよ」

「うむ! ぼ……俺は聡明中学から来た飯田天哉だ。君は御柱君の友達かい? よろしく頼む」

「聡明~? クソエリートじゃねぇか。ブッ殺しがいがありそうだな!」

「ブッコロシガイ!? 君本当にヒーロー志望なのか!?」

「あはは……」

 

 なんとなく朝からこうなるんじゃないかと予想していた桜は、目の前のやり取りに思わず苦笑する。

 

「足を机の上にのせるんじゃない! 製作者や雄英の先輩方に申し訳ないとは思わないのか!?」

「はっ! 思わねぇな!」

 

 やっぱり入学初日から全快ですね、かっちゃんは。

 初日からかなり目立っている二人だが、しばらくすると飯田が桜に声をかけた。

 

「御柱君、君は本当に爆豪君と友達なのかい? 失礼だが少し信じられなくてな……」

「まあ気持ちは分かります。かっちゃんの『ブッ殺す』は『よろしく』と同じ意味なので……」

「そうなのか! ……すまない爆豪君。君の意図を汲んでやれなかったようだ……」

「適当こいてんじゃねぇ!」

 

 そんなやり取りが続き、始業まであと少しとなったところで、不意に桜の視界の端に黒いなにかが映った。

 開けたままの教室の扉。その前の廊下で黒い何かがもぞもぞと動いている。

 

「かっちゃん、あれなんですかね」

「ああ? ……ブッ殺すか」

「……ほどほどに抑えて下さいね」

「御柱君!?」

 

 教室にいる他の生徒たちも徐々に気付き始め、教室がシンと静かになった。

 

「仲良しごっこがしたいなら他所でやれ」

 それを確認した黒い何かは顔を出し、携帯ゼリー飲料を取りだして即座に飲み干す。

 

「はい、君たちが静になるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠けるね」

 

 黒い何かからもぞもぞと這い出てきた男性は教卓の前に立ち、呆然とする生徒に向かって告げる。

 

「俺は相澤消太、このクラスの担任だ。一年間よろしくね」

 

 どうやら黒い何か──彼は担任だったらしい

 

「早速だがお前ら、これ着てグラウンドに出ろ」

「ちょっと待ってください相澤先生! 入学式は? ガイダンスは!?」

 

 教室のどこかで男子の戸惑う声が聞こえる。

 それに対して相澤先生の反応は、あくまで冷静で、表情一つ変えずに淡々と告げる。

 

「雄英の校風は『自由』。それは教師も例外じゃあないってことだ」

 

 そして教室から去っていった。

 

 

 

 







どうも、フィヨルドです(´・ω・`)
お茶子ちゃん救助ポイントないやん!
はい。なのでとりあえず強くしました。

なんか、本筋入れてる作品より、こっちの方が評価されてんの複雑です。

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