いちばん小さな大魔王! 外伝:が〜るずあふぇくしょん!! 作:コントラポストは全てを解決する
つまるところ、竜介君の両親は何処かで単身赴任してますし、爺ちゃんもお亡くなりになっています。なので当然あのお方も姉になろうと奮闘しております。いえ、しておりました。
まあ、ほんへどうぞ。
二年前、私の好きな男の子の祖父が亡くなった。
その子は両親がいつも家におらず、祖父だけが家族だった。
そんな彼に舞い降りてしまった
当然私は放っておく事が出来なかったし、そもそもそんな事が出来る程の頑強な心を持っていなかった。
それに彼の事が好きで好きで仕方ないのだ。そんな彼の笑顔が曇ったら、何が何でも構うに決まっている。
毎日たくさん彼とお喋りをしたし、休日にはよく一緒に出かけた。
水族館で初めて笑ってくれた時の事は今でもよく覚えている。私の求めた笑顔ではなかったけど。
それから少し経って彼は高校生に。
進級して来た彼には既に友達がたくさん居て、私なんていらないくらい明るい人になっていた。
ちょっとだけ寂しかったけど、彼の心からの笑顔をみれたから私はもう満足だ。
笑顔を取り戻せたのは彼の幼馴染達のおかげだけど、私もほんの少しだけ役に立てたと思う。
私の役目は終わった。後は彼の笑顔を見守るだけ。
姉の様に、困った時に助けてあげられる存在になれば良い。これからはずっとそう居ようと決心した。
けれど、変化は突然訪れる。
ある日、彼に水族館に行こうと誘われた。
その時の彼は妙にぎこちなくて、そわそわしていて。
様子は変だが体調は何時も通りだったので、その時の私は深く考えなかった。
そして当日。
入館した後、私の好きなクラゲコーナーに来た時の事だった。
いつも通りにクラゲを眺める私の手を突然掴み、彼は言ったのだ。
──花音先輩、好きです。俺と付き合ってください。
ふえぇ……。
____
彼と付き合い始めて半年が経った。
ここまでこれと言った喧嘩もなく、良好な関係を気づけていると思う。
強いて不満があるとすれば、年下に情けない姿を良く見せてしまう自分を咎めたい事だろうか。
取り合えず、彼自身には何も不満はない。
「花音先輩!お待たせしました!」
そんな愛しの彼が、自販機で買ったアイスを両手に持って笑顔を浮かべながら走ってくる。
「あ、ありがとう竜介君……。えっと、お金……」
「良いですよこれくらい。かっこつけさせてください」
「で、でも……この後水族館に行くのに……」
今日は彼と少し離れた街にある水族館までデートに行く予定なのだ。なので、電車を乗り継ぎながら目的地を目指して移動していた。
「まずはその水族館まで辿り着きましょう。ここ、何処なんですかね?」
……目指していたはずなのだ。ちょっと前までは。
JR線を乗り継いで横浜辺りに来たのは良いのだが、そこから二人して迷ってしまった。
何処をどう進んでいたのかが全く分からず、気づけばどこかの商店街に辿り着いていたのだ。そして今は一休みと言う事で、近くのお店で買ったアイスクリームを食べている。
「んー、冷たくて身体に染みますねえ……」
そんな状況にも関わらず、彼は呑気にアイスクリームを味わっていた。
彼のどんな時でも冷静でいるその姿勢を、私は見習おうと意気込む。
「食べ終わったらテキトーに歩いてみるか」
違う。彼は冷静なんじゃない。開き直ってるんだ。
「こ、交番とかで道を聞くのはどうかな?」
「交番ですか……。そう言えばまだ行ってませんね。探してみましょう。何処かに地図があれば良いのですけど……」
「そうだね……」
こんな時にスマホがあったら……と何度後悔した事か。なぜ今日に限って私はスマホを忘れ、彼は充電残量ギリギリで来てしまったのだろう。今度から気をつけなければ。
そう心の内で反省しつつ、私はアイスを食べた。
「ごちそうさまででした。じゃあ、行こっか竜介君」
私がそう言うと、彼は「はい」と笑って返す。
「まずは交番からだね」
「ですね。取り敢えず近くの人に聞いて見ましょう」
彼の言葉の後で周囲をぐるりと見回した。
シャッターがしまってる店が多く──と言うよりシャッターが閉まっている店しかない。
「……人、いないね」
「ですね」
つまるところ、人っ子一人いない状態だった。いや、よく見れば道端の食べかすを目当てに来た鳩が数匹……
「鳩に餌あげたら帰り道教えてくれないかな?」
「花音先輩、現実を見てください」
「ふえぇ……」
人がいない事に変わりはない。逆にどうしてここまで人がいないのだろう。羽丘の商店街は休日だと結構賑わうのに。
理由を考えつつ彼の隣で歩みを進める。
「もしかしたら、今ニュースで話題の商店街の過疎化ってやつですかね?」
不意に彼が聞いてきた。
「過疎化?」
「はい。地方だと若者の地元離れとか大型ショッピングモールとかの影響で商店街の利用者数が減ってるらしいんです」
「そうなんだ……」
もう一度商店街をぐるりと見回し、人がいない理由に胸の内をヒシヒシと痛めた。
何となく、いつかのスマイル遊園地の事を思い出す。
「ねえ、竜介君」
「はい。なんでしょうか?」
彼の服の袖をギュッと掴み、彼の目をジッと見て、私は考えてる事を話した。
「ここにある笑顔になれる事、探したいんだけど良いかな?」
私の言葉に、彼は言いたい事は分かっていたと言うような笑みを浮かべる。
「花音先輩の好きにして良いですよ。俺は隣に居れればそれで幸せなので。それに花音先輩が笑顔になれるなら、俺は大歓迎です」
「そ、そっか……ありがとね、竜介君。……ふえぇ」
ニコッと優しく微笑んだ彼の笑顔を見た瞬間に私の顔が熱くなる。やっぱり、私の好きな笑顔を私に向けられてしまうと照れてしまうようだ。
「じゃ、じゃあ、早速行こっか!」
「はい」
誤魔化すように少し大きな声を出してみたが、彼の笑顔は更に優しさを増した。そして、無様に照れ隠しを失敗させた私の手を彼は握る。その顔はやっぱり笑っていた。
なにか、いっぱい食わされた気分だ。後で仕返しをしよう。
「あ、花音先輩。あそこにクラゲカフェありますよ」
私が彼への仕返しを企てていると、彼が少し先の店を見ながらそう言った。
確かにクラゲカフェはあった。あったのだが……看板の文字は半分剥げており、シャッターも開きかけだ。とても開いているようには……
「お、中に入れる。行きましょう花音先輩」
訂正。営業していたようだ。
「すみませーん」
彼が挨拶するのを横目に、私は店内を見渡して見る。
パット見昔ながらの古めかしい喫茶店だが、カウンタ席のお酒置き場の一角にある、少し大きなクラゲの水槽が興味を引く。
「おや、こんな店にお客さんが」
私がクラゲの水槽を眺めていると、その奥のドアから年季の入った声と共に一人のお爺さんが出てきた。
穏やかな口調で白い髭を生やした優しそうなお爺さん。気のせいかもしれないが、亡くなった彼の祖父に似ているような気がした。
「ささ、どうぞ。オンボロな店ですみませんが、ごゆっくり」
「お、オンボロだなんて。そんな事無いですよ」
「ほほっ、ありがとうございます」
お爺さんは世辞でも嬉しいと言った様子で笑ったが、私は本心からその言葉をかけたつもりだ。テーブルも椅子も床も、全部新品のように綺麗だったから。クラゲの泳ぐ水槽も、藻一つ見えない透き通った状態になっている。
外見は確かに酷いものだったけど、中はこんなに素敵ではないかと内心でぼやいてしまう。
「品書きです。まあ品数は少ないですがな。ほっほっほっ」
「あ、あはは……」
私が店内を見ていると、お爺さんがメニュー表を渡して来た。
見開き一ページしかないそれに書いてあるメニューは確かに少ないが、その代わり一品一品が魅力的だった。
「竜介君はどれにする?」
「そうですね──」
一度ページ全体を眺めた後、彼は珈琲とトーストのセットを頼んだ。
「花音先輩は何にしますか?」
「私は──これにしようかな」
そう私が指差したのは、当店看板メニューと書かれていたクラゲゼリーと言うメニュー。どうやらソーダ味のゼリーでクラゲをイメージして作った商品らしい。しかもクラゲ模様の水色リストバンド付き。彼におまけ目当てかと問われたが、もちろんそんな事はない。ゼリーも味わうつもりだ。
──第一、クラゲと言うのはその透明感と柔らかく心地よさそうな見た目が……
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
彼にクラゲの価値と存在について説いていると、お爺さんが注文の確認をして来た。私は人前で熱くなってしまった事に恥ずかしさを覚えながら、お爺さんに大丈夫ですと呟くように返事をする。
注文を取ったお爺さんはお酒置き場のほうに行き、そこで珈琲やらゼリーやらを作っていた。
「なんだか、ああ言うのってカッコいいね」
カウンタテーブルの上で、何か小難しそうな作業をしているお爺さんにそんな感想を私は抱く。同意を求めよる様に彼の方を向くと、何故か面白くない表情をした彼が視界に写った。
「竜介君?」
「……いえ、なんでもないです」
……もしかしたら、彼は嫉妬をしているのかもしれない。ジッとお爺さんを見つめる彼の姿を見ながら、私は気づかれないようにクスっと笑った。何だかさっきの仕返しが出来たみたいでスッキリとした気分だ。
そんな気持ちを抱きながらしばらく待っていると、私達が頼んだメニュー全てを纏めて持ってきたお爺さんの姿が。彼と一緒に慌てて援助に入った。
「ほほっ、すみません。カッコつけるものじゃないですねぇ」
「あはは……」
何処となく嬉しそうに笑いながら去っていったお爺さんを苦笑いで見送った後、私はゼリーに手をつける。ソーダのさっぱりとした素朴さが妙に口に合った。
私がゼリーの味の堪能していると、不意に隣の彼が珈琲と睨めっこをしながら話しかけて来た。
「花音先輩、ちょっとこのコーヒー飲んで見て下さい」
「うん、いいよ。…………あ、美味しい」
ゼリーの方もそうだったが、この店の味はどうも自分の舌に合うようだった。攻めすぎない素朴な味付けが何故か懐かしさを呼び起こす。きっと彼も同じ事を思って私に珈琲を勧めて来た筈だ。
「じゃあ、竜介君も……はい」
お礼の気持ちを込めて、私は彼にゼリーを一口差し出した。
「美味しいです」
「ふふ。良かった」
やはり彼の口にも合ったようだ。もしかしたらここのお爺さんは若い人向けの料理が得意なのかもしれない。
それからしばらくして、両者注文の品を完食し食後休憩をとっていた時の事。
最近あったちょっとした話題や帰り道などの話を彼としていくうちに、時計の長針が一周する。
そんな時、彼のスマホが鳴った。
「……知らない番号だ」
そう言った彼のスマホを覗くと、フリーダイヤルではない電話番号が画面に写っていた。着信音は中々鳴り止まず、しばらく唸っていた彼がスマホを持って席を立つ。
「すみません花音先、ちょっと出てきます。長くなると思うのでこれで会計頼めますか?」
「う、うん。分かったよ」
彼は私に二千円を預けた後、店の外に出て行った。
私は今のうちに会計をしとこうとレジに向かう。
「すみません。会計をお願いしても……」
「ああ、はいはい。了解しました」
レジの前の椅子で、何故か数年前の新聞を読んでいたお爺さんに声をかける。年季の入った会計機がカシャカシャと音を立て、支払い金額を表示する。
「ちょうど千円だね。お二人さんはあれかな?恋人同士?」
「は、はい。半年前からその……」
「ほほっ。それは良い。八百円にまけとくよ」
「え、でも……」
恋人割かもしれないが、何だか悪い気持ちになり断ってしまった。しかし、お爺さんに押し切られてしまい結局八百円だけ支払って店の出口へ。
「どうか末永くお幸せにのぉ。それと、しっかり支えてあげなさい。君の彼氏は意外と寂しがり屋だからね」
「は、はい。ありがとうございます。それと、ご馳走様でした」
「ほっほっほ」
お爺さんは軽快に笑いながら手を振って見送ってくれた。ちょっと変わったお爺さんだなと思う。
店の外に出ると、ちょうど電話が終わった彼と鉢合わせた。
「電話、どうだった?」
「はい。なんかテレビ局からで……」
「て、テレビ局……」
「そうなんですよ──」
彼の話を聞く限りだと、近々そのテレビ局が放送するニュース番組にて、商店街の過疎化をテーマに取り上げる事になったらしく、その映像資料として彼の祖父が経営していた喫茶店を映したいとの事だった。
「竜介君のお爺さんが営んでいたお店も商店街にあったの?」
「そうですね。人が少ない商店街で喫茶店をやってるってよく爺ちゃんは言ってましたよ。老後の趣味だそうで」
「そうなんだ」
もういない彼の祖父の経営する喫茶店は、一体どんな所だったのだろう。私は想像を膨らますが、彼に肩を叩かれすぐに現実に引き戻された。
「どうしたの?竜介君」
「いえ……帰り道どうしましょうかと……」
「あっ……」
私は迷っていた事を思い出した。ついでにさっきの電話で彼のスマホの電池も切れたらしい。しばらく静かに慌てていた。
その後、偶然巡回中のお巡りさんに遭遇し、何とか家に帰る事が出来た。この時の安心感は忘れない。
___
知らない土地で迷子になってから三週間が経った。今日は彼が言っていたニュース番組の放送日だ。
内容は喜ばしいものではないが、折角なので見ようと言うことになり、今は彼の家のテレビをお借りして一緒に眺めている。
『次のニュースです。数年前から問題視されている地方の商店街の過疎化について──』
ニュースのテロップと共に、映像が流れる。
人気のない商店街。シャッターはほとんど閉まっていて、人っ子一人いやしない。
でも、問題はそこじゃなかった。
今テレビに映っている商店街。
ここは間違いなく──
「竜介君、ここ……」
「……ですね」
この前言ったばかりの、あの商店街だった。
そして私は思い出す。彼に訪れたあの電話を。
彼は、テレビ局から自身の祖父が経営していた喫茶店の放映許可について問われたと言っていた。
あの商店街に喫茶店と呼べそうな店は私達が行った所ぐらいしか思い浮かばない。
──まさか。
息を呑んでテレビに見入っていくと、案の定……あの喫茶店が写った。
『商店街の過疎化はですね、それだけでも十分に問題なのですが、こう言った空き家状態の物件を残してしまうのも──』
でも、私達が行った時とは店内の雰囲気が全然違う。家具も床も埃まみれで、壁にはヒビが入っている所まであった。中でも、あの綺麗なクラゲの水槽があった場所には汚れた写真立てがあり、
「爺ちゃん……」
そこには彼の祖父が映っていた。
私と彼は丸くした目を見合わせ、飲み込めない混乱を共有する。
「──夢、だったんでしょうか」
彼の言葉に、そうかも……と肯定の意を返しかける。
でも、私は咄嗟に心の中で否定した。違う、あれは夢じゃないと。
──だって、私の腕に、あのリストバンドがあるから。
「あっ……」
私は、驚きのあまり忘れかけていた記憶を思い出す。
『どうか末永くお幸せにのぉ。それと、しっかり支えてあげなさい。君の彼氏は意外と寂しがり屋だからね』
──まさか、あれを伝えるために……。
そう思い至った途端、私の瞳からは涙、口元には笑みが零れた。
突然涙を流した私を彼は慌てて案じてくれる。そんな彼に「大丈夫」と一言返し、
「ありがとう。それとね、聞いて欲しい事があるんだ。竜介君」
私はたった今胸に刻んだ願いと役目を彼に告げた。
「私は、これからもずっと竜介君の事を支えたい。竜介君の笑顔を守れる人でいたい。それが私の願いで、託された役目だから。その……ダメ、かな?」
自信なく首を傾げた私に、彼は口付けで返してから私に言った。
「ダメじゃないです。でも、花音先輩に頼りっきりでは申し訳ないので、俺も花音先輩を支えて、花音先輩の笑顔を守ります」
「りゅ、竜介君……」
お互いに見つめ合い、再び熱いキスをした。触れるだけだけど、数秒時間をかけて愛を確かめ合う。そんなキスだ。
「花音先輩、二人で幸せになりましょう」
「うん。約束だよ?」
「はい。約束しま──いえ、誓います」
キスをし終わって少しぽわぽわした頭をした私に、彼はそう言って来た。バックライトのような夕日が一層彼を魅力的にする。
そして、私を強く抱きしめた。
「絶対……幸せにしてみせます」
耳元で囁かれ、心臓が破裂しそうになった。
「花音先輩、愛してます」
「わ、私も愛してるよ。竜介君……」
彼と誓いを結んだ。きっと、これからはずっとパートナーとして過ごして行くと思う。
私は彼との未来を想像しながら、跳ね続ける心臓を抑えられるよう尽くした。
やっぱり彼には勝てないようだ。幸せが胸をいっぱいにしてくれるから。きっとこれからも私は幸せで満たされてしまうのだろう。私も負けないように頑張らなくては。
そう覚悟を決め、最後に私はキスをした。
「あ、今度婚約指輪買いに行きましょうか」
──ふえぇ……。
いっつぁふぁんたじー……。
あこに恋心を抱かなっただけでこんな未来が……。
これは本編とこっちを繋げて映画一本作れますわ。
──魔王が皆の未来を奪い、そして幸せを独占した世界。
ただ幸せになりたくて、想い人と一緒にいたかっただけの魔王の世界。
奪った者、奪われた者の世界。
この夏、魔王に試練が襲いかかる!!!
マジおーばーくぉーつぁー