運命なき浮世に候へば、日ノ本一の兵に   作:後藤陸将

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拙作の投稿についてですが、とりあえず出向終わるまではできた都度投稿することにしました。
出向のハードスケジュール考えると2月までに2話分書き溜めるのすら無理っぽいですし、一括投稿だと年内に一度も更新しないで、下手すると来年春まで更新しない可能性大です。
アンケートではおまかせという意見が多かったみたいですが、流石に投稿初めてから主人公鯖召還まで一年かかるのはまずかろうと考えまして、ここから5話は書き上げた都度投稿していきたいと思います。


後、拙作を執筆し始めたことをきっかけに10月に名胡桃城、沼田城、岩櫃城を巡って来ましたが、やはり真田の城は観光への力の入れ具合がすごいですね。
公共交通機関の貧弱さがとても残念ですが。
岩櫃城は要害の中の城ですから、道中しんどいのも当たり前のことだと思いますが、名胡桃城なんて駅からどんだけ歩くんだよ……



第6話 御当主様は本気になられた

 先ほど時臣は弟子であり同盟者でもある綺礼に一声かけて鉄壁の魔術要塞である遠坂邸を飛び出したところだった。

 時臣は今夜、第四次聖杯戦争に参戦するために自身のサーヴァントを召喚する予定であったが、英雄を召喚するための触媒を工房に運び、包装紙を解いた際に、己の過ちに気づいたのである。

 今朝そこにあったはずの触媒が、そこになかった。包装紙に包まれていたのは、蛇の抜け殻の化石ではなく兜の緒の切れ端。時臣は娘への誕生日プレゼントと聖遺物を取り間違えていたことに気が付いて顔を青ざめさせた。

 頭痛を抑えるように頭に手を当て、深刻そうな表情を浮かべながら眉間に皺を寄せる時臣。見苦しい態度を取ることもなく、優雅な態度を崩さずに自身の失態を多いに反省する時臣。しかし、いかに優雅に取り繕ったとしても、これは大失態に変わりない。外見だけ余裕をたもっていたところでどうにもならないことは他でもない時臣が最も理解していた。

 兜の緒も蛇の抜け殻も同じ業者に手配を委託し、ほぼ同じタイミングで同じ包装紙、木箱に入れられて届いた。それがこの取違いの原因の一端ではあったが、当然のことながら最大の原因は時臣自身にあった。

 そう、これこそが時臣自身も知らず知らずの内に父親から受け継いでいた遠坂家の呪い、『遠坂うっかりエフェクト(約束された致命的な失念)』。

 その伝承者は肝心な時に普段ならどうということもないような不注意によって致命的な失敗を招いてしまうというお約束。以来、この呪いの伝承者のほとんどがバッドエンドを迎えてしまう悲劇的伝説があるのだという。統計はとっていないが、多分そうなのだろう。

 時臣はすぐに凛から触媒を回収しようと決意した。

 今の時期に屋敷から出ることの危険性は百も承知。触媒の回収など綺礼に頼み、無数に分裂する宝具を持ったアサシンの一体を凛のもとに向かわせるなり、妻にこれから電話して事情を説明し、触媒を持ってきてもらうのが最善であることは明らかだった。

 ただ、時臣にはそれができなかった。

 妻に聖杯戦争に使う触媒と娘の誕生日プレゼントを間違えたなどという恥を告白することはどうしても彼のプライドが許さない。

 弟子であり同盟者であり、尊敬する父の旧友の息子。そんな相手に自分の失態を口にできるわけがなく、ましてやその失態に対処するために力を貸してくれなどと言えるはずがない。

 誰かに頼るということは、自分の恥を吐露することと同義。だからこそ、時臣は先祖代々磨き上げてきた宝石魔術を用い、娘の居場所を探した。触媒を持つ凛に密かに接触し、触媒を凛に気づかれないうちにすりかえる。探知も、すりかえも一流の魔術師である時臣には造作もないことであった。

 彼にとっては幸運なことに、その凛の反応は妻の実家のある冬木の隣街ではなく、冬木市の中にあった。綺礼には凛に渡しそびれたものがあると誤魔化して屋敷を後にした時臣は、タクシーを手配して反応のあった深山地区の住宅街を目指した。

 凛の反応のあった住宅のすぐ近くに停めたタクシーから降りた直後だった。

 時臣はすぐ近くに現れた強大な魔力を察知して目を見開く。現代の魔術師でこの域に達する圧を放つものなど、時臣の知る中にはいない。その魔力の気配は聖杯戦争に召喚されたサーヴァントの発するものだと、理屈ではなく本能で理解した。

 行動には迷いはなかった。探知した凛の居場所とサーヴァントの召喚された位置は極めて近い。そこから導き出される可能性は二つ。一つは、外来の魔術師がサーヴァントを召喚し、魂喰いをするために凛を狙っているという可能性。もう一つは、何らかの偶然で凛がサーヴァントを召喚したという可能性。

 時臣は、まず間違いなく前者であると考えている。御三家から選ばれるマスターは毎回一人だけであるし、まだ幼いとはいえ凛は昼の住宅街でサーヴァントを召喚するという意味を理解していないほどに浅慮ではないからだ。

 しかし、凛の身に危険が迫っていると考えた時臣は迷わなかった。

 凛とサーヴァントの気配のする一軒家に認識阻害の結界をかける。そして、身体強化の魔術を自身に付与すると同時に駆け出した。さらに右手に持つステッキから炎が迸る。サーヴァントほどの魔力を有する存在であれば、直接その姿を目にせずとも位置を把握するのは容易い。

 ステッキの先につけられた巨大なルビーから溢れた炎は、時臣に先行して庭に面するリビングの窓ガラスを突き破りサーヴァントへ直撃する。炎で砕かれた窓ガラスの破片が散乱する中、時臣も屋内に突入する。

 そして、時臣は見つけた。手足を縛られ、口に猿轡を噛まされて横たわる二人の少女の姿を。その内の片方の姿を、時臣が見間違うはずがない。その少女の片割れこそ、時臣の娘である凛なのだから。

 声にならない叫びをあげながら涙を流す二人の少女と、首を失った遺体。ローブを纏った恐ろしい顔のサーヴァントと、その後ろにはマスターと思しき若い男。

 部屋の内部を一瞥した時臣は自分の予想が的中していたことを知る。

 遠坂時臣は激怒した。

 必ず、かの放辟邪侈の犯罪者を誅伐せねばならないと決意した。

 遠坂時臣は魔術師である。世の理からは遠く、魔術師としての倫理と思考に従順な男である。世俗の法に従うのではなく、己自身に法を課すが故に、世間一般で美徳とされるような正義感を是とすることはない。しかし、この時遠坂時臣は確かに世俗の正義感に限りなく近いものに駆り立てられ、『邪悪』に対する怒りをおぼえていた。

 娘を危険に晒された父親としての怒り、自らに課した法に従う魔術師としての義憤、一人の人間としての悪に対する反発。

 遠坂時臣の心は、その普段と変わらぬ余裕と気品に満ちた佇まいと裏腹に煮えくり返っていた。

 もはや、彼らには慈悲も温情も不要。

 彼らは、管理者(セカンドオーナー)たる遠坂の膝元でその後継者を亡き者にしようとし、さらには浅ましき願いを叶えるべく聖杯戦争に参加して遠坂の悲願を阻もうとしているのだから。

「この地の管理者(セカンドオーナー)として、私が誅を下す。私は君たちを、断じて許さない」

 敵がサーヴァントであることは百も承知である。魔術師がサーヴァントを退けることなど常識で考えればまず不可能であり、サーヴァントにはサーヴァントを当てることが聖杯戦争の鉄則だ。

 まさか失態を誤魔化すために凛に会いに行ったところで偶々サーヴァントの召喚場面に出くわして綺礼や璃正に連絡する間もなく強行突入してサーヴァントと対峙するなどということは全く想定していなかったから、時臣はサーヴァントも連れるどころか未だに召喚すらしていないし、綺礼からアサシンを借り受けてもいない。

 助けが来る見込みもなく、こちらには要救助者の子供が二人。常識的に考えればここは逃げの一手であるが、時臣は即座に凛を救出して逃げるという手を打たなかった。時臣が怒りから冷静な判断ができなかったというわけではない。多少無理をしてでもサーヴァントかあるいはマスターに一撃を加えなければ凛を連れながらサーヴァントの追撃を逃れて脱出することもできないと冷静に判断した結果である。

 全身を覆う禍々しいローブと、その手に持つ禍々しい魔力を発する本から、敵サーヴァントのクラスは三騎士かバーサーカーである可能性は低く、本命はキャスターであると時臣はあたりをつけている。

 もしも敵が三騎士であれば、対魔力のスキルによって時臣の魔術のほとんどが無効化されてしまうだろう。敏捷もそれなりに備えている可能性が高い。そうなると、時臣では刺し違える覚悟を持っていたとしても歯が立たなかっただろう。

 敵がキャスターであるならば三騎士に比べれば脅威度は低い。他のクラスと比較しても、工房に篭らない限りは脅威度は最低と言ってもいいだろう。

 とはいえ、通常キャスターのクラスのサーヴァントに選ばれるほどの魔術師が行使する魔術は現代の魔術師が扱うそれとは文字通り桁が違う。魔術戦など、成り立つはずがない。

 常識的に考えれば、勝機はない。

「フフフ……我が宿願を阻むためにあの忌々しい神が邪魔者を放ってきたかと思えば、この時代の凡庸な魔術師ですか」

()()()()()のサーヴァントよ、聞こえなかったか?君達に誅を下すと私は言ったのだ」

「この身がキャスターのクラスをもって現界したサーヴァントであることを知りながら挑んでくるとは、ああ、なんと救いのない愚かさでしょうか……」

 自身のクラスを言い当てられたことにも、キャスターは一切動じない。それどころか、実力差は目に見えており、相手に非ずという態度を崩さない。

「私は別に、貴方のような人間は趣味ではないのですがね。ああ、しかし、目の前で希望を打ち砕かれた健気な少女の姿というのも捨てがたい。ここは一つ、貴方にはあの子たちの絶望の糧となってもらうとしましょう」

 キャスターの腕の中の魔本が僅かに光を漏らす。宝具か、それともキャスター自身の魔術かは時臣にも判断がつかなかった。それと同時に、キャスターの足元から蛸の足を思わせる触手が生えてきた。

 やがてそれは姿を現した。

 毒々しい色と咀嚼器官を思わせる突起を纏った蛸のような姿、シルエットは蛸ともヒトデとも取れるような軟体生物のようだ。

 異形の正体がキャスターの魔術あるいは宝具の行使かは不明であるが、それは時臣の命を狙うものであり、それから逃れることはできない。絶対の死が迫っていることを時臣は理解する。

 そして、断末魔の一瞬。

 

Elf(十一番)Stark(十番)――――Groβ Zehn(強化)

 

 時臣の手の中でトパーズが砕けた。同時に、キャスターを守るように立ち塞がった異形の生物が砕け散るが、キャスターには傷一つついていない。

 しかし、時臣が放った魔術はキャスターの召喚した異形を砕いた際に、強い光を放った。キャスターはその光に目が眩み、時臣の姿を見失う。

 そしてこの時、遠坂時臣が常日頃から優雅に非ずと押さえ込んできた衝動的な思考が、彼の常識、認識の柵から解き放たれた。

 普通の魔術師は追い詰められ、戦況が悪ければ、如何に自身の魔術を以って状況を打開するかばかり考えるだろう。

 だが、時臣は違った。

 

 逆に!!

 

 なんと!!

 

 魔術で戦うことを棄てた!!

 

 時臣はステッキを上段に振りかぶり、魔術で強化された右腕に渾身の力を籠めてキャスターの頭部へと叩きつけたのだ!!

 頭部に叩きつけられたステッキに籠められた運動エネルギーは、キャスターの脳を揺さぶると共に、頭部を支える首の筋肉が持ちこたえられないほどの力を加えた。身体をくの字に折り曲げ、キャスターの頭は重力に引きつけられたかのように地面へと墜ちていく。

 さらに、時臣は追撃する。地面へと接近するくキャスターの顔面に下から追撃の蹴撃を加えるだけにとどまらず、間合いをつめてそのローブの襟を掴むと同時に左足をキャスターの右脚の後ろに回し、瞬時に脚を払った。

 時臣はかつて時計搭に留学していた際、友人から護身術としてバーティツを学んでいた。バーティツとは、一説にはかのシャーロック・ホームズがライヘンバッハの滝での闘いで宿敵モリアーティ教授を破るために用いた格闘術「バリツ」と同じものとも言われている。

 時計搭どころか、世界でも有数の知名度を誇るも、実際にそれを修めている者は超少数派(マイノリティー)な格闘術だ。表向きには、二〇世紀初頭に僅か数年だけ世に出た後に衰退し、伝承者がいなくなったとされている。

 しかし、時臣の友人の一族は代こそ三代と新興であったが、バーティツを一族で細々とおよそ七〇年以上の間受け継いできた稀有な一族であった。魔術師であり紳士であることを是とするその友人と時臣は意気投合し、真の英国紳士の格闘術としてバーティツの教えを時臣に授けたのだ。

 他方、キャスターとて、かつては戦争で功績を挙げた軍人だ。剣や槍の使い方ならばよく知っているし、それを扱えるだけの体力、筋力は有している。体術についても戦場での乱戦に備えて鍛錬をしていた。

 しかし、己の肉体だけを武器にする近接格闘術については門外漢だった。彼の修めていた武術はあくまで自身が鎧を着込んでいるという前提で、頑丈な鎧に身を包んでいる敵を相手にするための格闘術でしかなかった。キャスターの無手格闘術についての経験はとても浅い。

 そもそも、キャスターのクラスで現界したとはいえ、彼は本質的には魔術師ではなく軍の指揮官であり、そして指揮官の武器は卓越した個人の武勇ではなく、指揮能力だ。

 槍や剣が廃れ、火器が大きく発展する前夜とも言える時代の将軍であるキャスターには、このような武器をもたずしての近接戦闘は生前もほとんど想定したことがなかった。

 息つく間もない連続攻撃に加え、重心を巧みにずらす柔術の要素を取り込んだ技に、たまらずキャスターは転倒し、背中から地面に叩きつけられた。

「オノレェ!!この匹夫がグフオァ!?」

 立ち上がろうとしたキャスターの喉に、ステッキの石突が突き出される。突きによって喉を潰されたキャスターは苦悶の表情を浮かべ再度地に身体を沈めた。

「魔術師として、この地の管理者(セカンドオーナー)として、そして、父として。私は君を断じて見過ごせない。温情など、かけることは無いと知りたまえ」

そして、時臣は眼前の醜悪なサーヴァントを葬るべく、ステッキの先端をマスターであろう隣の龍之介に向けた。

 

Intensive(我が敵の火葬は) Einascherung(苛烈なるべし)――」

 

 ステッキの先端に煌くルビーから、一条の炎が放たれた。




 なに時臣。キャスター相手に自分では勝てない?
 時臣、それは魔術戦をしようとするからだよ
 逆に考えるんだ「魔術で戦わなくてもいいさ」と考えるんだ

 凛が神代の大魔女相手にできたことなんだから、トッキーでもイケルイケル。
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