こちらについては、完成しだい1901に投稿予定となっております。
つきましては、連続投稿はこの話をもって一度区切りとなります。
聖杯戦争に喚ばれている。
天海――光秀を大坂の陣で狙撃することだけが抑止力の狙いではなく、死後も守護者としてこき使うところまで含めて抑止力の思惑だったのではないかとも座に祀り上げられた時には勘ぐっていたが、結局守護者となることなく、幸村は座に登録された英霊の一人となった。
幸村は迷うことなく召喚に応じる。
英霊の座には時間軸というものがないため、それはずっと待ち望んでいたものがきたというわけでも、早速お呼びがかかったというわけでもない。なんとも表現し難い感覚だ。
聖杯戦争におけるサーヴァント召喚では、喚ばれた側の英霊も召喚を拒否することができる。聖杯を求める理由がなかったり、あるいは召喚の縁となった聖遺物が気に入らなかったりと、英霊によって召喚に応じる条件が色々とあるのだが、幸村には特に召喚に対する条件はない。
聖杯を以って叶えたい願いも特にない。くそったれ抑止力には一泡ふかせてやりたいが、それはそれで自身が刻んできた歴史が特異点や異聞帯となるリスクがあるため、聖杯を使ってまで叶えたいとまでは思わない。
抑止力に縛られた生涯に悔いがないわけではない。しかし、アルトリア・ペンドラゴンの物語を、衛宮士郎の物語を知るが故に、やり直すことを良しとは考えることができなかった。
幸村が聖杯戦争に参加する動機は単純明快。彼の知る型月キャラに会ってみたいという原作ファンなら一度は抱く私欲だ。
むしろ、彼の知る
そして、幸村は二〇世紀末の冬木の地へと降り立つ。
「其方が、私のマスターか」
目の前の光景が、凛には信じられなかった。
テレビドラマによる再演とはいえ、その鮮烈な生き方を知っている。戦国最強と謳われる武勇を知っている。
憧れた伝説の勇者が、そこにいる。
「わ……わた、私が。あの、その、えっと……」
――私が、あなたのマスターです。
――なんで、あなたが来てくれたんですか!?
――お会いできて、光栄です。
――サインください!!
話さなければいけないことが凛の中に次から次へと浮かぶ。幼い頭脳は歓喜の感情とそれに匹敵する困惑を処理することができず、何を言えばいいのかも整理できないでいた。
加えて、憧れの存在を前に口ごもってしまったことに対する羞恥心が、凛の混乱をさらにエスカレートさせていく。
目の前で顔を真っ赤にしながらどうすればいいかわからず狼狽える凛の姿に、幸村もどうしたものかと困惑した表情を浮かべるしかない。
「うむ。一度落ち着きなさい。息を大きく吸うのだ。こう、腹を膨らませるくらいに大きくな」
幸村に促され、凛は戸惑いながらも大きく息を吸った。
「そして、吐く」
肺にため込んだ空気を一気に吐き出す。それはまるで、整理できないでいた混沌とした感情をも吐き出されていくように凛は感じていた。
「よしよし。さて、其方が私のマスターでよいのだな?」
凛が、落ち着いたことを見計らっての二度目の問い。今度は、凛もしっかりと答えることができた。
「は、はい!!わ、私は遠坂時臣の娘、遠坂凛と申します!!私が、あ、貴方の、マスターです!!」
元気のいい答えに、幸村は僅かに笑みを浮かべた。
「うむ、元気のあるよい声だ。我が主よ」
幸村は膝を折り、凛の前に頭を下げる。
「――サーヴァント・アーチャー。真田左衛門佐幸村、召喚に従い参上仕りました」
空気が重くなったように凛は感じた。
「これより我が身は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある」
あの戦国武将が目の前にいて、自分に忠義を誓っている。
「――ここに、契約は完了した」
凛は、自身の手の甲を見やる。そこには、父の右手の甲に刻まれたそれとよく似た、円をモチーフとした紋様が浮かんでいた。
令呪、マスターの証がそこにある。
夢じゃない。目の前の光景が現実だ。改めて、自分がとんでもないことをしたのだと実感する。
これが、聖杯戦争なのだ。
「……して、そこの魔術師はマスターの父親か?」
凛は、幸村の視線に釣られて父の方を向いた。
幸村に視線を向けられたことに気が付いた時臣は、地面に膝をついて頭を下げた。
「武勇の誉れ高い真田左衛門佐様にお目にかかれて光栄です。私は、この地を治める遠坂家の当主、遠坂時臣と申します。凛は、我が娘でございます」
「時臣殿、頭を上げられよ」
幸村は苦笑しながら時臣に歩み寄った。
「この身は王でも大名でもない、部隊の指揮官に過ぎぬ。マスターとサーヴァントの主従関係に異存はござらん。そして、時臣殿は我が主のお父君。主筋に当たるお方に頭を下げられて、そのような態度を取られても困ってしまう」
「は……」
「遜る必要はありませぬ。堂々と接してくだされ」
「それでは、お言葉に甘えさせていただこう。アーチャー殿、まだまだ至らない点もある娘ですが、凛を頼みます」
「しかと、承りました」
幸村と時臣は和やかに話し合う。
幸村のタイガードラマに出てきたとおりの物腰の柔らかさに、凛の胸のトキメキが加速する。
目の前に強くてかっこよくて紳士的な理想の男性――それも、戦国時代最強と謳われる伝説の英雄が現れて、自身を窮地から救ってくれたのだ。物語のお姫様にでもなったような高揚感と幸福感は凛の思考すら鈍らせていた。
そして、自分の立ち位置に酔っていた凛の態度は初対面のはずの幸村でも察することができるくらいに分かりやすかった。幼さ故か、まだまだ凛は外面を取り繕うことが苦手であった。
そんな今の彼女にこの場の判断を委ねるのは難しいと判断したのだろう。幸村は正座した時臣の前に座り込み、声をかけた。
「……まず、確認したいことがあるのだが、よろしいか?」
先ほどまでの柔らかい物腰から一転し、引き締まった空気を纏った幸村に対して、時臣も思わず身構える。
「お主の身体は、大丈夫か?魔術か何かは知らないが、既に血は止まっているように見えるが、決して軽い傷でもなかろうに」
「…………」
時臣の顔には、脂汗が滲んでいる。キャスターの召喚した海魔の触手に貫通された腹部に出血こそ見られないものの、それはあくまで出血を止めただけのこと。さらに、まともな処置をすることよりも凛たちを守ることを優先し、つい先ほどまで全力で魔術を行使していたのだ。
魔術刻印が時臣を生かそうと機能していたが、時臣の傷は深く、魔術刻印の自動機能でどうにかなるような傷ではなかった。時臣は心身共に擦り減っており、既に限界に近かった。
それでも、自身の身体の状態を気取らせないようにふるまっていたのは、偏に凛のためだ。
サーヴァントとして召喚された英霊があの真田幸村とはいえ、伝承通りの人物であるという保証はない。最低限、すぐに自害を命ずべき相手かどうか見極めるまでは、弱みを見せられないと時臣は考えていたのである。
「色々と話したいこと、話さねばならぬこともあるが、まずはお主の処置が優先だな。意識を保っているのも厳しかろう。無理をするでない」
「……申し訳ありません」
自身を気遣う態度を取る幸村に対して、時臣はそれでも意識だけは手放すことはできないと気を張っている。
「医者を呼ぶのは不都合だな。時臣殿、お主の同盟者あるいは協力者は冬木にいるか?」
「亡き父の友人とその息子が私の協力者です」
「そやつらは、今どこにいる?」
「おそらく、この時間でしたら教会にいると思いますが……」
召喚されたばかりで周囲の地理も把握できていない幸村を教会に派遣して助けを求めることは難しい。それに、召喚されたばかりのサーヴァントを自身の目の届かないところにおくことは避けたいと時臣は考えていた。
ならば、ここは使い魔を飛ばして助けを求める他ない。時臣がそう考えた時だった。周囲を見渡していた幸村が、床に転がっている何かを見つけ、それを拾い上げて時臣に差し出したのは。
「時臣殿、これで教会と連絡を取れるか?」
「……は?」
幸村が時臣に差し出したのは、コードレス電話の受話器だった。
幸村の意図は時臣にも理解できる。電話番号さえわかれば、すぐさまこの場から音声のやり取りができるのだから、それに越したことはないと考えているのだろう。幸村の生きた時代にはないものであるが、聖杯から与えられる現代の知識の中に、電話についての知識があったとしても不思議ではない。
正直なところ、時臣は既に立ち上がることさえ辛いほどに消耗していた。座りながら、魔術も使うことなく連絡の取れる電話は、この場における最適解だろうことは間違いない。
しかし、時臣はその受話器を手に取ることを躊躇する。
――そう。時臣はコードレス電話機を使ったことがなかった。
遠坂邸の電話は未だにプッシュホンで、留守番電話機能すらついていない。コードレス子機に触れたこともない時臣は、内心の動揺を隠しながら幸村から子機を受け取り、冬木教会の電話番号を押した。
電話番号を押すだけで、電話は繋がる。電話番号は、教会とのやりとりで何度か電話をかけたことがあるから覚えている。なにも恐れることはないと自らに言い聞かせる。
そして、時臣は子機を耳にあてるものの、スピーカーからは一向にコール音がならない。もう一度、電話番号をプッシュするが、まったく反応がない。
壊れているのではないかと訝しげな表情を浮かべて受話器を眺める時臣。
それを見ていた幸村がボソリと呟いた。
「……その、受話器の形をした印を押さなければ電話はかからないのではないのかね?」
血の気の引いて真っ青になっていた時臣の顔が、羞恥で微かに赤く染まった。
時臣は、通話ボタンの存在を知らなかった。
《サーヴァントのステータスが更新されました》
クラス:アーチャー
マスター:遠坂凛
真名:真田幸村
性別:男性
身長:185cm/体重:80kg
–
出典 史実
地域 日本
属性 秩序・善
隠し属性 人
パラメーター
筋力:B+
耐久:A
敏捷:B
魔力:A
幸運:B
宝具:EX
クラス別能力
対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する
大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない
単独行動:A+
マスター不在でも行動できる
保有スキル
軍略:A
多人数を動員した戦場における戦術的直感力
自らの対軍宝具行使時、相手の対軍宝具および対城宝具の対処時に有利な補正がかかる
徳川及びその係累に属する相手に対してはさらに効果が上昇し、ランクEX相当の効果を発揮する
鬼種の魔:B
魔性を現すスキル
天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出等との混合スキル
真性の鬼である証左。魔力放出の形は「熱」
ランクBの彼は純血の鬼ではなく、鬼と交わった先祖返りである
日ノ本一の兵:EX
固有スキル。日ノ本一の兵として称された逸話から
スキルの発動中はセイバー、アーチャー、ランサーのクラスのうち、自身の選択したクラスに自身のクラスを変更できる
ただし、セイバーからランサーに直接変更することはできず、セイバー→アーチャー→ランサーという順番でクラスを変更しなければならない。逆もまた然り
真田丸の内部にいる時には、発動しない
不惜身命の六文銭:C
三途の川の渡し銭はいつでもその手にあるという、いつでも死を迎える覚悟
肉体を大きく損傷することで発動し、発動中は肉体の損傷による身体能力の劣化を一時的に無効化し、瀕死の傷を負っていても相手を屠るまであらゆる手段を使い戦闘を継続することが可能
しかし効果時間終了時に溜め込んだダメージが一気に噴き出す諸刃の剣
宝具
真田丸
ランク:EX
種別:城塞/対軍宝具
レンジ:10~100
最大捕捉:1000人
大坂冬の陣で幕府軍に大損害を与えた砦、真田丸を顕現させる
真田丸内部に拵えられた八門の大筒はBランク宝具に相当する威力があり、一〇〇〇丁の火縄銃の一斉射撃はCランク宝具相当
この大筒や火縄銃のみを射手と共に限定して召喚することも可能
同時に、真田丸の内部には真田丸で共に戦った兵たちも軍勢として召喚され、短時間であれば城外への出撃もできる
召喚された兵たちは全員が独立したサーヴァントでもあり、宝具は持たないが全員がE-相当の「単独行動」スキルを有しており、短時間であればマスター不在でも活動が可能
馬上宿許筒
ランク:C
種別:対人宝具
レンジ:2~100
最大捕捉:1人
大坂夏の陣で真田幸村が徳川家康を馬上から狙撃するために用意した火縄銃
徳川及びその係累に属する相手に対して与えるダメージが増大する
スキル日ノ本一の兵によりセイバー又はランサーのクラスになった時には使えない
大千鳥十文字槍
ランク:C
種別:対人宝具
レンジ:2~4
最大捕捉:1人
大坂夏の陣で真田幸村が越前勢一〇〇〇を突き殺したという逸話の残る槍
スキル日ノ本一の兵によりランサーのクラスになった時しか使えない
徳川及びその係累に属する相手に対して与えるダメージが増大する
正当なランサークラスで召喚された場合には、騎乗特攻と軍勢特攻能力が備わるが、アーチャークラスで召喚された場合には、スキル日ノ本一の兵の発動時でもこの能力は備わらない
六文銭村正
ランク:C
種別:対人宝具
レンジ:1
最大捕捉:1人
大坂夏の陣で徳川家康に傷をつけた刀
銘は刻まれていない
千子村正晩年の作品の一つであり、宿業を断つ能力も多少であるが備わっている
スキル日ノ本一の兵によりセイバーのクラスになった時しか使えない
徳川及びその係累に属する相手に対して与えるダメージが大きく増大する
正当なセイバークラスで召喚された場合には、神性を有する相手に対して与えるダメージが増大する能力と、斬りつけた相手を一定の確率で毒状態とする能力が備わるが、アーチャークラスで召喚された場合には、スキル日ノ本一の兵の発動時でもこの能力は備わらない
ぼかしたところはシステム上皆さまもある方法で読めますが、ネタバレが嫌な方は試さないことをおすすめします。
試された方も、感想欄で言及することはお控えください。