実は、前回の投稿後に転勤しまして、コロナ禍の中で通常業務や引継ぎや転居作業やらでてんやわんやしてて、中々執筆が進みませんでした。
とりあえず、書き上げられた1話をあげます。
聖杯から与えられた知識により、召喚直後にこれは冬木の第四次聖杯戦争――つまりは、Fate/Zeroの世界であることを幸村は瞬時に理解した。
東洋の英霊は召喚できないはずの冬木の聖杯で生粋の純国産英雄である幸村を召喚するということは、間違いなく正当なやり方ではない。
外典の第三次聖杯戦争でルーラーとして天草四郎時貞という聖人擬きを召喚した前科のあるアインツベルンや、山門を依り代に佐々木小次郎の役どころを与えられた純国産NOUMINを召喚した魔女メディアがいい例だ。
自分のマスターが裏技探しに精を出すアインツベルンとか、裏技本を読んだ前世知識を持つご同輩だったら嫌だなぁなんて思いながら、第四次聖杯戦争に喚ばれて飛び出てジル=ド=レェ。
召喚されてみたら四方が海魔に取り囲まれていて、その奥にいきり立つジル=ド=レェを見たら、殺すしかない。誰だってそうするだろう。少なくとも幸村はこれは殺すしかないと即決した。
マスターの顔を確認するよりも先に目の前に立ち塞がる海魔の壁は魔力放出によって熱で焼き尽くし、一瞬だけ射線を確保。そして、宝具の馬上宿許筒をクイックドロー。ヘッドショットでジル=ド=レェを始末する。ジル=ド=レェさえ始末してしまえば、海魔もこれ以上増えることはない。魔力放出で焼き尽くすことは簡単だ。
召喚された直後のサーヴァントによる一切の躊躇のない奇襲。これを想像して備えろという方が無理がある。結果として、全く想定外の速攻はもともと個人の武勇に秀でた武人でもないジル=ド=レェに対処する暇を与えなかった。
幸村が知るZeroにおけるアインツベルンの森での戦闘でセイバーが苦戦したのは、対軍宝具が使えない状況下で多数の軍勢に囲まれてキャスターをその聖剣の間合いに捉えることができなかったことが大きな要因として挙げられる。
室内という展開できる軍勢の数が限られた空間であれば、ジル=ド=レェの戦闘力は屋外のそれと比べて格段に落ちるのだ。
対して、この幸村は、元は型月ファンの一般人とはいえど、鬼種の力を持って生まれ、文字通り乱世であった戦国時代を生き抜き、戦国最後の大戦で死線を掻い潜った経験を持つ戦士だ。加えて、日本という最高の知名度補正を受けられる環境であれば、サーヴァントとしては破格の戦闘能力を有した状態で召喚される。
マスターの有無、ステータスの差、戦闘スタイルの相性、地の利、キャスターの油断。これらの要素が上手く嵌ったからこそ、幸村はキャスターを瞬殺することができたのである。
そして、キャスターを始末した幸村は、自身のマスターが遠坂凛であることを知った。外面はどうにか取り繕っていたが、内心はもう大興奮だった。
なんせ、凛はあのStay nightのヒロインだ。もっとも、彼女がヒロインとして舞台に上がる一〇年前ということもあり、今の彼女は「あかいあくま」へと成長する前のいじっぱりツインテール黒髪ロリ。
一〇年後でもちょっとストライクゾーンには入らないだろうなぁとも思いながらも、ちゃっかり幸村はあの運命の夜の伝説の名シーン『問おう――あなたが私のマスターか』をノリノリで肖った。もしも、いつか聖杯戦争に召喚されたら絶対にやろうと決めていただけあってこの時の幸村の感慨も一入だ。
その後、感動を胸に秘めながらも、ついでにその場で簡単な自己紹介と現状の把握に幸村は努めた。
因みに、彼は
しかし、何故か召喚に居合わせていた時臣が重傷を負っていたということもあり、細かいことはとりあえず棚上げとしてさりげなく協力者の存在を時臣に自分から説明させ、言峰神父に連絡を試みた。時臣がコードレスの電話機すら上手く使えないという誤算があったが、どうにか教会と連絡を取ることに成功。
連絡を受けて駆け付けた聖堂教会のスタッフの助けを受けながら、時臣は秘密裏に教会の保有する拠点の一つに搬送されて綺礼の手で処置を受けた。傷そのものはどうにか塞ぐことに成功したものの、消耗が激しかったこともあり、時臣はそのまま意識を失って寝込んでしまった。
時臣が処置を受けている間、幸村は重体の父の姿に狼狽える凛を落ち着かせることも兼ねて、凛を伴わせたまま璃正神父と会談の場を設け、時折凛にも簡単な問いかけを交えながら召喚に至るまでの経緯を確認することとした。
凛の話を端的にまとめると、友人宅に遊びに行ったら殺人鬼に捕まって、その殺人鬼がサーヴァントを召喚して凛たちを生贄にしようとしていたところに、時臣が乱入。しかし、龍之介の命を顧みないキャスターの奇策によって時臣が窮地に陥ってしまい、一発逆転を狙ってサーヴァントの召喚を試みたら成功してしまったということらしい。
そんな窮地でサーヴァントの召喚を成功させるなんて、ヒロイン系ラスボスや同金型量産系ニートヒロインとはヒロイン力の格が違うなぁなどと幸村は半ば感心するほかなかった。
同席した璃正神父は凛の行動力に呆れるやら驚くやら、何とも複雑な表情をしていた。
因みに、凛の友人であり、召喚のあった家の子であるコトネについては教会の方で保護し、記憶については現場の隠蔽工作と合わせる形で操作していくとのことだった。コトネの両親は龍之介に目の前で殺害され、その両親の血でサーヴァントを召喚するための召喚陣が描かれた。
凛が幸村を召喚する姿も、その後幸村が海魔を撃破した光景もしっかりと見てしまっている。聖堂教会が後始末を担当する以上、最善の処置を施すだろう。両親の死についても別の原因に置き換えてしまうだろうが、今夜彼女を襲った悲劇は彼女の心に深い爪痕を残すだろう。
今後は、遠縁の親戚に引き取られて冬木から離れて暮らすだろうとのことだが、冬木を離れたとてふとしたきっかけで封印された記憶が目覚める可能性はゼロではない。幸村は彼女が今日のことを思い出す日がこないことを願うばかりであった。
時臣が目覚めることなく時は過ぎ、夜も遅くなったため、その日凛は教会内に設けられた仮眠室のベッドを借りて就寝。英雄王の代わりに自分が召喚され、しかも凛がマスターとなったということで今後、原作からどのように乖離していくのかを考えながら、幸村もその傍で霊体化して待機することとした。
そして、日付が変わり、翌日の朝。時臣が目を覚ましたとの報告を綺礼から受け、凛と幸村は朝食も済ませぬまま時臣の下へと向かった。しかし、そこで幸村たちを待っていたのは、ベッドに腰掛けたまま眉間にしわを寄せて項垂れている時臣とその傍で険しい表情を浮かべている言峰親子の姿だった。
「あの……お父様?」
時臣は焦燥にかられていた。その傍らに立つ璃正神父の低い唸り声もまた、事態の深刻さを物語っていた。
「璃正殿、これはいかなることであろうか」
実体化した幸村からの問いかけを受け、璃正が重い口を開いた。
「昨晩のことだ。霊器盤が四体のサーヴァントの現界を確認した。先に脱落したキャスターと、アーチャー殿、それに綺礼のアサシンを含めて、これで聖杯戦争に参加するサーヴァントが出そろったこととなる」
幸村は目を見開いた。
原作では最後に召喚されたはずのキャスターがアサシンに次いで召喚されたり、英雄王が召喚されるべきアーチャーのクラスに幸村が収まるというイレギュラー。原作では、バーサーカー、ライダー、アーチャー、セイバーが同時期に召喚されたような描写があったが、まさかケイネスも時を同じくして召喚していようとは幸村は予想していなかった。
「本来であれば今日の未明に時臣君も召喚の儀式を行う手はずであったが、時臣君はその時意識不明の重体であったため、召喚を見送った。それが凶と出た形になる」
重傷を負い、サーヴァントの召喚のタイミングを逃した結果、他のマスターに全てのクラスを取られるという醜態に時臣は頭を抱えていた。マスターとしての権利はあるが、サーヴァントが召喚できないのだ。まさか御三家の当主が、開戦前に敗北するなど前代未聞の珍事である。
一応、凛がサーヴァントを召喚することに成功しているため、遠坂家としてはまだ敗北したわけではないが、時臣の矜持は実のところズタボロだった。過去の存在である英霊にすら推測できた現代機器の使い方が分からなかった時の赤っ恥など、今の時臣の胸中に比べればなんということはない。
そして、ここで初めて時臣が口を開く。
「今回の第四次聖杯戦争において私が召喚する枠は……もう、ないということだ。遠坂家の当主たる私が、まさか、不戦敗とは……」
時臣は腹部の傷とは別の理由で血反吐を吐きそうな顔をしていた。
「令呪が残っているのがせめてもの救いだな。しかし、サーヴァントを持たないマスターの令呪は、そのまま残るものなのか?」
幸村の問いに、璃正が答えた。
「サーヴァントを失ったマスターの未使用の令呪は聖杯が回収することになっているが、御三家――アインツベルン、遠坂、間桐のマスターは例外だ。彼らは、サーヴァントを失ったとしても令呪を回収されない」
「そのため、マスターがいないサーヴァントがいれば、御三家のマスターであれば優先的に再契約をすることができるということだ。聖杯戦争でマスターを標的にする理由の一つは、サーヴァントと再契約をして聖杯戦争に復帰することを防ぐという側面もある」
璃正の説明を時臣が引き継いだ。そして、時臣は次いで凛へと視線を向けた。その視線の意味するところを察した幸村は、時臣がさらに言葉を重ねる前に先手をとった。
「凛――」
「先に言っておくが、私にも二君に仕えぬという信念がある。我がマスターに戦う意思がある限り、主替えには同意せんぞ」
自身の思惑を看破された時臣が、驚きの表情を浮かべる。
「私は御息女に忠誠を誓ったのだ。マスターの父親であれば主筋ゆえに尊重はする。しかし、あくまで主は御息女、凛殿である。軽々しくマスターとして扱うことはできぬ」
時臣が、先にサーヴァントの召喚に成功した凛からサーヴァントを譲り受けようとすることは幸村も想定済みであった。彼の知るFate/Grand Orderのイベントの一つ、Fate/Accel Zero Orderにて、
しかし、幸村は断固として時臣に仕えることを拒否するつもりであった。
「ですが、凛はまだ八歳です。魔術師としての修練もまだまだ浅く、これから始まる魔術師間の抗争についていけるとは思えません。アーチャー、貴方も聖杯にかける願いがあるのなら、より勝算のある策を取るべきではないのですか?」
幸村は首を横に振った。
「そもそも、私は勝てるマスターに仕えるのではない。私が勝てる可能性のみで考えるような男であれば、堀が埋められた時点で裸城となった大坂城から退去して大御所に下っておっただろうに。どう考えても、あの時点で豊臣家の命運は尽きていたからな」
「では、何故豊臣家に最後まで尽くされたのですか?」
「私が前右府様に最後までお仕えしたのは、かの御方に勝利を捧げたかったからという我儘よ。聖杯の力があれば、それもできるかも知れないが、そのようなことに聖杯を使うつもりもない。私自身、あの戦には全力で臨み、全てを出し尽くした。あの戦をやり直そうと思ったことなど一度もない。私が召喚に応じたのは聖杯が欲しかったからではなく、聖杯戦争という古今の英雄がひしめく戦場に興味を惹かれたからに過ぎぬ。まぁ、戦いである以上、負けてやるつもりもないが」
時臣は息を呑んだ。聖杯を欲するが故に召喚に応じた相手であれば、マスターを交代することで勝率が上がることを交渉の手札とできた。しかし、幸村の聖杯戦争に参加する動機は、言うならば個人的な趣味だ。やりたいようにやれれば、それでいいのだろう。
このような個人の流儀に重きを持つ人間は、単純なメリット、デメリットではまず靡かないことを時臣は知っている。そのため、時臣は議論の切り口を変えることを選んだ。
「過去、三度の聖杯戦争がこの地で行われてきました。しかし、生きて終戦を迎えることのできる参加者は多くありません。当時の遠坂の当主が戦死した事例もあります。この子は何れ私をも超える魔術師として成長するはずです。その可能性をここで摘み取ってしまうことは、大きな損失だとは考えられないでしょうか」
「確かに、マスターはまだ幼い。戦死の可能性を考慮すれば、戦闘に連れていけぬという時臣殿の考えも理解できる。私も生前は子を持つ親であったからな。その子が計り知れない未来の可能性を有しているとなれば猶更だ」
「では――」
「だが、それでも私は凛こそがマスターに相応しいと確信している」
断言する幸村。その溢れるばかりの自信に、時臣は気圧されてしまう。
「目の前で父が敵の手で倒れ、敵に囲まれた状況下において、諦めることなく、最後まで戦う意思を捨てなかった。齢一〇に満たぬ幼子が、絶望的な状況においても足掻き続けて勝利という奇跡を己が手につかみ取ったのだ」
幸村の視線が凛に向かう。それにつられて、璃正と時臣の視線も凛に向いた。
「あれは、幼さ故の蛮勇でも、無茶でもない。あの時、ご息女は確かにキャスターの脅威を正しく認識し、生命の危機にあることを理解していた。その上で唯一の光明であるサーヴァントの召喚という手段を選んだのだ。恐怖を超え、一筋の希望を見出し、迷いなく一歩を踏み出すことのできる者を、私はマスターとして望んでいる。凛は、未だ幼いながらも、私のマスターとして申し分ない素質を有している」
憧れの英雄である幸村に手放しで褒められた凛は、恥ずかしさで顔を真っ赤にしていながらも誇らしさからか口元が緩んでいた。
「それに、そもそも時臣殿。今の体調でどれほど戦えるのだ?」
「…………」
正直に言ってしまえば、時臣の身体は戦争に参加することが憚られる状態だった。しかし、それを口にしてしまえば、時臣へのマスター変更を幸村が認める可能性はさらに下がるし、凛も病床の父を戦場に送ることを渋るだろうことは想像に難くなかった。
幸村の虚言は許さないと言わんばかりの鋭い眼光の前に、時臣は返答に窮した。
その様子を見て、璃正が諭すような口調で時臣に語りかけた。
「時臣君、君の無念は察するに余りある。しかし、やはり今の君の身体で聖杯戦争を戦い抜くことは厳しいのではないかね?」
「璃正神父!?」
時臣は突然の協力者の翻意に驚愕した。
「綺礼、時臣君の身体の状態を説明してくれ」
これまで一言も発することなく無表情を貫いていた綺礼は、突然の問いかけにも一切表情を変えなかった。綺礼は、淡々と時臣の体調について説明する。
「腹部を貫通していた傷は塞ぎました、しかし、あくまで出血を抑えて酷い損傷を受けた臓器を治療したにすぎません。消化系にも損傷がある以上、日々の食事にも制限をかけることになるでしょうし、しばらくは体力にも不安が残ります。私なら、任務がない限りは回復に専念するでしょう」
「綺礼の見立て通りの状態では、この場を取り繕ったとしても、そう長くは誤魔化せない。それに、敵のマスターと戦闘になった場合にも大いに不安が残る。私は、友人の息子をむざむざと死なせることはしたくない。ここは、ご息女をマスターに立てることを前提にして、策を練り直すべきだろう。それこそが、我が友――そして、君の父の悲願の達成に最も近い道筋ではないかね?」
璃正に返す言葉を探そうと、時臣は未だ血が足らずに重く感じる頭脳をフル回転させるが、中々見つからない。
理屈では既に時臣の中で結論は出ているのだ。しかし、親としての責務が、遠坂家当主たる誇りが、そして一人の魔術師としての矜持がそれを良しとしない。
「――お父様」
決断を下せずにいる時臣の前に、凛が歩み出た。緊張でその手は震え、身体はまるで骨の代わりに鉄柱でも埋め込まれたかのようにぎこちなく固まっている。しかし、その瞳には決意の色がにじみ出ていた。
「お父様の代わりに、私が戦います」
意気込みだとか、宣誓だとかは一切ない、シンプルな宣言。
凛が、聖杯戦争の危険性、重要性を理解していないとは時臣も思っていない。現に、凛の宝石の如き澄んだ瞳には、己の成すべきことを正しく理解し、その道のりに至る苦難を覚悟した者にのみ宿る光が見えた。
自分がそうであったように、いつか研鑽を重ねて成長した凜が、当主となる時に宿すものだと思っていた。
しかし、自分が当主になった時に自覚し、己に課したものを既に凛は正しく己のものとしている。
昨日の戦いの光景が脳裏によみがえる。才能は自分とは比べ物にならないほどに恵まれているといえど、まだまだ未熟な未来の傑物。そう思っていた子供が、一日にして遠坂の魔術師として相応しい後継者へと成長を遂げた。
今の凛と同じ年ごろの時臣にはなかったものを、既に凛は持っている。その事実に寂しさと羨望、――そして僅かばかりの嫉妬心を時臣は抱いた。
「――凛」
声をかけられ、反射的に身体を震わせた凛に対し、時臣はやさしく微笑んでその頭を撫でた。
「任せる。遠坂家の魔術師として、恥じない戦いをしなさい」
本当は今日友人とHF見に行く予定だったのですが、諸事情で延期に。
というわけで感想欄でHFの話題はやめてくださいね。ネタバレ嫌いなんで。
この後の話は現時点で2話分ストックはありますが、放出まではしばらくお待ちください。