運命なき浮世に候へば、日ノ本一の兵に   作:後藤陸将

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友人と、
「昔はvestigeとかZipsが好みだったのに、tearsとかfind the wayが心に沁みるようになった」
って話をしてて、歳をとったなぁって感じるようになりました。



第12話 もっと物事の裏を読め

 真田丸。

 それは、真田左衛門佐幸村の伝説を象徴する城塞である。アーチャーで召喚された幸村は、この城塞を宝具として有している。

「私の切り札と言ってもいいかもしれぬ。しかし、魔力の消費もそれ相応のものとなる故、使用できる機会は非常に限られるであろうな。出し惜しむつもりはないが、そう簡単に使えるものではないと考えてもらいたい」

 幸村の説明に、時臣は神妙な表情を浮かべた。

「……そうなると、やはり序盤は静観すべきか。当初の予定では、アサシンは全てのマスター、サーヴァントの情報が集まるまでは、あくまで情報収集に徹する。その後、集めた情報に基づいて一騎ずつアーチャーが打倒していく。基本方針としてはこのような形で進めるつもりだったが」

「ギルガメッシュを召喚できた場合には、ギルガメッシュの手によって初戦でアサシンが脱落したかのように偽装する手はずになっていましたが、それはどうするのですか?」

 綺礼からの問いかけに、時臣は肩をすくめながら答えた。

「アーチャーの手でアサシンの脱落を演出することはよろしくない。かの英雄王のように全ての宝具を持っているならば、仮に宝具を晒したとて、真名を隠匿することもできる。しかし、アーチャーは生前に着用していた鎧と兜がそのまま現代にまで残っている。姿を見られれば、真名を特定されてしまう可能性が高い。アサシンの分身の一体を屠ることでアサシンの脱落を偽装できれば諜報活動の助けになるが、アーチャーの真名を特定される危険性を鑑みると、リスクとリターンが釣り合わない」

 幸村が大坂の陣で着用していた鎧は当初、戦利品として家康に献上されていたのだが、家康が破傷風で死去し、それが幸村の呪いと噂されるようになったことを機に幸村の祟りを鎮めるために好白寺に寄進され丁重に扱われるようになった。現在、幸村の鎧は一般公開こそされていないが、先年のタイガードラマでもこの現物の鎧をもとに幸村役の鎧が作成されていることもあり、その姿は広く一般に知られていたのである。

 日本のドラマなぞ見たこともない海外からの参加者でも、幸村の鎧を見ればそれがこの国の戦国時代に使われていたものであることはすぐに看破するだろう。そうなれば、図書館にでも詰めれば容易に鎧の持ち主の正体に突き当たる。

 知名度補正が高いという反面で、幸村は真名が看破されやすいという欠点があった。

「知名度補正。アーチャーのそれは最高クラスですが、真名が割れやすいという欠点と表裏一体というわけですか」

「アーチャーの場合、かのアキレウスやジークフリートのように真名が割れたことが致命的な弱点に繋がるということはないが、それでもこちらの手の内を隠して戦えるのであれば、それに越したことはない。真名が分からない敵と、真名が割れた敵であれば優先して攻め込むべきは後者に決まっている」

 時臣の分析に璃正も同意する。

「うむ。こちらには諜報において望みうる限り最高の人材がいるのだ。このアドバンテージを活かさない手はあるまい。まずは情報戦で有利に立つべきだ」

 時臣たちの間では、序盤はひたすら姿を隠し、アサシンによる諜報に徹するという静観論でまとまりつつあった。しかし、ここで幸村が口を挿んだ。

「マスター。よろしいか」

「え!?あの、えっと……」

 時臣たちの発言を理解することでいっぱいいっぱいだった凛は突然幸村に声をかけられたことで戸惑った。それを見かねた時臣が、凛をフォローする。

「凛。アーチャーのマスターは君だ。臣下が発言の許可を求めているのだよ」

 慌てる姿を見られたことに凛は頬をリンゴのように赤らめる。

「い、いいわ。アーチャー」

 幼い少女が一生懸命主として努めようとしている姿に、幸村は僅かに頬を緩めながら口を開いた。

「忝い」

 幸村が優れた戦術眼を有する武将であることは、この場にいる誰もが疑っていない。それ故、彼の発言には注目が集まる。

「敵の出方を見極めつつ、こちらの戦力の露呈は最小限に動くという時臣殿の方針にも理がある。だが、時をかけることは戦の支度を整える時間を与えることとも同義。多少こちらの準備が不足していても、敵を倒せる時に倒すということも必要ではないかと考えるのだが」

 幸村の言葉に、時臣は首を傾げる。

「こちらから、積極的に打って出ると?」

「諜報に専念して、ただ亀のように籠り続けることもないということよ。こちらが動かなければ戦の主導権は相手に奪われ、我らは不利な立場に追いやられる可能性がある」

 ただ受け身に回るだけでは、不利な状況に立たされかねない。動かないという一手が戦局を左右することもあるだろうが、少なくとも初手から静観を決め込むことはないと幸村は考えていた。

「過去の聖杯戦争のセオリーに則るなら、序盤は静観に徹するべきだろう。序盤から動けばこちらの戦力を敵に把握されるだけでなく、勝利して消耗したところを襲撃され、漁夫の利を狙われることもある」

「定石は当然、相手も承知しているもの。アサシンとの協力関係が見抜かれるかは別として、こちらが高みの見物を決めこんでいることは相手にもすぐに看破されよう。こちらが動かないと判断されれば、相手はそれなりの手を打ってくることは想像に難くない。ただ動かずに待っていても、状況が好転するとは限らぬ」

 綺礼は、内心では幸村の言にも一理あると考えていた。しかし、璃正と時臣は当初の方針を変更することに抵抗があるらしく、口を開くことなく考えを巡らせ続けているようだ。

 璃正と時臣が納得しきれていないことを察していた幸村は、さらに畳みかけることにした。

「『敵に企てさせてはならぬ。我が策を立て、自ら動き、敵に我が企てる状況を強いることで戦場を支配する』最初の上田城の合戦で父上は私にこう仰った」

 璃正は唸る。その軍略・謀略の才能を太閤秀吉が表裏比興と評した名将であり、天下を取った徳川家に二度も勝利した実績を有する真田安房守昌幸の言となると、その言葉はとても重い。彼の戦争哲学とも言うべき考えを、諜報における有利という一点をもって否定することはいかがなものかと考える。

 時臣も、その言葉の前に考えが揺らいでいるのか、顎髭に手をあて、しばし目を瞑っていた。

 

 ――流石、父上のネームバリュー。長野のえれぇ父ちゃんが言ったというだけでこれほど説得力があるとは。

 

 幸村の父、真田安房守昌幸がこの場にいれば、

「儂はお前にそのようなことを言った覚えはないぞ

 と言って驚いただろう。

 それもそのはず。この言葉は幸村がこの場ででっち上げたものである。時臣を説得するために名前を持ってきたのだ。

 出典が明らかではない言行録だってどこぞの芸人の祖母が言ったということになっていれば、何かすごい深いことが書かれてるように思われてなんやかんやでベストセラーになる。

 その場のでっち上げでも、すごい人物が言ったということにしておけば、すごい説得力が生まれるのだ。

 しかも、この言葉を口にしたことになっているのはただの父ちゃんではなく、かの真田安房守昌幸である。これほどの人物の言葉を否定するには、それなりの理屈と巧みな話術が必要になるだろう。たとえ昌幸がそのようなことを言った記録が残っていなくとも、息子が証言しているのだから、本当にそのようなことを言ったのかなど普通は疑わない。

 因みに、史実で第一次上田合戦に幸村が参戦していたかは諸説あるが、この世界においては幸村は第一次上田合戦に参加している。

 幸村は第一次上田合戦の勃発直前、上杉氏の人質となるはずであったが、徳川との戦を覚悟した昌幸は超人的な膂力を有する幸村を必要としていた。そこで昌幸は自身が帰属する上杉と交渉し、上杉に対する人質には幸村ではなく昌幸の妻にして幸村の生母である山之手殿を送ることで合意を得ていたのだ。

 第一次上田合戦に参加した幸村は獅子奮迅の活躍を見せ、徳川視点(大久保忠教の偏見混じり)の三河物語でもあまりの大損害を記すことを憚られたのか、具体的な戦死者の数を書かないほどであった。これも中立の視点ではないが、信幸の書状によれば徳川方の死傷者は史実では一三〇〇となっているところ、この世界では二〇〇〇となっている。

「特に、この男に企みをさせては危険よ」

 幸村は、時臣らの考えの揺らぎに乗じてさらに意見を加える。

「衛宮……切嗣」

 綺礼の眼が僅かに細くなる。

「綺礼殿、其方もこの男については並々ならぬ警戒をしているのだろう?他のマスターの説明に比べ、この男について説明するときだけは違和感があったからな。個人的に思うところがあるのであれば、其方の見解についても聞かせてくれぬだろうか」

「…………この場で説明するような、確定的な情報ではありません。あくまで、個人的な感想にすぎないと考えています」

「現代の戦場で多くの経験を積んできた戦士が抱いた意見だ。それが個人的な感想であっても、そう的を外したものではなかろう。其方は己の経験をもとに我々には見えぬものをこの男に見たはず。それを、聞きたいのだ」

 個人的な感想であり、軍議の場に持ち出すような話題ではないという綺礼の主張を幸村はまったく顧みなかった。

 Fate/Zeroを読んでいる幸村は、このころの綺礼が衛宮切嗣に対して個人的な執着を抱いていることを当然知っている。その個人的な執着がいずれ綺礼を独断行動に走らせることも知っている。

 だからこそ幸村はここで綺礼が衛宮切嗣という男に対して抱いた感想を明らかにしておきたいと考えていた。

 ギルガメッシュがいない以上、綺礼が自身の本性を理解し、愉悦部員に目覚めるかどうかは不確かだ。Fate/Apocryphaの世界線では愉悦部に目覚めないらしいから、必ずしも綺礼がいずれ覚醒するというわけではないが、衛宮切嗣との接触を通じて自力で自身の本性にたどり着く可能性もまたゼロではない。

 だからこそ、ここで幸村は綺礼の行動に釘を刺しておくべきだと考えていた。

 綺礼が衛宮切嗣に対して関心があることをこの場で知らしめることができれば、今後綺礼が衛宮切嗣がらみで独断行動をした時に、衛宮切嗣に対する個人的な執着があることが明らかになるだろう。自身の内心を打ち明けることに抵抗を感じている今の綺礼なら、そのような結果に繋がる独断行動には慎重にならざるを得ない。

 当然、この場での発言が今後の自身の行動を制約することに繋がりかねないことを察した綺礼は簡単には口を割ろうとはしない。

「……綺礼、遠慮はいらない。言ってみなさい」

 このままでは話がすすまないことを察したのか、璃正も綺礼に意見を出すように勧めた。

 流石に父親にまで促されては、綺礼もこのまま黙り続けることができなかったらしく、観念したかのように口を開いた。

「時臣師から伺った『魔術師殺しの衛宮』の人物像に、違和感を感じました」

「違和感?」

 時臣が訝しむ。

「この男は、『魔術師殺し』としての活動以外にも、各地の紛争地域を渡り歩いて戦闘に介入している実績があります。この男の活動遍歴を見る限り、何か特定の主義、政治的な思惑に基づいて己が与する勢力を決めている様子はありません。しかし、かといってこの男が金銭目当てのフリーランスの傭兵だとも考えにくいのです。得られた成果と、投じた労力、生命の危機に対する危険性が、到底釣り合っていない」

「行動の基準が、通常の価値観で考えれば破綻しているということか」

「衛宮切嗣は、目標を確実に殺害するためにはどのような方法も辞さないことが過去の事例からも分かります。しかし、紛争地域での経歴を見る限り、それは確実性を重視する男がとる行動ではないのです」

 幸村は綺礼の意見に頷いた。

「なるほど、某もこの男の価値観が異端であるという考えに同意する。感謝する、綺礼殿。実に有益な情報であった」

 綺礼が述べたことは、彼が衛宮切嗣という男に抱いた考えの一端でしかない。

 破綻した人間が、アインツベルンの城に赴いたことを最後に活動を停止した。そこに、破綻した人間を変える何かがあったのだと綺礼が考え、その何かを求めていることは幸村も分かっている。しかし、これ以上綺礼の個人的な執着を掘り下げれば軍議の流れもいらぬ方向に変わる可能性があり、また綺礼にいらぬ警戒を抱かせかねない。

 幸村は綺礼への追及はこの程度でいいと判断した。綺礼が、歴戦の戦士として衛宮切嗣という男の行動原理を警戒しているということをこの場の人間に共有させられただけでも、綺礼の独断行動を制止する材料としては十分だった。

「某も、この男の考え方を警戒している。この男を相手に守勢に回ることは危険だ」

「確かに、これまでの経歴を見る限りは手段を選ばない非道な男には違いない。しかし、アサシンによる諜報で動きを把握しておけば十分に対処できる相手では?」

「時臣殿、それでは間違いなく負けるぞ」

 幸村は時臣の楽観論を強く否定した。

「この男はまさしく、手段を選ばないのだ。某も、この時代については聖杯によって一般的な知識しか与えられておらぬが、それでもいくつかこの男がやりそうなことが思いつく。例えばだ、召喚したサーヴァントの対城宝具を使ってこの屋敷を一掃するとか、あるいはじゃんぼじぇっととやらをハイジャックし、この邸宅につっこませる、もしくはたんくろーりーとかいうものをこの邸宅につっこませ、中に積んだ油に引火させるなんてこともできるだろう」

 時臣は、幸村の口から放たれた悪逆非道なテロリストの手口に唖然とする。

「アーチャー殿、聖杯戦争は表の社会に悟られぬように行われるもの。そのようなことは考えにくいのでは?」

 璃正もまた、時臣と同様に幸村の懸念には賛同しかねていた。

「前回の聖杯戦争では帝国陸軍の一派も介入したが、彼らでも爆撃等は行わずに一部の特殊部隊を投入した程度。流石に、大規模な破壊活動まではしなかった」

「璃正殿、ご子息の考察によれば、相手はそのような一般的な価値観を有しているとは期待できないのではないか?標的が乗っていたというだけで飛行機とやらを無関係な乗客を含めて殺せるような男だぞ。最悪、この男は化学兵器とやらをこの街の中で使い、マスターを一掃することだって考えられる」

 聖杯から現世の一般的な知識を与えられていることは知っていたが、サーヴァントの口から化学兵器を用いた大量殺戮などという推察が飛び出したことに時臣たちは驚きを隠せない。

「この男には良識は期待できぬ。そして、経歴が正しければこの男は時臣殿のような魔術師を数えきれないほど殺してきた男よ。間違いなく魔術師の思考回路を熟知しておる。まっとうな魔術師の思考回路で戦いに挑めば、この男はその思考を全て読み取ってくるに違いない。もしも我々が静観の構えでいるとこの男に看破されれば、確実に仕掛けられるぞ。回避できない状況で、周囲への被害も厭わぬ襲撃となれば、某も確実にマスターを守り切れるとは言い切れぬ」

 魔術師たちは、歴戦の武将が語る極悪非道のやり口に戦慄し、冷や汗を流していた。




既にキャスターは脱落してるわ、トッキー重傷だわで原作から剥離していますが、これからもっと加速していく予定です。
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