夜の廃墟を闊歩する存在がいた。
その廃墟はかつてグリフィン&クルーガーと呼ばれるPMCが管理しており、当時はL09地区と呼ばれていた地域であったが、「蝶事件」以来鉄血人形の攻撃により支配下となっており、G&Kと鉄血側の最前線と化していた。
そんな廃墟となったL09地区の比較的内側のエリアを闊歩しているのはスカウトと呼ばれる鉄血製の機械型の人形であった。そのスカウトは巡回中なのか、廃墟の各所を道沿い滑るように進んでいく。
時折ダイナゲートと呼ばれる四足型の機械人形と幾度かすれ違うことがあったがそれ以上のことはなく、巡回を終えたのかそのスカウトは一度停止し、巡回情報を送信したのちに、ランダム生成された新たな巡回ルートへと進路を変えようとした矢先、その進路をふさがれてしまう。
進路をふさいだのはリッパーと呼ばれる3体の機械人形であった。
3体のリッパ―は両手に装備したサブマシンガンをそのスカウトに向けるや否や一斉に射撃を開始し、そのスカウトを蜂の巣にしてしまう。撃たれたスカウトは、中枢部分に致命傷を受けたのかシステムダウンを起こし、浮遊させていた機体を地に落とし機能を停止させた。
少し離れた区画にあるアパートの1室、このL09地区が最前線となって以降だれも住んでいないはずのこの場所で一人の人物がいた。その人物は急ぐように自身がその場所に持ち込んでいたのだろう最低限の機材を回収していく。そしてその人物の足元には映像途絶と表示された簡易的な端末が転がっていた。
「ぁー、まさかあんなに早くばれるなんてなぁ……ちょっと甘く見てたかな……」
その人物はそう呟きながら足元に転がっていた端末に背負っていた銃を向けると引き金を引いた。その場に端末が砕けた音と着弾した音だけが響いたが、そんなことはお構いなしにその人物は無線機を取り出し、通話スイッチを3回一定の間隔で押し込みその場をあとにした。
その十数分後、そのアパート周辺をダイナゲートの群が強襲したものの、結局その人物をとらえることは出来なかった。
「・・・逃げられましたか、それに他にも誰かがいたようだけれど・・・そちらも見つけられないのね」
廃墟にある教会、この場所にこの地域を徘徊している鉄血人形を統括している上級人形イントゥルーダーがいた。彼女は1時間ほど前から自身の統括する鉄血人形に若干の違和感を覚えていた。それは人間に例えるなら歩いているときに関節に妙な引っ掛かりを覚える程度のものだったが、イントゥルーダーにとっては非常に気になるものだった。
イントゥルーダーは高度な電子戦能力を付与された存在である。同型の他の彼女がとある小隊の秘密回線にハッキングを仕掛け、その回線に割り込むことができるほどにその性能は高い。そんな彼女が若干の違和感程度の認識を覚えたことはイントゥルーダーに興味を抱かせたのだった。
「まさかこちらの人形を使って偵察をしかけてくるとは思いませんでしたわね・・・いえ、時間の問題とは思っていましたが」
ここ最近、鉄血側で何体かの上級人形がG&Kに破壊もしくは敗北していることはイントゥルーダーも把握しており、そのうちこちらの人形が戦力として使われるのではないかとも考えていた。しかし・・・
「あの偵察に使われていたスカウト・・・システムやプログラムに大きな差異はなかった、となると・・・」
先ほど3体のリッパーに始末させた敵の偵察機は|誰かに映像情報を送信していた。場所は特定できたがそこには簡易的な端末が一つ、破壊された状態で落ちていただけで他にあったのは破壊に使われたであろう弾丸だけであった。
「・・・始末し損ねた人間がいたということなのかしら」
『今回の仕業は自分達に詳しい人間である』そう結論付けたイントゥルーダーの顔は面白いものを見つけたと言いたげな笑みを浮かべていた。