「おい、大丈夫か、なんだぜ?」
心配した霧雨魔理沙がセンターからファーストの矢部のもとに小走りでやって来て覗きこむ。
「ほら、いつまでも寝てんじゃないわよ」
霊夢が倒れている矢部の脇腹を蹴りあげる。
「いったーでやんす!?」
「れ、霊夢……さすがにかわいそうなんだぜ?」
「そうでやんす! 酷いでやんす! こういう時は涙を流しながら膝枕をしてくれるのがパターンでやんす!」
「矢部くん……。くだらないことを言えるってことは大丈夫なんだね?」とパワプロは声をかける。
「痛いのは痛いでやんすけど、大丈夫でやんす! それにしても……霊夢さんは冷たいでやんす!」
「いや、矢部くんにも問題はあると思うけど……。……とんでもない打球速度だった。あれが吸血鬼の力か。アウトにできたのはラッキーだったよ」
「こどもでもあんな力があるんでやんすから……大人になったらどうなるんでやんすかねぇ……」
「想像したくもないよ。オレ達の世界に吸血鬼がいなくてよかった」
「さあ、その吸血鬼がもう一人待ち構えてるのよ。気合入れていくわよ!」
《四番 ピッチャー レミリア・スカーレット 背番号1》
レミリアは余裕の笑みを浮かべながら右打席に入る。妹のフランドールとは違いかなり落ち着いた様子だ。
「まったく、相変わらずガキらしくないスカした態度ね」
「あなたが幼すぎるだけよ。博麗霊夢」
「ふん、言ってなさい!」
(レミリアちゃんの力がどれだけ凄いのかわからない。四球でも良いくらいだけど……、どうやら霊夢さんはかなりの負けず嫌いみたいだ。逃げるのをよしとはしないだろう。外角中心で組み立てる必要がある。まずはボール二個分外にはずす!)
レミリアは余裕を持って見逃す。
(二球目は同じようなコースでチェンジアップだ!)
これもレミリアは余裕を持って見逃す。
(次は内角低めにストライクゾーンに構える……!)
霊夢の放ったボールは僅かに低めにそれボールになる。
(いいぞ。攻めながらもストライクが入らないように演出できている。これなら、霊夢さんも逃げたように思わないし、レミリアちゃんにも勝負を避けているようには思われないはずだ。最後は……)
パワプロは内角高めを要求する。フォアボールで構わないという配球である。吸血鬼のパワーの前に最善の策だとパワプロは信じていた。
「まったく、面白くない策ね……」
レミリアはポツリと呟くと、内角高めのボール球にもかかわらずスイングを始動する。完全に配球を読み切っていたのだろう。レミリアのバットはボールの芯を捉え、気持ち良ささえ感じるほどの高音を発生させる。音を置き去りにし、打球はレフトスタンドへと消えて行った……。
「紅魔館の主が敵の思惑通りにフォアボールを選ぶと思って?」
打球を見届けたレミリアがパワプロに一言残してダイアモンドをゆっくりと走り始める。一周して戻ってくるレミリアを咲夜が出迎える。
「さすがはお嬢様ですわ。見事なバッティングでした」
「闘志の見えない配球なんて打てて当然よ」
……チーム博麗は初回から思い2点ビハインドを背負うことになってしまったのだった。