《ストライク! バッターアウッ!!》
まったく手が出ず、三球三振した矢部がとぼとぼと足取りを重そうにしてベンチに戻って来た。
「や、矢部くん! どんな球だったんだい!?」
「三球ともまったく見えなかったでやんす……。本当に紅い何かが見えただけなのでやんす……」
「そ、そんな……。『S・T・グングニル』……。なんて球なんだ」
「そんなすげぇ球なのか? そんな風には見えなかったんだぜ」
霧雨魔理沙は矢部の感想を聞いてバッターボックスに向かう。
《二番 センター 霧雨 魔理沙 背番号2》
「出てきたわね。白黒の魔法使い……。お前には図書館の本をいつも盗まれているらしいから屈辱を与えてあげるわよ?」
レミリアはボールを右掌で遊ばせながら魔理沙に布告する。
「盗んでなんかいないんだぜ? 死ぬまで借りるだけだ」
「それを盗むっていうのよ!」
パチュリーは魔理沙の横暴な態度に『むきゅー』と顔を膨らませて怒りの表情を造り出す。
「喰らうが良い! 我が槍『S・T・グングニル』を!」
レミリアが振りかぶると再び右手に紅いオーラが集光されていく。
「へっ! どんなにすごい弾幕(たま)か知らないが……、何が来るかわかってるのに手が出ないほど魔理沙さんは臆病じゃないんだぜ!」
レミリアの右腕からボールが放たれる。猛スピードの球がキャッチャー美鈴のミットに向かって突き進む。
「おりゃぁ! なんだぜ!」
魔理沙のスイングは空を切る……。
「くっそ! ミスったんだぜ!」
「大口を叩いていた割には我がグングニルにかすりもしないじゃない?」
「挑発のつもりか? 次はぶっ叩いてやるんだぜ!」
ベンチでは魔理沙のスイングにパワプロと矢部が目を丸くしていた。
「や、矢部くん……。魔理沙さんはなんでスイング出来たのかな?」
「わ、わからないでやんす。オイラには全然ボールの軌道は見えなかったのに……でやんす……」
「なによ。あんたたち、あの程度のボールが見えないわけ?」
ネクストバッターズサークルで構えていた霊夢がパワプロと矢部の方に振り向く。
「れ、霊夢さんは見えるの?」
「当たり前じゃない。アレくらい見えなきゃ『弾幕ごっこ』なんてできないもの」
「弾幕ごっこ……?」
「ああ、外の世界の人間は知らないんだったわね。ここ幻想郷の決闘に使われているルールよ。ちなみに私が造ったルールなのよ」
「け、決闘? 物騒だなぁ……」
「全然物騒じゃないわよ。人や妖怪が死なずに済むんだから……」
「死なずに済む……? あ、あの霊夢さん。じゃあその弾幕ごっこが出来る前は人や妖怪が……?」
「もちろん死んでたわよ」
霊夢はこともなげにあっさりとした言葉でパワプロに答えた。
「矢部くん……。オレ達とんでもない世界に来ちゃったみたいだね……」
「まったくでやんす……」
パワプロと矢部が幻想郷に迷い込んでしまったことに絶望している中、レミリアが魔理沙に対して第二球を投じる。
「あ、当たった!?」
魔理沙のスイングしたバットからボールにかすった音がしたが、ボールは美鈴のキャッチャーミットに収まった。ファールチップである。
「す、すごい……。魔理沙さん本当にボールが見えているんだ」とパワプロは感嘆の言葉を漏らす。
「くそっ! またミスショットなんだぜ! 次こそぶっ叩く!」
「さすがにやるわね。霧雨魔理沙。でも次の全力グングニルで終わらせてあげるわ!」
レミリアが魔理沙に投じた三球目……。レミリアの言うとおり、全力で投げたのだろう。明らかに球威が変わったグングニルがストライクゾーンに投げ込まれる。魔理沙は対応できず、ボールの下を振ってしまった。
「これで本一冊分の借りを返したことにしてあげるわ。いえ、借りてるのはあなただったわね」
レミリアはマウンド上でにやりと笑う。パチュリーも怒りが落ち着いたのか、膨らませていた頬をひっこめた。
「くっそ! やられちまったぜ……」
魔理沙も矢部に続いてレミリア相手に三振に倒れ、肩を落としてベンチに戻る。
「ったく、魔理沙も情けないわね。私が手本を見せてあげようじゃない!」
大幣からバットに道具を持ち変えた博麗神社の巫女、博麗霊夢がバッターボックスへと向かう。
《三番 ピッチャー 博麗霊夢 背番号1》