「出たわね。博麗の巫女。紅霧の借り、今返させてもらうわよ?」
「何が借りよ。どうやら、まだ痛い目を見たいらしいわね。ちょっとボールが早いのが自慢みたいだけど……、さくっと打ち返してあげるわ!」
霊夢はバットの先端をレミリアに向け、威嚇する。レミリアはわずかに口角を上げるとグローブを振りかぶった。
「我が槍の前に沈むがいい!!」
紅い光が槍状となり、ボールに纏わりつく。レミリアが放つ驚異的なストレート『グングニル』が霊夢に襲いかかる。しかし、霊夢はあせ一つかかずに冷静にボールの軌道を見極め、シャープにバットをスイングした! キンというかすかな接触音を残し、グングニルは美鈴の構えたミットに吸い込まれていった。
「ちっ! 案外難しいわね」
「す、すごい……! 野球が初めての素人のはずなのに……、初めての打席なのに、あの超高速球に一振り目からバットに当てるなんて……」
パワプロは驚愕し、目を大きく見開く。
「やっぱりバケモンでやんす! 霊夢さんはバケモンでやんす!」
「いたいけな女子にバケモン、バケモンって連呼してんじゃないわよ! 殺すわよ?」
「いたいけな女子は殺すなんて口にしないと思うでやんす……」
「あん? 矢部、あんた今何か言った?」
「な、何もいってないでやんす!」
霊夢はフンと言って矢部から視線を切るとバッターボックスで構え直す。
「霊夢さん、怖すぎるでやんす……」
「矢部くん、霊夢さんと話すときは口に気を付けよう……。それにしても、本当に魔理沙さんも霊夢さんもあの超速球が見えているみたいだ。信じられない。もしかして、ほかの幻想郷の住人も見えてるのか……?」
「見えてないわよ。あんな特殊な連中と一緒にしないで欲しいわ」
パワプロの疑問に反応したのは稗田阿求だ。
「稗田さんも見えてないの?」
「阿求で良いわよ。私も見えないわ。というか、ほとんどの人間は見えないわよあんなもん」
「なんだ、やっぱり霊夢さんが化物なだけか。良かったよ」
(あいつら、後で説教ね)と思いながら、霊夢はレミリアの二球目にタイミングを合わせる。しかし、振らない。
《ボール!》
「れ、霊夢さん。あ、あの速球を見切ったのか!?」
「さすがは博麗の巫女、中々やるじゃない」
レミリアは再びわずかに口角を上げ、霊夢を見つめる。レミリアの余裕の表情が霊夢には面白くない。
「次はぶっ飛ばしてあげるわ」
「期待してるわよ?」
再びレミリアは紅い剛速球を放り込む。霊夢はスイングを開始する。バットはボールの芯を捉え、サードベース横を鋭く通り抜けるが……ファールになってしまう。
「お、おしい! おしいよ霊夢さん!」
パワプロは大きな声を出す。霊夢は『チッ』と舌打ちをした。
「さすがは博麗の巫女。もうこのスポーツに慣れたのね。まぁ、このレミリア・スカーレットほどのセンスじゃないけど」
「言ってなさい。次は壁の向こう側までぶっ飛ばしてあげるわ!」
三度、レミリアが振りかぶる。しかし、霊夢に投じた今までの2球とは明らかに違っていた。紅い光が発生しないのだ。レミリアはボールを投げ込む。
(何よ。このへなちょこは。全然速くないじゃない。もらったわ! ってえ!?)
霊夢が捉えられると思った瞬間、ボールがキレよく落ちる。パームボールである。突然の変化球に慌てた霊夢は体勢が崩れたまま当てるだけのバッティングをしてしまう。ボールの転がった先はファーストだ。
「パチェ! 行ったわよ!」
レミリアが声をかけるが……、パチュリーはゴロへの反応が悪く正面のゴロをトンネルしてしまった。慌ててライトの小悪魔がカバーする。
「ちょっとパチェ、しっかりしなさいよ! イージーゴロじゃない!」
「あなた全部三振でアウトを取るって言ってたじゃない。準備なんてしてないわよ」
パワプロはパチュリーの動きを見て思考した。
(もしかして……、相手チームも守備に難があるのか? そりゃそうか。彼女たちも野球と言うスポーツを知ってからそんなに時間が経っていないはず! そこにつけこむことができれば!)
「ちょっとパワプロ! せっかく私が出塁したんだから絶対返しなさいよね!」
「ああ!」
《四番 キャッチャー パワプロ 背番号 0》
威勢の良い返事をしたパワプロだったが、レミリアのグングニルの前に見逃しの三球三振を喫し、スリーアウトチェンジとなったのだった。