「ふん、ホームランにできるものならやってみなさい!」
レミリアは左打席で構える霊夢に向かって話し掛ける。初球、レミリアは外角低めにスライダーをコントロール良く放り込む。
《ストラィィク!!》
(……レミリアちゃんには珍しく慎重に入って来た……。そりゃそうか。レミリアちゃんの球を前に飛ばせたのは霊夢さんだけだもんな。慎重になるもの当然か……)
「どうしたのよ。お得意のグングニルは投げて来ないのかしら?」
「心配しなくてもその内、喰らわせてあげるわよ」
(……また、手は光らない。グングニルじゃないみたいね)
レミリアの投じた二球目は外に逃げていくシュートボールだった。しかし、これを霊夢は難なく見逃す。
(……私のシュートに全く反応することなく見逃した。完全に見切っているようね。さすがは博麗の巫女ね)
「……お待ちかねのグングニルよ、たっぷりと召しあがりなさい!」
(がきんちょ吸血鬼の手が紅く光ってる。来るわね。あいつご自慢のボールが……)
レミリアは必殺のS・T・グングニルを霊夢に向かって投げ込む!
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおりゃあああああ!!」
霊夢は気合を入れながらフルスイングする。グングニルがバットの芯でとらえられた瞬間、紅い光のエフェクトは失われ、白球が弾丸ライナーで飛んでいく。霊夢の打球はあっという間にライトフェンスにぶつかった。霊夢は悠々と二塁に到達する。
「す、すごいでやんす。あの超速球をライトフェンスにまで持っていくなんて……。バケモンでやんす。霊夢さんはバケモンでやんす!」
「誰がバケモンよ。矢部、あんた全然懲りてない様ね。後で覚えておきなさい!」
霊夢は矢部をこれでもかと睨みつけた。
「ひぃいいいいいいいでやんすぅうう!」
「矢部くん、喉元通り過ぎるのが早すぎるよ……。それにしても本当にすごい。ナイスバッティング! 霊夢さん!!」
パワプロは霊夢に向かって称賛の拳を振り上げる。それを見た霊夢は気だるそうに軽く拳を自軍のベンチに向けた。
(さあ、チャンスだ。とりあえず待球作戦は一休み。なんとか霊夢さんをホームに返すんだ!)
《四番 キャッチャー パワプロ 背番号0》
ウグイス嬢のコールを受け、パワプロは右打席に向かう。
(オレにはレミリアちゃんのグングニルを打つことはできない……。狙いはそれ以外の球だ。正直グングニル以外の球も打つには実力不足のオレだけど……。泣きごとを言ってる場合じゃない。何としてでも喰らいつくんだ! 幸い、グングニルを投げる時レミリアちゃんの手は例外なく光っている。見極めるのは簡単だ)
「……どうやら、あなたがチーム博麗の頭脳のようね。悪いけど圧倒的実力差を見せつけて潰してあげるわ。あなたをノせたらチーム自体もノってきそうだもの」
「オレはこのチームの頭脳でもなければ要でもないよ。でも、ここはなんとしてでも打たせてもらうよ!」
「ただの人間の分際で大きく出たわね。絶望を見せてあげるわよ? 人間では到底到達できない吸血鬼の身体能力をね!」
レミリアの手が紅く光る。
「あなたにグングニル以外の球は投げない。万が一の事故も起こさないためにね。はぁああああああああ!!」
ズバーンという破裂音かと聞き紛う巨大な音が美鈴のミットから球場中に響き渡る。
《ストラィィク!》
「くっ!? 全然見えなかった……。セットポジションからでも関係ないのか!? とんでもない球威だ」
「絶望するには早いわよ?」
レミリアは返球を受け取ると、間を開けずに2球目を投じてくる。またしてもグングニルだ。
《ストライクツー!!》
あっさりと追い込まれてしまったパワプロはバットを限界まで短く持つ。
「そんな小細工で何とかなるような実力差かしら? 次で終わりよ!」
三度レミリアの手が紅く光る。
(……グングニルなのは間違いないんだ。矢部くんも一度は当てたんだ。オレにだってできるはずだ。タイミングだけ合わせろ。1、2でも遅い。『1』のタイミングで振り出すんだ!)
パワプロのスイングと同時に『チッ』という音がする。
「あ、当たったでやんす!? パワプロくん粘れ! でやんす!」
(ふう。なんとか当たったぞ。……でも、なんだろう。何か違和感がある)
「フン、まぐれは二度も続かないわよ!」
レミリアはまたもグングニルをパワプロに投じてくる。だが、またしてもパワプロはバットをかすらせることができた。
「すごいでやんす! これは打てるかもしれないでやんす!」
(こ、これは……もしかして……?)
パワプロはグングニルを当てたバットを見ながら思索に耽った後、レミリアの表情を見る。余裕そうな笑みを浮かべるレミリアの額から大粒の汗が流れているのをパワプロは見逃さなかった。