実況パワフル東方甲子園   作:向風歩夢

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掴んだ

《ピッチャー交代のお知らせをします。レミリアに代わりまして、ピッチャー早川葵、背番号10。レフト早川に代わりましてレミリア。4番レフト、レミリア。2番ピッチャー、早川。以上に代わります》

 

 出所不明のウグイス嬢の声が甲子園球場に響き渡る。今この甲子園にはチーム博麗とスカーレット・デビルスの面々、そして八雲紫だけしかいない。誰に対してのお知らせなのか分からないが、誰もそこには疑義を唱えず早川葵の投球練習をみなが見つめていた。

 

「奇妙な投げ方をしてるわね。なによアレ。あんな投げ方で早い球が投げられるとはおもわないんだけど?」と霊夢がパワプロに問いかける。

「アレはアンダースローっていう投球フォームなんだ。霊夢さんの言うとおり、早い球を投げられるってわけじゃない」

「じゃあ、なんの意味があってあんな投げ方してんのよ?」

「一番の理由はバッターの目線が変わるってところだね。上から振り下ろすように投げるレミリアちゃんや霊夢さんのフォームはオーバースローっていうんだけど、これが一般的に一番早くて安定する投げ方なんだ。アンダースローはそんな一般的な投げ方のピッチャーをいつも相手にしているバッターにとっては変則的で打ちづらいんだよ。そのかわり、早い球は投げにくい」

「ふーん。ようは普通に上から投げたんじゃ打たれちゃうようなやつが使うフォームってことね?」

「ま、まあそういうことになるかな……?」

「小細工でどうにかしようとしてるやつってことね? 小鈴ちゃん、大した球じゃないに違いないわ。ちゃちゃっと打っちゃうのよ!」

「は、はは……」と乾いた笑いをするパワプロ。

「葵さん。あの紅白巫女の戯言は気にせず投げていきましょう!」

 

 サイン確認をしにマウンドに来た美鈴が葵に声をかける。

 

「うん。大丈夫だよ。今の僕は誰にも絶対に打たれないから。あの子には手を抜いても打たれないと思うよ」と葵は小鈴に視線を向ける。

 

 プレイの掛け声とともに、葵は大きく沈み込むフォームで最低点からボールをリリースする。

 

《ストラィィク! バッターアウト! チェンジ!》

 

 小鈴はあえなく三振してしまった。

 

「……仕方ないわね。まあいいわ。次回って来た時に私がホームランを打てば済む話よ!」

 

 霊夢は小走りでマウンドに向かう。

 

「霊夢さん。この回しっかり抑えよう。追い付いた後の守りは重要だからね」

「言われずとも、私はいつだって抑えるつもりよ!」

 

《5回表のスカーレット・デビルスの攻撃は8番ライト 小悪魔 背番号56》

 

「おおおおおおおおりゃああああああああ!!」

 

 霊夢は気合の入ったボールをキャッチャーパワプロのミット目掛けて投げ込む。

 

《ストラィィク! バッターアウ!》

 

「すいません、お穣様ぁあ!」

 

《9番ファースト パチュリー・ノーレッジ》

 

「もう一丁ぉおおおおおおおおお!!」

 

《ストラィィク! バッターアウ!》

 

「む、むきゅう……」

 

 霊夢は続けざまに三振を奪い取る。

 

(よし、ここまでは順調だ。……問題は次からだ。一番の咲夜さん。スカーレット・デビルス一のバットコントロールを持つこの人を抑えれば、試合の流れが変わる!)

 

《1番 ショート 十六夜 咲夜 背番号16》

 

「先ほどの失態はこの打席で返す! 博麗の巫女、悪いけど打たせてもらうわよ!」

 

(気迫が今までの打席とちがう。前の回にタイムリーエラーをしたからか。どうやら咲夜さんはミスを引きずらずにバネに変えることができる人みたいだ。厄介だぞ)

 

「なかなか気合が入ってるじゃない。でも、無理よ。もうアンタ達は私の球を打てない」

「……傲慢なことを言うじゃない」

「傲慢なんかじゃないわ。だって、『掴んだ』もの」

 

(掴んだ? 一体どういうことなんだ、霊夢さん)

 

 霊夢は大きく振りかぶり、投球動作に入る。白球が霊夢の白い指から放たれた。

 

(何が『掴んだ』よ。ど真ん中の絶好球じゃない! もらっ……。……え?)

 

 ど真ん中のボールと確信し振った咲夜のバットは空を切っていた。咲夜だけではない。予想外だったのはパワプロもだった。あまりのノビとボールの浮き上がりで後ろにそらしていたのである。

 

「れ、霊夢さん!? 今の球は!?」

「言ったでしょう? 『掴んだ』って!」

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