「ま、間違いなくど真ん中の球だったのに……。ふ、振った時には頭の高さに……」
あまりのノビに咲夜は驚愕の表情を隠せない。パワプロは甲子園の球速表示に目を向ける。球速は125キロを計測していた。霊夢が女性であることを踏まえれば驚異的なスピードではあるが、決して速過ぎる球ではない。霊夢のノビは球速125キロの球を150キロに感じさせるほど、浮き上がっているように見せたのだ。
「ほらほら、さっさと行くわよ? アンタもパワプロもとっとと構えなさい」
霊夢は急かすように大きく振りかぶる。サインなしに投げたストレートはまたも唸りを上げる。
《ストラィィク! ツー!!》
「わ、ワンバウンドすると思ったボールがストライクゾーンに……!?」
(な、なんて球だ。取るので精一杯だった。……このボールは武器になる。相手チームの目に慣れさせたらいけない! ここはチェンジアップだ……!)
パワプロはサインを見ずに投げようとしていた霊夢を制止し、チェンジアップを投げるように要求する。霊夢のノビのあるストレートを完全に意識してしまっていた。咲夜は低めのチェンジアップにバットを止めることができなかった。
《ストラィィク! バッターアウ!!》
「そ、そんな……」
咲夜は空振りすると、バットの芯を見つめる。咲夜の持つバットは小刻みに震えていた。
(す、すごい。咲夜さんはこのスカーレット・デビルスの中で間違いなく一番のバットコントロールを持っていた。そんな咲夜さんに掠らせもしないなんて……!)
「ナイスピッチ! 霊夢さん!」
「すごいでやんす。ファーストから見ていても明らかに球が伸びていたのでやんす。あれはなかなか打てないでやんすよ!」と矢部が言うと、「当然でしょ」と霊夢はクールに応える。
「やっぱり霊夢さんは化物でやんす!!」
「あん?」
いつまで経っても学習しない矢部にパワプロは無言で白い目線を送る。
「さすがは博麗の巫女。このスポーツのコツをもう掴んでしまったみたいね」
守備に着こうとするレミリアがぽつりとこぼす。
「あおい、大量点を奪い取るのは難しそうだわ。多分、打てるのは私くらいね。悪いけどゼロに抑えてくれるかしら?」
「もちろん!」とあおいはレミリアからのオーダーに頷く。
《5回裏 チーム博麗の攻撃 8番 稗田 阿求 背番号09》
8番から始まるチーム博麗の攻撃だったのだが……。
《ストライィィク! バッターアウ!》
「ちょっと、稗田の! 全くバット振らないってどういことよ!?」と霊夢が阿求に怒鳴る。
「さっきの吸血鬼より球は遅いかもしれないけど、私からすれば十分速いわよ! あんなもん打てるわけないじゃない!!」
あおいのアンダースローから放たれる速球は時速130キロを超える。一般女性と比べればその球は圧倒的に速く、一般女性以下の身体能力しか持たない阿求からすれば眼にも止まらぬ速さであった。
《ストラィィク! バッターアウ!》
9番のスターサファイアも呆気なく三振に斬って取られる。
「ちょっと3号! なにアンタも三振してんのよ!?」
「うう……。なんなの? 右に左にぐぐっと曲がるあの球……」
スターサファイアはあおいの投げるカーブとシンカーに翻弄されていた。
「さすが葵ちゃん……。緩急、高低に加えて横幅もしっかり使ってくる……。頼んだぞ、矢部くん!」
「がってんでやんす!」
矢部はパワプロの檄に応えると、右バッターボックスに向かったのだった。