《一番 ファースト 矢部 明雄 背番号8》
「葵ちゃん! 悪いでやんすが打たせてもらうでやんすよ?」
「矢部くんか……。君も外の世界から来たんだってね?」
「そうでやんす! 何の因果か分からないでやんすがこうして勝負することになった以上は打たせてもらうでやんす! ……甲子園大会の前哨戦でやんす!」
「甲子園か……。そうだね。もう最後の夏の大会はそこまで迫っているんだ。こんなところに閉じ込められているわけにはいかない。『力』を使ってでも早く終わらせて元の世界に帰るんだ。……悪いね矢部くん。勝つのは僕たちだ……!」
早川葵はゆっくりと振りかぶると大きく沈み込む。アンダースロー特有の体の使い方だ。
(たしかに葵ちゃんは最速130キロを超える女の子とは思えないアンダーの使い手でやんす! でも、170キロを超えるレミリアちゃんに比べれば……。って、え!? でやんす!?)
《ストラィィク!》
甲子園にカウントコールが鳴り響く。矢部は微動だに出来ないでいた。パワプロも早川葵の投球に驚愕し、眼を丸くする。……甲子園の電光掲示板には、150km/hの表示が白いLEDで燈っていた。
「ひゃ、150キロ……!?」
パワプロはあまりの速球に思わず口を開く。外の世界にいた早川葵では到底考えられない球速だった。プロの世界でさえもアンダーで150キロを超える速球を投げる人間は限られる。それを高校生が、ましてや女子高生がぶん投げたのだからパワプロが驚くのも無理はなかった。
「なぁに、口を開いて驚いてんのよパワプロ。アホみたいよ?」
「お、驚くよ!? あおいちゃんが150キロを投げるなんて……。少なくとも外の世界じゃ、140キロを超えることもなかったのに……。ただでさえ超高校級の女子高生だったあおいちゃんが、さらに進化してプロ野球選手も真っ青の速球を投げるようになるなんて……!?」
「よくわからないけど……そんなにすごいの?」
霊夢が首を傾げてパワプロに問いかける。その姿を見てパワプロはやっぱりこの幻想郷では自分達の常識は通じないのだと再認識するのだった。
「と、とんでもない速さでやんす! ど、どうしてあおいちゃんが……、普通の人間の女の子がこんなスピードボールを投げれるのでやんすか!?」
「……どうやら君はこの幻想郷から、……甲子園から不思議な力を与えられていないみたいだね? 矢部くん」
「ふ、不思議な力? 何でやんすかそれは!?」
「言葉で表現するのは難しいよ。体から湧きあがってくるんだ。今なら男の子に……、いやプロ野球選手相手でも勝てる気がするよ」
言い終わると、あおいは再び矢部にストレートを投じる。アンダースロー特有の軌道で外角低めいっぱいにストレートが決まった。矢部は全く手が出せない。
《ストラィィク、ツー!》
「ま、また150キロ……!? い、一体何が起こっているんだ!?」