「な、なんでやんすか!? 今の球は!?」
「オレに聞かれてもわからないよ!?」
矢部の驚嘆の声にパワプロも呼応する。早川あおいの魔球『マリンボール』は驚異的なブレーキがかかった曲がりを見せながらキャッチャーミットに鋭く突き刺さっていた。たしかに水しぶきをあげていたはずのボールだが、美鈴のキャッチャーミットは濡れていない。いや、ボールにさえも水滴ひとつ残っていなかった。
「な、何なんだったんでやんすか……。火の玉ストレートならぬ水の球変化球だったのでやんす……」
「もしかしてアレも霊夢さんのいう霊力による影響なのか……?」
「……違うわね」
パワプロの独り言にネクストバッターズサークルで座っていた霊夢が立ち上がりながら答える。
「霊夢さん、あおいちゃんのあの球は霊力によるものじゃないの?」
「ええ。あれは幻想郷にある力とは法則を異にしているようね」
「それじゃあ、あおいちゃんはどうやって水しぶきを……?」
「知らないわよ。この甲子園とやらが別の法則を生み出しているのかもね」
「……得体の知れない球だけど……、頼むよ。霊夢さん!」
「誰に言ってるのよ。あんな水遊び程度、ぶっ飛ばしてあげるに決まってるでしょ」
霊夢はそう言うと、魔理沙と入れ替わるように左バッターボックスに足を運ぶ。
「その水しぶきの球が自慢らしいけど、早々に打ち砕いてあげるわ」
霊夢はバットの先をあおいに向けながら宣言した。
「すごい気迫を感じるよ。とても同じ女の子とは思えないや」
「アンタたち外の人間とは住んでる環境が違うもの」
「そうだね。僕もこの幻想郷に来て少ししか時間が経ってないけど。ここはとても厳しい世界だ。そんなところで君は妖怪相手に臆せず闘ってるんだよね? 精神面でも肉体面でもとても敵いそうにない。でも、野球なら別さ!」
早川あおいはアンダースローからストレートを霊夢の胸元に投げ込んだ。
《ストラィィク!》
霊夢が見送った球にストライクコールが贈られる。
「私の胸元に投げ込むなんていい度胸してるじゃない」
にやりと笑いながら美鈴からの返球を受け取ると、あおいは二球目を投じる。外角低めのカーブだ。ここしかないというストライクゾーンの端っこにボールが吸い込まれる。
《ストラィィク! ツー!!》
ボール球だと思った霊夢は手が出せず早くも二球で追い込まれる。
「くっ!? ちょっと、今の入ってんの!?」
霊夢は姿を見せない甲子園アンパイアに向かって文句を言うが、もちろん返事などない。続く三球目。あおいの放った球は再び霊夢の胸元へと襲い掛かる。今度はさらに内側の軌道。ぶつかると思った霊夢は思わず体をのけ反らせる。しかし、霊夢の体勢が崩れた瞬間、ボールから水しぶきが現れる。霊夢の体へ向かっていたボールはその軌道を大きく変え、ストライクゾーンに突き刺さる。
《ストライク! バッターアウト!!》
「なっ!? う、うそでしょ……。わ、私が見極められなかった……!?」
霊夢は呆然とキャッチャーミットに吸い込まれたマリンボールを見つめるのだった。