「さて、それじゃあ異変の形態がわかったところで行動に移ることにしましょうか」
霊夢は縁側から立ち上がる。
「え、霊夢さん。なにかわかったの!?」
「ええ。ちょっとだけどね。まず、この異変は人や妖怪が起こしたわけではなさそうということよ。あんなバカでかいものを造ってるんだから、もし、犯人がいるとすれば、近くにいるはず。じゃないとすぐ術が解けてしまうもの。だからアンタ達を疑ったけど、どうやらそんな力はもってそうにない。ならば原因は幻想入りの一種である可能性が高い……」
「幻想入り?」
「この幻想郷は常識と非常識の境界を造ることで外の世界との隔絶を計っているの」
「常識と非常識の境界?」
「ええ。わかりやすく言えば、外の世界で忘れ去られたものがこの幻想郷に入ってくるのよ。あんな大きな建物が入ってくることは稀なんだけどね」
「甲子園が忘れ去られる? そんなことがあるんだろうか?」
「現実として入ってきている以上は忘れられた可能性が高いわ」
「そう、なのかなぁ?」
パワプロは霊夢の甲子園球場が忘れ去られたという説明が腑に落ちなかった。
「さあ、いくわよ!」
「ど、どこに?」
「あの甲子園とかいう建物によ! 忘れられたものを供養するにはそれが望んでいることをするのが一番なのよ。その野球とかいうものをあの建物でやるのよ。そうすれば甲子園は満足して消えるに違いないわ」
「甲子園が満足して消える!? 甲子園って生きてるの!?」
「甲子園に限らず全てのものに魂は生まれるわ。……付喪神って聞いたことがあるでしょう? 長年使ってきた道具ってのは精霊や神が宿るものなのよ」
「そうなのか……」
「でも、どうやって野球をやるんでやんすか?」
「はあ!? どういうことよ。アンタ達野球やったことあるんでしょ!?」
「そうなんでやんすけど……。今のオイラ達はボールもグローブもバットもないでやんす……」
「なによ。そのボールとかグローブとかいうのは……?」
「野球をするには道具が必要なんだよ。他にもユニフォームやヘルメットもいるけど……。少なくとも今矢部くんが言った道具はないと野球はできないよ!」
「それは私がなんとかして差し上げますわ」
突然妖艶な声が響き渡る。パワプロたちが声のする方を振り向くと、空間が切り裂かれ内部から金髪の美女が現れる。彼女の姿はパワプロたちと違い、八頭身の美しいプロポーションであった。
「紫……。あんたずっと見てたのね」
「ええ。まさか霊夢がそんなずんぐりむっくりになるだなんて思ってなかったのだけど……」
紫は口元を扇子で隠し、笑いを必死で堪える。その姿を見て霊夢はイライラを募らせる。
「私だって好きでこんな格好になったんじゃないわよ!」
「うおおおおおでやんすうう! こんな美人アニメやゲームでしか見たことないでやんす! お姉さん、是非オイラと今度食事に……」
「ごめんなさい。わたし、タイプじゃない人とは食事はしないの」
「……やんわりと断られてしまったでやんす……」
「矢部くん……。やんわりじゃないよ。かなり激しく断られてるよ……。……紫さんっていいましたね。道具は揃えてもらえるんですか?」
「ええ。可能な限り揃えてあげるわ。私としても早く異変を終わらせてほしいのよ。あの甲子園とかいう建物。博麗大結界に影響を及ぼしているようだから」
「よし、それじゃあ、早速甲子園に向かおう!」
パワプロの掛け声に霊夢は頷き、甲子園に向かって歩き出そうとする。
「ちょ、ちょっと待つでやんす!」
「なんだよ、矢部くん」
「や、やっぱり野球はできないでやんす」
「なんでだよ。道具は揃えてもらえるんだから大丈夫だよ」
「パワプロくんは大事なことを忘れてるでやんす! 野球は9人……いや、18人いないとできないんでやんすよ!」
「………………忘れてた……」
パワプロは自分の間抜けさに愕然とするのであった。