【本編完結】冥き宿星に光の道標   作:アメリカ兎

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第百十九幕 三ツ星勝るランチタイム

 

 ――事の顛末を簡潔にまとめてしまえば。

 肉じゃがを作るにあたり、豚肉が必要。肉と言えば北沢精肉店! ここまでもわかる。

 お店のお手伝いをしていたはぐみと盛り上がっていたこころ達と香澄達が遭遇。どうしてそこで超融合したんだ。

 

「こころちゃん達も一緒にお昼ごはん作らない!?」

「とってもステキなアイディアだわ! ねぇ美咲!」

「そだねー」

 出会って三秒、即決。歴戦のビジネスマンでも白目剥くレベルの即断。どうしてそこでストップかけてくれなかったの美咲ちゃん。俺に何か恨みでもある?

 みんなでお買い物をした結果、渡した予算ギリギリまで買い込んできた。

 

「皆さんに慕われているようで何よりです」

「弄ばれているの勘違いだ……」

 特に筆頭、氷川日菜。

 

「つぐみ、ごちそうさま……また今度ゆっくりしたいときに来る」

「あ、はい」

「釣りはいいわ。美味いものでも食ってくれ。奢る」

 万札をテーブルに置いてエヌラスが退店する。ひまりが頬を赤らめてその後姿を見送っていた。

 

「ねぇ巴、見た!? 大人って感じだった!」

「見てたよそりゃ。文化祭の時もそうだったけど、あの人気軽にお金出しすぎじゃないか?」

「いいなぁ~、ああいう感じの大人買い?っていうのかなぁ。私も贅沢してみたいなぁ」

「ひまりが贅沢したらすごいことになりそうだな。新作デザートとか食べすぎて」

 店から出て、香澄達の荷物を預かったエヌラスが商店街から歩いて去っていく。

 

「……昨日のお金、返そうと思ってたのに増えたんだけど?」

「も~、これはですねぇ。モカちゃんに沢山パンを食べてくれという神の恵みですよ、ありがたや~ありがたや~」

「いや、そんな拝み倒してもご利益なさそうなんだけど」

 随分とお金遣いが荒いというか、太っ腹というか。少々信じられないくらい金回りが良い。

 

(あの人、確か『CiRCLE』のバイトとハナジョの非常勤講師しかお仕事してないよね……?)

 他にどうやってお金を稼いでいるのか甚だ疑問になるが、蘭は深く考えないことにした。オカルトハンターも無賃労働のはずだし。

 もしや悪いお金……? 悪銭身につかず、とは聞くが。

 

(まぁ、いいや。あたしが気にすることじゃないし)

 単にお金の使い方が上手なだけだろう。そう考えることにした。

 

 

 

 なんで出かけた時よりも人数が増えているのか。これがわからない。

 はしゃぐ香澄達から目を離さないようにしていると、両脇を固めている沙綾と美咲が心配してくれた。

 

「大丈夫ですか?」

「ふふ、帰りてぇ……」

「今から帰宅するところなんですけど?」

「街で好き放題暴れる犯罪者ぶちのめしても罪に問われない故郷が恋しい。今だけは」

(どんな故郷!?)

(えっ、こわっ!?)

「だが師匠はクソ。死ねばいいのにあのクソ野郎。ほんと死ねばいいのに。罪に問われるレベルで罵詈雑言投げかけても無罪放免食らうくらいのド鬼畜外道師匠はほんと塵も残らなきゃいいのに」

「陰口で満足なんですか」

「バカ、美咲。こんなの真正面から言ったらバーベル担がされて国内一周とかやらされんだぞ。言えるわけがないだろ!」

「罰ゲームのハードルが人類のレベル越えてるんですけど!?」

 だが確かに。エヌラスが現実逃避をしたくなるのも分からなくはない。

 

「神様なんて大嫌いだ……」

 すっかり落ち込みながらも、無事(一名除く)に帰宅。多少手狭になるものの、問題ない。

 ベランダでまだ日向ぼっこをしていたハンティングホラーが起き上がり、帰宅した主人達を迎えた。

 

「ただいまーはーちゃん! 聞いてよぉ~、猫ちゃんがさー」

「俺の忠犬に愚痴り始めんな、香澄。ほれ、ハンティングホラー、戻れ」

 頷き、エヌラスの足と床の隙間に身体を潜り込ませる。跡形もなく消える漆黒の大型犬に慣れない美咲と花音は驚いていた。

 

「あー、はーちゃんがぁー!!」

「いーから、さっさと肉じゃが作んぞー香澄」

「でも予想より人数増えちゃったね。こりゃー、大変だ」

 元々ポピパで作る予定だったので、予定通りにキッチンで調理を始める。とりあえず、怪我だけはしないようにとエヌラスが念を押しておいた。

 そしてハロハピをなし崩し的にもてなすこととなったエヌラスは紙コップとジュースを人数分用意して置いていく。

 

「……で、なんでまた五人は商店街に?」

「はぐみを迎えに行ってたのよ」

「うん! 今日はお昼までうちの手伝い、午後からこころん達とお出かけする予定だったんだー。でもかーくん達がエヌラスさんのお家で肉じゃが作るって言ってたから!」

「そっかー、そぉっかー……!」

 もう目の前の現実から全力で目を逸らしてバイクで走り去りたい。どこまでも遠くに逃げたい。

 

「……どこに行く予定だったんだ?」

「えっとねー、ショッピングモール! 映画を見に行こうって話をしてたんだ」

「映画……?」

「最近新しく始まった映画なんですけれど、知りませんか?」

「生憎とそういうエンターテイメントには疎くてな」

 その話を聞いていた香澄が顔を覗かせた。

 

「映画! 私もいきたーい!」

「勉強しろ」

「しょぼーん……」

「で? 何時からなんだ、その映画。すぐ始まるわけじゃなければそれまで勉強会だ。終わったら行くぞ。少しでもテスト範囲を勉強してからだ」

「やったーっ!!」

「か、香澄ちゃん。危ないよ」

「包丁持って歩くな。あぶねぇだろうが」

 銃と刀を持ち歩いている人間に包丁の扱い一つ注意される。微妙な顔をしている有咲が言いたいことはわかる。

 

「それで。どういう映画なんだ?」

「恋愛映画です」

「好きだよなー、女の子はそういうの……」

「エヌラスさんは観ないんですか、映画とか」

「誘われても観る機会がなくてなー」

 特に、口うるさい吸血鬼から。

 

「一回だけ付き合ったことがあるが、どうにもああいうのは慣れない」

「どうしてですか?」

「どうしてってそりゃあ……」

 観ていてむず痒い。それこそ、他人の恋愛成就の様を見せられるというのは気恥ずかしかった。

 そんな風に、とも考えたことはない。

 

「恋模様なんてのは、人様に見せるものじゃないだろ。ましてや作り物だとしても、見世物になんかされちゃたまんねぇよ」

「……なんか、意外です。エヌラスさん、そういうセンチメンタルなの嫌いなのかと」

「恋は秘めるもの、愛は明かすもの。恋の魔法ってのは、そういうものだからな」

 少なくとも、故郷では広くそう伝えられている。魔術ではなく、恋を魔法と呼ぶのは、それは魔術的理論では解明できないからだ。

 エヌラスの口から“恋の魔法”なんて言葉が出てくるとは思わなかっただけに、薫達は驚いている。

 

「なんでそんな驚いた顔してんだ」

「いや、だって……エヌラスさんの口からそんなロマンチックな言葉が出てくるなんて」

「魔術師にセンチメンタルだとかロマンチックだとか言われてもな」

「恋の魔術師とかいるのかしら?」

「愛されるやつはみんなそうだよ。お前たちが“笑顔のまほーつかい”なのと一緒」

「エヌラスさんの恋人も、そうだったんですか……?」

「…………」

「ご、ごめんなさい……!」

「アイツは魔術師でもなけりゃ、まほーつかいでも無かったよ」

 恋人や恋愛の話になると、エヌラスは決まって口数が減る。それが触れられたくない話題だというのは美咲もすぐ察した。

 

「そんなわけで、俺は映画には付き合わない。観るのはお前たちだけでいい」

「エヌラスも観ましょうよ。きっとステキな物語よ」

「仮にステキな物語でも、人の恋愛模様を作り物に落とし込むもんじゃねーよ。趣味が悪い。俺は嫌いだ。二度と観ねぇ」

「……ちなみに、エヌラスさんが観た恋愛映画ってどういうのだったんですか?」

「何の変哲もねーよ。片思いの男女が紆余曲折を経て、互いの気持ちを伝えて晴れてハッピーエンド。そんだけだ」

「――それの何が気に食わなかったんですか?」

 王道でありきたり。だがそれこそ、誰もが望む物語の結末というものだ。だが、そうなるべくして作られた物語のレールが、そのとおりに進むだけ。

 あらかじめ取り決められたように進む人生が、気に入らない。

 

「約束された結末なのが、気に食わないだけだ」

「いいじゃないですか」

「良くねぇよ。他人の人生好き放題に描く連中、大嫌いだ。八つ裂きどころかぶち殺しても足りねぇよ。殺し尽くしたって気が済まねぇ」

「そこまで怒らなくても」

「そうだな。肉じゃが食って忘れることにする」

 ジュースを飲み干してから、キッチンの様子を見に顔を覗かせる。

 

「こっちはどんな調子だ?」

「バッチリ!」

「さーやがことこと煮込んでるので大丈夫!」

「そろそろ出来ると思います」

「ご飯足りねーなこりゃ……」

「そこはうちのパンで我慢してもらうしかないかなぁ」

 キッチンで料理をしている五人を見てから、エヌラスは肩をすくめた。

 

「いやまったく。とんでもねー贅沢してるもんだ、俺も。あいつにゃ見せらんねーわ」

「あいつ?」

「ああ、ユ――……」

 誰かの名前を言いかけて、すぐに口を閉じる。

 突き刺さる視線から逃げるようにキッチンから離れる。

 

「なんでもね、腹減ってるから楽しみだよ」

「……エヌラスさん、なんか嬉しそうですね」

「現役女子高生の手作り料理なんてそう口にできるものじゃない高級品だからな。三ツ星レストランより貴重だ」

「うわ、変態だ」

「なに言ってんだ有咲? 本当のことだろ」

 

 リビングに戻ってくると、はぐみが点けていたテレビからニュースが流れていた。

 海外の資産家が手にした宝石細工。その紹介だ。

 まるでこの世の物とは思えない加工技術が幾重にも用いられた現代アーティファクト。今にも動き出しそうな完成度に美咲達も感心していた。

 

「へー、すごい綺麗」

「えっと、ああいうのってやっぱり高いよね……?」

「あら。似たようなのうちに沢山あるわよ? 見に来たらいいじゃない」

「そりゃあんたの家にはあるでしょうよ……」

「とびきり儚い、少女の面影を残しながら幻想的な姿に、心を魅了されて止まないみたいだ」

 

「ああ、あれ作ったの俺だ」

 

 ……なんて?

 

「ちょっととんでもない値段つけられてるんですけど?」

「当たり前だろ、百年先でも追いつかねぇ技術使ってんだから」

「ど、どういう」

「現役魔術師による一品物の完全手作業」

「多分それ百年先でも無理なんですけど!?」

 海外サイトでも絶賛の嵐。匿名の芸術家とされている。

 

「はは、エヌラスさんなら水晶髑髏とか作りそう……」

「作れるし、なんなら一時期生産してた。内職で」

「内職で!?」

 国内の魔術師や占い師への触媒として大量生産して荒稼ぎしていたらしい。それを用いて生き残った相手は少ないらしいが。九割自滅。完成度が高すぎて、破滅の道を選んでいる。間もなくして内職禁止令が発令されたのは言うまでもない。エヌラス限定で割りと禁則事項が多かったりする。

 

「エヌラスさんって手先がとっても器用なんだね」

「ん? それなりに。しっかしあれで億単位か。やっすいなー」

 美咲がジュースを噴き出した。ちょっとこの人の金銭感覚についていけない。

 

「ふええぇ!? み、美咲ちゃんだいじょうぶ!?」

「大変だわ、美咲どうしちゃったの?」

「みーくん、はいタオル!」

「うん、ありがとう……」

 気の所為か、薫の顔もちょっと青ざめていた。

 

「い、いやぁ。エヌラスさんの価値観は常人とは計り知れないね……」

「値段がつくうちは、安いもんだ。金で買えない代物になってから高級品って扱いになるんだよ。俺の国ではな。商品欲しさに人が死んでやっと箔がつく」

「……それ悪魔の取引って言いません?」

「魔術師だからな」

 その言葉、便利すぎませんか。

 

「みんなー、お昼ごはんできたよ! はいドーン!」

「鍋ごと持ってきやがった!?」

「いやぁ、分けようかって話をしてたんですけど面倒になっちゃって」

「肉じゃがを鍋で持ってくるか、普通……」

 テーブルのど真ん中に陣取る鍋いっぱいの肉じゃが。糸こんにゃくが溢れそうになっている。それを囲む形で惣菜が並べられていき、炊飯器も準備万端。白米が溢れんばかりに炊かれていた。

 

「こ、こんなに? さすがに食いきれるかな……」

「一応夕飯まで持たせるつもりで作ったんだけど」

 美咲と沙綾がエヌラスに視線を向ける。

 この人、ちょっと尋常じゃないくらい食べるから間に合うだろうか?

 

「おー、美味そう。鍋ごとでもいけそうだな」

「鍋は食べ物じゃないので中身だけでお願いします!」

 

 ――哀れ、肉じゃがの命は夕方まで持つことなくお昼でぺろりと平らげられてしまった。

 

 

 

 

「……エヌラスさん、あれ一食分じゃないです」

「えっマジで!? 食っちまったけど!」

 沙綾とエヌラス、食後の会話にて。

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