【本編完結】冥き宿星に光の道標   作:アメリカ兎

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第百四二幕 灰の怪異

 

 

 

 ファミレスを出てから、会議でまとまった意見をオーナーへ報告するために『CiRCLE』への帰路についていたまりなとエヌラス。その二人の前に、スーツ姿の男性達が現れて会釈する。

 サングラスで目元を隠しているために正体は定かではないが、エヌラスには見覚えがあった。それは他でもなく弦巻家の執事たちだ。

 

「よ、執事さん達。どうしたんだ?」

「……お知り合い?」

「まぁ。弦巻家に厄介になった時に何かと世話になったんで」

「エヌラス様。大至急、耳に入れておきたいお話がございます。お時間はとらせません」

「了解。すいません、まりなさん。少し待ってもらってていいですか」

「いいけれど……」

 路駐されているリムジンの中にエヌラスの姿が消える。

 それに続く形で執事達が車内に入ると、すぐに封筒を渡してきた。その封を開けて中身を確認すると、各国の衛星写真が封入されている。

 

「これは?」

「ここ数日。世界各地で謎の行方不明事件が頻発しております。詳細はそちらに」

「……」

 エヌラスが見た写真には、いずれも不自然に発生したクレーター状の地形が写されていた。そうなる以前の写真も同封されており、見比べれば、確かに。奇妙な出来事だ。

 アメリカ、ウィスコンシン州にある森林地帯が、ごっそりと消えている。隕石でも落下でもしたのか綺麗に刈り取られたように見晴らしがよくなっていた。一夜にして消滅した森林は、過去にも同様に原因不明の山火事によって消失したらしい。それを長い年月をかけて再生したというのに、これでは先人の苦労も報われないだろう。

 

「……1940年、謎の火災により北部中央リック湖周辺の森が焼失。その原因は未だ不明」

「はい。しかし今回はレンジャーが犠牲となっています。他にも、近隣の住民までもが」

 不自然な山火事ではなく、文字通りの“消滅”。写真をめくっていくと、奇妙な写真が挟まれていた。それは、山のように積み上げられた灰。しかし自然発生したものでもなく、現在も調査が進められている。

 

「不審な人影とかなかったのか?」

「なにぶん、観光地としても人気でして」

 国の規模も、人の出入りも日本とは比べ物にならない。それだけに不審者の特定などしていたら日を跨ぐどころの話ではない。

 

「どう見られますか。例の、オカルトに関連するものでしょうか」

「…………専門家の見解としては、まず間違いなく」

 これは、通常起こり得ない事象だ。自然発生するはずがない。しかし魔術かどうかと聞かれれば、それも肯定しにくい。

 物質を変換するものは多々あれど、これほど大規模なものになると相当な手練になる。そして魔術を使っているとなれば、それは邪神であれど()()()としての側面を持つ。つまり人に紛れているということになる。個人の才能によって大きく左右される魔術にとって、その術者が神格者ともなれば天変地異すら可能とする。

 ――エヌラスの脳裏をよぎる、黄金の影。頭を振って、その面影を振り払う。

 こんなところに来てまで、頭を悩ませることはない。気を取り直して、再び書面から読み取れる情報を魔術理論に当てはめて咀嚼する。だが、該当する魔術を知らなかった。

 

「俺の専門分野であると見て間違いないとは思う。だが、こんな魔術は知らない」

「そうですか」

「師匠ならひと目見て分かるんだがな……写真だけじゃどうにも」

 どういった魔術が作用してそうなるのか、そこまで見ないとエヌラスにも見当がつかない。結果論だけでは術式の解が得られないからだ。論外、師匠の扱う魔術。あんな超速度で展開されてはこちらも打つ手がない。しかも毎回微妙にロジックパターンを変えてくる。

 

「他にもこちらを」

「まだあるのか――」

 それは、エヌラスが香澄達と行った海外にある住宅街の一角。そこも同じように消えていた。以前渡された資料と同様のものだが、今回の事件に関連性があるとして新たに用意されたもの。エジプトでも似たような事件。

 それに留まらず、フランス、イタリア、ベネズエラに中東――()()()()()()でも同一犯と見られる事件が起きていた。

 いずれも、現場には灰が残されている。それは一握りほどであったり、地表を覆うほどの量であったりと様々だ。僅かな生存者、その現場を目撃した人物曰く……「光が降りた」とだけ。その生存者ですら、あまりの光量を目にしたからか失明している。

 それらを「灰の怪異」と暫定し、何が目的で動いているのかを探る。

 何か現場で他に共通した項目があれば思い当たる節があるかもしれないが。

 

「そうですね。それらの事件の調査と並行して、様々なオカルトをこちらでも確認しています。例えば、そちらのフランスでは、石像が動くことがあるという噂が。現地では“ガーゴイル”として広く知られています。フィンランドでは、ネッシー。有名な未確認生物なのですが、ご存知ですか? ネス湖で発見されたことから名付けられて一時期はそれを目当てに観光客が訪れることもあったとかで――」

「…………」

「――――コホン。失礼しました」

 もしや執事さん、オカルトが好きだったりするのか? エヌラスは目の前のオールバックスタイルの偉丈夫に訝しむ視線を向けていた。

 

「話を戻しましょう。それらが、最近改めて目撃されるようになってしまった――ですが、その灰の怪異が訪れてからは見ての通り。跡形もなくなるようです」

「……多分だが。こいつがやっていることは俺と同じで、怪異狩りだ」

「しかし何故?」

「それがわからん。俺は一身上の都合だが……こいつは」

 敵味方の区別も見境もない。それどころか、そもそも邪神だ。共犯者は無く、単独犯でこれほどの破壊活動を繰り返して殺意を振りまいているとなるとあまりに危険過ぎる。

 あの双子のように好奇心や無邪気さは一切感じられない。殺意の嵐だ。

 不意に、エヌラスは何か思い当たる。自分と同じ怪異狩りとなれば、その理由があるはずだ。そしてそれも自分と同じであるとするならば。

 

「こいつは、きっと――自分以外の怪異の存在が許せないんだろう」

 自分以外の全てが憎い。怨めしくて堪らない。殺したくて仕方がない。もしかすると、人間ですらも。

 他の生命が息づくことすら鬱陶しいと感じているのかもしれない。何がそれほど駆り立てるのか定かではないものの、ただエヌラスは未だ顔を見ぬ邪神に対して得も言われぬ嫌悪感を抱いていた。それは、同族嫌悪というものだ。

 

「……話は以上で?」

「はい。旦那様も憂いているようです。これほどの事件が世界各地で起きていること。そして、それがいつこの日本に舞い降りるかもわからない現状を」

「…………」

「そうなれば、こころお嬢様だけでなく。奥沢様達にも危害が及ぶかもしれません」

「危害が及ぶなんて、生ぬるい話じゃない。こいつを目の前にしたら死ぬしか無いだろうな」

 こんな島国、消し飛ばされる。だがそうしない理由が何かあるのだろう。

 

「俺も留意しておく。また何かあったら連絡を」

「はい」

「人を待たせているので、失礼します」

「こちらもお時間を取らせてしまい、申し訳ありません」

「暇してるんで、お気になさらず」

 エヌラスがリムジンから降りて、待ちぼうけを食らっていたまりなのもとへ駆けつける。

 

「いやーすいません。待たせて」

「いえ、それはかまわないんだけど……何の話?」

「え? んー、ちょっと“本業”の話し合いで」

「そう。あまり深くは聞きませんけど、本当に?」

「あー……なんというか、奇縁に恵まれまして。俺としては助かるんですがどうにも気を張ってしまって」

「どー見ても、いつも通りのエヌラスさんにしか見えませんが」

「はっはっは。どうもいつもの俺です。早いとこ戻りますか」

「ま、ファミレス奢りだったのでこれくらいにしておきますか」

 二人、肩を並べて歩き出す。その後姿を見送り、弦巻家の執事が深く頭を下げた。

 

 こころ達、ハロハピが巻き込まれた怪事件。それは表沙汰、未曾有の異常気象という形で幕を閉じている。だが、その一部始終を目撃しただけでなく巻き込まれた黒服達は包み隠さずこころの両親に伝えた。すると、そのオカルトハンターを本物と認めた上で情報を調達し始めたのだ。

 それが引いては経済界だけでなく、人類の為になると。

 世界中から情報を買い集めて、エヌラスへ渡している。その資金も決して安くない。だがそれでも、最愛の娘を失うところだったのを救ってくれた命の恩人だ。ならば、互いに顔を合わせることなく“足長おじさん”として務めることにした。

 

 

 

 夕方。霊能学講師としての活動は本日休業。だが一応それでも花咲川女子学園には足を運んでみる。先日の狼男事件も、野良犬が入り込んだものとして片付けられてしまったが生徒達は不安がっていた。中には羽丘女子学園の知り合いからエヌラスが何をしたか聞いたのだろう。

 若干、生徒達からの視線が冷たい。だが、どうせそのうちこうなることになるのは目に見えていた。それが少しだけ早まっただけのこととして、エヌラスは気にしないことにする。

 

「エヌラスー!」

「おぅ……」

 しかし。そんなことはお構いなしにこころが二階の窓から飛び降りて綺麗に着地すると、そのまま駆け寄ってくる。エヌラスは目頭を押さえた。危ないからやめろと言ってやめてくれるようなら笑顔で近づいてこない。

 

「もう学校は終わりよ? 今日は霊能学、やらないのかしら」

「今日は休みだ。だから様子を見に来たんだが、特に何事もないみたいで安心したよ」

「これから薫を迎えに行ってハロハピ会議をしようと思ってたのだけれど、エヌラスもどうかしら! きっと何か素敵なアイディアが出てくると思うわ」

「んー。悪いが遠慮しておく。っていうか、こころ」

「なにかしら?」

「お前、天文部の合同企画忘れてないよな」

「勿論よ! 週末は日菜とエヌラスと一緒に天文台で天体観測会よね!」

「ちょっと待てもうそこまで話が進んでるとか俺聞いてないんだけど!? 一応顧問だからな俺!? 先生に相談なしでトントン拍子に進めないでくれるか!? 場所の確保とか予算とか色々あるんじゃないのか!」

「あたしがなんとかしたわよ? 特に何も問題なかったわ」

「しちゃったのかーそっかーちくしょー何も言えねー!」

 そういうことはちゃんと俺にも報告してくれ氷川日菜ぁ! ありったけ叫びたいのを我慢したのを誰か褒めてくれ。そのことについては後日説教するものとして、エヌラスは慌てて駆け寄ってくる美咲と花音、はぐみの三人を見て気さくに手を上げて挨拶をした。

 

「急に飛び出して行くからなにかと思ったら、エヌラスさんか……」

「俺で悪かったな……」

「あ、いや。別に全然悪くないです。すいません」

「そうよ美咲、エヌラスは悪くないじゃない」

「まー、様子を見に来ただけだから面倒ごとになる前に帰る」

 多分ちょっと手遅れだけど。案の定逃げられなかった。

 

 

 

 結局、ハロハピ会議にとっ捕まってあれやこれやと美咲と一緒に振り回されている間に時間が過ぎ去り、解散。

 エヌラスは一人、夜道を歩いていた。

 街の見回りは野良猫達に任せているからいいものの、街を出て国外ともなれば自分の足で行くしかない。

 星空を見上げながら、息を吐き出す。

 

 あと何ヶ月。あと何週。あと何日。この星にいることができるだろう。

 あとどれだけの時間、彼女たちのそばにいてやれるだろうか。

 平和ボケして、平穏で、穏やかな日々に微睡んでいく。

 もう二度と、前に歩けなくなるくらいに自分は此処での暮らしが気に入っていた。そんな心の声を押し殺す。

 今だけだ。そんなのは、今だけの夢だ。この先の時間、どうせ自分を置いて皆いなくなってしまうのだから。

 今までのように。これまでのように。今度こそ、なんて甘い期待はいらない。

 

「……腹減ったな」

 コンビニで弁当でも買うか、と――。

 入ったコンビニでは見覚えのある顔が二人ほど。

 

「いらっしゃいませー」

「しゃーせー……あれ?」

「……何してんのお前ら」

「いやー、何って……アルバイト中なんですけど?」

 今井リサと、青葉モカの二人が働いていた。

 客足も引いた時間で、少し余裕があるようだ。

 

「おにーさん、このお店は初めてですかー?」

「やめんか、そういうちょっと怪しげな店の雰囲気出すの」

「ご飯買いに来たの? 駄目だよー、一人暮らしだからって堕落的なのは」

「俺は料理が壊滅的に出来ないんだよ。どういうわけか」

「じゃー売れ残りの激辛カップ麺とかどうです? お店でも処分に困っててー」

「おめーは俺をどうしたいんだよモカちゃんよ」

 そこまで言うなら買うけど。

 

「リサ。なんかオススメないか? 激辛カップ麺は仕方ないから買っていくけど」

「えっ、嘘。ほんとに? それ滅茶苦茶辛いってネットでもスゴイ言われてるんだけど」

「腹に入れば全部一緒だ。できれば胃に優しいので頼む」

「じゃあ、ここのサラダとか。あ、チキンサラダとかも結構売れてるんだよねー」

「鶏肉なー。嫌いじゃないんだが肉食ってる気がしねぇんだよな。さっぱりしすぎてて」

「と言いながらもリサさんのオススメを手に取るエヌラスさんでした」

「お前は俺で遊ばないとお仕事できないのかモカちゃんよぉ」

 二人と親しげに話しているエヌラスの事が少し気にかかるのか、それとなく店長が顔を覗かせていた。それを見て、すぐにリサが説明する。するとすんなりと理解したのか、相槌を打っていた。

 

「ああ、噂の」

「そう、噂の」

「「ねこあつめのおにーさん」」

「どこまで広まってんだ俺の噂ぁ!!」

 そして誰が広めてんだその噂話。――モカがエヌラスの後ろで笑いを堪えている。

 店長は朗らかに笑みを浮かべながら頭を下げていた。

 

「いやー、どうも。リサちゃんとモカちゃんから話は聞いてます」

「あー、いえいえ。こちらこそ、世話になってます。コンビニ」

「……そのカップ麺、ほんとに買うんですか?」

「化学兵器かなんかですかこれ?」

 買い物カゴの中に無造作に放り込まれている激辛カップ麺を見て、コンビニ店長がちょっと引いている。とはいえ売上に貢献してくれるというなら邪険にもしなかった。

 第一印象が完全にあっち側のヤバい人だったが、話してみれば全くそんなことはなく、むしろ話しやすいくらいだ。

 

「なんでもライブハウスとかでアルバイトしてるとか」

「副業で」

「学校の先生もしているとか」

「兼業で」

「その、オカルトハンター? とかいうのは」

「自称です」

 むしろ本業なのだが。

 

「……接客業の経験とか、おありで?」

「人並みには……」

「ぜひ」

「ご遠慮願い下げです」

「今ならかわいいお二人と一緒に働けますよ?」

「悪くないしむしろ高待遇であることに一瞬揺らいだが、流石にこれ以上仕事増やすわけにはいかないので」

「今日だけでもどうです?」

「……つかぬことをお聞きしますが、人手不足?」

「ええ。急遽一人休みになってしまって……」

 それで今はリサとモカの二人しか店内にいない、というわけだ。店長は店長で仕事があるものの、高校生二人に任せっきりは不安が残るらしい。

 

「今日だけって言うなら、まぁやってもいいですけど」

「ホントですか」

「ただ」

「ただ……?」

「客のことぶん殴ってもいいなら」

「すいませんちょっとそれはー……我慢してもらっていいですかねぇ」

 え、なんで? という顔をするエヌラスだが、普通は殴らない。手も上げない。

 

「俺の故郷だと普通にぶん殴っていいんだけどな……日本は駄目なのか」

「普通は駄目だと思うんだけど……」

「でもこの時間ならお客さんも減りますし、大丈夫じゃないですかー?」

「二人の休憩も回さないといけませんし。そこをなんとか堪えていただいて」

「……まぁ、俺の目の前で二人がナンパされるか万引きでも来ない限りは」

「助かります」

 急遽、超短期間コンビニバイトをすることになったがリサとモカがいる手前都合が良い。

 本来なら関係者以外立入禁止だが、事務所に通される。そこで店長から制服を受け取り、髪もまとめるようにと言われた。少しだけ、とはいえ身だしなみは整える。

 

「リサ。この前みたくやってくれるか?」

「いいよー♪ じゃあちゃちゃっとまとめちゃうね」

「ああ、頼む」

 ロッカーから櫛とゴムを取り出して、エヌラスの髪を梳かしてまとめ始めるリサを見て、店長が腕を組みながら唸っていた。

 

「……もしかして、リサちゃんの彼氏ってこの人?」

「へっ!?」

「いってぇ」

 手元が狂ってエヌラスの頭部に櫛が突き立てられる。地味に痛い。

 

「ほら、モカちゃんが言ってた」

「もーモカってば違うってあんなに言ってるのに……」

「残念なことに事実無根、そういった関係ではありません」

「あ、そうなんだ。お似合いだと思うけどなー。それにほら、エヌラスさんでしたっけ。だいぶリサちゃんに心許してるみたいだし」

「この人誰にでもそうだと思いますけど!?」

「リサは特別だが?」

「――はいっ!?」

 初耳だ。二度目の手元が狂って今度はヘアゴムが後頭部打撃。地味に痛いぞこれ。

 

「いてぇよさっきから!?」

「ご、ごめん! ちょっとビックリしちゃって……」

「……まぁ俺も驚かせて悪かった」

「うん……」

(女子高生の青春って、あまずっぺぇ……)

 見せつけられている店長の心境やいかに。

 

 僅かな時間とは言え、やれる仕事はやっておく。自分でも片付けられるような仕事なら片付ける。レジのやり方は形は違えどほとんど共通だ。そちらは慣れているリサとモカに任せるとしてエヌラスは袋詰め。

 まばらな客足を捌きつつ、ついでに棚の商品整理。それでも急に混むようなら分担。

 特に何事もなくモカと二人でレジに立っていた。

 

「またお越しくださいませー」

「エヌラスさん、手慣れてません?」

「コレくらいはやってきたからなー。勝手は違うが、大体同じだし」

「じゃーモカちゃんは休憩にー」

「リサが戻ってくるまで我慢してくれ……」

 風除室に客の姿が見えたのでエヌラスは視線を向ける。団体客のようだ。見慣れた制服姿が並んでいるところを見るに、部活の帰りだろうか。

 

「いらっしゃいませー」

「っしゃーせー」

「おまえ適当だな……」

 

「……何してるんですか?」

「今日は顔見知りが多い日だな……」

 蘭とつぐみ、巴とひまりが買い物のついでにモカの様子を見に来た。

 

「何って。急遽ヘルプで駆り出された短期間バイト」

「二時間だけ」

「で、蘭達は何か買いに来たのか?」

「ノートと、飲み物。あと、モカの様子見」

「これから巴の家に行って例の子見てくるんです」

「例の子?」

「迷子……なのかな、巴」

「多分な。なにせ、全然喋らないし。でも今朝は起こしてくれたし、すごくいい子なんだ」

 今は警察が調べてくれているようだが、それもどう転ぶかわからない。

 

「モカはアルバイト頑張って。もうちょっとなんだから」

「はーい。あ、ひーちゃん。新作のスイーツはそこだよー」

「えっ、嘘どこどこ! 美味しそうだから気になってたの! これ最後の一個?」

「うん。次入ってくるの、明日の夕方だから今日逃すと……」

「う、う~ん……!」

 春の新作スイーツを前にして思い悩むひまりに、モカがほくそ笑んでいた。

 

「ふふふー、悩むのもいいけどもしかしたら明日には売り切れているかもよー? 手に入れるなら今だよ~?」

「やめてよモカ~。確かにすっごく気になるけど」

「どうせ買わなかったら明日になって買っておけばよかったって後悔するんだよな」

「うんうん。その通り」

「買ったら味わえる至福の時間。安い買い物だぞ、ひまり」

「買わなかったら苦い思い出だけが残るんだよー?」

「う、うううぅ~!」

 

 ――結局、ひまりは新作スイーツを買っていった。

 エヌラスとモカの二人が小さく拳を突き合わせる。してやったり。

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