【本編完結】冥き宿星に光の道標   作:アメリカ兎

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第百七五幕 CiRCLEに、月島まりなあり

 

 氷川紗夜と白金燐子の二人が、怪しげな二人組を引き連れて羽丘女子学園前の校門へ姿を見せると、それはもうちょっとした騒ぎになった。とはいえ、前例があるので「まぁあの人の関係者だろう」と羽丘の生徒たちも都合よく解釈することにした。

 少ししてから、日菜と麻弥。それから蘭達『Afterglow』に、友希那とリサ。あこもそれから少し遅れて出てくる。団体を前に童子切が小首を傾げていた。

 

「…………妹、めちゃくちゃ多いんだな」

「全員が全員そうではありませんからね?」

「え、どれよ?」

 見てわからないのか、という紗夜が視線で訴えるが、童子切はすっとぼけている。はてどれだ、と。そんなことよりも童子切と大典太の二人に何か感じるものがあるのか、麻弥も眼鏡を直していた。

 

「日菜さん。あのお二人、もしかしてとは思いますけど……」

「うん、なんとなーくそうじゃないかなって思った」

「ははは、ですよねぇ? あんな格好しているのなんて、早々いませんし」

「こんな格好で悪かったな」

「拙者は隠しているゆえ」

「お前も目立ってんだよ笠地蔵」

「…………まことか?」

 大典太が、自分も目立っているのか、と麻弥に尋ねると。比較的目立っている、とオブラートに包んで返された。そのことに少なからずショックを受けたのか笠をかぶったまま押し黙ってしまった。ますます地蔵のようになっていることに童子切がほくそ笑んでいる。

 

「で? 三日月宗近知ってるお嬢さんは挙手。はーい」

「はーいっ!」

「はい……って、やっぱり付喪神の方なんですね」

「なんだ知ってんのか。なら話は早い」

「でもその前に、場所を変えませんか? 学園で話すにはちょっと色々問題がありますので……」

「おうわかった。任せるわ」

 しかし、この大人数で移動しても問題のない場所――かつ、全員が知っている場所となればひとつしかなかった。

 

 

 

 ――ライブハウス『CiRCLE』ラウンジ。

 表のカフェテリアは現在修繕工事の途中なので休止中だが、幸いにも中は無事だったので営業時間を短縮して営業している。それでも今は少々客足が遠のいていた。しかしそれもしばらくしたら戻るだろうとオーナーは見込んでいるようだ。

 客足の少ない間に、普段はやらない細かなところの清掃や機材のメンテナンスに備品の整理とやることはまだまだある。山積みの清掃業務には流石に月島まりなも疲労を滲ませたため息をついていた。

 そこへ、問題の団体客。氷川紗夜率いる馴染みの顔の、中に。何か絶対トラブルの原因になるであろう二人の男性が加わっていた。

 嗚呼、多分この二人はエヌラスさんの関係者か何かなんだろうな――と、なんとなく察してしまった。

 

「いらっしゃーい。今日はどうしたの?」

「こんにちは。少々、場所をお借りしたくて……」

「夕方までなら空いてるから好きに使っちゃって。予約のキャンセルで閑古鳥が鳴いている状態だからねー……」

「んじゃ遠慮なく借りるわ」

 ズカズカと無遠慮に童子切は踏み入り、慌てて紗夜がラウンジへと誘導する。一団が奥の部屋へと消えてから、一人残っていた大典太が遅れて部屋へと向かう。

 

 ひとまずコップにウォーターサーバで水を注ぎ、童子切と大典太の二人へ差し出す。楽にするように、と言われて見慣れない敷物――ソファに腰を下ろすと、何度か座り心地を確かめるようにしていた。

 

「お? おー、うん。なるほど。これは……俺は立ってた方がいいわ」

「気に入りませんか?」

「横になったら、寝る自信しかねぇ」

「自慢気に言うことではありませんよ」

「なんかこの人……エヌラスさんに似てるね、お姉ちゃん」

「もしかして紗夜が気にしてたのってその所為だったり?」

「そ――、!? そんなわけないじゃないですか! 一体何を言ってるの日菜! それに今井さんも変な事を言わないでください、不謹慎です!」

「あちゃー、怒られた……」

 水を飲み干してから童子切がおかわりを要求、つぐみがすぐに用意する。

 

「はい、お待たせしました。どうぞ」

「ありがとよ。さて、どっから話したらいいもんかな……面倒だから全部徹頭徹尾頭からケツまで話すか」

「宜しいのか? 二人を待たずにこのような勝手な真似を」

「どうせ後で話す羽目になるんだからいいだろ」

 なんて適当な、と紗夜が思っていると、表の方が少しだけ賑やかになっていた。

 勢いよく開け放たれたラウンジの扉からは、笑顔の突風。

 

「ハッピー!」

「ラッキー!」

「スマイル!」

『イェーイ!』

「……い、いぇーい」

「いぇーい。はっはっは、うむ、元気が一番ですなぁ!」

 ハロー、ハッピーワールド!と共に、鬼丸国綱と数珠丸恒次が来店していた。思わず吹き出した童子切の水を大典太は笠を傾けて素早く防ぐ。

 顔を見るなり、國綱が大股で童子切に向けて距離を詰めると頭を捉えて締め上げた。

 

「お前は、オレ達を置いて勝手に行動をするな……!!」

「いでででっでっででで!!! 馬鹿、やめろ! 頭割れるだろうがあっはっはっは! っていうか何だ今の挨拶!」

「おお、これはこれは。ほれみたことか、鬼丸殿。笑っていれば万事塞翁が馬、なんとかなるものであろう?」

「……………………そうだな……!!」

 どうにかなってしまった手前、國綱も強く言えなかった。だがそれはそれとして、童子切の腕を締め上げている。ミシミシと何か軋む音が聞こえてきていた。

 

「あら? 日菜達じゃない。奇遇ね!」

「やっほー、こころん。そっちの二人はどうしたの?」

「んー、そうねぇ。道に迷って人探しをしてたみたいだったから、道案内をしてあげたの! 此処まで案内してあげたら大丈夫だと思って!」

 ――念の為言っておくと、弦巻こころに一切の確信はない。

 

「ほらね、あたしの言ったとおりでしょ? 大丈夫だったじゃない! 恒次が言う通り、笑っていればハッピーがやってくるのよ!」

 ――重ねて言っておくと、一切の確信はなかった。結果オーライ、万事ハッピーである。

 

「いやぁ、本当になんとかなっちゃうんだからすごいわ……」

「よ、良かったですね……國綱さん、恒次さん」

「はっはっは、いやまったく驚きだ。弦巻殿達に助けていただけていなかったら今頃路頭に迷っていたでしょうなぁ」

 橋を渡るかどうするか、彷徨っていた二人はハロハピに捕まった。事情を話すと、それなら探しに行こうということになって『CiRCLE』に連れてこられて――合流。なんというか、本当に運が良いとしか言いようがない。

 『Roselia』に『Afterglow』、『ハロー、ハッピーワールド!』のメンバーに加えて、日菜と麻弥。そして、天下五剣を称する四人と。かなりの大人数になってしまった。流石にラウンジもそこまで余裕はない。

 更に場所を変えよう、と。ライブステージの方に移動することになった。

 

 

 

 ステージに腰を下ろして、童子切が紗夜達を見下ろす。腕を組み、少しばかり唸っていた。

 

「――どっから話すか考えたが、言葉選ぶの面倒だから全部話すことにした。異論はないな。あったら斬る」

「お前……」

 それもう独裁とかそういう次元じゃない。勝手にしろ、という気持ちで鬼丸はいっぱいだった。だけど黙っておくことに越したことはない。斬り結ぶなど冗談ではない。

 

「俺達は付喪神。天下五剣の付喪神だ。俺は童子切安綱。あとは――まぁ言わなくても分かるだろう。同じ日の本生まれだし」

「……いいのか?」

「いーんだよこまけぇこたぁ。人探し、っつーのは三日月宗近だ」

「そのことなんだが。三日月宗近はもう既に討たれた後だそうだ……だいぶ前にな」

 

 …………間。

 

「は?」

「……その、信じられないだろうが。以前、顕現しただろう? オレ達が再度、眠りに落ちてから、アイツは宝剣である「七星剣」と「丙子椒林剣」の二振りを持ち去ったらしい。その計画の中で三日月宗近は京の都にて、兼定とえぬらすに討たれた――ということだ」

「…………んじゃ話すこと無くなったわ」

「あるだろう他に!! なにか!!!」

「はぁぁぁぁぁ!? んじゃあなにか、俺達完全にこれ出遅れてるじゃねぇか! あんの野郎、自分勝手な都合と計画に人のこと乗せやがって、厄介事ぶん投げやがったな畜生がぁぁぁああ! 思えばなんであんなやつの口車に乗ったんだあの日の俺ぇ! なんか思い出したら腹立ってきた! やっぱあん時宗近の野郎ぶった斬っておけばよかったぁぁぁ、ちくしょおぉぉぉっ!!」

 頭を抱え、絶叫しながらステージの上で転がりまわる童子切を眺めながら苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「えっとー、それじゃあ。ジブン達から質問の方をよろしいでしょうかー……?」

「よくない! やだ!」

「そんな子供みたいな!?」

「……すまない。オレで良ければ聞こう」

「えっと、じゃあ。以前、既に顕現したことがあるようですが。三日月さんにはその時どんな話を持ちかけられたんです?」

「だ、そうだぞ。童子切。話すことがないなら、質問に答えてやれ」

「あの夜。あの野郎は俺に向かってこう言った――」

 

『我ら天下五剣に銘を連ねるモノが、一挙に顕現したとあれば後顧の憂いもあるというもの。此処は私に任せてはくれまいか、童子切殿? そちらには、後の世を任せたいと思っている』

 

「一理あるとして、俺は承諾した――その直後だ。背を向けたと同時に後ろから斬られたのは。急所を一撃、避ける間もなく。信じられるか? 承諾した直後だぞ? 俺はひとまず今の日本がどうなっているか様子を見に行こうとしてたってのに、あの野郎ぉぉぉ……!!! 思い出したらますます腹が立ってきたぞ畜生。へそで茶を沸かしてやろうか」

「急須もないのに無茶を言うな」

「む。座布団一枚!」

「うるさいぞ数珠丸」

 鬼丸が眉間にシワを寄せている。

 

「しかし、気になるな。オレも似たような話を持ちかけられた」

「ふむ……拙者も。しかしそうなると、三日月の目的が気にかかる」

「様子見、或いは……付喪神による日本統一かと」

「なんだっていいわ、んなこと。それより問題なのは――その事件に首突っ込んで一番事情に詳しいはずの男が何処にもいねぇってことだよ。そいつに話を聞ければ一番手っ取り早い」

 何処に行った、とは、むしろリサ達の方が聞きたいくらいだ。

 

「ええっと、それはアタシ達の方が知りたいっていうか……」

「まぁいい。どうせそのうち会えるだろう。それよりも、だ。俺がひとつ気にかかっていることがある」

「他になにか?」

「ああ。三日月は言った。後の世を任せる、と。顕現したのは俺達だけか?」

「……?」

「日本妖怪である付喪神“だけ”が、今の日本に存在しているか、という事を聞いているんだ。俺達が目を覚ましたとなりゃあ、なにかその切っ掛けがあるはずだろうよ。例えば――鬼、とかな」

 鬼の一言には、鬼丸も反応している。

 

「……いや個人的に俺が鬼を斬りたいだけなんだが」

「まずお前の首から切り落とすべきだとオレは思うんだが?」

 絶妙なタイミングで茶化すな。

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