【本編完結】冥き宿星に光の道標   作:アメリカ兎

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第百七六幕 宇田川巴のお願い

 

 

 鬼丸に頭を鷲掴みにされて締め上げられている童子切の言葉には、紗夜達も不安を煽られていた。それ見たことか、と鬼丸が呆れている。この街の様子を見ればただならぬ事態が起きていることは一目瞭然だというのに無神経な。

 

「……そんな顔をしないでほしい。オレ達はそのために起こされたと見るべきだ」

「あだだだだだだ……!! お前いつまで俺の頭掴んでんだ鬼丸てめぇ!」

「このままかち割ってくれようか貴様……!」

「うおぉぉぉぉっ、両手とか本気かてめぇぇぇ……!!!」

 

「そちらの鬼兄弟はともかく。拙者達は、少なくとも味方であるとだけ話しておきましょう。しかし――よく我らの言葉を信じる気になりましたな?」

 大典太の言葉に、首を傾げる。

 

()()天下五剣を名乗る不届き者かもしれぬ輩の言葉を、なぜそのようにすんなりと聞き入れてくださったか。差し支えなければ、理由を聞いても?」

「んー。なんとなく! 雰囲気みたいなのかな。空気が違うっていうか。そんな感じ! あたしは前に見たことあったし」

「そうですね。ジブンも一目でわかりました。カネさんに似てると思ったので」

「では、我々は貴方達と出会った付喪神。兼定なる者に感謝すべきですな。そうもお膳立てをされては信義に背くわけにはいきますまい? 童子切、鬼丸」

 大典太が振り返ると、ステージの上で何故か力比べを始めていた。

 最初こそ拮抗していたようだが、徐々に鬼丸が押されている。童子切はと言うと余裕綽々の鬼のような笑みを浮かべていた。

 

「ぬっ、くぅおぉぉぉ……!!!」

「はははははは、この俺と力比べなんざ百年はええんだよ鬼丸てめぇ! このまま丸めて団子にしてやろうか!」

「…………。さて、こちらの問に答えてもらった手前、何も言わずに立ち去るのも礼を欠きましょう。なにか他に聞きたいことはありますか?」

 見て見ぬ振りをするな。後ろで繰り広げられている怪力同士の力比べを止めてくれ。

 

「じゃあ、アタシから。これからどうするの?」

「はて。言われてみれば……目的としていた三日月宗近との合流が果たせぬ今となっては、我らはこうして行動を共にする理由がありません」

「しかし大典太殿。拙僧達がこうして呼び起こされた手前、何か危機が訪れていると見るべきではないか?」

「表の惨劇を見れば、その通りだ。となれば、皆の脅威を排するべく動くべきか――」

「それは――!」

 その言葉に、思わずリサが歯止めをかけた。

 それは、つまり……エヌラスを斬るということだ。

 

「……はて」

「何か事情がある様子。話を聞かせていただいても?」

 

「お、お前らいい加減こっちを……どうにかしてくれ……!!」

「降参するくれぇなら腹切って詫びろ鬼丸この野郎!」

「……まだやってたのか」

 鬼丸は頭が床につきそうなほど押し迫られていた。

 

 

 

 事の顛末を、自分たちが知る限り紗夜達が話す。それを聞き終えてから、童子切は口をへの字に曲げていた。鬼丸も咀嚼するのに何か考え込んでいる。大典太と数珠丸は沈黙を貫いた。

 

「――なるほど。大方の事情は飲み込めた。つまり、そのエヌラスって輩が表の惨劇と同時にこれまでの事件に関わってきたと。だから、斬らないで欲しいって言いたいわけだな?」

「そういうことになります」

「……貴方達が鬼を斬るなら、目的は一緒じゃないんですか? あの人も怪異退治を生業としていますし」

 蘭の助け舟に、しかし童子切は頭を掻きながら「いいや」と。

 

「いいや、残念だが少し違うな。俺達は、そいつを見たら斬らなきゃならん。俺はそうする」

「どうしてですか?」

「なんの理由もなく、自分の都合で怪異退治をしている輩が。何の見返りもなく命を預けるとは到底思えないからだ」

「それは童子切さん達も一緒じゃないの?」

「俺達? 何言ってんだ。俺は童子切安綱、天下五剣の中でも名刀とされている一品だ。東西の両横綱と称される大包平の野郎は顕現してねぇざまぁみろってんだ! ――なら俺は、俺に与えられた名誉と武士の誇りにかけて日の本を守る務めを果たす。人間同士の争いは止める気はないが、人間を襲う妖怪がいるなら、それは俺達が斬る敵に他ならない。だから俺はそいつを斬る――と思っているが、そうまで言われたら本物を目にするまでは勘弁しといてやる」

 鬼のような童子切ではあるが、話せば分かるようだ。それでも安心するには程遠い。

 

「だが。今こうして行方を眩ませているのは何か後ろめたい証拠だ。俺達が先に見つけた場合、問答無用でたたっ斬る。話はそっからだ。嬢ちゃん達が先に見つけたなら、斬るまで一考の余地がある。それで文句はないな?」

「見つけると言われても……どうやって」

「どうやって? そんなもん決まってんだろうが。生まれついて持ってる二本の足で走るに決まってんだろ!」

 自分の膝を叩きながら、童子切が笑って言っていた。

 

「それで? 他に何か聞きたいことはないのか? なけりゃ、俺達は夜まで姿を隠すが」

「邪神については」

「神殺しなんざろくなもんじゃねー。そうだろ、数珠丸」

「拙僧にその話を振るとは、血も涙もない御仁だ。神仏の類に刃を向けるのは、よほどの命知らずか罰当たりでしょう」

「だ、そうだ。悪いがそこまで落ちぶれちゃいないんで、その邪神がどうのこうのはエヌラスってやつに言ってくれ」

「でも、童子切さん達はエヌラスさんを斬るつもりなんですよね?」

「斬るとは言ったが、殺すかどうかは知らん。さて、そろそろ行くか」

 ステージの上から飛び降りて、童子切達が会場を後にする。

 

「あー、そうだ。最後にひとついいか? エヌラスってやつは、嬢ちゃん達に何か見返りを求めて戦っていたのか」

「……変わらぬ日々を送っていてほしいと」

「――――ならそうしろ。自分たちの理解の及ばぬ存在に、自分たちから近づくな」

 それは、忠告だったのか。それとも警告だったのか。どちらにせよ、自分たちの身を案じての言葉であることは疑いようもなかった。

 

 

 

 ライブハウス『CiRCLE』を出て少ししてから、童子切達は警察車両から出てきた警察官達に取り囲まれる。どうやら不審人物として通報を受けてから警察が捜していたらしい。この御時世、帯刀していれば尚更である。

 

「そこの四人組、止まりなさい。少し話を聞かせてもらう」

「あー? なんだお前ら」

 厄介事の匂いを嗅ぎ取って、鬼丸は素早くその場から道を引き返した。全力疾走である。脱兎もかくやという脚力で通りを曲がって姿を消す。

 

「御免」

 大典太もまた、音もなく警察官の隙間を縫うように走り去る。

 

「では拙僧も一足先に失礼」

 数珠を鳴らし、左手に持った札を足元へ叩きつけると煙幕と共に数珠丸の姿がかき消えた。

 

「…………」

『………………』

 結果、取り残された童子切が後ろを振り返り――二度見している。

 

「はぁ!? あいつら俺を置いていきやがった! 正気か!? なぁおいてめぇ等も見てたなら止めろよ! そんで追いかけろよ!?」

「あー……いいから来なさい、君」

「俺に、気安く触んじゃねぇ! よーしわかったそこまで言うなら正面突破だ、八卦よーいどぉりゃあああああっ!!」

 四股を踏んだ童子切が警官隊に向けて突撃した。一人、二人と取り押さえようとするが八人がかりで尚も止まらず、まとめて投げ飛ばされる。まるで人間ブルドーザーのような勢いだ。

 

「けっ、テメェ等なんぞに付き合ってる暇なんかねぇよ! 逃げるが勝ちってなぁ!」

「ま、待てー! おい、君! 待ちなさい! くそぉ、なんて馬鹿力だ! っていうか足速いなぁアイツ!!!」

 

 

 

 ――表が騒がしくなったような気がするが、まぁ気のせいだろう。

 気を取り直して、紗夜は改めてあこと向き合う。

 

「……宇田川さん。例の、るーくんはあれからどうですか?」

「えっと、家で大人しくしてます……」

「……そうですか。何か、変わったことはありませんか?」

「無い、です。あ! 猫! るーくん、猫ちゃん拾ってきました」

「……ネコ?」

 そういえばあの時、追われていたロシアンブルーと一緒だった気がする。

 

「紗夜。るーくんと一緒にいたネコを、覚えてるかしら」

「? いえ、あまり。それがどうかしたんですか、湊さん」

「あの子が連れていたネコは、悪いネコじゃないわ」

「…………」

 いやまぁ確かにネコに罪は無いだろうけれども――友希那の表情は真面目だ。

 

「その、湊さん? 言いたいことがいまいち……」

「…………、あのネコと一緒なら。多分あの子は大丈夫よ」

「随分と評価しているんですね」

「ええ。普通のネコじゃないみたいだから」

「猫の話はいいですけど、あの人達の言っていたことはどうするんですか」

 話を遮るように蘭が口を挟む。猫がどうのこうの言っている場合ではない。

 

「あたし達がエヌラスさんを見つけられなかったら、斬るって言ってたじゃないですか」

「美竹さん、約束が違うわ。あの人と関わるのは止めるという話だったじゃない」

「――そうですけれど」

「じゃあ別にあたしはいいんだよね? よーし、そうと決まれば麻弥ちゃん。早速エヌラスさんを探しに行こっ!」

「ジブンもですか!? って、あーれーーー……!?」

 早くも麻弥の手を引いて日菜が出ていった。

 

「誰がエヌラスを一番最初に見つけられるか勝負ね! それなら負けないわ! ハロハピも出動よ!」

「おっけー、こころん! でも今日は夜になる前に帰ってくるように言われてるし、夕方までだね!」

「ふふ、こころのその前向きな姿勢にはいつも助けられるね。まずは何処から探そうか?」

「そうねぇ。まずは駅に行きましょう! 美咲も花音も行くわよ!」

「あーはいはい。こうなるのね……」

「ふぇぇぇ、待ってー!」

 ハロハピも早速エヌラス捜索に出動。見つかるのも時間の問題だろう。そうでなくても、弦巻家が先んじて身柄を確保すべく手を尽くしている。

 

「……えっとさ。その、るーくんに関しても今のところはいいんじゃないかな? ほら、あこが言っている通り何事もないみたいだし。友希那はネコちゃんが居るから大丈夫って言ってるしさ」

 リサが仲介に入ると、紗夜も友希那も、蘭もそれ以上言い合うのを控えた。

 

「何かあった時は、どうするんですか」

「蘭。るーは、大丈夫だよ。あの子は、アタシ達になにかしようっていう気はない。本人から直接その意志を確かめたんだ。純粋に、ただ他に場所がなくてうちに来ただけだ。だから、紗夜先輩。あの子から場所を奪わないでやってください」

 巴が直接確かめた、というのなら疑問の余地はない。紗夜も、そこまで言われたら引き下がるしかなかった。

 それが、問題の先延ばしでしかないことを理解しながら、自分たちには何もできない歯がゆさを残して友希那達は解散する。

 誰よりも先に、エヌラスを見つけて説得しなければ――そんな焦りが、巴にはあった。

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