【本編完結】冥き宿星に光の道標   作:アメリカ兎

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第二二八幕 戯曲・黄衣の王

 

 仕切り直し、改めて二代目賢人バルザイは対敵である鬼一法眼を観察する。その身体から放たれる威圧感、闘気、それに混じる瘴気。神気は、邪神の波長と同質。

 “燃える三眼”――無謀なる漆黒。千なる影。名前と姿を自在に変える、おそらく邪神の中でも“最悪”の部類に入る。

 名を、ナイアルラトホテップ。自らの主ですら軽蔑している、もっとも人間に近い神。自らの手を下すよりも、悪戯や手慰み、そうした搦手で人類の破滅をゲームのように取り仕切ることを好む邪智暴虐の神。シュブ=ニグラスもまたその神を取り込んでいたとするならば――最強最悪の邪神船団となっているだろう。

 天体規模の邪神から放出される無数の“落とし子”と、人間の恐怖を具現化して形を得る“恐怖の種”とでも呼べばいいか。その二つを用いた宇宙侵略など、知的生命体にとっての前代未聞の災厄でしかない。

 この国では、妖怪という形を得て顕現した恐怖の種。幸いにしてそれらは過去に文献が残されているために弱点の探知などは容易だ。問題は、それ以外の付加価値。

 

 二代目賢人バルザイが整息し、偃月刀を投擲する。そしてそれを、寸分違わず正確無比な錫杖の刺突によって防ぎ、尚も迫る刃を錫杖ひとつで相手取る鬼一法眼。無数の連撃によって揺らいだ勢いに打ち落として偃月刀の腹を石突で抑え込み、念仏一丁。粉砕してみせた。

 

「…………」

 術理解析完了。あの錫杖には神通力による呪符で補強がなされている。問題は、当人の戦闘技術の方だ。妖怪という割には、あまりに槍術に長けている。それは人間の磨いた術理のはずだ。

 その疑問に応えるように鬼一法眼はクチバシの端を歪めて笑う。

 

「懐カ、しい……昔、ヲ……思い出す」

 二代目賢人バルザイの手に、新たに偃月刀が鍛造される。大小の二刀流で鬼一法眼に迫り、上下からの連撃で挟み込む。

 錫杖を回転させて攻撃をいなし、初撃を捌くと身体を柄で受け止めて押し出す。体勢を崩した二代目賢人バルザイに迎えて逆袈裟に錫杖を振り上げる。それを逆手に構えた小型の偃月刀で防ぐ。錫杖を引いて、今度は上から打ち下ろしてくるのを更に防いで踏ん張ってこらえたそこへ、鬼一法眼が前蹴りで胸板を強烈に蹴り出すと宙返りしながら翼を広げて滞空。上空から体重を乗せて振り下ろしてくる。

 二刀を重ねて強烈な一撃を凌ぐが、今度は顔を思い切り蹴り飛ばされて地面を転がっていく。

 

「遅、イ――!」

 受け身を取って体勢を持ち直した次の瞬間、眼前には既に錫杖が迫っていた。薙ぎ払う形で二代目賢人バルザイの側頭部を叩くと、今度こそ吹き飛んでいく。

 こめかみが割れそうに痛む。ズキズキと訴えてくる痛みを堪えながら立ち上がり、再び構える。だが、鬼一法眼はそれに対して踏み込んでくることはなかった。

 

 不意に構えを解き、錫杖を立てて合掌略礼のまま直立不動となり念仏を唱えている。

 他の天狗達は二人の戦いを静観していた。同様に、立ち尽くしている。その中の一匹が、二代目賢人バルザイへ歩み寄り頭を下げた。

 

「名もなき、きみよ……我ら、のはなしを――きいて、くれ」

「…………」

「我ら、天狗ハ……も、う……まともでは、おられんのだ。大天狗、様ですら……アノ、有様だ」

 時折口腔から漏れ出す呪詛のような言葉は、瘴気の進行を留めるための念仏。まだ、なんとか踏みとどまっている。それでも鬼たちから受けた“精神汚染”の波に抗うことは出来ず、命令に従うしかなかった。

 

「ま、だ……我ら、の意識のあるうちに――」

 近衛天狗が頭を抱え、呻き出す。痙攣し初めた腕に、突如膝をついて地面に頭を打ちつけると数珠を巻いて印を結ぶ。最後に自らの崇める毘沙門天への祈りで意識を繋ぎ止めながら。

 

「ドウ、か、おねがいダ……! 我ら、を。斬ってくれ……!」

「――――わかった」

 この天狗達は、自らの在り方を歪められてしまった。こんな形で人に刃を向けることを望んでなどいなかったのだ。

 二代目賢人バルザイが偃月刀で目の前の近衛天狗の首を刎ねる。一足先に得られた死の安息に、天狗が笑った気がした。

 しかし、残されていた数匹の近衛天狗達は理性が限界に達したのか、半狂乱となって腰に帯びた太刀を引き抜いて翼を広げる。狙いは二代目賢人バルザイ――ではなく、羽丘女子学園の生徒達。一直線に目指すその天狗達を阻む形で偃月刀を多重投擲してから意識を集中させた。

 想像するのは、銀の翼――カルナマゴスの遺言の中に追記された術式の一部、その模倣。

 

「――シャンタク!」

 

 二代目賢人バルザイの背に、銀色の翼が広げられた。逆さまに生えた、剣のような羽を羽ばたかせて空を翔ける。

 近衛天狗達の身体をすれ違いざまに斬り捨てて、その時、ふと目があってしまう。窓から自分達の戦いを見守っていた、宇田川あこと。

 恐怖や不安よりも、何故か。キラキラと星空のように目を輝かせている。

 目の当たりにしている魔術に対する興味の方が強いのか、自分達の身に迫る危険など意識の外のようだ。

 そんな風に見られたのは初めての二代目賢人バルザイは無性に気恥ずかしくなって顔を逸らすと、すぐに着地して残った鬼一法眼に向き直る。

 

 ガシャン――、錫杖が支えを失って地に伏せた。

 鬼一法眼もまた、低い唸り声と共に頭を抱える。膝をつき、身体の異変を抑え込もうとしていた。顔を覆い、呼気を荒らげながらも自分の瘴気と闘っている。

 うずくまる姿に二代目賢人バルザイが偃月刀を放とうとして、その異変は起きた。

 

 鬼一法眼の身体が膨れ上がる。背中が盛り上がり、大きな黒翼が内側から血飛沫と共に丸太ほどの巨腕を生やした。だが鬼一法眼自身の身体もまるでなにかが蠢いている。

 翼が、腕が、胴が、足が。全身から血飛沫を撒き散らして、大天狗が変異していく。

 

「……鬼一法眼」

「――――――」

 二代目賢人バルザイの憐れむ声に応えるように、鬼一法眼は顔を覆った指の隙間から縋るような瞳を向けていた。額の目からはとめどなく血涙が溢れ出している。

 きっと、望まぬ在り方をさせられてた。その在り方ですら利用された。

 あれほどの武芸を持つものが、怪異と成り果てる。

 哀れな怪物に、しかし二代目賢人バルザイは同情しなかった。こめかみより垂れる血を袖で拭いながら、銀の翼を翻し――左胸に手を当てる。

 

「……拘束制御術式、解放」

 “マギウス神臓”に設けていた拘束の一部を解除。魔力放出の出力負荷を引き上げる。

 ――自分の命を大事に抱えて、どれほどの物が守れるだろう。自分ひとりの命で守れる命など、取るに足らない数に違いない。だけど、それじゃダメだ。

 今は、守りたい人達がいる。

 

『ぷはぁっ!? ぶるぶるぶる。まったくにゃにすんだよぉ!! って、バカお前!? 何してんだ! 上昇負荷引き上げたりなんかしたらお前の身体が』

「うるさい……!」

『あにゃ? あーーーれーーーー!!!』

 二代目賢人バルザイの足元に茂みに放られた若殿が駆け寄ってくるが、再び首根っこを掴まれて今度は思い切り投げられた。だが、そこは流石猫、空中で体勢を整えて音もなく上手く着地する。

 

「なにすんだよぉ、お前のこと心配してやってんのにー!」

 若殿が、ついうっかり。本当にうっかり。人前で言葉を出してしまった。友希那とリサが呆気にとられている前で、ロシアンブルーキャットはぎこちなく振り返る。

 案の定と言うべきか――大騒ぎになった。

 

 喧騒を背に、二代目賢人バルザイは魔道書の残滓から術式を引き出す。――なんと皮肉なことか、自分が師の敵である邪智なる預言者の力を頼ることになるなんて。

 

 ――風が吹く。瘴気を孕んだ風。

 クトゥグアも、イタクァも、その力は搾りカス程度しか残されていない。だが出力を引き下げればその術式を扱うことは出来る。

 偃月刀に宿した魔術を触媒の力を用いて引き出す。

 “黄衣の王”。

 

「“踊れ”、ハスターの魔爪よ」

 鬼一法眼が、起き上がる。

 その顔に、腕に、背中に。足に、おびただしい数の目玉を生やして。酸鼻醜悪極まる怪異を前にして、二代目賢人バルザイはただ冷ややかに憐れむ。

 武芸の腕では一歩劣る。だが履き違えてはならない。己は魔術師であり、賢人バルザイが自ら手がけた偃月刀の付喪神。

 武を競うなど、お門違いというものだ。そのせいで一度は敗北を喫したのだから。

 

「お……オぉ……」

 黒く大きな翼が蠢き、指を慣らすように関節を軋ませていた。翼腕に握られた呪符が弾けたと思った次の瞬間、片手には宝棒。逆の手には宝塔が握られ、その背に炎の輪を背負っている。落とした錫杖を拾い上げれば炎に包まれ、戟となって握られた。腰に帯びた太刀を引き抜き、二代目賢人バルザイに一歩近づく。

 その口からよだれを垂らし、おぼつかない足取りで歩み寄っていた。焦点の定まらない無数の目玉が、ようやく獲物を定める。

 

「……う、し……ワカ……ぁ……」

「…………」

 二代目賢人バルザイは、深呼吸を繰り返した。静かに、マギウス神臓の回転数を引き上げていく。偃月刀の多重鍛造。総数にして十四。ハスターを付与させた偃月刀を舞い踊らせて、二代目賢人バルザイの姿がかき消えた。それから一瞬遅れて、鬼一法眼の姿も。

 突如として姿を消した二人に、様子を見守っていた蘭達が戸惑う。

 

 ――ギィンッ!

 

「……?」

 だが、何処からともなく甲高い金属音が聞こえてきた。目を凝らしても、どこを見てもあの二人の姿が見えない。しかし、鋭い音だけは聞こえてくる。

 どこに消えたのかと、何気なく顔を上げて――言葉を失った。

 空中で二人が目にも留まらぬ速度で刃を交えている。鬼一法眼の猛攻に、二代目賢人バルザイが必死に食らいついていた。手にした宝棒、宝塔、太刀と三叉の戟による四ツ腕が偃月刀と激しく火花を散らしている。手数で圧倒する二代目賢人バルザイだが、その旗色は険しい。

 明らかに手傷を負っているのは鬼一法眼の方だ。しかし、保身を考慮しない猛攻に二代目賢人バルザイが押されつつある。その上、生半可な傷では瞬く間に傷口が塞がっていた。

 太刀で凌がれ、身体に突き立つ偃月刀を爆破させる。弾け飛ぶ肉片に、だが煩わしそうにしていた。振り上げた宝棒が二代目賢人バルザイを打ちのめす。

 きりもみ回転して落下しながらも、追撃しようとする鬼一法眼に剣指を立てて偃月刀による迎撃を試みるが、全身を切り刻まれても狂気に陥った大妖怪は止まらなかった。

 

 防御陣を展開して衝撃に備える。二代目賢人バルザイは再び宝棒で強烈に打ちのめされて羽丘女子学園の屋上を崩し、三年A組に落下した。悲鳴が取り巻く中、友希那の手元から離れたロシアンブルーが駆け寄る。

 

「おいバカぁ! お前そんだけ魔力引き出してるのに、あの妖怪倒せないのかよぉ! お前がやんなきゃどうにもなんないんだぞ、わかってんのか!」

「わかってる……うっさい、バカとの……!」

「にゃんだとぉー!」

 呻きながらも立ち上がり、頭上に剣指を向けて追ってくる鬼一法眼を足止めした。銀の翼を広げて飛び上がった二代目賢人バルザイがその顔を力任せに蹴り飛ばす。更に偃月刀を多重投擲して追撃、グラウンドにまで吹き飛ばすことに成功するが、不意にバランスを崩して再び教室に落下する。

 鈍く重い音を立てて、なんとか顔を上げてシャンタクに目を向ければ片羽が折れていた。

 肩を押さえながら起き上がろうとして、片目に違和感を覚える。袖で拭えば、額からの血が垂れてきていた。

 ――身体中が痛い。だが、不思議と心は前を向いている。

 

 あの魔術師はきっと、こんな気持ちだったのだろう。非合理極まりない思考だ。合理性の欠片もなければ戦略性もない。バカの考えることはわからない、けれども――こんなバカな真似をしなきゃ守れないほど、地球の人類は弱い。

 

「ちょっと、るーくん。大丈夫?」

「……だいじょうぶ。まだやれる」

「ネコちゃんも言ってるけど、無理しないでね……って言っても、男の子だから無理かなぁ……」

「……」

 すん、と鼻を鳴らせば目の前の相手からあの魔術師の匂いがした。きっと、残り香のようなものだ。それでも、理解できる。きっとこの女性を守るためにあの魔術師は死物狂いで戦った。そして自分は負けたのだ。

 

「こわくない?」

「そりゃ、もちろんめちゃくちゃ怖いよ。でもほら、キミが頑張ってくれてるんだから応援くらいはしてあげないとね。ね、友希那」

「……そうね」

「……壊して、ごめんなさい。あとで、直しとく」

 ぺこりと頭を下げてから、二代目賢人バルザイは窓枠に足をかけてシャンタクの翼を広げる。銀の羽から燐光を置き去りにして倒れている鬼一法眼に向かっていった。

 

 

 

 ――腹が立つ。ああ、腹が立つ。あの魔術師に負けた自分に、何故か。

 人類を守るべき使命を背負った自分が、あんな化け物相手に遅れを取ったという事実が。

 どうやっても覆らない勝敗の結果に、二代目賢人バルザイが腹を立てていた。

 自分の胸の中にある気持ちが、負けた気がして。大切なものを守るという、たったそれだけのことでも自分が負けた気がして。あんな三流魔術師に負けたのが、無性に苛立たせる。

 激情を理性で制御して、魔力と融合させることでその出力を引き出す――そこで、賢人バルザイの教えをふと、思い出した。

 

“――昇華呪法、というものがある。魔力とは異なる力を変換し、さらなる高みへと至る呪法のひとつだ。これを、たかが、と決して侮ってはならん。……お主にはわからんだろうが、いずれ。理解する時がくるだろうなぁ……それの窮極形態が存在する。これを用いる者は、ワシとて一人しか知らん”

 師は言っていた。その窮極形態こそが“無限熱量”なのだと。

 

“……憎悪の空より来たりて。正しき怒りを胸に。我らは魔を断つ剣を執る”

 呪詛であり、それは祝詞のように賢人バルザイは口にした。

 どこから流れてきた言葉なのか。誰が口にしたのか、定かではない。

 だが、遙かなる至高天の頂へ至るものはみな口々にするという。そして、その頂上へたどり着いたものは、ただ一人だけだと。

 

(……我が師。我が親、賢人バルザイよ。貴方の教えを、今理解しました)

 ヴーアの無敵の印において。力を与えよ――魔刃鍛造!

 

 全身を刻まれて、肉片を散らして、蹴り飛ばされて、まだ鬼一法眼は肉体を再生させていた。流石は大妖怪、と賞賛したいところだが――悪い夢は醒めるものだ。

 いつまでも悪夢に囚われているわけにはいかない。

 

「……鬼一法眼。武芸者のアンタに、この戯曲を贈る」

 相手が再生するというのなら、再生速度を上回ればいいだけのことだ。生憎、手数だけは多い。

 マギウス神臓から流れてくる魔力から不思議と不快感が消えていた。思考も澄んでいる。清流の中にいるような感覚に、だが魔力の奔流の激しさだけは変わらない。

 

「――“無窮の空を越えて、霊子(アヱテュル)”の海をわたり翔けよ。刃金の翼」

 シャンタクユニット・フルドライブ。一度限りの完全解放。銀の翼膜から燐光(フレア)を撒いて、瘴気に侵された風を手繰る。

 鬼一法眼に向けて、風が吹く。刃金の風。禍風(まがつかぜ)を前にして、狂気に触れた頭は臆することはなかった。

 

「――風は虚ろな路を往く」

 魔刃鍛造。偃月刀が舞う。風に乗って、攻性防御結界の呪文と共に。

 

「――声は絶えよ、歌は消えよ」

 二代目賢人バルザイもまた、その中を翔ける。銀の流星となって、疾く翔ける。

 鬼一法眼は、四方八方から迫る斬撃の檻の中であってもなお、己の武で立ち向かっていた。歩みを止めることもなく、だがその刃が二代目賢人バルザイの姿も影も捉えることはない。

 

 その戯曲は、風に乗って友希那達の耳にも届いていた。

 どこか空っぽで、哀しい歌。あるべきものが込められていない、空虚な戯曲。

 

 音速を越えて、全身を刻まれて尚もまだ鬼一法眼は立っていた。翼は断たれ、目玉には偃月刀が突き立てられ、背負っていた炎の輪も消え失せている。窮地に立たされてなお、まだ最後に縋ったのは――やはり、己が手にした一振りの刃金。名もなき太刀を両手で握りしめて脇を絞る。

 八相の構え。

 

「ケェェェェアァァァァァ――――!!!」

 耳をつんざく猿叫(えんきょう)。鬼一法眼は、窮地に陥り、狂気に呑まれ、正気を失いながらも最後まで武芸者としての矜持に縋った。

 

「涙は――、流れぬままに枯れ果てろ!」

 

 ――最後に、一度だけ互いの刃が甲高い金属音を鳴らす。一本締めのように、静寂が流れた。

 太刀を振り下ろしたまま、鬼一法眼は身動きをしない。

 すれ違いざまに、二代目賢人バルザイは白く熱された偃月刀を振るっていた。だがその勢いが余って地面を転がる形となっている。受け身を取り、体勢を整えて剣指を鬼一法眼へ向けていた。

 

「……カルコサの夢を抱いて眠れ、鬼一法眼」

「――――…………、見事」

 天より降り注ぐ偃月刀が陣を描く。超攻性防御結界による、焦熱結界。魔刃の檻の中を、ハスターの魔爪が吹き荒れる。白い熱波の中で鬼一法眼は最後、笑った。

 崩れ行く身体で、印を結ぶ。オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ――。

 

 ――白い炎の柱が消え去り、鬼一法眼の姿はそこになかった。

 最後に、自らが真に崇める毘沙門天の真言を残して。

 

 二代目賢人バルザイは、臨界ギリギリまで引き上げていたマギウス神臓の出力を落としていく。不思議と身体の痛みは引いていたが、戦いが終わったのだと実感した瞬間その場に尻もちをついてしまった。

 自分の胸に手を当てる。

 てっきり、これで最期だとばかり思っていたが――どうやら、師の教えは生きているようだ。

 

「…………ありがとう」

 きっとこの言葉は貴方に届くことはないけれども。

 今だけは、感謝を。

 俺はまだ大切な人達のために戦える――。

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