【本編完結】冥き宿星に光の道標   作:アメリカ兎

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第四一幕 囚われの白鷺姫

 堀を飛び越えて、シシオウは手にした大弓を番える。そこに矢はない、しかし稲光のようなものを握りしめていた。

 

(だんだん、自分の中にあるモンがわかってきやがった! ええ、面白い身体してるじゃねぇか俺等は!)

 黒雲を纏い、自らの素性を偽りながらシシオウが笑みを浮かべたまま矢を放つ。雷光の如く速度で放たれた矢はパスパレの近くに射られ、小さく破裂音を鳴らした。その音に驚き、身を竦める。

 

「な、なに今の!?」

 後ろに流した短い金の髪、黒い革鎧を纏ったシシオウの姿を見て千聖と彩、イヴは以前見かけた時よりも装備が整っていることに驚いていた。その姿を見た瞬間、エヌラスと兼定が車から飛び出すものの、シシオウは再び雷矢を射る。咄嗟に矢を払った兼定だったが、腕が強烈な痺れを訴えて刀を取りこぼした。

 もうひとり。カゲミツがシシオウとは別方向から飛び降りる。刀袋の緒を緩めて抜刀していたエヌラスの刃を受け止めると、そのまま蹴り返した。見向きもせず一目散にパスパレのもとへ駆け寄ると、手を伸ばして千聖の腰から持ち上げて肩に担ぐ。

 

「御免!」

「きゃあ!?」

「千聖ちゃん!?」

「待ちやがれ!」

 エヌラスがすかさず後を追おうとするが、シシオウが飛びかかる。黒漆塗の鞘から太刀を引き抜くと、片手で打ち返した。倭刀の背に手を当てて防いだが、その衝撃に背筋が凍る。

 以前よりも力が増しているのは明白だった。太刀で肩を叩き、シシオウが鼻で笑う。

 

「女子供に用はねぇ! 武勲の証は大将首だ。素っ首叩き切って落としてやるからまとめて来いや手前らぁ!」

 一喝すると切っ先を突きつけて、左手に構えた弓を肩に掛けた。

 何事かと人々がざわめき出すがパスパレの顔を見て、何かの撮影だろうと思っている。ただならぬことが起きているが、それも演技だろうと思い込んでいた。

 カゲミツはすでに塀に飛び上がって、来た道を引き返している。その背中を恨めしく睨み、兼定が痺れる両手を振ってようやく戻ってきた感覚に舌打ちすると刀を拾い上げた。

 

「くっそ、なんだ今の……!」

「兼定!」

「っ、うおぉ!?」

 エヌラスと打ち合っていたシシオウが兼定に向けて弓を向けている。弦を鳴らす都度、射られる横殴りの電撃を避けながら、兼定は下げ緒を腰に巻いて刀を固定するとすぐに抜いた。

 

「三弦鳴らしゃ病魔も逃げ出す、さしずめ「雷光弓」といったところか。そらどうした武芸者、達者なのは逃げ足だけかぁ!」

「んなくそ!」

 兼定が避けきれない雷撃を太刀で払い、歯を食い縛るとそのまま地面に切っ先を打ち込む。今度は感電を逃れたものの、これでは近づけない。エヌラスが弓で両手が塞がっている隙に接近するが武芸の腕が達者なのは口だけではなかった。

 太刀筋を見切り、至近距離から蹴りを打ち込み、鼻先で弦を鳴らして手元から電撃を放つとエヌラスの身体を吹き飛ばす。

 

「しっかしミカヅキの奴も面倒を言いやがる。手前らの相手は後だ」

 シシオウは大柄な体格から想像もつかぬ俊敏さで呆然と立ち尽くしていた彩の身体を担ぎあげると、そのまま走り去っていった。

 

「言伝を預かってんだったな。――天守閣で待つ、だそうだ! ちょいと御免よ!」

「きゃあぁぁ!?」

 軽々と持ち上げて去って行くシシオウの背中を恨めしく睨みながらエヌラスが駆け出そうとするが兼定は引き留める。

 

「待て、ぬえ。ちょっと落ち着け」

「これ以上ねぇほど落ち着いてるが?」

「怒髪天でよく言う。まずはこっちの状況を落ち着かせるのが先だろうよ」

 兼定が太刀を収めて、エヌラスも同様に鞘に納刀した。駆け寄ってくる日菜と麻弥、イヴが不安そうにしている。あっという間だった。止める間もなく彩と千聖の二人が連れ去られてしまった絶望的な状況に、しかし兼定は笑って不安を吹き飛ばす。

 

「心配しなさんな。丸山のお嬢も白鷺の御姫も手荒なことにはならないだろう。仮にも相手方も武士だ、女子供に手を上げるような無法者じゃない。だろ?」

「だといいが……」

 エヌラスは兼定の話に意識を半分だけ向けていた。自分の右手を見つめて、何度か拳を作っている。一般人も何事かと集まってきているようだが事務所のスタッフと撮影班が話し合っていた。

 そのうち、一人が駆け寄ってくる。

 

「あの、警察に連絡とかした方が……」

「余計な真似すんじゃねぇぶった斬るぞ」

「はいはいはい。落ち着けっての、ぬえ。いやー、ほんとすいませんね。こいつすーぐ頭に血が上るやつでして」

「は、はぁ……丸山さんと白鷺さんは大丈夫なのですか?」

「ひとまずは。すぐ連れ戻しますのでご安心を。な、ぬえ」

「…………ああ」

 顔色があまりよくないエヌラスに、日菜が覗き込んだ。

 

「ねぇ、だいじょーぶなの?」

「なにが?」

「調子悪そうだけど。うーん、だるーんって感じ?」

「…………大丈夫だよ。気遣ってくれてありがとな」

「あたし達になにかできることある?」

「此処で、待ってろ」

 寒気すら覚える、殺気混じりの視線に思わず麻弥が息を呑む。しかし、エヌラスの後頭部を兼定が手刀で軽く叩いた。

 

「言わんこっちゃねぇ。全然落ち着いてないじゃねぇか。それじゃ相手方の思う壺だ、頭冷やせ」

「……」

「ひ、日菜さん……エヌラスさんて、何者なんですか?」

「うん? だからオカルトハンターで職業魔術師だよ?」

「そしてブシドーです!」

「いやぁ、とてもそうは見えなかったのですけれど……なんか信憑性出てきましたね。でもこの後の収録とかどうするんですか。彩さんも千聖さんも連れ去られて……一旦中止ですかね?」

「いっそエヌラスさん達を撮影した方がすごいもの撮れそうじゃない?」

 日菜の言葉に、兼定とエヌラスが顔を見合わせて、それからスタッフが意表を突かれたのか目を丸くしている。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいね……?」

 嫌な予感しかしなかった。だが、衆人環視の中で魔術を使う気など最初からない。

 もしもなりふり構わず動けるのであれば、即座にハンティングホラーを喚びだして天守閣まで一直線に走らせている。当然ながらそれができる状況ではないので二本の足で走る他にないのだが。

 そうなると、事前に話していた二人で城攻めを実行することになる。

 エヌラスは一度深く息を吸い込み、深々と吐き出した。そして、城の頂上を睨みつける。

 

(調子でねぇなぁ……かといって日菜達に協力してもらうわけにもいかねぇし……)

 銀鍵守護器官の出力を無理矢理引き上げて環境に適さない魔力放出を行っているせいで身体も不調を訴えていた。それを適合させるために情報を摂取しなければならないのだが、現地人との粘膜接触が手っ取り早い。しかし――日菜達は普通の人間で、ただの女の子達だ。アイドルで、ガールズバンドとして活動しているだけの、どこにでもいる女の子。異性との交友も、恋愛も経験しているかどうか定かではない少女達に強要するにはエヌラスも躊躇っていた。

 現状まま、どうにか最善を尽くす他にない。

 

 

 

 ――カゲミツとシシオウの手によって連れ去られた彩と千聖が運び込まれたのは天守閣。そこまでの道のりを城内からではなく、城外。あろうことか飛ぶようにして入り込んだ。

 ゆっくりと下ろして、二人が立つとカゲミツが頭を下げる。

 

「突然のご無礼をお許しください。当方よりお二方に危害を加える意思はありません」

 不安に彩が千聖の手を握る。不安なのは千聖も同様だが、なんとか口を開いた。

 

「私たちを、どうするおつもりですか」

「お二方には此方で待機していただければ、それだけで十分」

「人質、ということ? なぜ私達が」

「んなこたぁ別に誰でもよかったのよ。ただ近かった、手が届いた場所にいたってなぁだけで」

 横から口を挟んだシシオウは、鼻で笑って二人を見つめる。

 

「いやしかし、こりゃまた別嬪だ。時代が時代なら帝もさぞお喜びになったろうな!」

「シシオウ、御前は少し暴れすぎだ。見ろ、あの騒ぎを」

「仕方なかろうよ、カゲミツ。大体にして、斬った張ったは戦の常だろう。騒ぐほどのことかね」

「今はもう、そんな時代じゃありません」

 断として言い張る千聖に、シシオウはますます機嫌を良くしたのか大口を開けて笑った。

 

「ははは! 武者もいらん時代か! そりゃあいい、そりゃあ夢の極楽浄土だ! 戦乱も知らぬ世の人は、刃を見るのが末恐ろしいか! はははは、俺は御免だがな!」

「…………」

「付喪神、あやかし、妖怪の類いと俺等はこの世に顕現した。言ってしまえば要はそれよ。生まれ変わりのようなものさ。必要とされないまま生まれ落ちたなら、必要とした奴を探すまでのこと。それが西を目指せと下知を飛ばしたのなら、帝の勅命にも等しい。もっとも、時の帝はもうおらんようだがな……」

 少しだけ物寂しげに呟くと、シシオウはそのまま城下の見張りを始める。ただの荒武者、益荒男のような男ではないことに千聖が認識を改めた。

 

「ち、千聖ちゃん……私達これからどうなっちゃうのかな……?」

「安心して、彩ちゃん。私達に危害を加えないって言っているもの、信じましょう」

「でも……」

「こんな時のためにあの二人がいるんでしょ? なら、すぐ助けに来てくれるわ」

 涙目でしがみついてくる彩を安心させるように背を叩く。

 

「お二方、此方へ」

「はい」

「は、はい……」

 カゲミツの後に続き、今は閉館されているはずの天守閣内部へ入る。

 そこでは、新たに二人が待っていた。ミカヅキと、千子村正。座していた双方は、彩と千聖にも楽にするように促す。

 

「そう身構えるな。気を楽にして足を伸ばすが良いよ」

 白髪の青年の、古風な口ぶりに驚きながらも二人は腰を下ろした。ミカヅキも今は刀を置いている。背筋を伸ばし、凜とした佇まいで堂に入った正座のままに会釈した。

 

「まずはお二人に謝罪を申さねばなるまい。此度は無礼を働いたことをお許しいただきたい。茶の一つ、菓子一つ出せぬもてなしも重ねて」

「お気遣い無く。名乗らない無礼に比べれば、幾分かは」

「はっはっは、これは手厳しい。では改めまして――私は、ミカヅキと名乗らせていただきましょうか。なにぶん、この世に顕現したばかりでして無作法はどうか目を瞑っていただきたい」

「わしは千子村正。妖刀として名高いがあまりに呪われておる、まぁ気にせず」

「……私は、白鷺千聖です」

「ま、丸山彩です……」

「互いに自己紹介も済ませたところで、本題に入らせていただきたく。よろしいか?」

 ミカヅキの言葉に、千聖が頷く。遅れて彩も首を縦に振る。

 

「では。まずお二方のうち、どちらか一方で構わないのですが……今後我らの旅路にお付き合いいただきたくお願い申し上げる次第でございます」

「……ただの人質、というわけではなかったのですか?」

「安心めされよ。危害は加えぬ、それに身辺の守りはこちらが一手に引き受けます。というのも我らは西を目指している身分。しかしながら、当世は些か事情が複雑な様子で。ままならぬ事態に多々直面しております。これでは悪戯に世を乱す一方。そこで、当世に知見のあるあなた方にご協力願いたい」

 あぐらをかいていた千子村正もまた、それに同意を促した。

 

「わしも西を目指さねばならんが、そうもいかなくての。今の世を気に入っておる。みだりに乱す輩がいるとなれば、斬らねばなるまい」

「……つかぬことを伺いますが、その着物の家紋は三つ葉葵でお間違いないでしょうか?」

「いかにも」

「では、そちらはもしや……天下五剣と名高い、三日月宗近……?」

 目を丸くして、ミカヅキが「ほう……」と感心した声をもらす。

 

「知ってるの、千聖ちゃん?」

「時代劇の撮影をする時に、日本刀について少し調べてたから。多分、間違いないと思う」

「ご明察の通り」

「では今、日本全国で起きている刀剣盗難事件はもしかしてあなたたちのように?」

「そう。みながみな、西を目指している模様。月夜の合間は私も見聞が広まるものの、昨夜の間に見たのは少なからず十は超えておりますな。中でも関ヶ原の跡地、美濃は関門となっております模様。争いは避けては通れぬかと」

 その旅路に同伴してくれないか、という申し出。果たして信頼していいものか。確かにここからであればさらに電車を乗り継いで行けば易々と越えられるだろう。だが、辿り着いた果てに何が起きるのか不明瞭なだけに、千聖は首を縦に振らなかった。

 

「もし、私達二人が断った場合は?」

「その時は、はてさて。この国にいらぬ戦禍が広がるかと。とはいえこちらも穏便に事を済ませたい次第でしてな。もしその場合は、お二人は元の場所にお返し致しましょう」

「……」

 断ってもいい、ということらしいが。ミカヅキ達を案内すれば、無用な被害を食い止めることができる。もしそうしなかった時は……戦国時代さながら、衝突することになるだろう。シシオウとエヌラス達の短い打ち合いだったが、まるで映画やスクリーンの向こう側のような出来事が現実として目の前で起きていた。

 

(あの人……日菜ちゃんの話ではオカルトハンターってことだけれど……もし本当の話なら、今回の件にも何か関わりがあるはず。でも、この人達の目的が西へ向かうだけとは考えられないわ)

「あ、あの! 西へ向かっているって話ですけれども、具体的にどの辺りなんですか?」

 ここまで押し黙っていた彩が、沈黙していることに耐えきれなくなったのか素朴な疑問をミカヅキに投げる。それに、爽やかな笑い声をあげた。

 

「あっはっはっはっは、いやはやお恥ずかしいことに我らもそれを知らなんだ! ただ漠然と西へ西へと目指していたもので! 地図でもあれば話は別ですが」

「えっと……ちょっと待っててください」

 スマホを取り出して、日本地図を表示させると彩がミカヅキ達に画面を見せる。

 

「ほう、面妖な」

「この手の中に日本がすぽりと収まっている」

「こ、これならわかります……よ、ね?」

 ずいと身を乗り出してミカヅキがスマホの画面を食い入るように見つめていた。それに合わせて千聖が自分達の場所を指さす。

 

「私達がいるのが、この辺りです」

「ほう、尾張国。随分とまた遠くまで来たものだ。そちらは何処から?」

「えっと、この辺から……」

「ほう、江戸の辺りと」

「私達は、ここまで二時間弱程度で着きました」

「それはなにかの奇術や妖術の類ですかな?」

「いえ、今はそういった乗り物がある時代なので」

 確かに現代の文化に触れていなければそう思うのも無理はない話だ。だがそれにしたって徒歩で江戸から尾張国まで辿り着いた健脚にも驚かされる。

 しばらく画面を見つめていたミカヅキが、一点を指し示した。

 

「うむ。我らの目指す地は、おおよそこの辺り。こうしてみれば目と鼻の先よな」

「えっと……此処? 此処ってもしかして……」

「大和国、だな。ミカヅキよ、そこを目指していたのか」

「カゲミツ、シシオウの抱えた最古の二振りは彼の地で無ければ起きぬようでして」

(…………? なぜそこまで大事なものをこの人は自分で持たないのかしら)

 千聖がミカヅキの言葉を訝しむ。確かに、シシオウの益荒男ぶりは凄まじい。大弓を携えて太刀を振るう様は嵐のようだ。だが、少々血気盛んが過ぎる。うっかり壊しでもしたらどうするつもりだろうか。

 

「なるほど。この面妖な地図があれば迷うことはないな。然らば、我らに同伴いただきたく――」

「待ってください」

 ミカヅキが彩に手を差し出す、だがそれを千聖が横から止めた。腰を浮かせて、庇うように。

 

「私が行きます。ですから、彩ちゃんは解放してあげてください」

「千聖ちゃん!? そんなの駄目だよ!」

「ううん、いいのよ。私ならこういう役回りは慣れているもの」

 役者として立ち回るのならば、彩よりも経験豊富だ。相手方の舞台に上がると考えれば、多少は恐怖も紛れる。それに、大事な友達を危険に晒すわけにはいかない。それは彩も同じ心境なのだろう、それなら自分も一緒に行くと言い出しかねないほど涙ぐんでいるが、千聖は肩に手を置いて言い聞かせるように目をまっすぐ見つめた。

 

「私に考えがあるの。彩ちゃんならきっとすぐにわかると思うわ。だから、必ず……エヌラスさんと兼定さんに場所を伝えて」

「……う、うん」

「ミカヅキさん。私があなたたちの旅に同行します、だから彼女は」

「無論、そのように。では千子村正殿」

「あいわかった。今少し、身柄を預かるとしよう。手狭ですまんが、しばらくの辛抱だ」

「カゲミツ!」

 手を叩き、外で待機させていたカゲミツを呼ぶと、ミカヅキは彩のスマホを指し示した。その画面を見つめて、自分達の目指す場所を明白にする。

 

「先んじて、西へ。こちらが片付いたらそちらを追う」

「わかった。しかしいいのか?」

「こちらには村正殿もいる、問題ない」

 その言葉に頷くと、シシオウが顔を覗かせた。

 

「あの二人が動いたぞ! 迎撃すっか!」

「これは置き土産だ。俺の呪符を使い、兵を動員しよう」

「ならば、わしもちいとばかり働くとするか。尾張のうつけとぬかされては堪らんからな」

 村正が鯉口を切り、わずかに刀身を覗かせると指の腹を傷つける。血の一滴を垂らすと、それは黒く淀んだ。カゲミツも手元から無数の呪符をばら撒くと、それは自らの意思を持っているかのように天守閣から外へ吹き飛んでいく。

 

「オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ――多聞天の加護ぞあれ! ではミカヅキ、シシオウ。一足先に失礼!」

「うむ。頼んだ」

「おーおー、ぞろぞろと沸いて出るわ魑魅魍魎が! 此方側でなければ叩っ切ってたところだ!」

 天守閣から見下ろしていたシシオウが本丸を埋め尽くす無数の屍を見て弓を構えた。カゲミツの呪符によって呼び起こされた骸の兵隊。それを村正の呪いによって制御する。

 

「表二之門、不明門は塞いでおこう。シシオウ、そちらはどうする」

「打って出る! 話はまとまったんだろう、ミカヅキ?」

「うむ。そちらの春の山々より彩り鮮やかな若子は預けたぞ」

「任された! そら行くぞお嬢!」

「ひえぇぇぇっ!?」

 むんずと首根っこを掴まれて、天守閣から間延びした悲鳴を響かせながら彩はシシオウに連れて行かれた。まるで扱いが犬や猫だ。

 

「さて、ではこちらも物見遊山といきましょう」

「その二人の手並み拝見と参ろうか。わしが抜くほどの相手かどうか」

(…………彩ちゃん、大丈夫かしら)

 危害を加えないとは言っていたが、連れて行ったのがシシオウとなると少々不安が残る。千聖も気に掛かり、天守閣から外の様子を覗く。

 すり切れた三つ葉葵の軍旗を掲げてしゃれこうべ達が合戦に備えていた。

 総数、千石。ひしめきあう魑魅魍魎に対し、たった二人で臨む。

 浅葱色の陣羽織を翻しながら、夜の闇より暗い外套に袖を通しながら声高らかに抜刀する。

 御用改めである――数の不利など頭にないようだ。眼前の敵は一切合切を誅殺。この世ならざるものであろうが関係なく無造作に斬って捨てている。

 

(改めて考えるとあの人達によく説教できたわね、私…………)

 つい先刻まで新幹線ではしゃいだり城を見て騒いで怒られていたとは思えないほどの戦働きを見せていた。千聖はその様子を眺めていたが、背中に視線を感じて振り返る。

 

「……なんですか、ミカヅキさん」

「いやなに、先程の振る舞いを思い出しましてな。友のために身を差し出す覚悟、まるで姫君のようでした。白鷺の姫とあらば、こちらも丁重に取り扱わなければと思った次第」

「そういう貴方も、人心惑わす月のような方みたいですけれど?」

「ははは、聡明な限りで心強い。守られるばかりの華ではないと、益々気に入りました」

 笑ってはいるが、なにか不安を覚える笑い方だった。まるで空っぽなのだ。中身が入っていないようなミカヅキの振る舞いに、千聖は決して気を緩めなかった。

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