【本編完結】冥き宿星に光の道標   作:アメリカ兎

98 / 264
第九六幕 Full Metal Demon

 

 ――爆音を鳴らし、空気の壁を越えて、瘴気を纏わせた風と共にハンティングホラー・アンブロシウスは鋭角的な軌道を描いてダゴンの攻撃を凌いでいた。機体を回転させて魔力砲撃で迫る水柱を霧散させながら、突撃する。

 しかし、自身を防御するように渦を描いていた水を舞い上げて全方位から水圧で押し潰した。それを辛うじて『水神クタアト:機械語翻訳版』で防御するものの、圧倒的な魔力濃度に車体が軋んでいく。

 “角度”へ逃げるには、条件がある。それは、九十度以下でなければならない。流体に捉えられたハンティングホラーには逃げ場がない。部品をパージしてそこへ逃げ込もうにも、逃げる前に圧死させられてしまうだろう。先程の交戦でダゴンはそれを学習したのだ、本能的に。

 

《――――、――――!》

 軋む装甲に車体が悲鳴を上げている。システムヒュドラの強制解除から離脱も考慮するが、それでは危機を免れるだけだ。

 水の牢獄に捉えられてハンティングホラーは思考する。限界まで『水神クタアト:機械語翻訳版』の処理速度を引き上げて防御しているが、先に焼き切れてしまう。

 ここまでか。だが、主はまだ来ない。ならばこの身を犠牲にしてでも時間を稼ぐ――ハンティングホラーがシステムを強制解除しようとした矢先、拘束が緩んだ。その隙を突いて、双発式エーテルランチャーを噴射剤に脱出する。

 かなり強引な離脱だったからか補助魔導燃焼機関のいくつかが接続不良を引き起こしていた。内部エラーを処理しながらも周囲を索敵する。

 

 ダゴンの触腕が焼き切られていた。空を駆ける銀の流星。紫電を纏いながら、血塗れの主を見た瞬間、遮二無二ハンティングホラーは駆けつけた。

 空中を蹴って無数の触腕と水流から逃れていた主を背に乗せてハンティングホラー・アンブロシウスは距離を突き放す。

 

「――よぉ……待たせた」

《…………》

 この人は、相変わらず無茶をする。今にも崩れ落ちそうなほど自分で身体を壊して、追い詰めて追い込んで、追い求めた物に手を伸ばす。それが届かぬ理想であっても。

 窮地を脱したものの、ダゴンは相変わらず無傷に等しい。

 絶望的だ。しかもまだ成長を続けている。その速度は緩やかではあるが、神格が上がっていた。体表を覆う鱗も分厚さを増している。これではまともにダメージを与えられるかどうか――戦力的分析を行うハンティングホラーが自分達の圧倒的な不利と覆せない戦況に呆れていた。

 だがそれでも、逃げようとは思わない。敵前逃亡だけは考えていなかった。

 どう凌ぐか。どう乗り切るか。この苦境と困難と絶望を、どう乗り越えるかだけを思考する。

 主は、絶対に諦めない。自分にあるもの全てを戦いに注ぎ込んだ、悲壮の覚悟に報いることが出来るのは他の誰でもなく、忠を尽くす自分だけなのだから。

 

 ――ヰグナイィィィィ…………!!!

 

 ダゴンが吼える。鬱陶しそうに、煩わしそうに。

 エヌラスとハンティングホラーを消し去ろうと巨体が波をかき分けて歩み寄る。海水に身を浸している限り、あれは不死身だ。

 どうするか。どう殺すか。どんな無茶にだって応えよう。それが、我が主の望みなら――血の通わない、この命を差し出すことも厭わない。

 背に滴り落ちる鮮血に、ハンティングホラーが主を気遣って速度を落とそうとして背中を強烈に踏みつけられた。

 

「速度を落とすな。足を止めるんじゃねぇぞ!」

《――――》

「俺に構うな! アイツを殺すことだけを考えろ!」

《――Yes.》

 だが、どうするというのか。三基の小型魔術制御機器で辛うじて瘴気の流出を防いでいるというのに、これ以上沿岸部へ接近されたら発狂する人類が出てくる。

 

「――“焼き払うぞ”ハンティングホラー」

《…………》

 それこそ、正気を疑った。相手は海の邪神だと言うのに、焼き払う?

 何を考えているのか解らない――だが、魔術師というのはそうでなくてはならない。存在しない論理構築によって超常の原理による闘争を行うものなのだから。いや、大魔導師はやり過ぎだが。

 

「結界の展開範囲を狭めろ!」

 その一言で、主の意図を汲み取った。今、海上に漂う瘴気の霧を一点に集めて、それごとダゴンを封殺するつもりだ。

 そんなことが可能なのか。――不可能に等しい。出来るはずがない。それは他でもなく、主自身が解っていることなのに。しかし、今は“天雷”を装填している。

 これを使って敗北することは、最強の好敵手(せんゆう)への冒涜に等しい。

 意地でも負けるわけにはいかないのだ。誰よりも誇り高く。何者よりも強く在った、軍神に応えるためにも。

 

 ハンティングホラーの背中からエヌラスが宙に飛び出す。『セラエノ断章:機械語翻訳版』の処理速度を限界まで引き出す。ノイズ混じりの補助魔導燃焼機関の駆動音を置き去りにして、双発式エーテルランチャーによる光速移動でエーゲ海を大きく旋回する。円を描いて、小型の竜巻となりながら。

 ダゴンはそれを妨害しようとするが、空間を蹴って接近してくる小さな影に取りつかれる。

 それこそ、蟻のようなものだ。小虫程度の相手に、しかし手傷を負わされる。

 腕の鱗の隙間から垂れる緑色の血液に、ダゴンが怒りに震えた。下顎を両開きにして、天をつんざく咆哮を轟かせる。その空気の振動だけでも、凶器に等しい。だが、音の衝撃波程度でエヌラスの狂気は止められない。

 

 海中に潜ませていた触腕を突き出して、相手を押しつぶそうとする。だが、その隙間をかいくぐって足場代わりにしながら接近しようとしてきていた。

 ――走る足が痛い、刃を振るう腕が痛い、呼吸する肺が痛い、胸の鼓動すら激痛を訴えてくる、脳が焼ききれそうなほど不快な音を立てている。

 これほど長時間、使用することを想定していなかった。“天雷”は短期決戦に用いるべき拡充具足だ。一刻の猶予もないのは、こちらも同じこと。

 ダゴンの腕を覆う鱗が逆立つ。刃となって射出される分厚い鉄板のようなそれを、エヌラスは超電磁抜刀術で凌ぐ。フーン機関の回転速度を上げて、拡張補助脳眼鏡からの全方位警告を無視して駆け抜ける。

 

「――皇餓(オーガ)抜刀」

 迫りくる触腕、水流、鱗の全てが断ち切られる。

 背負っていた四本の大太刀と差していた打刀が、全て同時に抜刀されていた。

 全方位無差別超電磁抜刀――人間の腕は、二本しかない。

 間違っても、()()()()()()()()()()()()()()()()。だが、それは起きてしまった。

 

 エヌラスは、刀を扱う。だがそれは剣士としてではなく、魔術の触媒として。だからこそ剣に生きるものであればあるほど、そこを履き違える。

 二本の腕と、二本の足で。五体満足で高みへと登る。孤高の頂を目指して極めるものだと。

 ソレは違う。それは大きな間違いだ。

 求めたものは人としての強さではない。ましてや、剣士としての誇りでもない。

 邪道を断つものは、同時に正道をも断つ。善悪相殺――。

 刃を手にしたその時から、道を踏み外した外道だ。

 エヌラスが求めたのはもとよりソレだ。

 己が目指すのは、あまねく邪神ことごとくを殺戮するための力だ。

 冥府魔道に生きる己に、誇りと呼べるものなどなにもない。

 なにも、無いのだ――捨て置いてきたのだから。彼らの笑顔と毎日と共に。

 

 エヌラスの背面で蠢く四刀流。

 機械の腕が、大太刀を握りしめていた。

 その数にして、四本。

 補助魔道燃焼機関『屍食教典儀(ティトゥス):機械語翻訳版』によって展開される隠し腕が同時に納刀する。

 

「――何を驚く、怪物(クリーチャー)。何を驚いている、化物(フリークス)。テメェら邪神を殺すのに俺が()()()()()()()()()()()()()?」

 効率的にとは、そういうことだ――人間であることを捨ててでも、殺す。

 右手に真紅の自動式拳銃を。左手に白銀の回転式拳銃を。

 そして、背中で大太刀を抜刀する四刀流。

 二挺四刀――多闘流。

 

『Å――Aaaaaaaa!!!!』

 ダゴンは、そこで初めてエヌラスを“脅威”と認識した。

 もはや、人ではない。人としての姿を、成していない。あれは鬼だ。怪物を殺戮して、なお止まない殺意の塊だ。

 ――装甲悪鬼(FULL METAL DEMON)

 

 二丁の魔銃から吐き出される魔弾が触腕を焼き、凍てつかせ、四刀流の超電磁抜刀が鱗を寸断する。空間を蹴って、ありえない機動をしながら迫る。ダゴンの眼前にまで辿り着いたエヌラスがその片目に電磁加速蹴撃から、至近距離で二挺拳銃を連射して離れた。

 背後から迫る細い触腕を断ち切り、横から大太刀を突き刺して足場にしながら距離を取る。排莢と再装填を瞬きしている間に終わらせて、切れた血管から出血していた。

 血が垂れる。もはや、自分の身体のどこから血が出ていないのかが解らないほど。

 ハンティングホラー・アンブロシウスが気流を変化させて瘴気の台風でダゴンを包囲する。

 ガルバ・オトー・ウィテリウスの三基による結界でその範囲を束縛して、エヌラスを乗せて雲を突き破った。

 さながら台風の目だ。

 晴れ渡る青空に照らされて、ダゴンが腕で目を覆う。焼けた瞳が再生していく。

 口腔を大きく開いて、身体に貯蔵していた海水を超圧縮させて放つ水流の大砲を大きく旋回して避ける。

 その視界に、弦巻家のジェット機が目に入った。窓に張り付いていた香澄達と視線が合う。

 ――こんな俺が、彼女たちのために何を教えてやれるというのか。

 教師なんてガラじゃない。何も無いのだから。俺に残されているのは、戦い方だけだ。

 

 ダゴンが触腕の先端からも更に超水圧カッターを放つ。無数の水流の隙間をジグザグに駆け抜けていたハンティングホラー・アンブロシウスの装甲に亀裂が走った。それは間もなく、補助魔導燃焼機関の空中分解という形で崩壊する。

 『セラエノ断章:機械語翻訳版』を機関部ごと廃棄すると、穴だらけの魔導書が燃え尽きた。それと同時に機械部分も解けて消滅していく。

 急激に速度を落としたハンティングホラーは空中でドリフトすると後輪でエヌラスを横殴りにした。その一瞬後に車体が水圧カッターによって断ち切られる。呪法外殻が破損するが『妖蛆の秘密:機械語翻訳版』による再生機能で修復された。

 

 空中で蹴り飛ばされたエヌラスが態勢を整えて、ジェット機の主翼に刃を突き立てて取りつく。

 怯えて、恐怖に囚われた少女たちと目があった。

 自分が怪物にしか見えていない。それは、理解していた。だから、心が痛むことはなかった――ただ呆然とこちらを見つめている弦巻こころの目を見るまでは。

 さぞ、醜悪な怪物に見えただろう。血だらけで、全身に装填した血染めの鎧から機械の腕を生やした己は。

 ――お前たちだけは、必ず日本に帰らせる。

 そうして、また。

 いつも通りの学校生活を送って。

 友達に囲まれて笑って。

 だから、それだけでもう、十分だ。俺がそこにいなくても、変わらない毎日を送ってくれれば。

 それだけで――命を捨てるだけの価値はあるのだから。

 

 窓に張り付いて、何かを言っている。

 涙を堪えて、恐怖を押し留めながら何かを訴えているが当然のように聞こえなかった。

 読唇術でなんとか言おうとしていることを読み取る。

 ――逃げて、と。大丈夫なのか、と。

 そんな親切心が煩わしくて、いたたまれない気持ちになって、背を向ける。

 応える代わりに、親指を立てて見せた。

 

 ――任せろ。先生は負けねーから。

 

 思念通話で一言だけ伝える。

 攻撃を掻い潜って接近していたハンティングホラーの背面に飛び乗って、再びダゴンへ向かう。

 

 

 

 『エイボンの書:機械語翻訳版』による制御機能不全を堪える。いまだ成長を続けていた巨神は突撃してくる怪物と一匹を睨んでいた。

 口腔を大きく開いて正面から激流で飲み込もうとしていたが、その進路が僅かに逸れる。

 

「ハンティングホラー、化身(アヴァタール)咆吼者(ハウラー)!」

《――――!?》

「構うな! ()()()()()()()()()()()()()()! テメェがぶっ壊れてでも潰せ、ハンティングホラァアアアッ!!!」

《Yes――Yes,Yes,YES!》

 『金枝篇:機械語翻訳版』最大出力。それに適した形態変化。心臓部と直結させた呪術兵装の破壊力は街一つ破壊出来るほどの熱量を誇る。

 巨大な腕を振り上げた。巨大に過ぎるそれは、まるで神が鉄槌をくださんとする死罪判決だ。

 ハンティングホラーが機体に火花を散らしながら、蠢いて形を変える。

 黄金の卵状に変形して、そして――巨大な目玉を開く。血を流しながら更にその目が縦と横に裂かれて、大小無数の砲塔を覗かせた。

 

黄金の遺産(レガシー・オブ・ゴールド)臨界出力!」

 それは、命を完全燃焼させるような声なき声の断末魔。極大の黄金の光が燐光を放ちながらダゴンの拳を正面から押し返した。

 手首から肘まで消滅させて、ハンティングホラーは黒煙を上げる補助魔導燃焼機関を廃棄する。その直後、連鎖反応を起こして『水神クタアト:機械語翻訳版』も発火した。致命的なまでの動作不良によって海面に落下する。

 それでも――それでも、まだ『エイボンの書:機械語翻訳版』による結界だけは維持していた。 主から、解除の命令があるまではこの命に代えてでも――!

 

 海中に没した一匹を見て、ダゴンが消滅した腕を再生させようとして――背後からこれまで感じたことのないものを感じ取った。それは、殺意と呼ばれるものであり、同時に恐怖でもある。

 振り返る。

 ――何処にいる、何処に……! あの邪悪な怪物は何処に隠れた。

 

銀鳴葬送曲(ブラストブリッツ)――」

 見上げる。ダゴンの頭上で、魔銃の撃鉄を打ち鳴らしていた。

 逃げもしない、隠れもしない、臆しもしない。ただ、殺しに来るだけだ。

 魔術を調律(セット)する。律動(リズム)に合わせて起動させる。

 戦場に鳴らす、真紅と白銀と紫電のスリーピースバンド。

 

「“第一宇宙速度(スーパーソニックダイブ)災殺(エリミネート)”」

 二挺四刀流による、暴虐の嵐と共にエヌラスが触腕から腕に目と口と、ダゴンを蹂躙する。魔術による制御は、もはや放棄しているに等しい。

 空間を蹴り飛ばし、魔銃を乱射して、無差別超電磁抜刀による雷光が駆け抜ける。火力を集中された逆の腕が千切れ飛ぶ。それはやがて海面に落ちて溶けるように消えた。

 その海中から、ハンティングホラーが飛び出してくる。システムヒュドラは満身創痍だが、それでも中枢ユニットである本体の損害は軽微だ。潰れてでも、壊れてでも、この邪神は封殺する。

 加速燃料で爆進しながら、エヌラスの元へ馳せ参じたハンティングホラーがその背に乗せて天高く駆け上がる。

 真っ直ぐに、空を目指して――そして、十分な高度を取ると主が飛び立つ。

 

「――“天雷”」

 背面の四刀を束ねる。右肩に担いだ終焉(ヲワリ)の太刀を覆うように装着していく。

 規格外にして超常の論理によって成される大業。しかし、光速の六十四倍を持ってしても、ダゴンは葬り去れない。全長は五十メートルより更に肥大化して今や八十メートルに近い。

 

 ……だが。

 だが、それでも。

 それでも――まったくもって、足りていない。

 

「“我が剣は未だ折れない。例え御身が神であろうと”」

 天雷中枢ユニットであるフーン機関の制限装置(リミッター)を破壊する。機器の耐久性能限界までの速度制限装置。それを越えた出力による一撃は、間違いなく天雷が崩壊する。

 構わない。構うものか。もう、こいつには頼らない。

 もう二度と、最強の好敵手(せんゆう)を殺すのは御免だ。

 だから、もうこいつはいらない。これで最後にしよう。

 一世一代、最初で最後の限界突破――構築した理論上、光速の四〇〇倍に達する抜刀術。

 耐えられるはずがない。耐えきれるはずがないのだ。

 だが、だが。だが――それでも、死ぬはずがないと知っている。

 血まみれの手で、柄巻きを握る。血の味が広がる口腔で吼える。狂ったように叫ぶ。

 拡張補助脳眼鏡のマスクが壊れるほどの声量で、天を衝く鬼神咆哮――。

 

 超電磁抜刀術・零號“終焉(ヱンドゲイム)”。その型ではあるが、天雷の限界突破による一刀はダゴンの頭頂部から股間までを一刀のもとに両断した。

 光速の四〇〇倍による抜刀は、刀身を“ワープさせて”邪神を斬殺せしめる。

 切られたことすら、知覚できなかっただろう。

 海を割り、瘴気を焼き尽くし、星を震わせた一撃は、天雷を瞬く間に破壊した。

 天から降り注ぐ光の柱は、神々しさすら覚える。だがそれを織りなすのは、ただ殺意のみ。

 神殺し、斬魔大聖成就――父なるダゴン、封殺完了。

 

 閉じた左目で、辛うじて開けていた右目で砕け、折れて散っていく“大野太刀・天雷”を見つめていたエヌラスは、郷愁の念に駆られていた。

 ――いつか、交わした言葉が走馬灯のように脳裏をよぎる。

 

「……じゃあな、好敵手(せんゆう)

 右腕がダラリと垂れる。限界を越えて酷使した魔術回路がオーバーヒートを起こして魔力に拒絶反応を起こしていた。血を流し過ぎた。魔力を使いすぎた。身体を酷使しすぎた。魂も精神も燃え尽きた。

 重力に従って海面に叩きつけられようとする主の身体をハンティングホラーがサドルで受け止める。辛うじて心臓が動いてるエヌラスを乗せたまま、青空を駆けた。

 空気が薄い。呼吸器も壊れている。だが、何処にも身を寄せる場所がない。

 行き先はひとつしか思い浮かばなかった。

 この人に必要なのは、日常の居場所だ。

 

 

 

 ――エヌラス。お前はどうして、そこまで戦いを続けるんだ?

 ――お前が強すぎるからだよ、馬鹿野郎。

 

 それは。

 もう戻れない、かつての風景。肩を並べて、背中を預けて。世界の崩壊に立ち向かった遠い、遠い――二度と手に入らない、遠い思い出。

 生き残るは、どちらか一人だけと知っていながら繰り返した日々の残り香。

 ……それすらもう、今となっては朧気な記憶となっていた。

 血と硝煙と鋼と荒唐無稽の戦場で生きてきた、誰よりも不器用な男の思い出。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。