無限ループって怖くね? 〜フラグを踏めなきゃやり直し!!〜 作:ACS
「ふっふっふ、この邂逅は世界の選択せし定め。我が名はアスカ・クノギ!! このIS学園の頂点に立ち、世界を制する者!! 必殺技はイオナズン!! ちなみにそこで澄まし顔してる篠ノ之箒ことやっさんとは中学時代の同級生だったぜ!!」
「私を巻き込むんじゃない!!」
「いいだろやっさん!! お前クラスから浮くの得意だしさ!!」
「いままさに孤立してるのはお前だけだ!!」
82回目のループ、もう自己紹介のネタが完全に枯渇した為後々の学園生活なんか投げ捨てた挨拶をしてみたところでループが解除されたらしい、一瞬にして堕天した山田先生の言葉がループしなかった証拠だ。
もうここまで来ると周りの生暖かい目は全く気にならない、同じ瞬間を82回も繰り返してりゃ当然の事だけどさ……。
疲れてないのに精神的な疲れがどっと来た俺は、電話帳サイズの参考書を捲りながら、SHRが終わって目の前で織斑と一緒に教室から出るやっさんを見つつ『ああ、織斑がやっさんの好きな人かぁ』などと考えていたら、金髪のお嬢様ちっくな子がこっちに来た。
「ちょっと、よろしくて?」
「あっはい。なんざんしょ?」
「なんですの、そのふざけたお返事は?」
ふざけた返事なのは分かってるけどさ、何がきっかけでループが始まるか分からないんだからこれぐらいのおふざけが無いと人生やってらんないんすよ。
相手の表情から察するに女尊男卑万歳なお方なんだろうけど……確か名前はセシリア・オルコットだっけ? さっきの自己紹介で自信満々だったから何となく印象に残ってる。
「えーっと、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんでしたよね? あっしに一体何の用でしょうか?」
「ふふん、流石に極東の猿でもわたくしの事は知っている様ですわね? そう、わたくしはイギリスの代表候補生にして入試首席のセシリア・オルコットですわ!!」
話通じねー。まぁそら自分の自己紹介をあんな自慢する様にしてりゃ嫌でも印象残りますからな、あーでも何しに来たんだろこの人? 自慢しに来たなら別の誰かにしてくんない? 82回の自己紹介で脳みそ沸騰してて参考書の中身が全然頭に入って来ないんで。
「見たところ知識不足でお困りの様子、ISを操縦できる男性と聞いてましたから多少の知性を期待していたのですけれど、頭を下げてどうしてもと頼むのなら優しくしてあげますわ」
「お願いします!! どうしても分からないので勉強見てください!!」
なんて優しい人なんだオルコットさんは!! あんな誰もがドン引きする様な挨拶した相手にこんな事言うなんて!! そんなもん誰がどう考えても土下座して個人レッスンを頼むに決まってんだろ!?
「……ふぅ、やはり殿方というものはプライドも何も無いんですのね」
「あはは、機体の基本的な制御に1ヶ月と武装の訓練に更に1ヶ月掛かってるから全然勉強する時間が無かったんですよ」
あっはっは、プライド? そんなもんあったらあんな挨拶する訳ねぇだろ? プライドを捨てなきゃ生きてけないんだから殆ど死んでるも同然の人生なんですよ、クソッタレが。
凄く冷たい目をしていたオルコットさんは溜息を吐きながらも、俺の席の前に立って嫌味混じりだけども専門用語の解説をしてくれた。
かなり毒がキツイけどそんなもん気にしてる暇が無い、ISの最低限の制御をする為に1ヶ月どころか2ヶ月掛かってる落ちこぼれだからなぁ。
「おのれ織斑め……俺はこんなに地獄を見てるのに貴様はやっさんとイチャイチャラブラブ乳繰り合ってるだとぉ? 流石IS適正B!! 入学前の2ヶ月で予習も完璧ってか!?」
「さっきからぶつぶつと恨み言ばかりで人の話聞いてますの!? 折角このわたくしが教えて差し上げてますのに!!」
「サーセンッしたァ!! あっしが悪ぅ御座いました!!」
おのれ織斑ァ!! 逆恨みだろうと何だろうと知るか!! お前を恨んでなきゃ学園生活やっていけんのだからなァ!!
そんな恨み言を心の内側で溜め込んでいた俺の参考書片手の個人レッスンは、始業のチャイムであっさりと終わった。
そして二時間目、どっかり積まれた教科書5冊を読んでるフリをしながら俺は冷や汗をだらだら流していた。
やっべぇ……ぜんっぜん分かんねぇ。完全に勉強不足なのが目に見えてるけど、オルコットさんから勉強教わってる手前、分かるフリしとかないとダメだ。
お茶を濁す様に分かるフリをして頷いていた俺だったが、織斑がやけに挙動不審で周りを見渡している。
それに気が付いたのか、山田先生が『わからないところがあったら訊いて下さいね?』と優しく聞いてくれたのだが、それに対する織斑の回答は––––。
「殆ど全部が分かりません!!」
「えっ……全部、ですか……?」
「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」
「古い電話帳と間違えて捨てました」
「必読と書いてあっただろ馬鹿者」
その答えと共に出席簿で弟の頭を引っ叩く織斑先生と非常に困り顔の山田先生、つーか織斑お前勉強完璧だからやっさんと話してたんじゃねぇの!? まぁ参考書は電話帳みたいな厚さだからその気持ちは分からんでも無いけど。
しかーし!! コイツは俺の憂さ晴らしをするチャンス!! 性格が悪かろうが知ったことか!!
「ぶはははは!! やーいやーい引っ叩かれてやんの!!」
「ぐっ、しょうがないだろ!! 捨てちゃったもんは!!」
「……久野木、そう言うお前はどうなんだ? 勿論理解出来ているんだろうな?」
「ふっ、愚問ですよ織斑ティーチャー」
ふざけた瞬間ちびりそうな眼光が俺を貫く、あっこの人冗談通じない人ですね、分かりました。
だが織斑ティーチャーの質問は愚問だとも、何故ならば!!
「––––参考書は読みました!! けど何一つ分かりません!!」
「俺よりひでぇじゃねぇか!?」
織斑のツッコミと共にクラスメイト全員がづっこけ、ティーチャーの出席簿が俺の頭にも直撃した。仕方ないだろ!? 読んだ記憶はあるのに内容全く覚えてないんだからさ!?
この後、俺と織斑は一週間以内に全て内容を丸暗記しろと言われるのだった……ループ案件じゃねぇよな?
〜ループ解除条件〜
①篠ノ之箒と会話する[達成済]
②自己紹介でネタに走る[達成済]
〜特別解放条件〜
①織斑一夏と会話する[達成済]
②織斑一夏に篠ノ之箒への好意の有無を聞く[未達成]