「あれ? 健太、あんたバイトどうしたの」
「この前、言っただろ。休業期間だって」
「三日じゃなかったっけ?」
俺――――三直健太は自宅でビートライダーズ専門チャンネルといっても過言ではないほど、
毎日のようにダンスについて放送している海賊ラジオ番組を見ながらゴロゴロしていた。
何かあればすぐに駆けつけるようにということでバイトも一年ほどの休業期間にしたんだが、
それはどうやら俺の思い過ぎだったらしい。
その後もチームガイムの用心棒が居なくなったという情報から幾つものチームが、
インベスゲームを挑戦しに来たが全て光実によって追い返されている。
そのおかげか徐々にチームの順位も上がっていき、
今ではトップであるバロンと僅差というところまできた。
レイドワイルドとインヴィットにもアーマードライダーができたという情報は、
すぐに流れたんだがあの日以来、あまりあいつらは行動を起こしていない。
空中分解を起こして崩れ去ったバロンの同盟に加わっていたチームも、
ほとんどが同盟を抜けるだろうし、まあ、
そうそうなことでガイムが下位に落ちるということはないだろ。
「そう言えば最近、ビートライダーズ関係の見てるよね。
もしかしてまた、踊りたくなった?」
何がそんなにうれしいのか姉貴はうっすらと笑みを浮かべながら、
その場で小躍り……とは言い難い、凄まじくひどい儀式を行いだした。
ほとんどのことをそつなくこなす姉貴の唯一といってもいい欠点は、
ダンスが壊滅的に下手くそなこと。
それ以外は普通なんだが……何故、ここまでひどいダンスができるのやら。
これならまだ、小さい子が音楽に合わせて踊っている方が断然うまい。
「別に。ただ単に暇潰し」
「んじゃ、暇なんだよね?」
「まあ」
「シャルモンでケーキ買ってきて!」
「またケーキか」
「良いじゃん! 三ヶ月間コツコツ給料から差し引いて貯金してたんだもん!」
ユグドラシルコーポレーションという世間の評価も高い会社で、
OLをしているやつの言う言葉じゃない……とは言わないが、
そんなにシャルモンのケーキが美味しいかね。
今、インベスゲームと肩を並べているといってもいいほど流行しているのが、
シャルモンという洋菓子店が出しているケーキ。
前者は若者全般に流行しているが後者は女性の縦の層全般に流行しており、
そのお値段はちょっと高めだが味に関しては高い評価を得ている。
そこの店長はフランスの有名なコンテストで優勝をおさめるほどの実力の持ち主で、
そこでパティシエとして働いている従業員は店長自らが引き抜きやらなんやらをした、
トップレベルの男たちが集まっていると聞く。
「分かったよ。買ってくるからその変な儀式は止めろ」
「はぁ!? これのどこが変な儀式よ!」
変な儀式と呼ばずになんて呼ぶと突っ込みたくなるがそこはグッと我慢し、
姉貴からお金を預かり、マンションの人目につかない裏口でロックビークルの錠前を解錠し、
バイクへと変形させて、シャルモンへと向かった。
「はぁ」
今日一日だけで一体何回ため息を吐いたんだろう。
僕―――――光実は自室のベッドに横になりながらパソコンで再生している動画を見ていた。
その動画はまだ健太さんがチームガイムの加入してから、
そんなに日数も経っていない頃に撮った動画……そして、
健太さんが踊っている様子を収めた唯一の動画だった。
確かにアーマードライダーが同じチーム内に二人もいればどちらかが抜けてもなんら、
問題はないっていう風に考えてもおかしくはないんだけど……できれば、
もう少しいろんなことを教えて欲しかったな。
そう思いながら傍に置いてあるドライバーとブドウの装飾が施されているロックシードを握った。
……でも、この力があれば舞さんの笑顔をずっと守ることができる……。
「……小腹がすいた」
何か一口サイズのものが無性に食べたくなったので部屋を出て、
お菓子関係を置いてあるキッチンへと向かう道中、
兄さんの部屋のドアが開いているのが目に入った。
明かりも付いているとなると……珍しく兄さんが帰ってきたんだ。
「お帰り、兄さん」
「あぁ、光実か。ただいま」
「なんだか最近、忙しいみたいだね」
「まあな。勉強の方はどうだ?」
「順調そのものだよ」
「そうか。光実、何度も言っているがお前はいずれ俺の右腕になる存在だ。
無駄なものは切り捨て、己を磨くんだ」
……無駄なものは捨て……か。
「わかってるよ……僕の人生は無駄だらけだからね」
「光実……すまん。またあとで話そう」
そう言って兄さんはポケットから携帯を取り出して部屋から出ていった。
僕もキッチンに向かおうとしたとき、ふとアタッシュケースが目に入り、
なんとなくそのケースを開けてみるとそこにはメロンの装飾が施されたロックシードと、
ドライバー、そしてスイカの装飾が施されたロックシードが入っていた。
……なんで兄さんが戦極ドライバーなんか……ロックシードは兄さんが、
ユグドラシルコーポレーションで働いているから分かるけど……。
僕はそのケースからスイカのロックシードを手に持ち、ポケットに入れてケースを閉めた瞬間、
部屋に兄さんが帰ってきた。
「ど、どうしたの?」
「あぁ、少し急用ができてな。行ってくる」
「行ってらっしゃい」
部屋から兄さんが出ていったのを確認した僕は一息つき、部屋へと戻った。
「いらっしゃいませ」
シャルモンに到着し、店内へと入って商品棚に並べられている数々の洋菓子を眺めながら、
何を買うか数分ほど悩んでいた。
特に姉貴は嫌いな物もアレルギーもないからシャルモンのケーキならどれを買っても、
バクバク喰って胃の中に入れると思うが……にしてもほとんどの客が女性か。
商品棚を眺めながらガラスに映っている客達を見ると九割が女性であり、
二十代と呼ばれていそうな若い人もおれば、
中高年と呼ばれている上品なおばちゃん世代の人もいる。
「お悩みのようでしたらこちらのレディースセットはいかがでしょうか。
当店のケーキがほとんど入っております」
店員のアドバイスを聞き、そのレディースセットとやらを見てみると、
様々な種類のケーキが一つの箱に入れられていた。
値段は予算内で余裕で行けるし、レディースセット二つ買えば姉貴も満足だろ。
「「じゃあ、そのレディースセット二つ」」
一瞬、聞き覚えのある声が俺の発した声にちょうど重なり、オカマみたいな声が聞こえ、
慌てて右側を見てみると練習終りで買いに来ていたのかユニフォーム姿の舞が立っていた。
「申し訳ありません。本日のレディースセットは残り二つでして」
「…………」
「そんな目で見られても困る」
そう言っても舞は若干、眉間にしわを寄せて俺を睨んでくる。
ここで視線をそらせば何故か、負けた気がしてきたので俺もジーッと舞を見つめてやると、
数秒したところで舞が一瞬、視線を反らした。
……俺の勝ちだな。
「レディースセット二つ」
「畏まりました」
「ちょ、ちょっと! ……んん。あ、貴方レディーファーストという言葉をご存じ?」
「I’m sorry.
I do’nt know the meaning of the word」
「……え、英語ペラペラに喋れるからって……じ、自慢したいわけ!?」
「ありがとうございました」
「別に。今の英語、聞き取れないようじゃ将来が不安だぞ」
「ちょ、ちょっと待ちなさーい!」
レディースセット二つが入れられた袋を手に持ちながら家路へと向かうが怒り気味の舞も、
矢継ぎ早に喋りながら俺の横を歩く。
「ねえ、ちょっと聞いてんの!?」
「前、見ろよ」
「きゃっ!」
俺の方を見ながら矢継ぎ早に喋っていたせいで目の前に迫る電柱に気づかずに、
歩き続け、俺の言葉を聞くと同時に前を向くが遅すぎた行動で、思いっきりおでこをぶつけた。
周りの連中は小さく笑みを浮かべたり、憐みの視線を舞に向けていた。
「イッタ~!」
「何をやってんだか……家来るか?」
「な、なんでよ」
「今日、姉貴がいるんだよ。それに一日でこの量を食うはずもないしな。
連絡さえすれば姉貴だって」
「なあ、あっちにグリドンと黒影いるらしいぞ!」
そう言いながら学生服を着た男子二人が陸橋がかかっている川へと走っていく。
確かあの陸橋の下は結構スペースがあるし、あの上を通っているのは車で、
その騒音からあまり人も寄り付かない……まさかな。
「舞。これ持って家に帰ってろ。後、これ家の鍵な」
「え、ちょ、ちょっと!」
俺は舞に家の鍵とシャルモンのケーキが入った袋を渡し、学生が集まっている場所へと向かうと、
陸橋の下にある広いスペースでグリドンと黒影が何やらマネキンを立てて、動いていた。
「ちょっと! あんたの家、知らないんだけど!」
「そうだったな……」
その時、俺達の間を無理やり通ってスキンヘッドの男が黒影とグリドンに近づいていく。
その肉体はかなり鍛えられているのか服の上からでも筋肉が出ているのが分かり、
雰囲気もどこか、威圧的な物を感じる。
「あ? あんた誰だよ」
「ワテクシは凰蓮・ピエール・アルフォンゾ」
「……ス、スゴーイ! 本物!」
奴の名前を聞いた瞬間、舞を含めた周りの女性達のテンションが一気に上がった。
俺をあんなに嫌っている舞が俺の腕に抱きついてくるほど、奴の存在は女性からすれば、
某芸能事務所のアイドルのような存在らしい。
「だ・か・ら! その有名なパティシエさんが何なんだよ! つうか見世物じゃねえぞ!」
「十分に見世物じゃない! 戦い方もなっていないおこちゃまがそんな力を持つなんて。
子供のチャンバラごっこを見ている感じだわ」
「ざけんな! 第一、ロックシードも持ってねえやつが」
その時、凰蓮がポケットからあるものを取り出して、
二人に見せびらかすと二人は一瞬にして黙った。
ロックシードにドライバー……ロックシードだけならともかく、
何故ただのパティシエがドライバーまで持ってるんだか。
「変身」
『ドリアンアームズ・Mr dangerous!』
ドライバーを腰に装着して固定するとロックシードを解錠し、ドライバーへとはめ込み、
ブレードを降ろす動作をすると奴の頭に円形に開いたチャックから、
生成されていたアームズが覆いかぶさると奴の全身にスーツが一瞬現れ、
アームズが開くと頭にトサカのようなものが生え、肩には棘のようなものが何本も生え、
両手には刀身に無数のとげが生えている特殊な刀が握られた。
「かかってきなさい。アマチュアが」
「グリドン! 特訓の成果、見せてやろうぜ!」
「え!? ちょ、ちょっと!」
初瀬がそう言うや否や、グリドンを楯のようにしながら凰蓮に一定距離近づくと、
グリドンがヤケクソ気味の声を発しながら突っ込み、ハンマーを振り下ろすが、
それを避けられ、腹に蹴りを入れられて後ろに下がった途端、グリドンの肩を足場にして、
黒影が上空から槍を突き下ろした。
が、そんな幼稚な作戦が通用するはずもなく呆気なく避けられると奴が、
握っていた特殊な刀で上から下へ切り裂かれ、上に飛び上がった。
『ドリアンスカッシュ!』
直後、奴のモヒカンのようなものが光輝きだし、その大きさを大きくし、
落ちてくる黒影にまるでビームのように伸びていき、突き刺さるとそのまま、
頭を振り下ろし、黒影を地面にたたき落とした。
「は、初瀬ちゃん!?」
「次はあなたよ」
『ドリアンオーレ!』
二回、ブレードを降ろすし、奴が刀を交差させると交点の部分にエネルギーがたまっていき、
それがドリアンの形に変形を遂げた瞬間、奴が刀を降ろすと凄まじい勢いで、
ドリアンの形をしたエネルギーの塊が放たれてグリドンに直撃し、大爆発を上げて吹き飛ばした。
直撃したグリドンはそのまま軽い傾斜になっている地面をコロコロと転がり、
川に落ちたところで変身が解除された。
……なるほど。ただ単にパティシエをしているという訳じゃなさそうだな。
「ここに宣言します! ワテクシは子供チャンバラごっこのアマチュアである者達に、
プロというものを教えてあげますわ!」
周りの連中……特にインベスゲームに関係のない人間はその宣言を聞いて、
さらにテンションを上げて奴にエールを送っていた。
「ど、どうしよ。ねえ、健太」
「……随分都合のいい態度だな。お前、俺のこと嫌いじゃなかったのか?」
俺は袋からレディースセットを一つ、取り出して舞に渡し、
その場から離れれるべく、歩き始めた。
恐らく、光実が戦っても奴に圧倒されるだけだろうな……が、
それはバロンも同じことだろうしこのままバロンが奴に敗北すればガイムは……。
「何を考えてんだか」
俺は未だにエールを送っている連中から離れ、急ぎ足で自宅へと帰った。